ゼータと上総   作:空也真朋

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最終章 青いゼータの鼓動
112話 マスター死亡の知らせ


 ユーコン陸軍基地 待機室

 

 BETA掃討が終了し、残敵捜査を援軍のフェアバンクス基地の部隊に引き継いで帰還した翌日。ふいに篁さんが訪ねてきて、衝撃のニュースを伝えた。

 

 「ええっ! キリスト教恭順派の首領が見つかったんですの? あの状況でよく捕らえられましたね」

 

 あの時は、やっとテロ組織へ反攻の機会がめぐってきたと思った途端、BETA出現とレッドシフト危機が起こってくい止めるのに大変だった。

 『恨みある恭順派マスターだけど逃げられるのもやむなし』と苦渋の決断をしなければならなかったのに。

 

 「いや、捕らえたわけではありません。アラスカ湾を潜航艇で脱出をはかった所、何らかのトラブルで沈んだようです。そこを見つけた、というのが流れです。首領は毒をあおって死亡したようですが」

 

 「それは……向こうには不運でしたね。そしてわたくし達にとっては幸運ですか」

 

 嬉しさや喜びといった感情は出てこなかった。

 むしろ残念な気持ちがわいてしまう。

 

 「どうしました? 気落ちしたように見えますが」

 

 「恭順派の首領には、一度くらい会って話したいと思ってました。あの子たちをテロリストにした怒りを吐き出したい気持ちがありましたのに」

 

 「山城さんが大東亜連合に居たときに世話をした被災孤児たちですか。残念ではありましたね。ですがこの話にはもう一つ大きな出来事があります。首領を見つけたのが神宮寺軍曹と訓練兵の子らしいのです」

 

 「なんですって!?」

 

 どうりで昨夜帰っても軍曹がいなかったわけだ。一晩中事情聴取されていたのか。

 しかし、ただの海外見学者がそんな大きな発見をしたとなると、どうなるんだ?

 

 「これは彼女らにとって大変な名誉となるでしょう。ですが風当りが強くなる前に日本へ帰すことをおすすめいたします」

 

 「なんです”風当り”って? ユーコン基地を襲い数多(あまた)の命を奪った憎むべきテロリストの首領を発見してあげたのでしょう。感謝こそされ、恨まれる筋合いなんてありませんでしょう」

 

 「面子の問題ですよ。恭順派マスターの行方は、これまでアメリカ情報機関が長年総力をあげて探していました。ですが居場所をつきとめることはおろか、ユーコン基地襲撃という惨事まで許してしまった。その彼を日本の下士官と訓練兵が発見してしまった。さぁアメリカ国民は自国の情報機関をどう感じるとおもいます?」

 

 「……役立たず? 長年なにやってたんだ無能な金食い虫め?」

 

 オレも何度思ったことか。レッドシフトとかBETA研究所とか核投下とか。

 

 「その通りです。アメリカ情報機関にはDIAという情報による国内防衛を担う機関があるのですが、もろにその批判を浴びせられているようです」

 

 「そんな機関があるのですか。本当になにやっていたんですかね。合衆国政府は仕事を徹底的に査察すべきです」

 

 「その合衆国政府も、自国最高の開発衛士(テストパイロット)と機体を失った世界各国から大きな非難を浴びせられるでしょう。この事態を許してしまい面子を潰されたDIAは、やっきになって手柄をあげようとしています」

 

 「DIAさんががんばっていても、わたくし達には関係ないように思えるのですが。篁さんの方では何かされたのですか?」

 

 「はい。まずブレーメル少尉とマナンダル少尉が恭順派のスパイ疑惑を持たれ、尋問を受けています」

 

 「はい? あの二人がなぜスパイを疑われるのです。理由などまったく無いうえ、ステラさんなど撃墜されて重傷を負ったのですよ?」

 

 その撃墜した衛士も、アメリカが恭順派内部に送り込んだスパイだったし。

 本当にロクなことしないな、アメリカは。

 

 「”ポーラスター”ですよ。あの店は恭順派の前線基地だったそうです。そこのナタリー嬢と仲の良かったブレーメル少尉とマナンダル少尉が、仲間に引き入れられたと考えられているのです」

 

 「そのあり得ない妄想を現実にするために、二人に尋問をしているのですか。テロは誰かの手柄のために起こされるものじゃないんですよ」

 

 圧迫でそれらしい証言をとって無理やりそういう事にしようという、官憲の汚いやり方か。

 リアルジェリドがいたせいで少しだけアメリカが好きになったのに、これだよ。

 あ、ジェリドのいたティターンズは、元々そういう所だったか。

 

 「さらには、二人の潔白を訴えるためにケガをおして尋問室にはいったドーゥル中尉も同様の目にあっています。『恭順派に拘束されていたのに助かったのはおかしい。ソ連幹部は皆殺しにされたのに。じつは仲間だったんじゃないか』と」

 

 「『良い人質は死んだ人質だけ。生き残った人質はテロに通じている』という謎理論ですか。まるでハイエナですね」

 

 テロ襲撃とBETA行進とレッドシフト危機と核投下寸前で、血みどろの惨劇が引き起こされたユーコン基地に、手柄という死肉をもとめやって来て、傷ついた衛士をつるし上げる。

 本物のハイエナはかなり汚い食べ方をするそうだけど、人間のハイエナも同様だよ。

 

 「とにかく三人をどうにか解放すべきですね。わたくしも一応事情聴取の出頭を要請されてるんですが、なにかドーゥル中尉らへ有利な証言を出せないものですかね」

 

 「残念ですがブルーフラッグ直前にユーコンに来た山城さんでは、彼らに有利になる証言は無理でしょう。私とブリッジス少尉にまかせてください。私はいつもドーゥル中尉といっしょに仕事をしていましたし、ブリッジス少尉は米軍エリートの教導隊にいたことがありました。彼の証言は重く無視できないはずです」

 

 「そうですね……わたくしのユーコンでの任務も終わりでしょうし、近々帰国命令が来るでしょう。篁さんにまかせるしかありませんね」

 

 オレのユーコンでの任務は陽動外交。しかしプロミネンス計画中心のユーコン基地がこのザマじゃ、立て直しに精一杯で第四計画の競合どころじゃないだろう。つまり任務終了だ。

 

 「そうですね……今度こそ山城さんともお別れですね」

 

 篁さんはやけに寂しそうにオレを見る。

 そんな目で見るなよ。帰りたくなくなっちまう。

 

 

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