アメリカ航空爆撃機編隊Side
カナダ ノースウェスト準州上空
フェアバンクス基地にもたらされたテロリストによるユーコン基地征圧。その報を受けた途端、すぐさま1B編隊による航空爆撃機部隊は発進した。まるで予定でもしてあったかのように。
「GFー07より全1B。作戦通りわれわれはユーコン陸軍基地に向け低空飛行を試みる。ルートはBETA研究所より発生したBETA群を大きく迂回。光線級の射程範囲を避け南南東より侵入せよ」
「目的地まで距離20万。高度下げ。地形哨戒レーダー使用開始」
「……700。予定高度へ到達。現在の時速800キロ。これより操縦を自立制御モードに切り替えます。自立操縦モードへの移行を確認」
「戦闘システム操作員は爆撃準備。防御システム操作員は警戒態勢を維持。油断するな」
1B爆撃機編隊の指揮をとるのは中央作戦本部のジャマイカン・ダニンガン中佐。
元はジャミトフ中将の腹心であったが、ジャミトフの死亡、第5計画のとん挫などで現在は宙に浮いた状態。
恭順派のユーコン基地テロ計画も知っていていたが、まさかBETA研究所の所在を知られて全BETAの解放などされるのは完全な予想外であった。
(その行為がどんな破滅的な結果をもたらすかを知らぬ愚か者め。おかげでわがアメリカは広大なアラスカという土地を失うハメになった)
「今ならベルリンへ原爆を落とした連中の気持ちがわかりますよダニンガン中佐。最強の爆撃機部隊のわれわれが、その力を人間に、それもわが国の基地に向けなければならないなんて」
この爆撃編隊の作戦目的はユーコン基地への中性子爆弾投下。
一発でBETAもキリスト恭順派もレッドシフトの発動も機密も吹き飛ばす作戦である。
無論、核の持ち込みと使用責任は恭順派になすりつける算段だ。
「”国家の忠節試される時来たれり”だ。基地と資源は失われても土地は残る。レッドシフト発動はなんとしても阻止せねばならんのだ」
(恭順派に潜入させたヤザンも無駄になったか。恭順派とプロミネンス派を消しても第4には手が出せん。第5復活の目はいまだ遠いか。せめてZだけは回収できれば良いが……)
航空爆撃編隊は、やがてユーコン基地をのぞむ位置にまで到達した。作戦目標地点だ。
「ユーコン陸軍基地圏到達。BETA群も三十先に確認。あと少しで照射範囲です」
「よし、全機退避機動準備。投下後に離脱開始。……3、2、1、リトルブラザー投下! テロリストとBETAを焼き尽くせ!!」
「リトルブラザー投下!」
ジャマイカン中佐の命令とともに落とされる中性子爆弾。それは豊かな自然と栄えた街のここユーコン一帯を死の荒野へと変える悪魔の爆弾であった。
ヒュォォォォ……カァッ
「なにッ!?」
ジャマイカン・ダニンンガン中佐はじめ爆撃機部隊員の全員は驚愕した。
中性子爆弾は投下した瞬間、一筋の光条によって消滅したのだ。
「リ、リトルブラザー消滅! 投下した瞬間、地上からの光状の熱線によって蒸発したと思われます!」
「なっ!? レーザー属種か? だがまだ照射範囲には余裕があるはず……」
(それにBETAが投下された爆弾のみを精密射撃などするわけがない。これは……まさか噂の?)
その予感を示すかのように響く外部からの通信音声。
そして当機体真下に一機の戦術機を確認。航空機に並走できるほどのスピードと高度をとれる信じられない性能だ。
――『まったく。過去のトラウマで、米軍航空機が来たら警戒モードと設定してました。役に立ってしまうなんて悲しいです。友軍殺しをためらわない性質は相変わらずですね、米軍さん』
資料写真で見た青と白と赤のカラーリングの機体。それこそまさにZガンダム!
