Was kann ich für Sie   作:加賀崎 美咲

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お久しぶりです。前回の投稿からずいぶんと間が空いてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいです。
これも全部お仕事とか転勤とか出張がですね?
まぁ個人的なことはさておき本当に久しぶりに執筆が出来て嬉しい反面、書き方が覚束なく、今回は短めになります。
完結まではしっかりと書きますのでよろしければお付き合いのほど、よろしくお願いします。


Und das Ende beginnt

 カルフの空を僕は飛んでいる。ストライカーユニットの生み出す浮力は羽を持たないヒトに飛ぶ力を与えて、その力が自分が5年前の無力な子どもとは違うのだと自覚させた。5年という時間を経て帰ってきた故郷の空は、僕の記憶にある暖かい陽だまりの見る影も残されていない。

 思い出の中にある曇り一つない澄んだ空は、どこにもなく。見える限りにあるのは厚く暗い曇天と、穢すように点在する赤黒い模様を光らせる敵がいた。

 

 

 優しい思い出の詰まった故郷はただ敵に蹂躙され、僕らはただそれを奪い返すため、暴力で敵から奪うしかない。

 

 

 ただ一つ不本意なのは敵から奪う力の一つが守りたいと思っていた女の子だった。安全なはずの遠い異国へ行ったはずの彼女は、あろうことか戻ってきてしまった。戦う力を携えて。

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 カルフの巣に動きがあったという緊急入電から半刻が過ぎるか否かの頃、カルフの巣にほど近いナルゴト川の上流に僕らは到着していた。ベルリン方面からこちらへたどり着くまでに数機のネウロイと遭遇して、その全てを撃墜した。

 

 

 僚機として斜め後ろを飛ぶハイデマリーは若干の動揺こそあるものの、遅れるような様子もなく、初めての実戦で既に2機撃墜していた。正直に言えば兵士としては優秀、それもエースと呼ばれる類いのそれだ。

 

 

 守りたいと思っていた相手が自分よりもよっぽど強かったのだと、後ろを追いかけてくる彼女を振り返りながら思い知らされる。そんな僕の内心など知る由もない彼女は目が合うと、戦いで気が昂っているのか笑みを深くした。

 

 

 噛み合わないなと内心で舌打ちして前へ向き直る。まだいるはずの敵を探すため、高度を下ろし雲を突き抜けていく。いた。まだこちらに気がついていないネウロイが三体。編隊を構成してベルリン方面へ向かっていた。

 

 

 距離は六百、手持の機関銃では当てる事は出来ても、有効打にはならない距離がある。だけどそれは一般的なウィッチだから成り立つ問題だった。少なくとも僕にはどうにかする手段がある。スリングを掴んで機銃を背中に回し、フリーになった右腕に意識を集中させて固有魔法を励起する。

 

 

 皮膚が粘り気のある熱したゴムのように溶けて形が崩れる感覚と共に、右腕が無機質な戦車砲のそれを模した形と機能を変えていく。僕の固有魔法『自己改造』は右腕を巨大な火砲へと変えた。鉄の弾丸に代わって装填されるのは魔法力の弾丸であり、轟音を伴って一直線にネウロイへ向かっていく。

 

 

 空気を震わせながら迫る弾丸に気づいたネウロイは回避行動を取ろうと散開し始めた。そんな光景を眺めながら小さく呟く。

 

 

「無駄だよ、君たちに抵抗なんて許さない」

 

 

 憎しみのこもった声に反応するよう、魔力による砲弾は変化を見せる。それは突如停止すると大きく震え、まるで樹木が乱雑に成長するように鋭い棘のような枝葉を伸ばし広がろうとしていたネウロイの全てを刺し貫いた。

 

 

「す、すごい。一撃で三体も……」

 

 

 未知の現象にハイディは感嘆の声を漏らす。だが破壊はそれだけで終わらない。だってこれは敵を殺すための力なのだから。

 

 

 刺し貫いた魔力のトゲが色を反転させていく。担い手の 暗い感情を反映したようなその色は殺意の表れで、触れているネウロイにその光彩を移していく様は毒のよう。

 

 

 変化はすぐに現れた。ネウロイが悲鳴のような声を上げ、そして古い木材が腐敗するようにその体をボロボロにして崩壊させていく。力の名前は毒。僕の血は金属のような外殻を持つネウロイだけを害する毒となって、その硬い殻を錆のように崩壊させる。

 

 

 残ったのは灰のように細かくなって風に散っていくネウロイの残骸と無傷の僕らだけだった。

 

 

 何度目なのか、数える事も億劫になるほど戦った。でもそのおかげで僕という暴力装置はこれ以上ないほど効率的に完成していた。

 

 

 ふと隣にいるハイディの方へ振り向くと彼女は何か言いたげにして、だけど止めてしまう。

 

 

 ──どうしてそんな顔をするの? 君を守るために僕はここまできたのに、どうしてそんな悲しそうなの? 

