オレは全力で逃げて、元のハロのいる場所へとたどり着いた。
そこには『亜空間からの再構成』とやらを完了させたゼータがあった。
だが、そこに帽子とスーツの男が追いついてきてしまった。
そしてオレの前に立ち、ちょっとした剣呑なにらみ合い。
「いやはや。やはりあなたが”z”の搭乗者だったのですな。いったいどこの機関がこれを作り上げたのです?」
「アナハイム・エレクトロニクス社………ですかしら? 多分」
多分、どこかの世界にあるA・E社が開発したゼータをここの世界に持ってきたんだと思う。
「アナハイム・エレクトロニクス社………聞いたことがありませんな。どこの企業です? それに多分とは?」
「……………いえ、
結局のところ何を言っても確証のない推論ではあるし、それ以前にこの男に説明する義理もない。
「…………そうですか。では………」
男は懐に手を入れた。
すわ、拳銃か!? と身構えたオレに反し、男が取り出したのは手帳だった?
男は手帳を開いてスラスラ何かを書くと、そのページを丸めてオレに投げてきた。
「とっておきなさい。あなたの選択肢の一つです」
そこにはとある電話番号が書かれていた。
数字だけで他には何も書かれていないが、電話番号でいいんだよな?
「もし、この日本で助けなり便宜をはかってもらいたいことがあれば、そこに電話して『オオタガミさんのご紹介にあがりました。小豆の小売りの仕事を探しています』と言いなさい。力になりましょう」
暗号つきの連絡先か。どこにつながっているやら。
「ずいぶん回りくどいんですのね。ここでわたくしを捕らえた方が早いのではなくて?」
「ここであなたを捕らえても、うま味は少ないのですよ。それよりは協力関係になりたいのです。もう一度自己紹介しましょう。私の名前は鎧依左近。覚えておいてください。では………」
そう言って男は背を向ける。そんな彼に、見逃してくれたお礼に一つだけ情報をあげることにした。
「鎧依さん。この機体の名は
「Zガンダム…………これはどうも。おっと、そうこうしているうちに彼女に追いつかれてしまいました。私はここで消えるので、彼女のお相手はまかせます」
男はそう言うと、オレに追いついてきた時と同じように疾風のごとく走り去った。
「ハァッ……ハァッ…山城……さん、どうして逃げたんです?」
追ってきた彼女は、やはり篁さんだった。
無視して出発してしまえばよかったものを、つい話しをしてしまった。
そして不覚をとって手首をつかまれてしまった。
「でも生きててくれて嬉しいです。山城さん」
それでも彼女のまなざしは優しく、オレを慈しむようだった。
その潤んだ瞳に吸い込まれ、しばし見つめ合うオレと篁さん。
その慈愛にみちた幼くも美しい顔に見惚れた。されど彼女は向こう側の人間。
「如月中尉とおじさ……巌谷中佐のところへ戻って説明しましょう。逃げちゃって立場が悪くなったかもだけど、一緒に謝ります」
篁さんはそう言うが、オレは行けない。斯衛軍に行くということは、ハロをそこに引き渡さなきゃいけないことだ。それはハロを……晴郎を売るということに等しい。
だけど篁さんのオレの手首をつかむ手は強く、簡単にはふりほどけそうもない。
仕方なくオレはこう言った。
「そうね。ありがとう篁さん。こんなわたくしの力になってくれて」
「いいえ、いいんです! 私達以外の同期の子はみんな死んじゃったけど、あの子達の分まで二人で一緒にがんばりましょう」
オレの知らない少女達の顔がうかんだ。この子達、みんな死んだのか。むごい戦争だ。
「それにしてもこの機体、どうしたんです? あの時、山城さんをさらった人はどこに?」
不思議そうにゼータを見上げる篁さんの、凜々しくも可愛い顔を見ながら覚悟を決めた。
オレは女ジゴロになると。
「ねぇ、篁さん」
振り向く近すぎる彼女の顔―――
「え? 山城さ……………ングッ!?」
―――その柔らかそうな唇にキスをした。
実際柔らかかった。
深く深く、この体にある彼女への想いを形にするように抱き寄せてキスをした。
篁さんの驚いたような、とまどったような、そんな顔に罪悪感チクリ。
やがてゆっくり唇を離し、彼女の手を振りほどき、彼女をつきとばした。
「あっ!?」
よろけ、尻餅をつく彼女。
オレはその隙にゼータの手に乗り、胸部のコクピットハッチまで上げてもらう。
「でもね。わたくし、友達を売ってまで偉い人に頭をなでられたくないの」
キスを逃げる道具にするなんてオレは悪い奴だ。
その下から篁さんの叫びが耳をかすめる。
「え? え? 山城さん? 逃げちゃうんですか? どうして!」
「篁さんには関係ありません」
「本当に………本当に家とか軍のこととか捨てて行っちゃうんですか!?」
「ごめんなさい」
「私、山城さんとずっと一緒にいたかったのに! また一緒に訓練やりたかったのに! 私も置いていっちゃうんですか!?」
「ごめんなさい」
「ばかっ! 山城さんのばか!
