ゼータと上総   作:空也真朋

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103話 天才と鎧衣親子の冒険 その4

 パプティマス・シロッコside

 

 

 ガガガガガガガガ…………

 

 ライフルのフルオートが途切れた。

 だのに平然と無傷で立っている私を、サンダークは『信じられない』とでも言うように凝視している。

 私の後ろの壁も実験室の備品もメチャクチャに破壊されている。その様を見れば、その中で生きている人間なぞ不思議でしょうがないだろう。

 

 「鎧衣君、美琴君。終わったぞ。生きているか?」

 

 「ええ。多少弾はかすりましたが、致命傷はないようですよ。しかし、いったいどうして我々は生きているのでしょうな?」

 

 「父さん、苦しい。どうなったの?」

 

 私の言葉通り、私の後ろについて身を小さくしてたようだな。

 しかしまさか無傷ですむとは。この男も相当に運が強い。

 

 「バカな……いかに強化装備であろうと、フルオートを至近で掃射されて無事なはずがない! いったいどうなっている? それにその青い発光は何だ?」

 

 「フフフ……【サイコフレーム】。その名だけ教えよう」

 

 

 カズサからもらったサイコフレームを組み込んだのは、じつは機体のF-15改ではない。

 この衛士強化装備の方だったのだ。

 それによってサイコフィールドを発生させ、銃弾をすべてはじき返した。

 

 この世界の人型二足歩行機技術は、宇宙世紀時代のモノよりはるかに遅れている。もっとも地球産素材だけでここまで発展させたというのは、ある意味すごいのだが。

 

 だが、この時代の技術でも注目すべき発想というものはある。その最大がこの【衛士強化装備】というパイロットスーツだ。

 

 パイロットスーツに機体の機能の一部を備えさせ、搭乗者の意識や性格や身体機能を機体に反映させアップデートしていく。

 

 こんな発想は宇宙世紀にはなかった。

 私ですらこの発想には思い至らなかったが、作ってみると、かなり利便性の高いものだった。

 

 とくに、もたらされたサイコフレームをこれに組み込めたことは大きい。どのような機体であろうと、脳波コントロール装置さえ積めば、簡易サイコミュ搭載機体にすることが出来るのだから。

 

 「先ほどはファルコンの36㎜銃弾すらもはじき返した。その程度のライフルでは問題にならんな」

 

 もっとも理論上耐えることは可能とはいえ、セーフティネットもなしに、いきなりそこまで高レベルな耐久性能試験などはしたくなかったがな。

 

 「Z技術か! 装甲はおそるべきだが、関節はどうかな?」

 

 蛇の捕食のようにすばやく彼の腕が私の首に伸びる。

 されど先ほど同様、青いサイコフィールドにはばまれ、指は私の首をつかむことが出来ない。

 

 「ぐくっ……この青い発光体はなにかのフィールドか?」

 

 「関節もダメだな。君の戦闘技術は物理的な装甲ならねじり上げることも可能のようだが、残念だったな」

 

 「くっ! おのれ、ならば!」

 

 サンダークは標的を後ろの鎧衣親子へと変えた。彼らに飛び掛からんと私をすり抜け走る。

 人質にでもするつもりか?

 手段を選ばぬ所といい、人を殺す技術に長けている所といい、この男の過去は処刑専門の特殊部隊あたりだろうか。しかしその行動は悪手。

 

 パーン パーン パーン パーン

 

 その背中をP88拳銃で撃ち抜いた。

 サンダークは雷にうたれたように止まり「ドゥッ」と倒れる。

 

 「背中を見せねば、君にこうも容易く当てることは出来なかった。『主敵から目を逸らすな』ではなかったかね? セオリーは知っていても急場で実践は難しいということかな」

 

 「クソッ……お……おのれ……」

 

 サンダークはうつ伏せに倒れながら、悔しそうに殺気めいた目で私を睨む。

 

 「その獣のような目。嫌いではないが生かしておけない……おっと、これも君のセリフだったな」

 

 彼を見下ろし、あらためて頭へと銃口を向ける。

 

 「ソビエト軍士官の……私を……殺す気か。ソビエト軍そのものが……貴様たちを…狙う…ぞ」

 

