ゼータと上総   作:空也真朋

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113話 第二〇七訓練部隊表彰

 基地の混乱も落ち着きはじめた三日目。

 基地のPXを簡易な式典会場に変え、第二〇七訓練部隊への勲章の授与式が行われた。

 テロ組織に占拠された基地内での抵抗で、武装兵の大半を倒し、首領である指導者(マスター)発見はたいへん意義が大きく、ユーコン基地としても彼女らに報償を与えるべきと考えたそうだ。

 

 「国連日本支部第二〇七訓練部隊の諸君。基地の不備で突然に見まわれたテロ襲撃にもかかわらず、その勇気ある行動で危機を脱し、反撃の一助を担っていただいた。さらには世界的テロ組織首領の発見という大きな役割も果たしていただいた。この業績をたたえ、ユーコン陸軍基地すべての隊員職員の感謝を伝えるものである」

 

 「は、はい光栄です。人類への貢献の一助となれたこと、まことに喜びにたえません!」

 

 ユーコン基地司令官代理のハルトウィック大佐から感謝を述べられた訓練兵代表の榊さん。緊張でコチコチになっているのがあどけなくてかわいい。

 そして並んだ二〇七訓練兵の一人一人にメダル勲章がつけられていく。功績のあった兵士に送られる正式なものだ。

 

 オレと神宮寺軍曹にもと話はあったが、辞退して栄誉はすべて訓練兵のみんなに与えてくれるよう頼んだ。やっぱりこの栄誉は未来ある彼女らに送られないとね。

 簡素な式典が終わり、訓練兵の皆は神宮寺軍曹のもとに集まる。いよいよ報償の話だ。

 

 「第二〇七衛士訓練B部隊傾注! 此度の活躍により、帰国後貴様らは総合戦技評価演習を再度受けられることとなった」

 

 「ええっ!」「なんと」「うわああっ、またチャンスがもらえるんだ」

 

 「それだけ今回の貢献は大きく、世界中の衛士関係者も注目する出来事だったということだ。だが気を抜くな。再度落第などということになれば、事は貴様らだけの恥ではない。日本の衛士すべてに泥を塗ることになる。帰国後の訓練ははげめ!」

 

 「「「「「「はい!」」」」」

 

 軍曹にプレッシャーをかけられても元気に返事をかえす彼女らを見ていると妙にほっこりする。がんばれよ。

 

 「山城中尉、ありがとうございます。今、生きてこんな栄誉を受けられたのも、あなたの指揮あってのものです」

 

 「山城中尉に感謝を。此度の一件は多くのことを学びました」

 

 「スゴイ経験をしたよね。ボクも父さんと……あ、言えないけど」

 

 「あ、ありがとうございます! 壬姫……じゃなくて自分も一生忘れません!」

 

 「本当にスゴイ。飛行機を呼び寄せて突撃させたのも中尉の指揮? 超能力の」

 

 彩峰ぇ。やっぱりキミは苦手だよ。

 

 ひとしきり彼女らとの歓談がおわると、神宮寺軍曹からこれからの話を聞かされる。

 

 「山城中尉。今朝方、報告をかねて横浜基地に連絡をとったところ、三日後に帰国が決まりました。向こうではすでに本命が大きく動いているそうです」

 

 現在プロミネンス計画は停滞している。この機を逃す香月博士じゃないし、第四計画の大きな実績獲得を狙っているんだろうな。

 

 「あと、帰国前にXFJ計画が継続可能か調べてほしいと頼まれました。篁中尉にご確認ください」

 

 「開発部隊のアルゴス小隊が重症者やら尋問やらで難しいかもですね。計画が中止か延期だった場合、どうなるのです?」

 

 「帝国政府内のソ連支持派は沈黙してますが、消えたわけではありません。それが息を吹き返すかもしれないそうです」

 

 「そんな……あんな最悪の暴行事件をおこした国ですのに? 下手に手を組んだりしたら、世界中から非難をあびるでしょうに」

 

 「ですがソ連機体は吹雪弐型(セカンド)を破った実績があります。吹雪弐型(セカンド)の開発がとん挫したなら、ソ連との密約がよみがえってしまう可能性が高いのです」

 

 完全にサギだ! あの紅の姉妹(スカーレット・ツイン)が、サイコミュみたいなヤバげなシステム使って成した戦果を機体実績にするなんて。

 あと、まりもちゃんは口をすべらせて『密約』とか言ったが、あえて流すことにした。

 よくわからないが、ソ連派の連中があの国と何やらヤバイ約束をしていたようだ。それだけ分かればいい。

 『日本がソ連のサギにあってヤバイ密約で地獄行き特急に乗せられそうになっている』

 要はそういう事だな。しかたない、帰国前にもうひと働きだ。

 

