Auf das Schlachtfeld
むせかえるような煙を放つ炎の中、俺はいる。理屈なぞすっ飛ばして、単純にネウロイを殺せるまでに自分自身を強化してガリアから川を越えてくるネウロイを目についたやつから滅していく。
あれほど容易に父さんを殺したやつらが紙切れのように散っていく様は痛快だった。倒しても倒してもネウロイの数が減ったようには見えなかったが叩き続けてストレスを発散できることがずっと俺には重要だった。
仇を、恨みを、この怒りを少しでも晴らせられるのならいつまでも続けたい。そんなふうに思いながら、しかし戦いを一旦止めるタイミングを図っていた。というのも腕の中、正確には増設した腕のうち、もともとあった腕の中で気絶したままのハイデマリーを持て余していた。
正直に言えば今すぐにでも彼女をその辺に放り出して川の向こうへ飛び込み暴れたい。しかし父さんとの最後の約束、彼女を守るという約束がその選択を留めていた。腕の中の彼女が死んでしまわない程度にしか暴れられないから、少しづつ被弾もしてくる。
ネウロイを真似たビーム発射器官もネウロイの数にはあまり有効打でもなかった。そんな状況が続いて被弾することにやきもきしていると、俺とネウロイだけの戦場に新たな音が混ざった。後方、首都の方から何かがやってきた。頭の後ろに目玉を生やして確認するとそこに見えたのは小さな人影だった。
あれが何か知っている。ウィッチだ。魔法力を持っていて、足につけたユニットで飛ぶ空の歩兵。顔が見えるほどに近づくとその人は非常に困惑していた。
それもそうだろう。5メートルの生ものっぽい異形の怪物が人類の宿敵であるネウロイと戦っていて、どういう状況なのかすぐに判断しろと言っても無駄だ。案の定ウィッチは空中で停まって様子を見ていた。
どっちでもいい。邪魔さえしなければ、いてもいなくても構わない。
やってきたウィッチを意に介さずネウロイへの攻撃を続けいていると、ウィッチ達の援護射撃が入り、撃ち漏らしたネウロイを沈めていく。どうやら少なくとも俺を敵ではないと判断したようで、すぐそばを恐る恐るという表情で飛び去っていく。
俺が攻撃しないと分かると彼女らはネウロイへの攻撃を始めていき、しばらくすると後方から戦車やら兵隊やらが殺到して戦場が生まれた。
●
後方から飛んでくる戦車や高射砲の弾を避けつつ、ネウロイに攻撃をぶち込んでいく。再生能力があるネウロイに一撃必殺の決定打がないウィッチや後続の戦車の攻撃を補うようにビームや打撃を加えていく。
しばらくしているとようやく味方と認識されたらしく、時々ウィッチや戦車からの援護が入り、戦いやすくなった。戦場も賑やかになり、前線と言えるものが生まれていた。
これならしばらくは大丈夫だろう。
目の前のネウロイを叩き落として殺し、踵を返して跳躍する。前線を敷く戦車や兵士たちの頭上を飛び越え、着地してもう一度飛ぶ。四回も飛ぶと街から避難した人たちのいる避難所までたどり着いた。避難所は屋根がなくなっていて、突如現れた俺を見て悲鳴や怒号が聞こえた。自分の姿が変わっていたことを思い出し、自身に加えた改造を解く。加えた改造は簡単に解除できるらしく、逆再生するように体が元に戻り、ハイデマリーを抱えていると違和感に気がつく。
色がない。気を失ったままのハイデマリーを見て、彼女の綺麗な銀髪が白く見える。白い肌はそのままで、しかし色の違いではなく濃淡でしか色が見分けられない。
色の違いがない視界に動揺していると声をかけられた。
「フリッツ君なのかい? それにハイデマリーも……」
顔を上げるとそこにいたのはハイデマリーのお父さん、おじさんだった。先ほど変化した俺を見て距離を置く人々の群れをかぎ分けてやってきたおじさんは顔を引きつらせてこっちへ来た。
ハイデマリーをおじさんに預け、彼女を受け取ったおじさんは心配そうに俺を見た。
「ハインリヒ……、君のお父さんはどうしたんだ。君とハイデマリーを探しに行ってそれっきりなんだが会っていないかい?」
「……父さんなら死んだよ。俺をハイディをかばってネウロイに殺された」
