ゼータと上総   作:空也真朋

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 前回の唯依Side。読み返してみると、女の子らしくない文章だったので大きく修正しました。


11話 修羅場ラバ

 「山城……さん………あなた、生きて……いたの?」

 

 そう言って、うるんだ瞳で感極まって泣く美少女。

 

 誰だ? オレはまるで彼女を知らない………あっ! 要塞級と戦ったときにバイオセンサーが見せた幻の()じゃねぇか!

 

 ブラッと山城上総が死んだ場所にきてみたら、何やら軍関係者のような連中が集っていた。

 連中の前に出るのはヤバイと、そのまま踵を返して去ろうとしたら、通りすがりの()が呼ぶ名前に反応して返事をしてしまった!

 今度ばかりはこの勝手に動く口も、とてつもない災いをよんでしまったようだ。

 

 「………篁………さん………」

 

 彼女の名前が自然に口から出た。そしてオレも、震える彼女の姿にくぎ付けになった。

 このままじゃヤバイ! なのに動けない!

 

 そんな二人の沈黙を破ったのは、彼女を支えていた壮年の軍人男性だった。顔に大きくついている傷が圧倒的存在感をさらに押し上げる。

 

 「失礼。山城上総少尉だね。報告では死亡したと聞いていたが。私は帝国陸軍所属の巌谷榮二。階級は中佐。現在、帝都防衛における戦地調査を命じられている。君は現場でおこった不可解な事態を知る重要参考人物と思われる。どうか私と一緒にきてほしい」

 

 マズイ! 行けねぇよ!

 

 「貴官は生きていながら作戦終了後も軍に帰投しなかった。これは脱走という不名誉な認定をされるだろう。だが我々に協力してくれるなら、俺は君の立場を守るあらゆる労を惜しまないつもりだ。斯衛軍、山城家。双方に働きかけ、君を守ろう」

 

 冗談じゃねぇ! これはもう逃げるしかない!

 なんとか隙を突いて逃げようとタイミングを伺った。だが………

 

 「フム。調査などまるでしてないのに、こんな重要案件のふといシッポが転がり込んでくるとは。こんなこともあるもんですなぁ」

 

 「な、なんですの、あなた!?」

 

 いつの間にか後ろに、目深に帽子を被ったスーツ姿の怪しいオヤジが居た!

 なんだこのオヤジ!? 全然気配がしなかったぞ!

 

 「鎧依左近と申します。まさかと思いますが、逃げるような素振りが見えましたものでね。背中にお邪魔させていただいています」

 

 ヤバイ! 挟まれた!?

 ダイナマイトな修羅場に突然迷い込んだオレ。

 三人六っつの目に囲まれ、絶体絶命!

 女の子の方はともかく、オヤジ二人は相当デキる! 身のこなしにスキがない!

 

 誰か助けを! 誰か来てえーーー!!!

 

 

 

 

 もちろん、そんなもの来るはずがない。

 

 

 

 

 ――――――と、思っていたのだが。

 

 

 

 

 その時、近くに軍用車が「キーッ」と止まった。

 そこから全身包帯だらけ。見るからに負傷兵の女性があらわれた。

 見事に鍛えあげられたその体から、彼女も軍関係者だとわかる。

 いや、山城上総の記憶から、どこか知っているような?

 

 「篁少尉。聞きたいことがあって貴官に会いにきた。貴官の僚友、山城少尉のことだ。記録では死亡となっていたが、彼女のことを詳しく…………って、山城少尉!?」

 

 ええ!? この人もオレのことをしっている!?

 ………いやこの声。思い出した。嵐山の山間陣地で救出した指揮官の女性衛士だ!

 

 それと共に、彼女が誰かも上総の記憶がひらめいた。

 上総の上官の如月中尉だ!

 

 「陣地で私に呼びかけた声。あれは貴官だったような気がしたのだ。だが行方を捜すと、貴官は死亡したことになっている。どういうつもりだ!? 何故そんな工作などをした! それに貴官が乗っていたあの未知の技術の塊の戦術機はなんだ!?」

 

 

 山城上総の上官の斯衛軍衛士如月中尉。

 彼女の登場でさらにヤバイ状況になっていくオレ。

 だがヤバイ状況はオレだけでなく、後ろオヤジ二人もそのようだった。こんなヒソヒソ話が聞こえた。

 

 「まずいな。彼女は斯衛に所属している。しかも如月中尉は彼女直属の上官だ。筋からいえば彼女に引き渡さなければならない。斯衛にかっさらわれたか」

 

 「運がよかったのは我々だけではないようですな。このままでは斯衛の総取り。ですが、今この瞬間だけはまだ確定しておりません。だったら………うわぁぁぁぁぁ!」

 

 いきなりスーツのオヤジが派手にすっころんだ? 何にもしてねぇぞオレ。

 いや、しかしチャンスだ!

 オレはスーツオヤジを飛び越え、そのまま脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

 「山城さーーーん!」

 

 篁さんの呼びかけに、彼女がオレを見たまなざしを思い出した。

 

 その眼は涙で(うる)んでいた。

 

 それは本当に本物の喜びに満ちたときに流す涙。

 

 それだけ彼女にとって山城上総は大切な、大事な人間なのだろう。

 

 でも違うんだ。オレは山城上総じゃない!