 

 

 そう口に出そうとして、だけど思ったことは言葉に出来なかった。

 

 

「──っ! 敵!」

 

 

 ハイディの様子に気をとられていたから増援にやって来た新たなネウロイへの反応が遅れてしまった。赤い閃光が光り、次の瞬間には光の束が殺到していた。

 

 

「させない!」

 

 

 行動をしようとする前にハイディが間に割って入った。僕が作れるものよりも大きなシールドを張ってネウロイの光線を防御すると、ハイディは距離を詰めていった。

 

 

 ストライカーユニットを巧みに操作して数発弾丸を当てるとすれ違う。ハイディを追いかけようと無理に旋回を行おうとしたネウロイは、無理な急転換に遠心力に引きずられ体制を大きく崩した。

 

 

 その隙を見逃すことなく、ハイディは機関銃を構え、がら空きとなった底部に弾丸をたたき込んだ。底部は構造上、装甲が薄いのかあっさりと外殻を削り取って姿を現したコアも諸共に破壊した。

 

 

 僕はその様子を呆然と見ていた。呆ける僕を余所にハイディはやって来たネウロイを一体、また一体と撃墜していく。その動きは華麗で、航空兵学校を卒業したてとは思えないほどで。

 

 

「フリッツ! わたしやったよ! 敵を倒したよ」

 

 

 彼女は嬉しそうに戦果をあげたことを喜んでいた。固有魔法も使わず、その技量のみであっさりと敵を殲滅していく様に戦う才能の差を見せつけられているようだった。

 

 

 その時僕の中にあったのは敵を共に倒す喜びではなく、望まない現実の到来に対する絶望だった。

 

 

 彼女はこんな血なまぐさい戦場にいて良いはずがない。戦地から遠く離れた穏やかな場所で幸せでいなければいけないのに。それなのに彼女はここに来てしまった。

 

 

 自ら離れていった僕を追いかけて彼女はここにやって来たと言った。その機会も、才能もあって、彼女はここにいる。

 

 

 なんと云うことだ。彼女を危険な場所から離そうとした僕の行動自体が彼女を呼び寄せるきっかけとなってしまった。

 

 

 僕はただ彼女に、彼女の両親と慎ましやかでも幸いに満ちた人生を送って欲しかっただけなのに。そのささやかな未来を僕が知らないうちに壊してしまった。

 

 

 ──頭がどうにかなりそうだった。

 

 

 上手くいない現実に対する無力感。彼女の普通の人生を壊してしまった罪悪感。そして何よりもそんな現実をもたらしたネウロイという敵への怒り。

 

 

「お前たちのせいだ。何もかもッ!」

 

 

 半ば八つ当たりのように変形させた腕からネウロイが放つのと同質の光線を放ち。接近していた数機のネウロイを撃墜していく。

 

 

 オーバーロードも顧みず、ありったけの魔法力をストライカーユニットに流し込み、無理矢理加速すると遠目に見えていたカルフの巣に突撃する。要するに頭に血が上って冷静さを失っていた。

 

 

 暴力を振るう以外に何も考えられない。後ろでハイディが何か叫んでいるけれど、それさえも意識の外へ投げ捨てて、持てる全てを使って敵を壊す。

 

 

 駄々っ子のような八つ当たりに似たそれは、都市を簡単に焼き払う規模であったが、肝心のネウロイの巣にはそれほど効果があるように見えなかった。

 

 

 理由は主に二つで、単純にネウロイの巣の規模が大きすぎること、そして破壊した箇所が水面を叩いたようにすぐに修復されてしまうからだ。巣は攻撃されたことを認識し、蜂の巣を突いたように無数のネウロイを出撃させていたが、出撃した途端に打ち落とされていった。

 

 

 通常の航空戦力ネウロイでは意味がないと判断したのか、ネウロイの攻勢が変わった。それまで飛び出していた戦闘機型ネウロイに混ざって、人の頭ほどの大きさの小さなネウロイが無数に出現した。

 

 

 そいつらは他のネウロイのように光線を打つことはなかった。その代わりに針状の器官を見せると、こちらに突き刺そうと加速した。いつか見たネウロイの資源回収個体に似たそれらは、決して対応できない速度で飛んではいないけれど、同時に飛来する無数のネウロイへの対応に追われるせいで数体の接近を許し、変質した部分に食らいついた。

 

 

