唯依Side
大きく破損した京都地下鉄跡――――
そこに私、篁唯依とその叔父の巌谷榮二中佐はいます。
他に叔父様の部下が数人。叔父様の部下で開発局の人達。
そしてあと一人。この人はよくわかりません。
『鎧依さん』という目深にかぶった帽子とスーツ姿の男の人。
一般の貿易商とのとのことですが、軍の任務に何故一般人がいるのでしょう?
彼は叔父様に親しく話しかけていますが、叔父様は露骨に顔をしかめています。
苦手なのかな……?
さて、私達の主目的である、帝都でBETA大規模殲滅を為した謎の戦術機。これは便宜上”z”と仮称することが決まりました。アルファベットの最後の文字が使われているのは、”究極の戦術機”を意味するためだそうです。
叔父様こと巌谷榮二中佐は、この”z”調査チームの責任者になりました。私達がこの場所に来た理由はその調査のため。ここ京都地下鉄跡は比較的破損が少なく、私が”z”と遭遇した痕跡がそのまま残っていますので、重要捜査現場に指定されたのです。
開発局の者がその任を担っているのは、調査の過程で”z”の強力すぎる武装の秘密や、機体構造の推論をたてるためだそうです。なにしろ現時点で専門家が、あの機体がどのように作られているのかが何も分からないというのですから。
私は現在叔父様を待って、”Z”が開けた穴の前にぼんやり立っています。その下にある地下鉄跡には叔父様の部下が調査に入っており、”Z”の残した痕跡を熱心に調べています。
この場所。京都駅地下鉄跡。
ここは私にとってつらく悲しい思い出の場所です。
親友の能登和美。そして山城上総さんの二人の死を看取った場所なのですから。
それはともかく、叔父様は”鎧依さん”という貿易商の方とずいぶん話しこんでいます。わずかに話が聞こえますが、相当に熱心です。
「困った奴だな鎧依。”あの方”の口添えとあらば会わざるを得ないがな。あんたと会っているとなれば、俺も痛くもない腹を探られる」
「いえいえ。まったく後ろ暗い話などではありません。ですから堂々と会っている。おたくの上司に話を通してもらってもまったくかまわない。相互利益に関する重要な話なのですよ。あの国の押さえをこちらが引き受けようという話でね」
「………………こちらの内情は知っている、というわけか。そして絵はできているようだな。わかった。とにかく話を聞こう。ただ、姪は早く帰らせたい。彼女の用を先にすませてからになるが、かまわんな?」
「ええ、もちろん。よろしければ姪御さんにお土産などを渡してよろしいですかな。イースター島
「却下だ。姪に妙なものを渡さんでもらおう」
叔父様は鎧依さんとの話を打ち切ると、私のもとへと来ました。
「すまない、唯依ちゃん。少し急ぐぞ。まずは君が僚友機二機と瑞鶴でここに来た所から聞かせてもらおう」
「ええ。でも巌谷中佐。任務中です。『唯依ちゃん』はやめてください」
「はっはっは。そうなんだがな。唯依ちゃんにはつらい思いもした場所だと聞いているからね。だから俺と話すときだけは特別に叔父、姪でいきたいんだ」
「いいえ。小官はなんともありません! 任務である以上、私情を交えることはいたしません。どうか巌谷中佐も上官としてふるまってください」
「…………そうか。よし、そうしよう」
一瞬、叔父様はさみしそうな顔をした。でも次の瞬間、厳格な軍人の顔へと変わりました。
「筧少尉。”z”について貴官の目撃したことを詳細に話せ」
これに応え、私も軍人作法で如月中尉からこの京都駅本陣へ後退を指示され、来てみればBETAに制圧されていたこと、二人がBETAに落とされ地下鉄に落下したことを話しました。
「小官は墜落した僚機の搭乗員。山城、能登の両少尉を探すべくこの地下鉄をおりました。途中、能登少尉がBETAにやられたことを確認」
話をしていると、全身をBETAに喰われたうつろな眼の和泉を思い出す。
知らず知らず自分を抱きかかえ体の震えを抑える。
耐えなさい! あれは終わったこと。
「………筧少尉、大丈夫か? もうやめてもいい」
「いいえ………最後まで喋らせてください。その後、さらに地下におりると、山城少尉の機体を発見。ユニット内に山城少尉自身も確認いました。ですが………すでにBETAにまとわりつかれ、どうしようもない状態でした。だから…………だから………」
叔父様は何も言わない。
続きを促すことも止めることも。
そんな叔父様のやさしさに守られながら、私は話す。話し続ける。
「山城上総少尉を………射殺しました。引導を渡しました。そして…………っ」
ああ、ダメだ。全然のりこえてなんかいない。
叔父様もひどく顔が歪んでいる。きっと今、私はひどい顔なんだろう。
山城さん。私、全然あなたにおよばない。
「その時、突然”Z”は地下鉄の天井を突き破って出現。BETAを頭部のバルカンで掃討。奥より出現した戦車級群を構造不明な熱線武器でこれも掃討。その後………」
それでも――――
「………山城少尉の遺体を椀部マニピュレータで持ち去り逃亡。以上です………」
――――――貴女に憧れていたプライドだけはあるの。
だから最後までまっとうした。任務を最後までやり遂げた。
膝から崩れる私を叔父様はやさしく抱きとめてくれた。
「よくやった。立派だったぞ、篁少尉」
「はい………ありがとうございます」
結局甘えさせてくれているんですね、叔父様。
「しかし戦術機のマニピュレータは武器を持つためのもの。遺体を拾い上げるような器用な動きなどできないはずだ。それを可能にできるような技術のある場所となると………」
「いやいや、そこじゃないでしょう」
――――?!
