ゼータと上総   作:空也真朋

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 前回よりもさらに恥ずかしいモノを書くことになろうとは。
 黒歴史を製造しているとわかっているのに、なぜ投降してしまうのか。


115話 こんなにも茜色の空の下で 

 ――「(いた)ッ!」

 

 オレと篁さんの勝負は、オレの右腕を篁さんがとらえて終わった。

 酸欠と痛みで立っていられなくなり、その場に崩れ落ちる。

 

 「ハァハァ、大丈夫ですか、山城さん」

 

 「ハァハァ、真剣なら腕を取られてましたね。千合の果ての勝負。見事な精神力の勝ちです」

 

 さすがに千合はいかないだろうが、オレと篁さんは休みなく間合いをとらず何百合と打ち合った。無酸素運動で苦しくなってきたところで、篁さんのシメの一刀がオレの腕を打ち込んだのだ。

 

 「和泉、安芸、志摩子。みんなが応援してくれて私をささえてくれました。……いえ、皆はもう死んでいますが。でも、すぐ側にいたように想えたんです」

 

 『死んだ人間の想いを感じる』……か。

 ニュータイプにとっては、それは””気のせい”で片づけられないんだよな。

 もっともそれはサイコミュやサイコフレームが死者の念を引き寄せた場合の話。

 篁さんのは、やはり彼女の記憶がうつした幻だろう。

 

 「和泉さんたちに良いところを見せられましたね。同じ衛士とはいえ、開発担当が前線任務に勝ったんですから」

 

 『和泉さん』……オレはその子がどんな奴なのか知らない。

 だけど篁さんとの勝負の中でその名を聞いた時、たしかに知っているような気がした。

 それに情緒不安定になった篁さんに『嫌いです』とか言ったり、剣術勝負で立ち直らせようとしたりというのは、どうにもオレらしくない。

 むしろそれは、本来の山城上総のような行動だ。

 まさか彼女は…………

 

 

 ―――「「「ワアアアアアアアッ」」」

 

 いきなり周りから大きな歓声、拍手、口笛が鳴り響いて、思考が中断された。

 いつの間にかオレたちの周囲には大きなギャラリーができていて、観戦されていたらしい。

 「いつの間にこんな……」とオレも篁さんも茫然。

 

 ――「すごい! すごい勝負でしたよ、タカムラ中尉もヤマシロ中尉も!」

 ――「日本のサムライってのは本当にすげぇ! あそこまでブレードを速く扱えるんだからな!」

 ――「タカムラ中尉、ヤマシロ中尉。どうか写真を! あと握手も!」

 

 などと唯依姫ファンのヤローどもがせまってくる。

 うわぁマズイ。オレも篁さんも体力使い果たして、こんな大量のヤローどもをさばける余裕なんてないぞ。

 案の定、ヤローどもに揉みくちゃにされるオレたち。

 糞っ、ハイエナどもめ。ここぞとばかりに、大事な所をさわりまくりやがって!

 と、そこに助けが来た。

 

 「おい、お前らどけ。ウチの開発主任になにしてんだ、糞どもめ」

 「なに仕事サボって気持ちいいことしてんだ。今度やる時はアタシもまぜろ」

 「タカムラ中尉、ヤマシロ中尉、肩を貸します。つかまって」

 「ほんとにもう、なにやってんですか。中尉が仕事をふってくれないと、こっちは何もできないんですから」

 「まさかお二人がマナンダル少尉みたいなことを……これは貴重な映像になりますね」

 

 ユウヤにタリサ。CPオフィサーのカナレス伍長、テオドラキス伍長、ラワヌント軍曹だった。

 オレと篁さんはみんなに守られ医務局へ連れられた。

 その後基地司令代理のハルトウィック大佐に謝罪をし、解放されたのは空が茜色にそまる夕暮れ時だった。

 オレはこれからまりもちゃん軍曹と打ち合わせ。篁さんは野外ハンガーで吹雪弐型の機体チェック。つまりここ、野外ハンガー方面自動扉前でお別れだ。

 

 「腕は痛みますか、山城さん」

 

 「少し。帰国しても数日は緊急出動につけなくなって、向こうでも怒られますね」

 

 「ごめんなさい。私のせいです」

 

 「謝らないで。それは互いに覚悟の上のはずです。互いにこの先、あの時のケジメはつけねばなりません。だけどそのくらいの価値は、あの時間にはあった。そうでしょう、篁さん」

 

 「仕事なんか、いくらでもがんばります。でも……やっぱり山城さんのコレは悲しいです。心が痛いです」

 

 篁さんは慈しむように何度も何度も包帯が巻かれたオレの腕をなでた。

 

 「本当に気にしないで。折れたわけでなし。さすがの篁示現流も腕力が落ちていた時の打ち込みだから、さほどの事は…………篁さん?」

 

 篁さんはいきなりオレの体に「ギュッ」と抱きついてきた。

 背中に強い彼女の握力を感じる。彼女の頬がオレの顔で体温を感じられるほど近くにある。

 彼女の柔らかくも引き締まった体に、妙にドキドキする。

 