――――ふと、模造刀のうち合う音が聞こえた。
この体に残る記憶。篁さんと訓練で競い合った大切な思い出が浮かぶ。
そして思い出すように知った。君の名は――――
「
膝をついて泣き出す彼女に背を向けコクピットに入る。
競い合ったあとの握手も二度とできない――――
………何を言っている。そんなこと、オレ自身したこともないだろう。
山城上総の記憶が呼ぶせつなさを感じながら、コクピットハッチを閉めた。
「ばかです。ハロ、出してください」
「了解。ずいぶんおみやげを引き連れてきたね」
ゼータは勢いよく走り出した。
モニターに小さくなる、泣いている少女をいつまでも眼で追った。
ハロは十分にゼータのスピードを上げた状態でバーニアをふかし空へ。
そこからウェイブライダーに変形してより高度をとる。
「ユーハヴコントロール。レーザーが来るからお願い」
BETA支配地域から200キロは離れているだろうに、相変わらずとんでもない狙撃能力だ。
しかしニュータイプ相手にもう長距離射撃は通用しない。
「アイハヴコントロール。おまかせなさい。光の速さのレーザーも、百キロもはなれているなら余裕ですわ」
ピキーン
さっそくレーザーの気配を感じたオレは、軽く機体をひねり第一射をかわす。
すると通信を示すランプが点灯した。
「上総。もの凄い量であちこちから通信がきちゃったよ。斯衛軍、帝国陸軍、帝国海軍沿岸警備隊、国連軍日本支部、米軍第7艦隊、情報省、城内省軍監………」
「すべて切りなさい。無視してかまいません」
「そうだね。日本を出て行くんだし、挨拶なんて誰にもする必要はないよね」
「その通りです………いえ、一人いましたわ。挨拶を送るべき相手が」
オレは大きく舵を切った。
「あれ? 方向が違うよ。これじゃ内陸側だ」
「だからご挨拶ですわ。つまらない感傷にお付き合いくださいな」
少しだけ戻ったその場所に、やはりまだ彼女はそこにいた。
泣くのをやめ、レーザーを華麗にさけるウェイブライダーを不思議そうな顔で見上げている。
―――――『山城さん。あなた、生きていたの?』
そんな言葉の噛み跡をオレの耳に残した少女。
篁 唯依
彼女を見ると、やはりオレの中の山城上総がざわめく。
だから届かなくても、聞こえなくても、それでもオレの本心を眼下の彼女へ送る。
「篁さん。あなたの記憶はあるのに、わたくし自身はあなたのことを何も知らない。だからいつかあらためて本当に知り合いましょう。その日まで今はさよならですわ」
眼下の彼女のはなむけに一度だけ大きく旋回すると、海岸へと進路をとった。
スポットライトの歓迎のようなレーザーをかわしながら花道をゆく。
そのままウェイブライダーに海岸を越えさせ、はるか彼方へと飛行させた。
いちおう、今回で終了です。
実は自分の執筆活動はのメインは『小説家になろう』のファンタジー小説『竜眼でゴブリンゲーム』というものを書いているんです。
ですが、久しぶりにマブラヴ小説のアイデアが出たので、短期連載として書いてみたました。
ちょっとマブラヴ世界にガンダムを暴れさせようと思って書いたのですが、続きも読みたいという人も多いので、向こうで1000ポイント取れたら『ゼータと上総』のトータルイクリプス編とか書いてみようと思います。
なので連載終了にはしないでおきます。
それでは応援ありがとうございました。