ゼータと上総   作:空也真朋

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 トータルイクリプスを見返したところ、唯依はユウヤの姉でなく妹でした。(ミラとの関係も結婚前)。なので114話を妹バージョンに変えました。
 しかしユウヤは妹に「キサマのいじけきった精神は不快であり不憫だ。甘えるのもいいかげんにしろ!」とか言われていたの?
 このシーンですっかり姉と思っていたよ。妹にこんな事を言われるユウヤって本当に不憫だ。


118話 大伴中佐動く

 鎧衣左近Side

 

 篁中尉の狙撃負傷。その報が飛び交ったその夜から、XFJ計画調査団の長にしてソ連機導入派の反米国粋主義者・大伴中佐は再び動きだした。

 機密通信室にて向こうに日本帝国の重臣を集め、熱弁を奮ったのだ。

 まったく、嫌なタイミングで猛攻をしかけてくるものだ。技術屋とはいえ、さすが巌谷中佐の政敵。機を見る力は侮れないものだ。 

 

 

 「今からでも遅くない。XFJ計画を中止すべきだ。不知火・弐型は2,5世代機であるチェルミナートルになすすべなく撃墜。この結果こそが現実だ。

 このまま不知火・弐型を正式採用に持っていくなら、極東におけるソ連支配強化の宣伝材料にされるだけだ。帝国は世界に対し恥をさらすことになる。

 

 私はXFJ計画を中止し、ソ連機の導入を図るべきだと考えている。演習プログラムにおいて、開発衛士錯乱事件という痛ましい事故があったとはいえ、ソ連機の優秀性は十分立証された。またチェルミナートルは我が国の運用思想に合致しており十分検討に値する。

 

 このままアメリカに盲従するだけでは、いずれ立ちいかなくなる。先の開発衛士錯乱事件やテロによるソ連の弱体化も、こちらにとっては追い風。好条件を引き出すチャンスだ。

 

 これほどソ連から好条件を引き出せる機会は、もう二度とない。ここでXFJ計画を中止することはアメリカへの圧力にもなる。また米国への通達は、篁中尉の件を理由にすれば何の問題あるまい。しかけるべきと小管は考える」

 

 ――ーとまぁ大伴中佐の主張は、アメリカもソ連も帝国の都合で動くと見る大変ご都合主義的なもの。しかし、これに感化される重臣の方々は多いであろうと、感じるものでもあった。

  技術廠会議の終了後に、巌谷中佐に通信をとって善後策を講じることにする。疲れているだろうが、さすがに配慮している場合ではない。

 

 「いやはや、さすが大伴中佐。あの難事を越えても、まるでお変わりない辣腕ぶり。あの演説に心動かされた方々は大分居たのではないですかな」

 

 「まったく姪の負傷に心傷める隙もあたえてくれんとは。今は俺も十分に議論戦をやれる状態じゃない。このままでは押しきられるかもしれん」

 

 「ふむ、まずいですな」

 

 「ああ、まずい」

 

 しばし気まずい沈黙が流れた。

 篁中尉の負傷とそれに続く大伴中佐の猛攻。ここにきての一連の流れは、XFJ計画をとん挫させるに十分な追い込みだ。

 そしてこの流れを止めるだけの材料は、私も巌谷中佐も持ってはいないのだ。

 

 「……なんにしても、不知火・弐型の性能は素晴らしいものだ。これは当初の要求仕様をはるかに超えている。このデータでどうにか戦うさ。唯依ちゃんのことも今は忘れる。ここで俺が弱くなるわけにはいかんからな」

 

 データがどれだけ立派でも、事は政治。外交戦略の話に置き換わっている。

 大伴中佐の言うメリットに心動かされない政治家は、そうはいまい。このままではマズイ。

 

 「ご立派です。私も北米担当として、何もできなくとも何もしないわけにはまいりません。明日の尋問が終わったら独自に動きましょう」

 

 「……ああ。鎧衣には、疑いのかかったアルゴス衛士の世話も頼んでいたんだったか。弁護士の真似までさせてすまんな」

 

 「お気になさらずに。これも、なかなか面白い経験ですよ」

 