 

 君の大切な彼女は見かけだけ。中身はまるで別人なんだ。

 

 だから、だからオレにそんなまなざしを受ける資格なんてない!

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 唯依Side

 

 

 「待て山城少尉! 何故逃げる!…………うぐっ」

 

 如月中尉は山城さんを追いかけようとしましたが、ケガで走ることはできませんでした。そんな如月中尉を叔父様はいたわるよう抱きとめました。

 

 「如月中尉、無理はいけない。その体で追いかけるのは無理だ」

 

 「くっ、そこの男! 本当に突き飛ばされたのか!? 山城少尉に何かしたような動きは見えなかったぞ!」

 

 「いやはや小娘とあなどって不覚をとってしまいました。さすがは斯衛の衛士。気配さえ見せない実に見事な体術! では、失点を取り返すために追うとしますかな」

 

 そう言って鎧依さんは如月中尉から逃げるように山城さんを追いかけていきました。

 

 …………足、速いですね。

 衛士訓練と食事制限で屈強な衛士になった私ですら、そう思えてしまうほどの俊足です。

 貿易商さんって衛士に匹敵するほど体を鍛えるものなのでしょうか?

 

 「くっ。あの男、どこかの犬か? 篁少尉、山城を追え! あの男に奪われるな!」

 

 「り、了解しました! 篁少尉、追跡します!」

 

 私は鎧依さんのあとを追って駆け出しました。

 

 私自身、彼女を求めてつかまえたい気持ちにはやりながら。

 

 

 

 

 

♠♢♣♡

 

 巌谷Side

 

 

 俺は唯依ちゃんの上官の如月中尉をささえ、しっかりと立たせた。

 あらためて彼女の容態を見ると相当の重傷だ。

 こんなケガでよく外に出られたものだ。

 

 「大丈夫ですか、如月中尉」

 

 「ああ、すまない。もう大丈夫だ。貴官は?」

 

 「帝国陸軍技術厰第壱開発局副部長、巌谷榮二中佐です。現在、戦地調査として帝都防衛戦に現れた識別不明戦術機、通称”z”の調査責任の任を負っております」

 

 「そうか。帝国陸軍の………。中々に優秀だな。もうすでに彼女にたどり着き、確保にまできたとは。斯衛(こちら)はやっと山城少尉の生きている可能性に思い当たったばかりだ」

 

 いや、こちらも京都駅跡の調査にはいったばかり。彼女の確保にまでこられたのは偶然にすぎない。まぁ、正直に言う必要もないが。

 

 「とにかく各所に連絡を出して山城少尉をとらえる人手を出してもらいます。彼女の確保は自分があずかります。よろしいですね?」

 

 俺は携帯通信機を取り出しながら言った。

 

 「やむを得んな。ここらに斯衛はいない以上、そちらにまかせるしかない。しかし彼女を確保したなら、すぐにこちらに引き渡してもらうぞ。山城少尉は斯衛の衛士である以上、処分もこちらでおこなう」

 

 『処分』か。やはり山城少尉の先行きは厳しそうだ。

 通信機で各所の応援を要請しながら思った。

 

 だが、山城上総少尉はアンノウンに連れ去られたとき、なにか関係を持った。それは我々に知られたくない秘密がある。俺は立場としてそれをつきとめなければならない。

 斯衛に引き渡すのを引き延ばし、それを聞き出すとしよう。

 

 ふと、俺は彼女が唯依ちゃんの友達だったことを思い出した。

 彼女を殺したと思っていた唯依ちゃんは、可哀想になるくらい気に病んでいた。

 

 「………せっかく生きててくれたのにな。ゴメンな唯依ちゃん。せめて俺の権限でできるだけの善処はしよう」

 

 廃墟の空を見上げながらため息をついた。

 そして唯依ちゃんと山城少尉のために小さく祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴォォォォォ………

 

 

 「……………なんだ?」

 

 廃墟の静寂を破る疾走音。聞こえるだんだんに迫る轟音。

 それに振り向いたとき、そこにあり得ないものを見た。

 

 赤青白のトリコロールカラーに兜のような頭。

 映像で何度も見た、規格外の性能と未知の武装を搭載した謎の戦術機。

 

 未確認所属不明戦術機 通称”z”。

 

 それが疾走しながら俺と如月中尉の目の前を走る。走っている!

 近隣には調査のための部隊がいくつも派遣されているのに、何故ここに!?

 

 「”z”だと!? くっ、ただの聞き取り調査だと、ひとりで来たことが悔やまれる!」

 

 如月中尉は悔しそうにそれに目を見張る。

 それはまるで滑るように滑走し、俺と如月中尉の目の前を通り過ぎた。

 ふと、俺はあることに気がついた。

 

 「”z”が来たのは山城少尉が走り去った方向。となると、あれに乗っているのは………?」

 

 

 




 後半の書き直しとかで思った以上に長くなってしまった短期連載も次回で最後。
 しかし鎧依さんのセリフで、上総に大きなシッポが生えていて、それをニギニギする鎧依さんとか想像してしまうととんでもない絵面でした。なんだこのオヤジ。
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