「——っ! なんて事だ……」
父の最後を思い出し、気がつけば唇を噛んでいた。腹の奥底に重たいものが積もっていくようなイラつきが収まらない。おじさんは申し訳なさそうに顔を伏せた。
「すまないフリッツくん。私があの時ハインリヒを止めていたらこんなことには……」
「おじさんが気にする事ないよ。悪いのは全部ネウロイだ。父さんを殺したネウロイが全部悪い」
だからネウロイを殺さなければならない。戦場に戻ってネウロイを殺すために踵を返して戻ろうとして肩を掴まれた。振り返ると肩を掴んでいかせまいとしていたのはハイデマリーのお母さん、おばさんだった。彼女は怒ったような、心配したような顔をしていた。
「なにをしているのフリッツくん。あっちはさっきから銃声がして危ないわ。一緒に避難しましょ?」
「そうだ、フリッツくん。ここにいなさい」
片手でハイデマリーを支えて開いた手でおじさんに手を引かれる。
止めてくれる二人の手を振りほどき、前に出る。魔法力を体全体に流し、活性化させていく。額から山羊の角が生え、人からそうではないナニカに体を変えていく。先ほどの竜のように姿を変えた改造の影響らしく、背中にはコウモリの様な羽、尾骶骨のあたりから細長いトカゲのような尾が残っていた。
「あ、悪魔……」
おじさんがポツリと俺の姿を見て呟いた。その直後、自身の発言を失言だと思ったしいおじさんは慌てて自分の口を覆ったがもう意味はなかった。おじさんのつぶやきに対して、自嘲するように笑いが漏れてしまう。
「悪魔ね……、あながち間違いじゃないかも」
あれだけ街をめちゃくちゃにしたネウロイを一方的に殺せてしまうんだ。もう自分が普通の人でなくなり始めていることを自覚させられる。でもそれでよかった。
「父さんの仇を取れるなら悪魔でもなんでもいい。ネウロイは殺す。殺して殺して、あいつらが消えて無くなるまで殺し尽くすんだ」
「いけない、フリッツくん。そんな感情でいたら、心が壊れて本当に人でなくなってしまう。今ならまだ間に合う、一緒に避難しよう。私たちと来るんだ」
「うるさい!」
気がつけば怒鳴ってしまっていた。そんなつもりはなかった。ただこの暗い感情をどこへ向ければいいのか分からない。父さんを殺され、荒れ狂う心のうちに安らかな凪が欲しい。
そのために殺すのだ。
走り出す。走り、少しずつ体を変化させる。より強靭に、より戦いに向いたものに。
元の竜へと姿を変え、僕は戦場へ飛び去った。過去の全てをそこに置き去りにして。
●
戦場へ戻ってからはあっという間だった。僕が抜けた間に少し前線を押されていたらしい。破壊された戦車や死んだ兵士たちを飛び越え戦いに参加する。近くにいたネウロイを握りつぶし、踏み砕き、届かなければビームで焼き払う。
僕一人がいるだけで戦いは圧倒的に人類側の優勢だった。それでもこちらの被害は少なくなかった。気を抜けばネウロイどもは攻撃の手を激しくしてその度に近くを飛んでいたウィッチが撃墜され、命が散っていった。
正直邪魔だ。いない方が無造作にビームを撃てるから、むしろ味方が攻撃を阻害させる。
味方側の数は半分を切り、高かった太陽が夕焼けとなって沈みそうになった頃、ようやく戦場に静寂が訪れた。無尽蔵と思われていたネウロイも遂に弾切れらしく、もうネウロイは川の向こうから来ることはなかった。しかし未だ川の向こうに巣と思われる雲の塊のような物体は空に浮かんでいて、その周りにはネウロイが飛んでいた。
叩き壊そうと川の向こう側へ行こうとして、味方だったウィッチ達に囲まれていた。拡声器越しに意思疎通を図ってきたリーダーらしきウィッチに投降するように言われた。
別に無視してもよかったけど、それで攻撃されても敵わない。僕はネウロイを殺したいのであって、人間を殺したいわけじゃない。
頭の冷静な部分が今はおとなしくしていた方がいいと告げる。おとなしく指示に従い、人の大きさに戻ると彼女たちは驚いたような顔をしていたが、落ち着くとごめんねと一言断って手錠をされ、僕を本部らしい建物に連れてかれた。
