ゼータと上総   作:空也真朋

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109話 せまるレッドシフト

 『――以上が、自らの保身のために行ったことの結果です。彼らはこれこそが政治と言うが、それは本当に正しいのか? 私にはそうは思えない』

 

 司令ビルを占拠したテロリストは全世界に向け声明を発表。その首謀者として声明を読み上げているのは、あのヴァレンタインだ。

 そうか、それが君の選択かヴァレンタイン。

 

 君がテロの首謀者としての道を歩もうとも、もうオレとは敵としてすら交わることはない。

 やがて米ソどちらかの特殊部隊が終わらせるだけだ。

 そしてオレにはやるべき事が出来た。

 

 『ユーコン基地の地下に……数千発の水爆!? BETAが基地を通過すれば、それが一斉に起動だと!?』

 

 反攻作戦の初手として征圧した第11警備部隊ハンガー周辺。

 そこに集うは、篁さんの武御雷。ユウヤの不知火・弐型。タリサのACTイーグル。神宮寺軍曹と訓練小隊のみんな。それになぜかチェルミナートルに乗っているシロッコさんだ。 

 

 「ええ。残念ながら、BETA防衛とともに行う恭順派への反抗作戦は中止です。もはやヤツラを追う時間などありません。私たちは全力でBETAを迎え撃たなければなりません」

 

 『歓楽街(リルフォート)の民間人を第一に守るという戦略をとるわけにもいかなくなったな。……くっ!』

 

 これに応えたのはシロッコさん。

 

 『たしかに、もはや歓楽街(リルフォート)を防衛する戦力をさく事は出来なくなった。では、せめて避難誘導を行おう。私と訓練小隊の彼女らで出来るかぎりのことはする』

 

 「お願いしますシロッコさん。それに神宮寺軍曹も。わたくしはすぐに圧力のもっとも強い地点に向かって、極力BETAの数を減らします」

 

 『ご武運を、山城中尉』

 

 「ありがとう神宮寺軍曹。では篁中尉、漏れたBETAを水際で食い止めてください。BETAの帯は百キロ近くにもおよんでいます。どうしても水漏れは出てしまいます」

 

 「こちらはおまかせください。山城中尉、私からもご武運を祈らせていただきます」

 

 衛士としての会話なので篁さんとも堅い形式の会話。でも最後の敬礼し合う間のほほ笑み。

 それだけで彼女の感情のすべては伝わった。

 ともかくもユーコン基地を飛び立ち、BETA殲滅に向かった。

 

 

 

 

 最前線の現場に来てみると、すでに視界一面のBETA大行進。

 あわててそいつらの殲滅に動かないのは熟練の知恵。

 まずは光線級吶喊(レーザーヤークト)で光線級の排除。そうすればフェアバンクス基地から爆撃機が飛び立てるし、上空からの絨毯爆撃で……

 

 あ。さっき爆撃機編隊が光線級の照射で全滅してたような?

 ってことは、フェアバンクス基地からの爆撃機支援はナシ?

 あの立派な航空爆撃機の一群は、いらんことをしただけでオシマイ?

 

 どこまでも無能な米軍め!

 ガトーさん、あの腐敗した覇権国家にアトミックバズーカお願いします!

 

 怒りをビームライフルに変え、光線級吶喊で光線級群を秒で殲滅。あとはひたすらBETAをツブしてゆく長い長いお仕事。

 しかし見るからに一面BETAの群れ。その研究所、どうやってこれだけの量のBETAを眠らせていたんだ。

 おまけにここは平地でBETAはどこまでも散開してゆくので、うち漏らしが多くなって困る。

 誰か手伝ってもらえないかなどとあり得ない願望を抱いていると、どこからか近接通信がきた。

 

 『よォ、あんた噂のゼータだろう。助かった。光線級吶喊(レーザーヤクト)を命じられていたんだが、遮蔽物のない場所でどうにもならない所だった。礼を言わせてくれ』

 

 やった! 思わぬ所に手伝いがいたよ。

 

 「無茶な命令にも果敢に出撃し任務を全うする貴官に敬意を表します。それでアナタは? 所属はどこなのです?」

 

 『おおっと、名乗るのが遅れたな。こちら米軍特殊作戦任務中のヤザン・ゲーブル中尉および部下の特務中隊だ。秘匿作戦の最中なんで部隊には所属していない」

 

 ヤザン……ゲーブル? こんな所であの有名人の同名を聞くとは。

 その中隊をモニターで確認すると「あれ?」と思った。

 

 その中隊の機体は米軍のストライクやラプターではなく、東欧連合のファルクラムだったのだ。米軍所属の戦術機部隊が米軍機以外を使うなんて、めずらしい事もあったもんだ……

 

 ――ハッ! 