 私の脳内に浮かんだ打開策はなぜかシロッコ氏だ。凡人たる我々にはどうにか出来なくとも、彼なら何かしてくれる。そう思えるだけの何かが彼にはあるのだ。

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城上総Side

 

 篁さんは基地内医療区画ではなく米軍基地(フェアバンクス)へ搬送され、そこの医療センターで緊急手術となった。

 オレは長い事情聴取が終わるとすぐさまZガンダムのコクピットに入り、ハロに情報を集めさせた。とにかく篁さんの生存の成否や狙撃の背後組織と、知りたいことが多すぎる。

 シートの脇の定位置に据えて無言でピコピコ情報を集めていたハロは、やがて話しはじめた。

 

 「とりあえず篁さんは助かる……かもしれない、と思う。さっき延命のための手術が終わって、一週間後に再手術だって」

 

 「本当に重篤患者ですわね。とりあえずは落ち着きましたけど……」

 

 篁さんの命が助かったことは嬉しい。しかしそこまでの重体となると、XFJ計画の開発主任は続けられないだろうし。計画の方はどうなるんだろう。

 

 「まったく『この先どうなってもいい』なんて、篁さんを誘ってしまって。わたくしは大バカ者です」

 

 「いや、上総がどう行動しようと篁さんは狙われていた。むしろ上総が篁さんの側にいたから即死は免れたし、実行犯も自決せざるを得なかったんだと思うよ」

 

 「あれは恭順派の『基地の偉い奴なら誰でもいい』とかじゃなく、篁さんが狙われていたんですの? いったい、どこの者なんです」

 

 「ソ連だよ。篁さんが撃たれた直後、特殊な周波数でロシア語の通信が飛びかったんだ。そして実行犯含め工作にあたったと思われる者達の一斉自決。あれはソ連の特殊部隊だよ」

 

 今朝、まりもちゃんの言っていた問題のソ連が強引な手を使ってきたということか。詐欺だけでなく暗殺までやるとは。許しちゃおけない!

 

 「ハロ、これをソ連の仕業と立証することは出来ません?」

 

 「残念だけど、証拠となるような物は何もない。その上、実行者工作者もみんな自決している。さすがソ連の特殊部隊だね。証拠を消すのにここまでためらいも隙も無いなんて」

 

 「クッ……でも、このままではXFJ計画は中止になって、日本はソ連機の導入なんて事になるんじゃありません? そしてその流れで、日本はボロボロのソ連と組んでアメリカと対立……なんてことに」

 

 「なるかもね。だとしてもボク達には手が出せない。あさってには帰国して香月博士の第四計画に参加しなきゃだし、ボク達の使命からいってもこっちが優先だ。日本が道をあやまろうと、BETAを倒すことの方が大事だよ」

 

 「ですね……そう、なんですけどね……」

 

 仮にオレ達がアラスカに残ろうと、出来ることは何もない。どれだけ悔しくとも、帰国の時間になったら、おとなしく帰るしかない。

 

 だけど無念だ。篁さんやアルゴスのみんなががんばって最高の機体に仕上げた不知火・弐型を、こんな形でとん挫させられるなんて。

 

 あ、ついでにハイネマンさんも。機体設計のこの人が製作メインなんだけど、あんまり知らない人だからついでだ。

 

 「まぁでも、このままソ連の思惑通り、というのも面白くないし。上総にも一つだけ出来ることがあるよ。朝になったら、それを済ませて帰国といこう」

 

 「な、なんです? いったいわたくしに何が出来るというのです?」

 

 「この件、パプテマス・シロッコさんに託そう。あの人ならこの難問をどうにか出来る答えを見つけるかもしれない」

 

 「あの人に借りを作るんですの? 後が怖い気がしますわ」

 

 「借りにはしない。報酬にサイコフレームを渡せばいい。んじゃ早速彼の居場所を探してみるよ」

 

 パプテマス・シロッコか。

 いかに彼が天才でも、いささか畑違いな分野なうえ、彼の日本帝国の伝手は鎧衣さんだけ。

 本当にどうにかしてくれるのか。




 BETA以外の敵はほとんど倒したと思っていたけど、まだ巌谷中佐のライバル大伴中佐は倒しきっていない事に気がつきました。
というわけで、彼にはラスボス前の中ボス役をやってもらいましょう。
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