取調室らしき部屋に通され、しばらくおとなしくしていると随分と重武装をした兵士を引き連れたおじさんが部屋へ入ってきた。知らない人だったけれど、軍服という身なりと胸に掲げられたいくつもの勲章からそれなりに高い地位にいることだけはわかった。
おじさんは部屋に入って座っているのが子供だと分かると少し驚いたような顔をしていたがすぐに表情を正して僕の正面に座った。
「私の名前はエルヴィン・ロンメル。帝政カールスラントにて大将を拝命していただいている者だ」
「……フリッツ・ルンペンハルト、……です」
内心警戒していたのが見え透いていたらしい。ロンメルと名乗ったおじさんは表情を崩してそう緊張するなと言う。僕の手錠を外しすまなかったねと一言断ってから。
「単刀直入に言おうフリッツくん。カールスラントは君を戦力として迎え入れたいと言っている」
「……戦力ですか」
「そうだ。この5時間での君の活躍を部下から報告を受けてね。単独によるナルゴト川一帯に広がっていたネウロイの師団を食い止め、あまつさえ防御線構築まで戦闘を続けた……、撃墜数は分かっているだけでも400機。我々が到着するまでの3時間も考慮すれば実数はその倍以上」
改めて数字にされる自分がやったこと。ネウロイを潰すことで頭がいっぱいだったためよく分かっていなかったが、どうやらすごい数字らしい。ロンメルは続ける。
「これはカールスラントのエースを一個中隊揃ええたとしても敵わない驚異的な数字だ。それで……だ。カールスラントが君を引き止めるためにいくら払えば良いかね?」
「お金?」
「まぁ、分かっているとも。君くらいの子にお金を示しても興味を持たないだろうね。ただ上層部はかなりなりふり構わない様子で、君を何としてでも迎え入れたいと言っている」
「興味ありません。ネウロイを殺せるならどこでも一緒なので」
ロンメルと目が合う。彼は少し悲しそうに眉をひそめていた。よく知らない人だが彼の人の良さは伝わってくる。
「参考にまで聞きたいのだが、ご両親はどちらに?」
「母さんは一年前に病気で、父さんはさっきネウロイに殺された」
「……すまない。我々がしっかりしていればもしかしたら父君は……、いや過ぎたこと今更言ったところでダメか。フリッツくん、君が我々とともにネウロイと戦ってくれるなら、我々は君の要望を可能な限り叶えよう。何か欲しいものはあるかな」
「何も……。何もありません。ネウロイと戦えるならそれでいいです」
カールスラントに僕を引き止めたいロンメルともうカールスラントに留まる理由のない僕の間に沈黙が続く。カールスラントとしては明らかに突出した戦力の僕を他国に盗られるような状況は避けたいのだろう。そしてこのロンメルはそうなるように動けと命令された、状況はそんな感じなんだろう。
ふーむ、と困った様子をみせるロンメル。
「フリッツくん、これからの予定を聞いても?」
「予定……? ……あっ」
これからのことを聞かれ、一つ気がかりなことがあった。
「ロンメル……さん」
「何かな?」
「カルフの人たちはこれからどうなりますか?」
カルフの街は焼け落ちてしまった。少なくともまともに住める様子には見えなかった。ならば今避難をしている街の住人のみんなはどうなってしまうのだろうか。
「ふむ……。そうだね、彼らは被災難民となってしまった。しばらくはあの避難所で生活をして、その後はカールスラント各地に移住という形になるだろうね」
「正直に言って」
「彼らはカールスラント中をたらい回しにされて、長い間定住が難しかもしれない。財産も失っただろうから生活も安定しないだろう」
「でもロンメルさんならどうにかできる?」
討論が温まってきたとロンメルは口角を上げた。
「私が、というわけではないがカールスラントから優先的に援助を与えることは出来る。今世界で最も安全な南リベリオン大陸にある我々の植民地、ノイエ・カールスラント。そこで新たにカールスラント街を作ろうと思っていてね。希望者のみにはなるが優先的に移住権を渡すことは出来る」
「ノイエは安全ですか?」
「少なくとも戦場となっているこの欧州より安全だとも」
