ゼータと上総   作:空也真朋

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100話 天才と鎧衣親子の冒険 その1

 鎧衣左近side

 

 第二演習区画 一般観戦モニタールーム

 

 大東亜連合専用ハンガーに戻ると、すぐさまスタッフに避難を指示。

 その後美琴に、訓練部隊のお嬢さんらに避難の説明をするよう頼んだのだが、その際シロッコ氏もついてきた。エゥーゴ前任者の山城中尉が心配とのことだ。

 

 だが、モニタールームへ来てみると、すでに山城中尉と訓練部隊のお嬢さん方はいなくなっていた。観客に話を聞くと、日本帝国からの使者が来て統合司令部ビルへ行ったそうなのだ。

 シロッコ氏は自分のインカムで連絡をつけようとしているが。

 

 「司令部に通信がつながらん。いや、どことも繋がらなくなっている。彼女らはテロリストの手におちたと考えるしかなさそうだ」

 

「まいりましたなぁ。奴ら、お嬢さん方にまで目をつけていましたか。あのお嬢さん方を手元におけば、日本帝国を利用することも可能となります。それを防ぐのが私の役目だったわけですが……いや、ひどい失態だ」

 

 こんなことなら、美琴を呼びに行かず真っすぐに彼女たちの元へ行くべきだったか?

 

 「どうしよう、みんながテロリストに捕まっちゃったの? 助けに行かないと」

 

 「あやしい者達がそこらに武器をもって基地内をうろついている。それに先程は、一般客の真上を戦術機が低空で飛んでいた。どうやら基地は完全に制圧されたらしいな。しかしどんな組織がこれだけの工作をおこなった? 組織名に見当はつくかね、鎧衣くん」

 

 「これだけのことが可能なテロ組織は【キリスト教恭順派】しかないでしょう。先日など、爆薬を満載したHSSTを横浜沖に停留中の第七艦隊に落として消滅させてもいますな」

 

 「ええっ! アレってテロのせいだったの? もしかして横浜基地も危なかったんじゃ?」

 

 というより、その横浜基地を狙ったのだろう。

 第七艦隊は、横浜基地が壊滅した後に救助の名目で第四計画の成果を奪うことが本来の目的。

 BETAが役にたった稀有な例ではあるな。

 

 「ふむ……よし、山城上総も助けねばならんし、美琴くんのご学友を救うことに私も協力しよう。しかし場所がこの基地の中心『統合司令部ビル』ともなれば、真っ向からの潜入は難しい。策をもってあたらねばいかんな」

 

 「ですな。私も潜入スキルはそれなりに有りますが、さすがにあそこはキビしい。陽動でもあれば良いのですが」

 

 「その陽動は私が引き受けよう。まずは実弾装備の戦術機を調達。それで司令部ビルを警護している戦術機を落とせば、潜入できるだけの隙は生まれるだろう」

 

 「なるほど、たしかにあなたの腕であれば可能ですな。しかし実弾装備の戦術機を貸与してくれる場所などありますかな。この基地で実弾装備機体を所有するのは、まず警備部隊。しかしこれはテロに乗っ取られているので論外。あとは基地の所有国米軍、アラスカを租借しているソ連軍」

 

 「ソ連から借り受けよう。先の演習での重大な違反行為を問題にしない事を条件に交渉する」

 

 「良いですな。では、交渉は私が行いましょう」

 

 

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 サンダークside

 

 Π3研究棟機密区画 培養層処置室

 

 何故か『姉妹』の重大違反行為に、その場では何のとがめも受けなかったことを幸いに、二人をここに運びこみ修復に尽力した。

 結果、イーニァ・シェスチナ少尉はどうやら助かりそうであり、培養層にて修復中だ。

 だが、クリスカ・ビャーチェノワ少尉の方は……

 

 「マス……ター。申し……わけありません……でした……」

 

 培養層の隣の寝台に寝かされた彼女は弱弱しく私に謝罪した。

 もはや彼女の体は手の施しようがなく、間もなく訪れる死を待つだけの状態だ。今、意識のあることだけでも相当の奇跡だ。

 

 「いいや、よく戦ったビャーチェノワ少尉。貴官は私の誇りだ」

 

