ゼータと上総   作:空也真朋

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110話 マスターをさがせ

 篁唯依Side

 

 ユーコン陸軍基地メインゲート前

 

 「……了解しました。はっ、警戒解除までこのままメインゲート前防衛を続けます」

 

 ここメインゲート前で、われわれはBETA絶対防衛の陣を敷いて二時間。

 少し前まではかなりの数のBETAが流れてきていたが、いきなりその流れが途絶えた。そして今、通信センターの回復とともに情報を受け取ることが出来たのだ。

 ゲート前警戒をしているアルゴス小隊、中華統一戦線のバオフェン小隊などにその朗報を伝えるべく、通信をオープンにする。

 

 「全員傾注! たった今、米軍から対BETAの戦況報告がきた。ゼータが戦域を保ってくれたお陰で、戦力を集結させることが出来た。現在フェアバンクス基地から戦術機部隊が発進し、BETAを包囲し殲滅しつつあるようだ」

 

 『おおっ! ってことは、レッドシフトとかの発動は阻止出来たんだな!』

 

 『だったら、あとは基地に巣食うテロどもの掃除だな。たっぷり礼をしてやるぜ!』

 

 「いや。すでに基地司令部、発電施設、通信施設などテロ組織におさえられていた場所には、米軍特殊部隊が入り、すべて解放したそうだ。よって残るはBETAの掃討のみ。我々はそれの終了まで、引き続きメインゲートの防衛だ」

 

 『もう……解放ですか? いくら何でも早過ぎじゃありませんか。司令部なんかはテロの代表が声明をやっていた場所だし、もっと手こずるかと思っていましたが』

 

 「特殊部隊が入ったときには、すでに基地もその他主要施設ももぬけの空。中央指令室にさえ、難民解放戦線のトップ・ヴァレンタインと数名しかいなかったそうだ。つまり放送があった時点でテロ本隊はすでに撤退をしていたようだ」

 

 『そうですか。どうやらキリスト恭順派の方は完全に逃がしたましたね。追跡調査で居場所がわかればいいですが』

 

 「恭順派の件は完全に我々の手をはなれた。あとはアメリカの情報機関にでも任せるしかあるまい」

 

 『ですね。ヤツラのせいで帰らぬ人も多く、カリを返したいところでしたが』

 

 さて、あと言わねばならない報告が二つ。悪いものと良いもの。朗報のあとにユウヤを落胆させるのも気が引けるので、悪いほうから先に言うことにした。

 

 「今回の襲撃でもっとも被害を被ったのはソ連だ。ユーコン陸軍基地第三位のアターエフ大佐はじめ幹部連中はのきなみ処刑された。さらに機密研究棟も襲われ、責任者のサンダーク中尉はじめ研究職員もみな死亡。そして……その開発衛士(テストパイロット)であるクリスカ・ビャーチェノワ少尉もな」

 

 『―ー!!? イーニァは……紅の姉妹(スカーレット・ツイン)のもう一人はどうなったんですか!?』

 

 「イーニァ・シェスチナ少尉は行方不明だそうだ。おそらくはソ連研究のサンプルとして連れ去られたのであろう」

 

  『……クッ! なにが『虐げられし難民のための決起』だ。目的は機密ドロだろうが!』

 

 気の重い報告はすんだ。……クリスカ・ビャーチェノワ少尉、安らかであれ。そしてイーニァ・シェスチナ少尉、どうか無事であらんことを。

 

 「それと今度は朗報だ。テロ襲撃の初期に殉職されていたと思われていたイブラヒム・ドーゥル中尉だが、生きていた」

 

 『おおっ! 本当ですか、タカムラ中尉!』

 

 マナンダル少尉がはじけるような声で叫ぶ。

 

 「本当だ。どうやら人質として生かされていたようだが、撤退時にも殺されることなく指令室に残されていた。現在は中央病院に搬送された」

 

 『やったぜ! テロどもはいろいろやらかしてくれたが、これだけは感謝してやる』

 

 「たしかに、この事件のシメとしては朗報ですね。しかし……【レッドシフト】の件はどうするのでしょう? 基地の地下に数千発もの水爆が置いてあるなんて状況はかなりマズイのでは? その件を処理するために核兵器を使おうともしていましたし』

 

 頭の痛いことを思い出させてくれる。この件、米国の政界がまるごと入れ替わりかねんほどの、あまりに巨大すぎるスキャンダルだ。これを私にどうしろと?

