鎧衣左近Side
ユーコン陸軍基地 談話室前
今朝早くにはじまったステラ・ブレーメル少尉とタリサ・マナンダル少尉の尋問は、四時間もの時間をかけてやっと終了した。
いやはや昨日までの尋問は、もうすぐこの無為なやりとりも終わりそうであったのだが、篁中尉の狙撃事件があって、まだしばらく続きそうだ。
「ヨロイさん、どうもありがとうございました。……あら、タリサ。待っていてくれたの?」
ブレーメル少尉より先に尋問を終えたはずのマナンダル少尉は、談話室前で彼女を待っていた。不機嫌そうに腕を組み、落ち着きなさげに体をゆらしている。
「ああ。それで? どうだった」
「相変わらずよ。つまんない事を何度も聞かれたわ。ま、ヨロイさんが時間を区切ってくれたから、大したことはなかったけどね」
「オッサンにゃ感謝だな。あのクソ尋問管、タカムラが撃たれてケツ叩かれたみてえだぜ。
私は「いえ、お仕事です」と返しておく。
「ユイ……ね。まさか、まだ残党が基地内にいたなんて。どうにか大事なければいいけど」
「カズサはゼータにこもりっきりだ。目の前で血まみれのタカムラ見て、自分も撃たれかけたんで、さすがにショックだったんだろうよ」
「ええ……XFJ計画はどうなるのかしらね」
しばし二人は気まずい沈黙で見つめ合う。
言いにくいことでもあるのかと思ったが、その通りだった。マナンダル少尉は思い切ったように切り出した。
「なぁ。ナタリーのこと、どう思う? 本当に恭順派の仲間だったのかよ」
それは彼女らの共通の友人であり、彼ら衛士の行きつけの酒場ポーラ・スターの従業員ナタリー・デュクレールのことであった。
彼女はキリスト教恭順派のメンバーでありスパイであった。そして二人はとくに親しい友人であったため、DIAから彼女らも恭順派の仲間ではないかと疑いをかけられているのだ。
「ポーラ・スターは恭順派の前線基地だった。その従業員のあの
「なんだよ! ステラはあのクソ尋問管の言う事を信じるのかよ!」
「タリサ。事実に目をつむるのは良くないわ。どう考えても、そうとしか考えられないでしょう!」
「うるせェ! 少なくともアイツの口からそうだって言われるまでは、ぜってぇ信じねぇ!」
私は例の話を切り出すのは、ここだと思った。
気の重い話だが、彼女らに通さずにはいられないことだった。
「マナンダル少尉、ブレーメル少尉。よろしければ、これからおつき合い願えませんか。会って頂きたい方がいるのです」
「ヨロイさん? 会ってほしい方……ですか。アルゴスは全待機ですので、かまいませんが。どなたでしょう?」
「それはここでは言えません。それでも会っていただけますか?」
「ま、アンタにゃ世話になってるしな。あのクソ尋問をどうにか終わらせてくれた礼につき合ってやるよ。ステラはどうする?」
「……私も行くわ。ここに居ても気持ちが沈むだけだもの」
「だな。タカムラは大丈夫なのか、XFJ計画はどうなるのか、なんて考えるのは、もうあきたぜ。」
「残念ながら、もっと気が沈むお方かもしれませんがね」
ふたりは外出許可を取り、私の車に乗せると基地を出る。
歓楽街《リルフォート》を抜けて、港に近い一般居住区にまで車を走らせる。
やがて郊外のさびれた一軒家前で止めた。アラスカ湾の景色と港が見える、潮風のきつい場所だ。
「ここはアンタの家か?」
「短期で借りている拠点といったところですな。あなた方の弁護を引き受けるにあたって、もう少しアラスカにとどまらねばならなくなりましたのでね。まぁ、この場所に居を構えたせいで、思わぬ捕り物があったのですが」
中に入ると、そこにはシロッコ氏が椅子に座たままで迎えた。イーニァ嬢も居るが、あまり人目には触れさせたくないので、あらかじめ奥に引っ込んでいてもらっている。
「やぁ、アルゴス小隊のブレーメル少尉とマナンダル少尉。また会うことになるとは思わなかったが、久しぶりだ。ブルーフラッグで少しばかり挨拶して以来か」
「ああっ、お前は……!」
「大東亜連合エゥーゴの……パプテマス・シロッコ? どうしてここに」
「なに、私は鎧衣くんと組んでいるのでね。彼がしばらくとどまるというなら、つきあわねばならん」
「ハッ、面白れえじゃねぇか。で、ヨロイがどうしてアタシらをアンタに会わせたがったんだ? 模擬戦でもセッティングしてくれるってんなら嬉しいがよ」
「いいや、私は君らに用などないよ。まぁ説明より会った方が早いだろう。向こうの部屋だ。少しばかり覚悟して入りたまえ」
シロッコ氏の促しに応じて、私は二人を奥の寝室前に案内をした。
扉の前でブレーメル少尉は少し不安そうな声で聞いてきた。
「ヨロイさん。その人物というのは、どういった身分の方なのです?」
「恭順派の残党です。この場所に居を構えたせいで、国外へ逃げる途中を偶然シロッコ氏が捕らえましてね。そのままDIAにでも引き渡してもよかったのですが……やはり一応は、あなた方へ引き合わせてからと思いましてね」
「話がわからねーな。そいつがアタシらに何の関係があるってンだ?」
「いえ……ヨロイさん。まさか?」
「彼女とは親しいのでしょう。彼女との関係が問題になって、DIAにつきまとわれているくらいですから」
「「―――!!!」」
バァァン
その言葉が引き金になった。はじかれたようにマナンダル少尉は乱暴に扉を開けた。
「ナタリー!」
彼女はベッドの上で大の字で寝かされ、四肢それぞれを手錠で拘束されていた。そして猿ぐつわも嵌められている。昨夜シロッコ氏が彼女を捕らえたと連絡してきた際、私が指示した通りの状態だ。
「ずいぶん厳重ですね。ここまでする必要が?」
「自決防止ですよ。手、足、口。どれかを自由にさせてしまえば、どのような手段で自死するか分かりません。彼女は宗教テログループのメンバーなのですから。昨日の件を考えますと、用心せねばなりません」
「……そうですね。ありがとうございます」
「それで? 彼女と話しますか」
「タリサが先に話をするでしょう。その後は、私が……どうするんでしょうね」
ブレーメル少尉は、マナンダル少尉が乱暴にナタリー嬢の猿ぐつわを外しているのをぼんやり見ていた。これから彼女をどうするのか、大いに迷っているのだろう。
さて、私はどうするか。
XFJ計画存亡と日本の進退の危機だというのに、面倒なことになったものだ。
ここから、どうこの件を解決にもっていくのだろうか。