ならきっとあの子もそこに行くべきだ。僕が彼女にできることはきっとこれなんだろう。
「……お願いします」
「了解した。カルフの住民のノイエ・カールスラントへの移住の優先、手配しよう。安心したまえ。君の戦力的価値に比べれば些細な案件だ」
そして僕とロンメルさんとの契約が決まった。
例えどれほど憎悪に心を焼いたとしても君だけは守ろう。13枚の契約書に署名をしながら、僕は一人そう決心した。
●
夜、もう寝静まった時間帯。僕はシュトゥットガルトの街にいた。気絶して怪我もしていたハイデマリー がここの病院に搬送されたと聞いたから、そしてアルフレートおじさんに会いにここに来た。
面会時間はとっくに過ぎていたがカールスラント軍の身分証明書を見せたらあっさりと病室の場所を教えてもらえた。あまり縁はなかったがカールスラントでは軍人さんや技術者は特別待遇という話を思い出した。
教えられた病室の前に行き、扉をノックした。返事があって中に入るとおじさんがいた。並べれたベッドの上で安らかな寝息をハイデマリーはたてていた。それを見て少し安心した。
「フリッツ君……、その格好は?」
「おじさん。僕、軍隊に入ったんだ」
「……そうか」
そう伝えるとおじさんは悲しそうに僕の胸に掲げられた空軍の所属を意味する勲章を見ていた。
これから伝えることを考えて、僕は覚悟を決めた。さよならをいうための言葉。
「おじさん、今日はお別れを言いに来たんだ」
ポケットにロンメルさんから預かったチケットを三人分、おじさんに差し出した。受け取ったおじさんはそのチケットに書かれた目的地を見て目を見開いた。
「ノイエ・カールスラントへのチケット?」
「それからこれも」
一緒に持ってきたバインダーにまとめた書類も渡す。これで真意が伝わるだろう。
「戸籍……? 住所ノイエ・カールスラント……、まさか!」
「うん、おじさんたちのノイエ・カールスラントでの戸籍と住所。まずはおじさんたちの番から、順番にカルフの街のみんながノイエに行けるように手配してるから。そのチケットで鉄道に乗ってネーデルラントまで行って、そこの港から出てる船でノイエまで行けるから」
「まさか私たちのために君は軍隊に……」
「違うよおじさん。あくまでおまけみたいなものだよ。ロンメルのおじさんがなんでも叶えてくれるっていうから、みんなのことを言ってみただけだよ」
「しかし……」
「いいんだ。僕は父さんの仇を、ネウロイを殺したい。そのついでにみんなが安全になるならそれでいい」
そう言うとおじさんはもう何も言えないと黙ってしまった。おばさんとハイデマリーは並べられたベッドで寝ていた。何かを言えるおじさんに決めてもらわなければいけない。それもできれば早く。ハイデマリー もおばさんもすっかり寝入っている。当たり前だ。今日だけで街が燃えてここまで避難して、きっと大変だったに違いない。
「ハイディは大丈夫そう?」
「あぁ……、幸い大きな怪我はなかったからすぐにでも意識を取り戻すとお医者様は言っていたよ。ただいつまでもこの病院にいるわけにもいかない。入院費を支払うにも、財産は全て燃えてしまった。正直に言おう、ハインツくん。君の申し出はとても助かる」
「なら——」
すぐに移住をして安全なノイエに行って欲しい。そう伝えようとして。だが、とおじさんは言葉を切った。
「だが君をカールスラントに置いていっていいのかと、ハインリヒに申し訳が立たない。本当なら私は君を守らねばならない立場だというのに……」
「父さんはハイディを守れって言ったんだ。最後くらい、父さんの言ったことを守るよ。ハイディを守って、ネウロイを殺すんだ」
僕の言葉を聞いて、長く、長く考え込んで、そしてようやくおじさんは決意を固めたようだった。
「……分かった。君がそうしたいなら、君の意思を尊重する。ただ覚えていて欲しい。君にも帰る場所はあるんだ。寂しくなったらいつでもきて欲しい、それくらいの場所は必ず私が確保する」
「ありがとうおじさん」
「これを持って行きなさい」
そう言っておじさんは一つの懐中時計をこちらに差し出した。高価そうな年代物の銀の懐中時計だった。