 「山城さん。ほんの少し……本当に少しだけ、こうさせてください。この先を生きる体温をください。ユウヤのことをあきらめて……山城さんもいなくなる、この先を生きる体温を」

 

 「…………」

 

 オレはそっと抱き返して、彼女の耳元にささやく。

 

 「今だけは『上総(かずさ)』と呼ぶことを許します。その名前で呼んで……言いたいことをみんな言いなさい。唯依(ゆい)

 

 なぜ山城上総が篁さんと名前で呼び合うことを拒んでいたのか、なんとなくわかった。

 

 本当は彼女も篁さんと名前で呼び合って、もっと仲良くしたかった。、

 

 だけど篁さんは、友達にはすごく甘くなってしまう人だから――そんな優しい関係になったら、自分も篁さんも衛士としてダメになってしまうから。

 

 だから自分は篁さんのライバルのままでいようと、そうしたのだ。

 

 「上総。どうしてあの時、私を置いてどこかへ行ってしまったの?」

 

 「…………」

 

 「ずっと待っていた。いつかワケを話してくれるんじゃないかって。でも、もう一度逢えて、いっしょに仕事をしてたら、そんなことはどうでもよくなって……」

 

 「でも、やっぱり気になって。ねぇ上総に何があったのか、教えて……ングッ!?」

 

 話せない。

 

 だからもう一度、あの時のようにごまかすさ。ずるいやり方で。

 

 あの時のように深い深いキスで彼女の口をふさぐ。

 

 唇と胸元のやわらかさが、体温が、さらに愛しさを加速させる。

 

 このまま押して最後までヤっちゃおうか――

 

 ゴンッ

 ―――!?

 

 殴られたようなものすごい頭痛で邪念が消える。

 うるんだ瞳の篁さんから、そっと体をはなす。

 

 「上総(かずさ)……」

 「唯依(ゆい)……」

 

 それでも、甘あまな友情ゴッコの時間は終わり。

 彼女のぬくもりを求める心に全力であらがう。

 篁さんのライバル役もしっかりやらなきゃな。

 

 ――パシッ

 

 篁さんの頬を思いっきりはたいた。ケガをした右腕で。あー痛い。

 篁さんは頬をおさえて目を見開いてオレを見ている。

 

 「子犬みたいな目で見るのはやめなさい。これからXFJ計画再開の準備は山ほどでしょう」

 

 「は、はい。機体チェックを整備兵に指示したり、開発プログラムのスケジュールを組んだりで、今日は眠れません」

 

 「ならば行きなさい。今度あった時、あなたの開発主任の成果をしっかり見せていただきます」

 

 「――はいッ。見てください。吹雪弐型(セカンド)を山城さんのゼータと模擬戦が出来るようなモノに仕上げてみせます!」

 

 「ふふっ、大きく出ましたわね。なら次の勝負は互いの戦術機で、かしらね」

 

 「ええ、勝負は一勝一敗。次に逢ったときに決着をつけます」

 

 

 互いに敬礼を敬礼で返し長く見つめ合う。この時を惜しむかのように。

 

 彼女の凛々しく可愛い顔を見てると、唇をかさねた時間がよみがえる。

 

 されどあれは夢。蒸し返すことは許されない。

 

 オレはそっと目を閉じて背を向ける。

 

 彼女の顔を見たままじゃ、とても離れるなんて出来やしない。

 

 やがて背中から足音が聞こえる。遠ざかる。

 

 立ちどまるな。ふり向くな。山城上総の亡霊なんかに心を止めちゃいけない。

 

 野外ハンガー方面玄関の自動扉が開く音がした。彼女が外に出たことを感じると、オレも歩き出す。

 

 「まったく。山百合のころは、こんな関係になるなんて――」

 

 

 

 ―――キュピィーーン

 

 「…………え?」

 

 殺気だ。篁さんが出ていった自動扉の向こうから、スルドイそれを感じる。

 瞬間、悪寒にはじかれ踵を返して駆け出し、扉を抜ける。

 篁さんの姿を探し、戦闘痕の残る茜色に染まったゲート内を見回す。

 

 ――いたっ!

 

 彼女は小さな人形を拾い上げているところだった。

 基地の中にあんな子供のおもちゃ?

 いや! まさかあれは、狙撃ポイントの観測用ダミー?

 

 「篁さん! すぐにふせて――痛っ!」

 

 のばした右腕がひどく痛んだ。声がつまる。彼女に危機を知らせられない。

 これが遊びの代償というのなら、重い。重すぎる!

 

 彼女がこちらを向いた瞬間、なにかに弾かれたように彼女の体が飛んだ。

 

 遅れて「ターーン」とかわいた音が響く。

 

 彼女は倒れ、そこから赤い染みが急速に地面に広がっていく。絶望的なほど、こぼれてゆく。

 

 

 「あっ、ああ……たかむらさあああんっ!!」

 

 

 

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