 

 「さすがに私には処理しかねる。上に報告をあげて判断を待つよりほかあるまい。さ、状況説明は終わりだ。BETA完全処理の報が来るまで気を抜くな。全機警戒態勢堅持!」

 

 『『『了解!』』』

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 パプテマス・シロッコSide

 

 歓楽街(リルフォート)メインストリート

 

 たわむれに、テロ組織がユーコンのどこに、あれだけの部隊を潜ませていたのかを考えてみた。いや、人員だけではない。銃器、火薬、その他備品。相当量の物資も集積しておかなければならないはずだ。それも官憲に知られず内密に。

 それが可能なのはユーコン広しといえどもただ一つ。ここ歓楽街(リルフォート)以外にあり得ない。

 私がここの避難誘導を買って出たのも、半分はテロ首謀者指導者(マスター)の逃げ先を追うためだと言っていい。

 

 では、歓楽街(リルフォート)のどこか? 民間業者を装い大量の物資を搬入出来る場所。それもユーコン基地近辺が望ましいはず。

 さらに時間帯。物資の搬入搬出は見られないことが望ましいだろう。となれば深夜から早朝に大型トラックが停まっても怪しまれない場所。

 それら条件を合わせてテロ組織が拠点にしそうな場所を地図上で照合してみると、とある大きな酒場が浮かび上がった。

 

 「なるほど、【ポーラ・スター】か。そういえばパイロットたちの夜の遊び場でもあったな。ここなら情報収集にも最適だ」

 

 件のテロ首謀者【指導者(マスター)】とやらはここに居るのだろう。

 そこに鎧衣親子を向かわせ、調査を頼んだ。ほどなくして鎧衣くんから連絡が入った。

 

 『ポーラ・スターはすでにアメリカの情報部らしき者に押さえられておりました。ですがテロ首謀者【指導者(マスター)】は現れなかったようです』

 

 「フム、甘くはなかったな」

 

 侵入口と脱出経路を別にする。用心深い者は必ずこうするが、やはり指導者(マスター)とやらは相当デキる者のようだ。

 情報部が嗅ぎつけたということはポーラ・スターは囮。となれば本命はどこだ?

 アラスカ港? いや、そこの倉庫も利用しただろうが、逃亡者が向かう先に港は定番。つまり早くに捜査の手は伸びる。ならば、ポーラ・スターと港の裏を見るべきだろう。

 

 「ねぇシロッコ」

 

 ふいに私の前の座席でチェルミナートルの操縦をしているイーニァが話しかけてきた。

 とある事情で、この世界の強化人間である彼女を連れてきてしまい、逃亡することになってしまった。ゆえにこの機体は私が操縦してるよう他の人間には見せかけている。

 

 「テロの首謀者を探してるの? どうして?」

 

 「さてな。自分でもわからん。君を連れて逃げねばならんので、その事に全力を傾けねばならんはずだが……どうしてだろうな。少し時間を置けばそれに答えられるかもしれん」

 

 ふたたび周辺地図を見て、指導者(マスター)の逃げ先を考える。

 ポーラ・スターはハズレとはいえ、そこに至る外洋からのルートまでは大きく変更出来ないはずだ。海という魔物は、安全の確認がとれている航路から外れてしまえば何が起きるか分からない。いざ危機になっても救難信号を出せないテロ組織ならなおさらだ。

 

