ゼータと上総   作:空也真朋

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104話 天才と鎧衣親子の冒険 その5

鎧衣左近side 

 

「シロッコ氏はどうしてしまったのだ? あの培養層の前で固まってしまったが」

 

 幾つかある培養層の中で、とくに大きくて大掛かりな機器が接続されている培養層の前でシロッコ氏は固まってしまった。

 中には年若い女性が裸で水の中に居る。まるで人間の検体だ。

 

 「会話をしているんだと思うよ。中の人と」

 

 「美琴? バカな、あの中にいる人間は、どう見ても意識があるようには見えんぞ。それどころか生きているのかさえ疑問だ」

 

 「ううん、たしかに生きているよ。あんな状態だけどシロッコさんと意識だけで会話している。内容までは分からないけど」

 

 たしか人間の死体の保存にしては装置が大がかりすぎている。

 美琴の言う通り生きてはいるのだろう。ただし、何らかの検体として。

 彼女の正体のヒントとなるであろう寝台の方へ視線を向ける。

 

 「ふぅむ。寝台の遺体とあちらの培養層の中の彼女は紅の姉妹(スカーレット・ツイン)だな。なるほど、これがソ連の誇る最強衛士の秘密というわけか」

 

 サンダーク中尉があれほどまでにこの部屋を隠そうとした執念めいた行動。

 姉妹二人がここで処置を受けているような様子。

 

 この部屋最大の培養層の中の彼女が、どことなく二人に似ていること。

 これらを考えれば、おのずと答えは導かれる。

 

 紅の姉妹(スカーレット・ツイン)とは、あの培養層の彼女を基に作り出されたクローン。

 そして培養層の彼女は、オルタネイティヴ第三計画で生み出された超能力者である可能性が高い。

 

 「いや待て。『意識だけで会話』だと? たしかに彼女が第三計画のそれなら、意識を送ることも可能だが……」

 

 第三計画の目的は、BETAにこちらの意思を送る能力【プロジェクション】に長けた能力者を生み出すこと。

 だが会話となると、シロッコ氏自身も能力者でなければ成立しない。

 なるほど。ニュータイプとは、第三計画の完成……いや、それの超越と見るべきか。

 

 しかし、ソ連の機密研究をも超えた存在のシロッコ氏。

 いったい彼はどのようにして生み出されたのだろう?

 

 「父さん、どうしたの? 第三計画とかのことを考えているの?」

 

 ――――!!!

 

 「……口に出していたか? 他に何を私はしゃべっていた?」

 

 「え? それ以外は特に何も言ってないけど}

 

 「そ、そうか。それはぜったい誰にも漏らしてはいかんぞ」

 

 ともかく、はからずもソビエトの機密がそこらに転がっている場所に来てしまった。

 シロッコ氏やニュータイプのことは置いといて、やるべき事をやるとしよう。

 

 「美琴、父さんは父さんの仕事をしなければならない。お前は見張りに立っていてくれ。実験室に近づく者がいたら知らせるんだ」

 

 「うん、わかったよ。警戒任務だね」

 

 美琴が見張りに出ていったあとにざっとその場の機器を見渡す。

 

 「さぁて。ここの機密全部は、私の携帯データの容量ではとても足りませんな。重要そうなものから抜いていきますか」

 

 ともかく私でも扱えそうなPCを起動し、暗号解読ツールでパスワード解錠をこころみる。

 意外と難度は低い。やはり秘密部屋なだけに、ここまでこられる事は想定してなかったのだろう。

 そんなこんなで、ソ連研究の機密を漁ってしばらくたった頃。

 

 ――「ふむ、こうか」

 

 ふいにシロッコ氏のつぶやきと共に「ガシャン」という音が聞こえた。

 見ると、彼が見ていた最大の培養層は解放され、中の液体が流れていく。

 あれでは、中の彼女は死んでしまう!

 

 「シロッコさん!? 何をしているんです!」

 

 「彼女自身の頼みだ。『この状態で生かされ続けるのは苦しい。ハッチの開け方を教えるから解放して欲しい』だそうだ」

 

 まさか……本当に彼女と会話していたというのか?

 

 「彼女はサンダーク中尉の妹だそうだ。彼は彼女を生かし続けるために実験を続けて、ソビエトから資金と施設を提供させていたようだがな。皮肉だな。彼女の思いとは真逆のことをしていたわけだ」

 

 「それを思念での会話で彼女から聞いたと? となると、あなたも一種の超能力者ということになりますが。いえ、あなたの言葉では『ニュータイプ』と呼ぶのでしたな」

 

 「フッ、だが私の素の能力(ちから)だけでは彼女にここまで近づくことはできなかった。これもサイコフレームの力か。これはこれまでのサイコミュとは一線を画すシロモノだな」

 

 サイコフレーム? 何なのだ、それは。

 シロッコ氏の言葉から、Z技術の中でもそうとうレベルの高いシロモノではあるようだが。

 これの情報を得ることは今後の課題だな。

 

 「こんなものをもたらす山城上総とは何者なのだろうな。ますます彼女が欲しくなったよ」

 

 なにっ!? それは山城上総がもたらしたモノだと?