「き、きさまはZ!? 今のレーザー攻撃は貴様か? なぜ我々の作戦を邪魔する。これは米軍への重大な敵対行為だぞ!」
『その作戦というのは、わたくし達諸外国の軍部隊も
「ちっ、中性子爆弾などではない! あれは威嚇用の炸裂弾だ。いいか、これ以上当編隊の作戦行動を邪魔するようなら、貴官を軍事裁判にかけ……」
すると、とある映像写真が送られてきた。
『先ほどの投下された瞬間の映像写真です。これは公開されている中性子爆弾のモデルに酷似してますねぇ。それに爆弾の中央にはプルトニウムを示すニュークリアマークが。これをその軍事裁判にでも提出いたしますか』
「ぐっ……ぐぐっ!」
追い詰められるジャマイカン。されど別方面からも追い詰められていた。
「ダニンガン中佐、BETAがユーコン基地に迫りつつあります。このままでは約一時間ほどでレッドシフトは発動してしまいます!」
「くうっ、もはや小娘と議論してる場合ではない! 戦闘操作員、全機全弾爆撃を開始! 防御操作員もかく乱の射撃を開始しろ! 予備の本命ブレイレイザーは必ず成功させるのだ!」
一発の中性子爆弾では予定の効果に及ばなかった場合に備え、1B編隊はもう一発を予備搭載していた。
(もはやこれに賭けるしかない。戦術機ただ一機に、それも大局を知らぬ小娘などに、崇高なる国家の使命を邪魔されてなるものか!)
1B編隊は搭載されているあらゆる爆弾弾薬をゼータに向け放った。
されどゼータは巡行形態ウェイブライダーに変形。
ヒュオォォォォォ……ピシュンッピシュンッピシュンッ
銃弾爆弾の雨を掻い潜り、すべての爆弾をビームガンで撃ち落す。
地上には一発の爆弾も落ちることはなかった。
「す、すべての投下爆弾を撃ち落としただと……? バケモノかぁ!」
そして戦闘には参加せず奥に守られているような位置の、とある一機の爆撃機の投下口。
そこにもビームガンを一発。
それはジャマイカン最後の希望を撃ち抜く一発であった。
「ああっ! 発射口の予備弾ブレイレイザーも……潰されました。もはや作戦継続は不可能です。レッドシフトは……止められません」
「うっ……うおおおあああああっ!!!!!」
『オーホッホッホ! ブザマな悪あがきとは小悪党らしいですこと。思わず悪役令嬢になってしまいましたわ。さっさとお帰りなさい。わたくしはこれから、BETAから基地と
いや、まだ希望はある! ヤツのこの性能なら、あるいは……
「ま、待て!
『
「それではイカン! 誰も助からない! もしBETAがユーコン基地を通過したなら、アラスカは破滅なのだ!」
『……なにを言ってるんです。”アラスカが破滅”とは、どういう事です?』
「私は米軍作戦参謀本部のジャマイカン・ダニンガン中佐だ。これから貴官に重大な機密を明かす。このことを踏まえ、このアラスカを救ってほしい」
『ジャマイカン……ダニンガン? まさかこの人の同名まで。あまり嬉しくはないですね』
ジャマイカンは【レッドシフト】という緊急非常システムを説明する。
それはBETAがユーコン基地を通過した場合、地下にある数千の水爆が一斉に起動するという恐るべきものだった。
『ユーコン基地の地下には数千発の水爆!? なにを考えていますのアメリカは! しかもその近辺に大量のBETAを飼っている研究所を作るなんて! 石油精製工場に一万トンのダイナマイトと火炎放射器を一緒に保管するくらいの愚かさです! くっ、こんな上手いことを言ってる間も惜しいですわ!』
ウェイブライダーは方向転換し高速でユーコン基地に向け離脱していった。
だが、ジャマイカンと航空編隊には無念に歯噛みする間さえ残されていなかった。
ドカンッ
近くで激しい爆散が起こった。そして一機の僚機が炎をあげ墜落してゆく。
「三番機撃墜! レ、
「全機急速反転! 方向は正面以外のどこでもいい。当空域より急いで離脱せよ!」
ドッカン ドッカン ドッカン
されど方向転換をする間に次々と僚機は落とされてゆく。完全に逃げるタイミングを失った。
ドガンッ
「くあああっ!」
そして死の光はついにジャマイカンの指揮官機をもとらえた。
機体は炎に包まれ減速すら出来ずに墜落してゆく。
「頼んだぞZ……われわれにも手にあまるその力、見せてみろ!」
もはやまぬがれぬ死を悟ったジャマイカンは、コクピットより飛び降りた。
54話でちょろっと出た中性子爆弾の伏線も回収。あの時はするつもりもなかったけど、レッドシフト情報を知るのにちょうどいいので。