 「キリスト教恭順派の憐れな犠牲者となりたまえ。……これもさっき君が言ったな」

 

 こうも要所要所のセリフがカブるとは。

 案外、私とこのサンダークという男は似た者同士なのかもしれない。

 

 「私を殺せば……このテロを終息させることは不可能になる。テロを鎮圧できる特殊部隊を……動かせるのは……私だけだ」

 

 まだ足掻くか。しかし先ほども思ったが、この男の危険すぎる剣呑さは嫌いではない。

 少しだけつき合ってやるか。

 

 「ほほう、君にそのような権限があるのか。たしかにこのテロは終息させねばならんな」

 

 「そうだろう……我が国では…このような非常時のため……対テロ鎮圧用の特殊部隊を…基地に常駐させている。それを動かしたくば……」

 

 「だが、その特殊部隊に最初に命じるのはテロ勢力の排除ではない。我々の処刑だ。『この部屋を見られたからには生かしておけない』 君はそう言って問答無用で我々を殺そうとしたではないか」

 

 「クッ!」

 

 「ゆえに我々があの部屋を見たからには、君は生かしておけない。私はともかく、友人の鎧衣親子を守るため、あえて苦渋の手段をこうじよう。墓守の番人よ」

 

 この機会を利用して鎧衣くんの好感度をアップだ。

 しばらくは日本帝国情報部の彼の伝手を頼りにせねばならんし、ジャミトフには効果的だった追従でも言ってやろう。

 

 「嘘を……ついているな。貴様の目は……墓泥棒そのものだ。おおかた、ここへ来た目的も……」

 

 パーン パーン

 

 サンダークの頭を撃ち抜き完全に絶命させる。

 さすがにこれ以上は危険だし、余計なこともしゃべろうとした。

 

 「ああ、鎧衣君。君にコレを返すのを忘れていたね。全弾打ち尽くしたが返そう」

 

 拳銃を鎧衣君に渡すも鎧衣君は微妙な顔。

 

 「はぁ。ですがこれでソ連軍士官を殺しましたね? もし線条痕とか調べられたら、私が殺したことになってしまうのですが」

 

 「おっと、気がつかなくてすまない。では、こうしよう」

 

 ガガガガガガガガガガガガ……

 

 ライフルのフルオートでサンダークの遺体をメチャクチャに破壊する。

 キリスト教恭順派の憐れな犠牲者だ。

 サンダークがやろうとしていた工作を、犠牲者役をサンダークに変えてそのまま実行だ。

 

 「こんなものでいいだろう。『勇敢なるソビエト軍士官サンダーク中尉は、ただ一人にて多数のテロリスト相手に奮闘。数多(あまた)の敵を倒したが多勢に無勢。ついには敵の銃弾にとらえられ、あえなく最期をとげた』 そのように演出してみた」

 

 「あまり娘に見せたくないものですな。行為もホトケさんの惨状も」

 

 「ボ、ボクは平気だよ。シロッコさんはボクと父さんのためにやってくれた事だし」

 

 「まぁ、たしかにこうしなければ済まない状況でしたな。我々は始末されていたでしょうし。と、そう言えば、ここへ来た目的の【ニュータイプ】とやらは見せていただけそうですか?」

 

 「それは、この隠し部屋の中に居そうだ。さて、墓守が無差別殺戮をしてまで隠したがったものを拝見しようではないか。墓泥棒のようにな」

 

 壁の一部が開いた隠し部屋の入口。

 

 中に入ると、そこにはいくつかの培養層と貴重そうな研究資料。寝台には女性の遺体。

 

 サンダークは我々を殺そうとフルオート乱射していた時でさえ、意識はこの部屋に向いていた。

 

 はたして彼がそこまでして守ろうとしたものは何なのか。

 

 国家への忠誠? いや、個人的な愛情のようなものを感じた。

 

 それが向けられているのは、おそらくこの研究棟に踏み入れた時に精神感応で私に呼びかけた存在。

 

 「……君、か。私を呼んだのは」

 

 私は大きな培養層のひとつの前で立ち止まった。

 

 

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