書いてて恥ずかしかったぁ。
「嫌いです。やっぱり名前で呼ばないで」
と、返事をしたら面白い顔になった。整備兵どもの唯依姫ファンが泣くぞ、それ。
「あうあう、そんなぁ~」
ゴメン。でも、しかたがないんだよ。君が恋愛脳女子みたいなキャラになっちゃったし。
はやく戻ってくれ。
「そういう女子の友達ゴッコみたいなのは嫌いです。わたくし達は衛士。戦友であるべきです」
「……ハッ! そうでした。今はハイネマンさんの元へ行ってXFJ計画の善後策を考えねばいけない時でしたね。山城さん、XFJ計画開発主任の立場を忘れて申し訳ありませんでした」
忘れるなよ。でも元にもどって良かった。
「…………ゴメンね、上総」
若干、もどってないけど。聞かなかったことにしよう。
野外ハンガーへ出向いて整備兵の一人に車をだしてもらい、メディカルセンターへと向かった。
到着してハイネマンさんにアポイントをとると、篁さんとだけ話したいという返事がかえってきた。なんでも彼女だけにしか話せない重要な話があるそうだ。
「ハイネマン氏が私だけに話ですか……何の話でしょう。XFJ計画の機密がらみでしょうか」
「機密ならもちろん聞きません。ただXFJ計画が継続可能かだけ教えてください」
「わかりました。腹をすえてハイネマン氏の言葉を拝聴してきます」
すっかり開発主任の顔にもどった篁さん。凛々しくハイネマンさんの病室へと入っていった。
さて、篁さんはどんな顔で出てくるのか。
明るい笑顔で継続可能を知らせて出てくるか。
それとも沈んだ憂い顔で、計画の中止か延期を告げてくるのか。
そして小一時間。かなり長く話しこんでいたが、ようやく病室の扉が開いて篁さんが出てきた。
彼女の顔は――――泣いている!?
「うっ、うっ……うわあああっ」
「篁さん!?」
まるで子供のように泣きはらす彼女を胸で受けとめ抱きしめる。
なんということだ。篁さんがこんなに泣くほどに絶望してるってことは、XFJ計画は再開不可能ということか。至急報告して対策をたててもらわないと。
「うっ、ううっ、山城さぁん……」
「篁さん、落ち着いて。ハイネマンさんは何と? もうXFJ計画に参加することは無理だと言われたんですか?」
「うっ、うううっ。ハイネマンさんは……検査が終了次第戻ると。来週までには復帰できるそうです……」
―――ドンッ
「あうっ」
思わず怒りにまかせて突き飛ばした。
「問題ないじゃありませんか! なに人の胸を濡らしてメソメソ泣いているんです!」
「ユウヤは……私の兄だったんです……」
「はい? ユウヤ? 彼が篁さんの兄って?」
ユーコン基地に帰る車中でハイネマンさんが篁さんに話したことを聞いた。
なんでも、篁さんのお父さんが日本の戦術機開発のためアメリカへ研修に来たとき、ハイネマンさんの助手のミラ・ブリッジスと恋仲になったそうだ。
いや待て。篁さんのお母さんとはまだ結婚前でも婚約はしてたろう? 武家なんだから。
ともかく、そうして生まれてしまったのがユウヤ・ブリッジス。
そう言えばユウヤは篁さんのお父さんに似ていると感じたことがあったが、親子だったからか。
やはりハイネマンさんは心労がたたって弱くなったらしい。秘密をかかえるのがつらくなって、つい話してしまったようだ。とんでもない爆弾を炸裂させて!
「山城さん、私はこれで。XFJ計画再開の準備がありますので」
総合病院からユーコン基地に戻り、車から降りると篁さんはポツリそう言った。
大好きな父の母親以外の女性との秘め事。ユウヤへの恋の終わり。そんな真実がのしかかって、彼女の背中はひどく
こんな篁さんとお別れなんて嫌だ。
弟と判明したユウヤとどうつき合うかとか、何か言えないものか……
「篁さん」
「はい? なんです」
「兄だっていいじゃありませんか。たとえば、こんな風に話してみてはどうです?」
――『ユウヤ。私、あなたの妹なんだって。ビックリだよね。今日はこんな素敵なことがわかった記念に……私のカラダで、お兄ちゃんのしたい事、なんでもしていいよ』
ハラリ――
「山城さん、それだあああッ!!!」
「正気ですか、あなたッ!!?」
考えるヒマがなかったせいで、前世の姉弟モノのエロゲとか思いついてしまったけど。
こんなアホな話にとびつく篁さんがヤバイ。
本気で兄を誘惑する変態妹目指すつもりか? ヤベェ。ドロドロのインモラルが生まれようとしている!