 「わかりました。すぐに篁中尉に当たります。軍曹、あとは任せしましたよ」

 

 「よろしくお願いします、山城中尉」

 

 式典会場のPXを出て篁さんを探すと、やはり彼女はアルゴス小隊隊員のために奔走しているところだった。さっそくつかまえて、神宮司軍曹からの話を伝える。

 

 「…………なるほど。XFJ計画の行く末が日本帝国の未来(さき)を決めるのですか。これは急がねばなりませんね」

 

 「で、どうなのです。アルゴス小隊の立て直しは成りそうですか?」

 

 「とりあえずDIAの尋問の方は、本国が弁護士を手配してくれて、強引なことを出来なくしてくれました。このまま終わりそうです」

 

 さすが。香月博士か巌谷中佐か鎧衣さんか誰の手筈か知らないが、打てる手はキッチリ打ってきてるな。

 

 「隊員の容態ですが、ジアコーザ少尉とブレーメル少尉のケガは大事なく、近く退院できるそうです。ドーゥル中尉だけは長期の入院になりそうですが、私ががんばってカバーします」

 

 「思ったより状況は良好ですね。ではXFJ計画の継続に問題はないのですね?」

 

 「いえ。そう言いきるには、あと一人。ハイネマン氏の容態がどうなのかが問題です。これから入院先に訪問して、復帰可能かをたずねます」

 

 ハイネマンさんだと? あの人がリタイアしたら開発は完全アウトじゃないか。

 開発プログラムは彼が中心になって作っているし、改修も設計した彼がいないとどうしようもない。けっこうな年だし、撃たれたりしてたら復帰は……

 

 「彼はどうなったんです。やはり重症を負ったりしたんですか?」

 

 「彼は負傷はしていません。なんでもテロが行われている間中、基地内のとある場所に隠れ潜んでやりすごしたそうです」

 

 「問題ないじゃありませんか。なぜ入院してるのです?」

 

 「彼は一般人でしかもご高齢です。現役衛士の我々のようにはいきません。命の危機にさらされての潜伏。それで心身ともに激しく衰弱してしまいました。復帰が危ぶまれるほどに」

 

 なるほど。半日ほどの緊張状態だけど、一般人の彼にはひどくこたえたのか。

 

 「ふうっ。とにかくハイネマンさんに会って話してみるしかないでしょう。総合病院に急ぎましょうか、篁さん」

 

 「ええ。……帰国も近いのに、いまだ『篁さん』ですか」

 

 ふと、篁さんの声が暗くなった。

 

 「はい? どうしたんです。それが何か?」

 

 「いえ……山城さんは白銀少尉には『上総(かずさ)』と呼ばれていましたよね。昔、私が『私たち、そろそろ名前で呼び合わない』って言ったら『名前はイヤ』と断っていたのに。どういった経緯で、白銀少尉には名前で呼ばせているんです?」

 

 あっ。言われて気がついたけど、この山城上総と篁さんって訓練校時代からの仲なのに、名前で呼び合ったりしないな。それどころか互いに他人行儀な敬語だ。なんでだ?

 

 「まだ……私はダメなんですか? 『上総(かずさ)』って呼ばせてくれないんですか?」

 

 憂いの瞳でオレを見つめる篁さん。

 なんか彼女に告白されている気分だ。

 いや、好きに呼んでいいから。その頃の山城上総がどんな奴で、なんで名前呼びを嫌がったのかなんて知らないから。

 

 「好きに呼びなさい。昔は名前で呼ばれることが気になっていたけど、今さらそんなことは、どうでもいいから」

 

 「じゃあ……上総(かずさ)

 

 「はい。そう呼んでいいですよ篁さん」

 

 「上総(かずさ)、私のことも唯依(ゆい)と呼んでください」

 

 なんだろう、その可愛い顔は。まさか、さっきのは本当に告白だったんじゃないだろうな。

 ユウヤのことはどうなるんだ。

 

 「唯依。これでいいかしら」

 

 なんか照れくさい。前世で彼女とか出来ていたらこんな気分だったか?

 篁さんはというと、ぱっと眩しいくらいの笑顔になった。名前で呼んだだけなのに。

 

 「えへへ……ねぇ上総。私のこと好き?」

 

 …………彼女かな? 篁さん、君ってじつは山城上総の彼女になりたかったの?

 

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