 さらに深読みすれば、脱出ギリギリまでアラスカ港とポーラ・スターの状況を見極めたいのは組織の長としての本能。他のメンバーの脱出指示にも関わってくるからだ。となれば港とポーラ・スターの地点から三角測量で等角度あたりの海岸がクサいな。

 

 「イーニァ、移動するぞ。海岸のこの場所。時間から考えて手遅れかもしれんが、用心深いヤツのこと。用心を重ねて通常より遅れての到着かもしれん。行ってみる価値はある」

 

 「了解、シロッコ」

 

 もしアタリだった場合、人手も必要になるために鎧衣くんにも連絡をいれる。

、 

 「鎧衣くん、次の場所へ移動だ。ここらがクサい。念のため、美琴くんもまだ訓練部隊には戻さず連れてきてくれ」

 

 『ほほう、海岸ですか。あり得るとはいえ、ここに現れる確率は極小のようにも思えますが……まぁ、つきあいましょう』

 

 イーニァにチェルミナートルを発進させて飛行する。向かうはアラスカ港より外れた海岸線だ。

 

 「シロッコ、そろそろ答えは出た? どうしてテロ首謀者なんて追うの? 手柄がほしい?」

 

 「君を連れている身では手柄など邪魔だから違うな。あえて形にして言うならこうだ。天才に生まれた(さが)なのだよ。頭脳自慢に挑んでしまうのはな」

 

 これで答えになっただろうか。ともかくイーニァはそれ以上何も聞かずにいたので、どうやら納得してくれたようだ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 飛行し向かった先はさびれた海岸。港からは大きく外れ、何もないはずのこの場所に、なぜか剣呑そうな人間がまばらに居た。おそらくそいつらは指導者(マスター)の護衛。どうやらアタリだ。しかし……

 

 「シロッコ。当たったみたいだけど……少し遅かったね」

 

 その剣呑そうなヤツラは、このチェルミナートルを見ると、あっさりバラバラと逃げてしまった。おそらくマスターは撤退済み。役目を終えた彼らはそれぞれに逃げていく最中ということか。

 望遠カメラでぐるり海洋を見回してみるも、ここから発った船らしき影は見えない。

 

 「フム、高速船らしきは見えないか。と、いうことは……潜航艇か」

 

 たしかにユーコン基地の近いこの場所は哨戒機も多く飛んでいる。高速船ではなく潜航艇を使う方が理にかなっているだろう。

 

 「残念だったね。帰る?」

 

 「フッ、たしかに水中ソナーなど装備してるはずもない戦術機では、まったくお手上げの状況だな。”オールド”のみのこの世界ではな。だが……」

 

 キュピィィィィン

 

 水中ソナーはなくともニュータイプ脳波があるのだよ。

 【指導者(マスター)】よ。コソコソ逃げる君の潜航艇は、まる見えだ。

 

 「イーニァ、操縦権と火器管制をこちらに。突撃砲を使う」

 

 「範囲集中砲撃? 弾がぜんぜん足りないけど」

 

 「フッ、ニュータイプは無駄弾など使わない。感じろ、私のニュータイプ脳波を。君にもこれくらい出来るようになってもらう」

 

 チェルミナートルを操縦し、潜航艇の居場所を感じて真上に位置して照準を合わせる。

 

 「無事の脱出に祝杯をあげているであろう君達に、水を差させてもらう。受け取れ、テロリストの王よ!」

 

 バシュウウッ……ドッボオオオオン

 

 放った弾丸は巨大な水しぶきを上げる。

 

 「…………当たった? シロッコ。どうしてか、当たったのがわかるよ!」

 

 「私の脳波との同調に成功したか。やはり君は良いニュータイプの資質を持っている。さて私の挑戦欲も満たされたことだし。あとは鎧衣くんにでもまかせて君の亡命計画でも練るとしようか」

 

 鎧衣くんに『マスターはしとめた。海の中の残骸から彼を見つけられたなら、手柄にしたまえ』と通信を送り、その場をあとにした。

 

 

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