 彼女のことはさんざん調べたが、幼少期から現在までZ技術に関わるような話はまったくなかった。

 いったい彼女はどこからZガンダムはじめそのようなものを手に入れているのだ?

 

 バン バン バン

 シロッコ氏は、露わになった彼女の体をライフルで撃ち抜いてコナゴナにした。

 

 「すまんな、こんな弔いで。だがこれで君は無価値な存在になった。もう誰にも利用されることはない」

 

 そうだな。彼女の映像をおさめて資料のひとつにでもしようと思っていたが、私もそれは出来なくなった。

 

 「さてと。もうここに私は用はないが、君の方はどうだね。ソ連の機密研究を調べることはできたかね」

 

 「ええまぁ、そこそこですな。ともかく世話になった方々にお土産を送るくらいはできそうです。しかし、あなたの方はそれで良いのですか? 危険に見合わず成果は薄いように思えますが」

 

 「なに、本当にただ見てみたかっただけさ。ニュータイプの鼻先にまで届いたソ連の研究をな。それに醜悪な人体実験に使われていた彼女を解放してやった。サイコフレームにも新たな側面が見えたし、成果は上々さ」

 

 「そうですか。では、ここらで本来の目的に戻るとしましょうか」

 

 「そうだ、行くとしよう。当初の予定通り戦術機を奪い、山城上総とその他を助ける」

 

 私たちは踵を返し培養層室を出ようとすると、途中寝台の遺体と培養層の中の彼女が目に入った。

 

 「紅の姉妹(スカーレット・ツイン)か。彼女らもこの研究で生まれ実験体として生きてきたのだな。哀れな存在だ。培養層内の片方は生きているようだが、番人も研究者どもも亡くなっては、長くはあるまい」

 

 「哀れではありますが、さすがに彼女を助ける余裕はありません。急ぎませんと」

 

 「わかっている。ではな。勝負で私に土をつけた事は忘れない……うっ!?」

 

 いきなりシロッコ氏は何かに引っ張られるように止まった。

 そして強化装備の何らかの機能が勝手に可動し、青い光がシロッコ氏をつつむ。

 

 「どうしました、シロッコさん!?」

 

 「クッ、お前は? ……なっ! 紅の姉妹(スカーレット・ツイン)の片割れだと!?」

 

 青い光の中で彼は誰かと会話している? 

 

 「……そうか、これもサイコフレームの力か。なんということだ。自身の念だけでなく死人の念までも受け入れ力にしてしまうとは」

 

 やがて青い光は薄まっていき、そして消えた。

 シロッコ氏も落ち着いたようだ。

 

 「シロッコさん、大丈夫ですか?」

 

 「ああ。だが厄介な頼み事を引き受けてしまった。彼女を思う念の強さから、蔑ろにしてはどうなるか分からん。しかたない」

 

 シロッコ氏はふたたびコンソールの前に立ち操作をする。

 すると今度は紅の姉妹(スカーレット・ツイン)の片割れの入った培養層が開き、先ほどと同じように中の液体が流れる。中の液体が流れて無くなったあとは、幼い彼女の体が倒れ伏して残った。

 そんな彼女の前にシロッコ氏は立つ。

 

 「紅の姉妹(スカーレット・ツイン)の片割れ……名はイーニァというのか。受け取れ、君を思う姉の思いだ」

 

 シロッコ氏は彼女に手をかざすと青い光がふたたび彼の強化装備から生まれ彼女をつつむ。

 それはっ正に幻想的な光景に見える。

 

 「シロッコさん、何が起こっているのか私にはさっぱり分からないのですが。いったいサイコフレームとは何なのです?」

 

 「人の思念を力に変えるマイクロチップを埋め込まれた鋼材だ。だがそれは自分の思念だけでなく死人の思念をも拾ってしまうらしい。おかげでこの仕事だ」

 

 バカな。ではこの寝台に眠る彼女から頼まれたというのか?

 そんなオカルトめいたことはとても信じられない……

 

 

 ――「クリスカ……?」

 

 培養層で眠っていた彼女は青い光に導かれるように目をさました。

 さて、この魔法のようなシロモノ。どのように評価すべきか。




 ものすごい難産でした。
 なんだかこの先を書くのが難しくなったので、しばらくお休みします。
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