ゼータと上総   作:空也真朋

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 お久しぶりです。96話と99話の続きです。
 二つの話はけっこう時間が違いますが、いっしょにしてしまいました。


105話 逆襲に転ズ

 壁を突き破り突入してきたウェイブライダーの下には無数のキリスト恭順派の骸。結果的に見れば、奴らのテロをくじく大勝利。それでも――

 

 「ポロリ」と涙が頬をつたった。

 

 ひどく心が寒い。瓦礫に埋まるあの子たちの肉片と血に怖気を感じる。

 

 ああ、心が戦闘モードから離れて感情が戻ってきたんだ。

 

 「中尉、大丈夫ですか。お加減がだいぶ悪いようですが」

 

 まりもちゃんが心配そうにオレを見ている。ああダメだ、弱いところは見せられない。

 自分のやった事にめまいを覚えても、オレはこの小隊の隊長。やせ我慢であろうと、しっかりしなきゃな。

 

 「大丈夫です。ともかくこれで障害の排除と逃走のための足を確保できました。これからゼータで諸君らを安全圏まで運びます」

 

 「…………それにしても、これはいったい? これは『予定通り』なのですか? これが中尉の策だったのですか?」

 

 飛びこんだウェイブライダーとオレを交互に見ながらまりもちゃんは聞いてくるが、答えようがないんだよね。

 

 「この件についての質問は、Z技術関連の機密事項にふれるため答えられません。そして命令として、ただちにこの場を離れ二〇七訓練小隊の安全をはかることを命じます。この部隊員の身柄は帝国の進退に関わる者も多いでしょう?」

 

 「了解いたしました。では、ただちに……」

 

 

 キュピーーン

 

 一瞬、背中に走った怖気にその場を跳んで離れた。

 

 ガーーンッ

 

 オレの離れたそこに一発の銃弾がかすめた。

 

 「中尉、ご無事ですか!?」

 

 「ええ、当たっていません。それにしても、あなたはよく生きていられましたね。たしか代表の『ヴァレンタイン』でしたか」

 

 瓦礫の中で、フラフラになりながらも五体満足に立つ彼女ヴァレンタイン。

 どうやら偶然にもウェイブライダーの直撃は避け、吹き飛ばされただけですんだようだ。

 

 「クッ、よくも……貴様はかつて冷酷にこの子らを見捨て、障害になったら切り捨てるのみか。貴様などを同志にと考えた私が愚かだった」

 

 彼女の怒りの瞳をあえて真っすぐに受け止め見つめる。

 

 「たしかに、この子たちを見捨てて日本に戻ったことは事実。あの時は、エゥーゴがそこまでひどい状態になると思い至らなかったとはいえ、なじられても仕方がありません。ですがこんな何人もの人間を殺す悪辣なテロ行為に加担などできるはずがないでしょう」

 

 「黙れ! ここに居るいわゆる『上の人間』はわれらの同志を何百何千と見捨てて殺してきた! 搾取にあえぐわれらの怒りは束ねられ剣と化して肥え太る者達を裁く。指導者(マスター)によって!」

 

 違う。そんなのは難民救済じゃない!

 その指導者(マスター)という奴のやっている事はおかしいよ!!

 

 「あなた達の崇める指導者(マスター)。そいつの事をおかしいと思いませんの? わたくしもブレックスの難民救済活動を見てきたので言いますが、基地の制圧は難民の救済とは何の関係もありません」

 

 「なにを……」

 

 「ブレックスは政府や国連の高官に働きかけ、難民保護の法案を通そうと尽力してきました。また難民の方々には様々なボランティア活動をさせ、上の方々の心象を良くするよう指導していました。本気で難民のことを考えるのなら憎しみを助長させるより、ブレックスのように救済の意思を広めるべきとは思いませんの?」

 

 「…………」

 

 フラッとバレンタインはオレたちに背を向けた。

 そしてよろめきながらもたしかな意思で歩んでいく。

 

 「ヴァレンタイン……」

 

 「指導者(マスター)の元へ行く。邪魔するなよ、ヤマシロ」

 

 いまだ銃を構えて狙う訓練分隊のみんなに、彼女を行かせるよう告げる。

 ここに果てた者たちの思いを背負って、指導者(マスター)に問いただしてこい。ヴァレンタイン。

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 篁唯衣side

 

 せまり来る四機のF-16C。私の武御雷は長刀ただ一振りで銃器もなし。

 

 「『チェストォォ』と長刀一閃、なで切りを願いたいが―――」

 

 奸賊四機のサブマシンガンはこちらにピタリ銃口を向けている。

 

 「さしもの篁示現流も、距離の暴力にはかなうはずもなしだ。ならば――」

 

 跳躍ユニットのエンジンカット。

 とたん自由落下で墜落をはじめる武御雷の上を、サブマシンガンの掃射音が鳴り響く。

 

 「――遅いな。この賊ども、さほどの腕はないと見た」

 

 サブマシンガンのタイミングが想定よりワンテンポ遅れていた。

 衛士くずれではなく、一般人が即席で戦術機訓練を受けただけの相手かもしれない。

 それでも剣対銃のハンデ戦。ゆえに、このような小細工もいた仕方なしだが。

 

 「ほうら、釣れた。明らかに当たってないというのに、未熟者が撃墜気どりか」

 

 こちらを仕留めたと、四機のF-16Cは背中を向けふたたびユウヤ達を追わんとする。

 

 「ならばその隙、私が喰ってやろう!」

 

 跳躍ユニットを再びふかし、手足の動きで姿勢制御を一瞬で整える。

 そして致命的にさらした賊どもの背中へ向け全力噴射。

 

 「これぞ篁示現流【もがり野伏(のぶせ)】! 示現流の真骨頂はただの突撃にあらず。突撃前の崩しより示現流は始まっているのだ!」

 

 

 賊の背後につけた武御雷は、血を嗅ぎつけた肉食獣がごとく長刀を叩きつける。

 

 ザシュッ バシュッ ドシュッ ザンッ

 

 落下する四機のF-16C。背中から跳躍ユニットを破壊したので墜落になすすべ無し。

 

 地面に叩きつけられる無残な音を聞き、私もそこへ降り立つ。急いでアルゴスの皆を追いたいところだが、まずは銃器を拾わねば戦力にはなれないだろう。

 幸い無事なサブマシンガンが2丁。これ以上は持っていけないので丁度いい。

 

 と、撃墜した敵機のひとつから通信が送られてきた。つき合う義理もないが、何とはなしに開いてみた。

 

 『やって……くれたな、体制の……犬め』

 

 それは意外に年若く少女の声であった。やはり一般人か。

 

 「あの高度から落下して無事だったのか。だが加減はよろしくなさそうだな。救助が来るまでおとなしくしてろ」

 

 『フン……どうせ私は……ここで死ぬ。でも、お前の仲間を……フェアバンクス方面に追い込むことだけは……成功した』

 

 「――なんだと? フェアバンクス基地の方角がどうしたというのだ!」

 

 『あそこには……網が張ってあるんだ……逃れた戦術機を……漏らさないために』

 

 「クッ、やってくれたな!」

 

 これが私をその網に誘導する罠だという事はわかっている。

 だが、それでもユウヤらアルゴスを助けに行かねばならない!

 機体をフェアバンクス方面に向け、フルブーストをかけた。

 彼女の最期の言葉が音声記録に残っていたが、それに感傷する暇はなかった。

 

 ――『マスター、少佐……姉さん。ジゼルは……帰れません』

 

 

 

 

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