そこにはいつの間にか貿易商・鎧依さんがいた。
叔父様にすら気配を感じさせなかったようで、叔父様は私をかばい警戒している。
「鎧依さん。こちらの話を立ち聞きですか。どういうつもりです?」
「失礼。ただ待たせてもらうのも退屈なので、つい唯依ちゃんの話を聞かせてもらいまいました。なかなかに大変な経験をなされたようですなぁ」
この人は退屈なら軍の話を立ち聞きするんですか?
『虎の尾を踏む』なんてレベルじゃない危険な行為なんですが。
それに叔父様じゃあるまいし、私を『ちゃん』呼ばわりって。
一応、任官した斯衛衛士なんですけど!
「いやしかしマニピュレータに注目するのは技術屋さんらしいとはいえます。が、一番に注目しなければならないのは、唯依ちゃんの僚友の遺体を”Z”が持ち去ったことでしょう。お話を聞いた限り、”Z”がそこに来た理由はBETA退治でも唯依ちゃんの救出でもなく、その死んだ少尉ということになる」
「………そちらも”z”に興味有りか。追うつもりか?」
ええ!? 貿易商さんがあちこちの国家機関が探している”z”を追う?
それはちょっと無謀なんじゃないでしょうか。
「いえいえ、私はしがない貿易商。本当に私は”z”の件にはつっこまないつもりです。ですが私、顧客サービスに素人探偵などもやっておりましてね。このご時世、こんなことでもしなけりゃお得意さまをつかまえておけないんですよ」
貿易商さんも大変なんですね。
「よろしければサービスに素人なりの調査の仕方をご教授しましょうかな。わずかでも巌谷中佐のお役にたてれば幸いです」
「………まあ、ともかく篁少尉の方は終わった。彼女を車に送ったらあんたの話を聞こう。行くよ唯依ちゃん。運転手に君を送ってもらう」
「はい…………ご迷惑をおかけします」
「お大事に。唯依ちゃん」
叔父様は私をやさしく支えながら、車に向かいらゆっくり歩きます。
結局、あの激戦を生き延びても私はまだ半人前のままだ。
山城さん。あなたに一歩たりとも近づけてなんかいない。
でも、いつか。
本物の衛士になってこう呼べるように。
「
―――「なにかしら、篁さん」
――!?!?!?!?
心臓が高鳴った。
もう聞くことがないはずの、その声。
いつの間にか私達の近くにいた同じ年頃の少女。
長くつややかな髪。
冷たく透徹するようなまなざし。
白皙の人形のように整ったその美貌。
いつも憧れてやまないのに、競い合い何度もぶつかり合ったのに、まるで近づけなかった彼女。
――――――――それが生きてそこにいる!
山城さんは途方にくれたように、そこに佇んでいた。
いくつもの「どうして?」が私の中で渦を巻くように響いている。
いつの間にか叔父さまに強くしがみつき、その腕だけで体を支えていた。
膝が震えて立てなくなっている。
それでもやっと……やっと絞り出した声で彼女に問いかける。
「山城さん……………あなた、生きて……いたの?」
「え? え? ……………あの………わたくし、今なんて?」
山城さんは口をおさえてオロオロしている。
どうして? あなたは死んだんじゃなかったの?
どうしてそんなにとまどっているの?
どうして初対面の人を見るような目で私を見るの?
いったいどうしたの? なにがあったの? 答えて山城上総さん!
次回、修羅場バトル勃発!
上総対唯依&巌谷&鎧依。
強敵3人に上総はどう立ち向かう?
修羅場ファイト、レディーゴー!