【Be・
タイトルまで思いついちゃったよ。
このまま放置して帰国したら、次に逢った時、どんなエロゲキャラに変貌してるのやら。
……しかたない、迷宮をさまよう唯依姫を救い出そう。
それは王子様にも出来ない、この山城上総にしか出来ないことだろうしな。
「篁さん、これからトレーニングエリアに行って模擬刀を持ちなさい」
「え? でも、これから仕事が」
「帰国前の手みやげです。一手篁さんの剣を味わっていきたいのです」
テロの後始末で山ほど仕事のある篁さんを、半ば強引に引っ張っていく。
半時後、トレーニングエリアの片隅で、オレと篁さんは模擬刀をかまえて向かい合う形になっている。
なんだろう。こうしてると、ひどく高揚してくる感じだ。
すごく懐かしい、ずっと待ち望んでいた
――模擬刀の向こうで、篁さんはずっとわたくしを待っていた。
猫科の獣みたいに、隙をうかがう
「せェェい!」
「チェストオオッ!」
一瞬陰ができ、わずかにほころんだ互いの隙に、どちらも全力で打ちこんだ。
互いに初手をかわしかわされるも、わずかに立て直しの早かったオレの返しが篁さんを薙ぐ。
篁さんは――笑っていた。
放った斬撃にとびこみ、強撃をオレの模擬刀に合わせて叩き落す。
ガキンッ
「危ない返しをしますね。模擬刀とはいえ、本気の打ち込みに当たったらケガをしますよ」
「死線を恐れぬ不退こそ篁示現流ですから。それに、今、ケガをしてもいいから思いっきりやりたい。そんな気分なんです。山城さんの方こそいいんですか? 今の私は手加減ができません」
たしかに『二ノ太刀いらず』と言われる示現流の強撃に防具のない生身で当たったら、かなりのケガをするだろう。
こんな遊びでケガをして、これからの任務に支障が出てしまうのは、あまりにもバカらしい。
だけど――
「かまいません。この先どうなろうと、今は全力で篁さんと楽しみたい。そんな気分です」
篁さんは花が咲いたようにパッと明るく笑った。
「うれしいです。山城さんが私のバカにとことんつき合ってくれて。今は――今だけは、山百合の唯依でいさせてください。あなたのライバルの!」
ガキィィィンッ
まるではしゃぐ子供みたいに、目をキラキラさせて夢中で打ち込んでくる篁さん。
仕事の前に面倒をもちこんで困っていた彼女はどこへやら。
「聞こえます。和泉の、安芸の、志摩子の声援が。久しぶりにみんなに逢えた。だから――勝ちます。大きな壁の山城さんに!」
ガキィィンッ
何の意味もない勝負。だけど篁さんは真剣に本気に勝ちをもとめて向かってくる。
篁さんがそんなに欲しいなら――あげない。山城上総は意地が悪いから。
「ふふっ山百合のイノシシのままでは、わたくしに剣を届かせることは出来ません。そらっ!」
パシッ
篁さんの振りが大きくなり、打ち込みの間が広くなった隙に、すかさず模擬刀をいれて一本。
「くうっ不覚。はしゃぎすぎました。もう一本!」
「いらっしゃい。また和泉さんたちをガッカリさせてあげます。地の底まで失望させます」
「その挑発、高くつきます! チェストオッ」
雄大なユーコンの青空の下。
二人のサムライは仕事も任務も明日へ投げ捨てて。
掛け声と剣を響かせ、いつまでも遠く遠くへつき進んでいった――
唯依姫は、上総とは勝負してる時が一番幸せということで。これが二人のイチャラブなんです。