 突き刺さったネウロイはネウロイの巣が周囲の環境を汚染するように、接触した部位をネウロイの素材に変えていく。生物にそれを行ったという話は聞いたことがないが、自己改造をした部位は無機質に近い。それ故に可能なのだろうか。ネウロイに変質した部分は動かせなくなり、制御を奪われていた。けれど。

 

 

「……それだけ? それだけなの? そんなもので僕を倒せるだなんて思ったの?」

 

 

 火力での攻撃では敵の再生速度と規模を攻略できない。時間をかければ浸食が進んでいく。ならば攻撃手段を変えればいい。体に刺さったこいつらは良いヒントだった。外から壊せないのならば、内側から壊してしまえば良い。

 

 

 手近な突き刺さったネウロイを一体つかみ取り、装甲を掴んで引き裂いた。紙のように裂けた装甲の奥にはこぶし大のコアがやはりあった。

 

 

 コアを掴み、手に触れたそれの情報から、彼らの浸食の行程を理解して、自分にどのような改造を施すべきなのかを考える。

 

 

「同化能力が自分たちだけのものだといつから決まった?」

 

 

 瞬間、変化があった。少しずつネウロイ化していた装甲、その変化が止まった。そして浸食が逆再生するように直っていくと、今度は逆にネウロイの装甲が僕の装甲と同質の物質に変化していく。

 

 

 体に刺さっていたネウロイの制御を奪い、コアのエネルギーをわざと過剰に働かせ、自爆に追い込む。いわばハッキングと言うべきこの反撃、まだ終わらない。ネウロイ同士は独自のネットワークのようなものを持っている。

 

 

 まだ制御を奪ったネウロイは残っていて、それらを足がかりに、巣そのものに自壊をさせようと、ネットワーク越しに浸食を試みた。

 

 

 思えばこれはあまりにも稚拙な判断だった。冷静だったら援軍と合流するなり、様子を見ながら戦略を立てるべきだった。けれど頭に血が上り、冷静さの欠片もない思考は短絡的に敵を滅ぼすことしか考えていなかった。

 

 

 そして僕はネウロイと云う存在に触れてしまった。

 知覚できたのは乱雑な情報、これはネウロイの言語なのだろうか、理解できない意味の連続が流れては消えていく。でもそんなものに用はない。用があるのは巣の中心。そこに自ら壊れるように伝達を叩きつける。それは自壊を意味する情報でなければない。イメージと言ってもいい。

 

 

 だから僕が自分に感じている、消えてなくなりたい願望。どうにもならなかった過去の記憶を核に、ネウロイに対する攻勢プログラムを生み出し、それを記憶と共にネウロイに叩きつける。どれほど効果があるか分からないけれど、少なくとも巣の一部は先ほど壊したネウロイのように、破壊できるはずだ。はずだった。

 

 

 ──コレガアナタ? 

 

 

「は?」

 

 

 ネウロイが自爆する破壊の音が聞こえるはずだった。

 

 

 しかし耳にしたのは、人の声を真似た音と形容する他ない音の羅列だった。

 

 

 心臓が凍りついたように大きく動きを止めたのが分かった。

 

 

 ネウロイが人の言葉を話した? そもそもこいつらにそんな言葉を話すなんて概念があるのか。あまつさえこちらに問いかけたのか。

 

 

 何が起きたのかまったく理解が追いついてなかった。

 

 

 動揺する僕をよそにネウロイの巣が大きく胎動する。僕がしたようなハッキングを仕返され、体が動かすことが出来ない。分厚く黒い雲のような巣の構成体を腕のように伸ばすとその中に僕は取り込まれた。

 

 

「フリッツ! うそ、ヤダっ!」

 

 

 離れた後方でハイディが何とかしようと行動するが、飛来する無数のネウロイに阻まれて僕が取り込まれる間、何も出来ずただ叫ぶしかなかった。

 

 

 自意識だけははっきりとした状態で、僕はゆっくりとネウロイの巣に飲み込まれた。

 

 

 あるのは暗闇。自分の体の五感すらないそれは、意味の一切存在しない『無』そのものだ。

 

 

 ──コレガ

 

 

 またあの言葉未満の音の羅列が響き、そして光があった。

 

 

「やあ、フリッツ。元気にしていたかい?」

 

 

 声がした。今度は音の羅列じゃない。確かに意味のある言葉。それはもう失われたはずなのに、確かに今存在していた。

 

 

 おかしいと分かっている。何か正しくない。頭では理解していても、感情は違和感を認めようとしなかった。

 

 

 失われたはずの時、失われたはずの場所、失われたはずの暖かさ。その全てがここにあった。

 

 

 僕は懐かしい家の中で父さんと向かい合ってテーブルに座っていた。

 

 

 父さんは僕の記憶と同じように、朗らかに笑っていた。

 

 

 

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