 「あり……がとう……ござ……。どう……にかイーニァ……だけは守り……ました。あとは……」

 

 そうか。何故かイーニァ・シェスチナ少尉のダメージは、ビャ-チェノワ少尉に比べて軽微だった。それは彼女が何かからか守ったためらしい。

 

 「ああ。シェスチナ少尉は見ての通り助かった。見えるか、おだやかな眠りだろう」

 

 「ええ……もう……私はそばに居てあげられませんね……」

 

 培養層に眠る妹を見せながら、静かに終わりを迎えさせる。

 私に出来ることは、そのくらいだ。

 

 やがてクリスカ・ビャーチェノワ少尉の瞼が静かに落ちる。

 なれば、別れだ。

 

 「貴官の祖国の献身、まことに見事だった。シェスチナ少尉と共にいつかまた貴官に逢うその日まで、待機任務を命じる」

 

 「了解……しまし……た。お待ちして……」

 

 こうしてクリスカ・ビャーチェノワ少尉は眠りについた。もう目を覚ますことはない。

 やるせない気持ちで、私は二人に背を向ける。

 

 「『祖国の献身』、か。実際はただ上層部のプライドを満たすためだけに使い潰されただけだがな。ロコボフスキーの小物め。それにパプティマス・シロッコ。貴様を恨むのは筋違いだろうが、貴様さえいなければすべて上手くいっていた。日本帝国の懐柔もクリスカを失うことも……」  

 

 

 ピピーーッ ピピーーッ

 

 耳に響くコール音が鳴り、思索から覚まされた。

 そしてコール音とともに灯った赤ランプを見て少し驚いた。それは緊急非常警告。

 なにか起こったか?

 内線通信の受話器をとると、『サンダーク中尉、一大事だ!』と、あわてた様子のベリャーエフ博士がでた。

 

 「どうしました。緊急非常警告とはおだやかではありませんね。基地上層部が先の演習の違反行為に何か強硬手段をこうじてきましたか?」

 

 「そ、そうではない! 所属不明の武装集団が、いつの間にか機密エリアの敷地内に侵入してきているのだ!」

 

 「なんですと? ソビエト軍相手にそのような無法を行う輩がいるというのですか。しかも機密エリアまで……セキュリティはどうしたのです。警報ひとつ鳴っていませんが」

 

 「考えたくはないが、内部から手引きした者がいる! でなければ、ここまで気取られずに来れるはずがないッ糞!」

 

 さもあらん。我が国の被支配民族に対する抑圧や差別は根深いものがある。このような行為に加担する者が出てもおかしくないと思えるのが悲しい所だ。

 

 「落ち着いて。すぐさま特殊警備部に連絡を。基地司令部にも報告を入れてください」

 

 「とっくにやっている! だが外部に通信が出来なくなっているのだ。どの通信機器も、まるでガラクタだ! ……うぐッ」

 

 突然「プシュッ」という音の後に連絡が途絶えた。

 聞き覚えのあるその音は、減音器(サイレンサー)を通した銃声に他ならない。

 早い。すでにベリャーエフのいる機密エリア研究室にまで達したか。

 

 なるほど、『見事』とし言いようのない鮮やかな手腕だ。

 おそらくユーコン基地は、何者かが水面下で緻密に練り上げられた征圧計画によってすでに陥落している。

 このソ連軍機密エリアに堂々と侵入する部隊が居り、通信がとれなくなったこの状況はそうとしか考えられない。

 

 「おのれ……」

 

 汚泥をすすり、屈辱に耐えながら練り上げ、積み上げてきた私の計画と野望。

 パプティマス・シロッコという謎の男によってぐらつかせられ、そして今謎の襲撃によって霧散しようとしている。

 

 「……よかろう。誰だか知らないが、ここを踏み荒らす罪に相応の報いをくれてやろう」

 

 どす黒く煮えたぎる憎悪がこみ上げる。

 かつての”部隊”にて幾人もの人間の頸椎を砕いた感覚がよみがえってくる。

 

 「クリスカ、イーニァ。お前達の眠りを妨げる者に容赦はしない。そこで待っているがいい」

 

 培養層と寝台にねむる二人を一目だけ見ると、『黒木手の番人』となった私は獲物を求めて部屋から出て行く。

 

 

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