 ユウヤとタリサの話を思い出した。フェアバンクス基地へと向かう道中を阻んだスゴ腕戦術機部隊の話を。その使用された機体は……

 

 「ああっ! なにが米軍ですか。ステラさんとVGさんを撃墜したキリスト恭順派のスゴ腕衛士って、あなたでしょう!」

 

 『ち、ちがうんだ! あれは世界最悪のテロ組織の首領をつかまえるための潜入工作だったんだ! 下手に手加減して疑われるわけにはいかず、ああした事もしなければならなかったんだ!』

 

 くうっ。それが嘘であろうとも、こんな状況で友軍を潰すわけにもいかない。

 それでもその話が本当かは見極めないと。

 

 「……それで? 恭順派の首領はとらえる事には成功したのですか? こうやってBETA退治をしてるってことは」

 

 『ぐっ……ぐぐぐぅ……うおおおおおっ!!』

 

 「ヤザンさん?」

 

 なんだ、いきなり慟哭したぞ。

 部隊の攻撃がやけに激しく雑になっている。

 

 『あンの野郎、脱出予定地点にあらわれやがらねぇ! 組織連絡もつながらなくなっちまった! 完全に出し抜かれたんだよォォ! しかも作戦責任者がさっきおッ()んだんだと! おかげで俺らは生還不可能な光線級吶喊命(レーザーヤークト)を命じられたんだ! 要は死んでこいとよ!』

 

 「それは……ご愁傷様です」

 

 なんだか疑う気持ちがどこかへ行っちゃったなぁ。この人たち、この先は生きていられるのか。

 

 「ともかく、この場はまかせます。それと、あまり雑な戦い方をしては早死にしますよ」

 

 でも、どうにか生き残りそうな気もするな。敵味方問わずメインキャラサブキャラがバタバタ死んでいったZガンダムで、敵キャラでありながら最後まで生き残った彼の名を持つ人だもんね。

 オレは別方面のBETAを迎え撃つべく、その場を離れるのであった。

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 ヴァレンタインSide

 

 司令部ビル地下五階中央指令室

 

 「我々は最後のひとりが討ち滅ぼされるまで戦い続ける。心ある方は我々とともに戦ってほしい。それが我々の願いです」

 

 私はそう締めくくり、全世界へ流した放送の接続を閉じた。 

 

 「……ふう。これで言いたい事はみんな言った。あとは……」

 

 ――「満足か? 難民の代弁者」

 

 この指令室のすみに縛っている男が声をかけてきた。

 簡素なベッドを作って寝かせているが、この重傷で意識をさますとは大したものだ。

 

 「あら、起きていたの。あなたこそ気分はどう? かつての英雄イヴラヒム・ドーゥル大尉」

 

 「私は中尉だよ。どうして私は生きている?」

 

 浅黒い肌の屈強な中東系の士官イヴラヒム・ドーゥル大尉。いや、難民を助け部隊に損害を与えた行動によって降格された中尉だ。

 

 「トドメを刺す寸前、人質にすることを提案したわ。ま、そこから少しモメたけど、どうにか皆を納得させたわ」

 

 「フッ、私に人質としての価値などないよ。いつでも切り捨てられる便利な駒あつかいだからな」

 

 「わかっているわ。あなたもあれから色々あったんでしょう? でもやっと、あのとき助けてもらった恩を返せた。昔の私と妹を喜ばせることが出来たわ」

 

 「……君は? 私を知っているのか」

 

 「かつてラシティのキャンプで妹とともにあなたに命を救われたメリエム・ザーナーです。私はここで終わり。ですが、あなたはせいぜい生きなさい」

 

 「そう、か。ほかの仲間はどうした? 見たところ君ひとりのようだが」

 

 「あと数人いるけど、あちこち散っているわ。ここがカラッポと知られないために小細工の最中よ」

 

 「……撤収か。どうやら予定より早く引き払わねばならなくなったようだな」

 

 「ええ、製作不明機体Z。あれに手を出したのが間違いだったわ。おかげで貴重な戦闘経験者の大半が失われたんだもの」

 

 「そう、か。カズサ・ヤマシロ……彼女もかつては難民救済者だったと聞くが。やはり君達に賛同はしなかったようだね」

 

 「ええ。私たちの、そして指導者(マスター)のやっている事は難民救済じゃないと言われたわ。結局、最後まで指導者(マスター)を信じると決めたけど。でも、いまだ迷っている。もしかしたら別のやり方もあったんじゃないかってね」

 

 「……私と同じだな。私もいつも同じことで迷っているよ」

 

 「迷子どうしね、私たち」

 

 憧れ、失望、そして共感。この人とは巡り巡って奇妙な友達になったような気がする。

 どうか、この先も迷いながらも生きていて。

 そしてこの短い安らぎの中の会話を、たまに思い出してください。

 

 「指導者(マスター)も……もしかしたら迷っているのかもね」

 

 「なに?」

 

 「最後に言葉をかわしたとき感じたの。もしかして、この人は何かに迷っているんじゃないかってね」

 

 「……そうか」

 

 「どうなるのかしらね……指導者(マスター)も……難民(みんな)も……」

 

 「残念だが、人の道を踏み外した者に未来はない。いずれ報いを受けるだろう」

 

 「……そうなるのかしらね。それでも――」

 

 それでも、せめて最期は安らかであらんことを――

 

 

 

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