「これは直前にハインリヒに修理を頼んでおいたものなんだ。君に持っていて欲しい」
「……父さんの最後の仕事」
「私から君に出来ることはこれくらいだ。きっとハインリヒが君を守ってくれる」
時計を受け取る。コチコチと小さく歯車が鳴る音がして、それはまるで死んでしまった父さんの脈動のような気がした。これで心置きなく戦えると改めて気持ちを固める。もう言うことはないから、気持ちが変わってしまわないように、基地に戻ろうと部屋を出ようとして、そこでおじさんに呼び止められた。
「ハインツくん、ハイデマリーに別れを言わないの? 言わなかったらきっとこの子は悲しむぞ」
「会って話したら、きっと気持ちが揺らいじゃうから、……だめ」
嘘偽りない気持ちだった。もしハイデマリーに会ってしまったらきっと俺は僕を維持できなくなる。そんな予感があった。
穏やかに寝ているハイデマリーの横に立ち、そっと彼女の頰に触れる。暖かくなかった。違う、温度を感じる機能が壊れてしまったんだ。少しずつ体に異常が出てきている。せめて戦えるうちに出来る限りネウロイを殺して、みんなを守ろう。
「ハイディ、お別れだ。俺はもう君と一緒にいられない。だからどうかノイエでも元気でいて欲しい」
——大好きだよ。
言いかけた言葉を飲み込む。それ以上言ってしまうと、きっと自分が維持できなくなるから、これが俺に出来る精一杯の一方的なお別れの言葉だった。
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次の朝。僕は戦場にいた。平原には数えるのがバカらしくなるほどネウロイがうじゃうじゃいて、あちらこちらでビームと砲弾が飛び交い、安全な場所なんてどこにもなかった。時間が経てば経つほどネウロイが死んで、ウィッチが死んで、兵隊さんが死んで、僕だけが生き残る。
ガリア国境沿いにできてしまった巣に対する絶対防衛戦の構築まで僕はこの地獄の戦線を維持しなければならなかった。
辛くはない少なくとも一週間、一週間戦えば防衛戦を構築してひと段落出来る。そうすればハイデマリーは無事にノイエへ旅立てる。生きるためのエクソダスへ、新天地へ到着出来るんだ。そう思えば勇気が湧いてきた。
負ける気はしなかった。
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間に合った。ロンメルさんから飛行ユニットを借りて、なんとかノイエ行きの船の出航時間に間に合った。
見送りの軍人さんの中に割り込ませてもらい、ノイエへと避難する人々を見送っていた。あの地獄の戦いを耐え切った結果がこれなら、きっと頑張った甲斐があったのだろう。良かったと思っていると見知った顔があった。
彼女は僕を見つけると並んだ人たちをかぎ分けてこちらへ来た。
正念場だ。ここで僕は彼女を拒絶しなければならない。彼女がもうここへ帰ってこないように。彼女を突き放さなければならない。
「フリッツ……? どうしたの? 一緒に行きましょう?」
「……行かない」
君が平和でいられるように僕は戦わなければいけない。
「ぼくはこれから敵を殺しに行く。父さんの街の仇を取る。敵を殺して、殺して、殺し尽くしてやるんだ」
そして君が傷つかないように、父さんとの最後の約束を守るんだ。絶対に守るんだ。
自分に言い聞かせるように、その思いを確認するために誓いを小さな声で何度も反芻する。
拒絶され狼狽するハイデマリーをここにおいていく。きっと彼女はノイエで安全に、平和な中できっと幸せになってくれる。俺と父さんができなかった家族の幸せを感じながらきっと彼女は幸せになってくれる。そうじゃないと困る。
同情するようにこちらを見るウィッチたちに大丈夫だと伝え、僕は戦場へと戻っていく。
顔に風を感じる中、伝っていく涙は風の感触に消されてしまった。
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そしてカールスラント防衛戦が完成した半年後、僕は空軍訓練学校に入学した。