ゼータと上総   作:空也真朋

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120話 どこにへも行けないナタリー

 ステラ・ブレーメルSide 

 

 「ナタリー! お前、なにやってんだよ! どうして、お前が恭順派なんだよ!」

 

 タリサはナタリーにつけられている猿ぐつわを乱暴に引きはがした。

 ナタリーに覆いかぶさり叫ぶその姿は、まるで泣いているようだった。

 

 「アメリカ司法局の捜査官ってクソ野郎に何度も言われた! お前が恭順派のスパイだったって! テロどもはポーラスターを拠点にしてたって! なんとか言えよ! ウソなんだろ? お前があんなイカれ人殺しどもの仲間なんて! 間違いなんだよな!」

 

 わめくタリサを悲しそうに見ていたナタリーは、やがて話しはじめた。

 

 「……タリサ。会いたかったけど……やっぱりつらいわね。本当よ。私は……キリスト教恭順派のスパイ。任務は仲間のユーコン基地侵入のための前線基地設置と情報収集。ポーラスターはそのための店だったのよ」

 

 「このッ……バカヤローーッ!!」

 

 タリサの状態が危ういと感じた私は、すぐさまタリサを羽交い絞めにした。

 

 「タリサ、落ち着いて。とにかくナタリーから、どきなさい!」

 

 下のナタリーと目が合った。

 乱れた栗色の髪の下のまなざしは、懐かしそうに私を見ている。

 

 「ステラ、あなたも久しぶり。合わせる顔なんてないけど……やっぱり会えてうれしいわ」

 

 「いつもの悪い冗談だったらよかったのにね。あなたが恭順派のスパイだったなんて」

 

 「そう。私はあなた達ユーコン陸軍基地の敵。そして敗軍の兵。好きにするといいわ」

 

 私はナタリーと黙って見つめ合う。

 私は……スパイだった友人を見て、何を感じているのだろう。

 かつて失ったヨーロッパの思い出を語り合い、奪還を誓った彼女に。

 耐えきれなくなってヨロイさんに話をふる。

 

 「ヨロイさん趣味が悪いですね」

 

 「死体のほうが良かったですかな。それとも、あなた方に知らせずアメリカ司法に引き渡すべきでしたか」

 

 「テメ……ッ!」

 

 彼につかみかかろうとするタリサを私はおさえる。うるさいので口もふさぐ。

 

 「失礼しました。何より先に、私たちに知らせて頂いたことは感謝します。それでナタリーを、これからどうなさるおつもりです?」

 

 「無論、アメリカ司法に引き渡します」

 

 「ムグッムグッ!」

 「…………当然ですね」

 

 「まぁ、ごゆっくり。私はシロッコ氏と話があるので、しばらく外します。……ああ、それと」

 

 ヨロイさんは何か思い出した、と足を止めた。そして声をひそめた。

 

 「どうにも彼女、情報をいくつか隠しているフシがありまです。何か隠しているなら、懐柔して吐かせてください」

 

 「なるほど。日本帝国はアメリカより率先して恭順派の情報を手にしようというわけですね」

 

 「それもありますがね。彼女、ヘタに情報を隠したままアメリカ司法に引き渡されれば、おそらく酷い目にあいます。今回の一件で、アメリカは世界から大きく信用を失いました。ゆえに恭順派への尋問は苛烈を極めるでしょう。拷問も許可される可能性も高い」

 

 「…………ッ」

 「ムグゴガッ!」

 

 「ゆえに彼女が向こうでヘタに隠し事をしないよう、ここで情報をすべて吐かせておこうというわけです。最初からすべてを洗いざらい吐けば、待遇も少しはマシでしょう」

 

 ヨロイさんは今度こそ部屋から出ていった。

 とにかく彼女と話そう。

 どんなにつらくとも、もう逢えないかもしれないんだもの。

 

 「ナタリー……どうしてなの。どうしてあなたがテロリストの仲間なんかに」

 

 「もし私がマスターの使徒でなかったなら、私たち会うこともなかったわね。私は役目のためにこのアラスカに来たんだもの」

 

 「ええ。……やはり恭順派マスターの理想とやらに感銘を受けて?」

 

 「みんなマスターがくれた夢を見ていたの。飢えながら何時間も歩かせられて……どこにも行き場のない私たちでも、いつか救われるっていう素敵な夢」

 

 「………………」

 

 「でもね。私は……覚めちゃったわ。仲間が人を殺したのを見たとき、何かが間違っているって」

 

 ええ、大間違いよナタリー。

 でも、正解なんてどこにもない。それが難民の運命。

 テロリストの親玉であろうと、生きられるならついていくしかない。そうだったんでしょう。

 

 「だから私は切り捨てられた。また行き場のない身に逆戻りね」

 

 その通りね。私にも、あなたの居場所はつくってあげられない。

 

 「タリサ、とにかく一度出ましょう。ナタリーと話すのは冷静になってからがいいわ」

 

 「いやだ! アタシはまだナタリーと……」

 

 「退くのよ! これからのこと考えなきゃならないんだから!」

 

 タリサを無理やり引っ張っていく。

 結局、私にはナタリーをどうすべきかなんて考えつかない。かける言葉もわからない。

 ただ、こうやって逃げるだけだ。

 

 「クソッ、ナタリー! ぜったい助けてやるからな!」

 

 「やめなさい! 私たちは衛士なのよ。そんなこと……許されるわけない!」

 

 そう。私たちは人類の盾、衛士。

 基地で多くの人間を殺し、世界を混乱に陥れたテロリストを助けるなんて……あってはならない。

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城上総Side

 

 ユーコン陸軍基地 外来用多目的ビル客室 大伴中佐の部屋

 

 まいった。シロッコの居場所はアラスカ港のちょっと離れた場所にあると分かって、どのように車を手配するか迷っている所を大伴中佐につかまってしまった。

 帝国のお偉いさんなだけに断ることも出来ず、こうして部屋にまで招かれてしまった。

 

 「山城中尉。先のテロリストによるユーコン基地占拠事件。それを総戦技演習に落ちた未熟な訓練兵を率いての大活躍は大したものだ。その後のレッドシフト発動も阻止したという。貴官の武勇伝は誇張ではないと多いに感心したものだよ」

 

 「恐縮です大伴中佐。それで何のご用でしょう。わたくし、帰国前の準備で任務中でありますが」

 

 「うむ。では本題に入ろう。山城中尉。貴官、帝国軍に入る気はないかね? そうなった場合、私は大いに貴官を引き立てよう」

 

 「……は? 技術士官にでもなって、中佐殿の部下になれと?」

 

 「うむ。貴官の持つZ技術。それを開示し帝国のために役立ててほしい。貴官の祖国への献身には大いに期待している」

 

 ああ。何の話かと思えば、宇宙世紀のガンダム技術がほしいと。

 しかしオレを勧誘したところで、それは手に入らない。その素材は地球産のものではなく、宇宙からの物質を高度に進んだ技術で精製したものだからな。

 さらに神様製の謎技術も入っていて、この世界の人間にはとても理解不能のシロモノにまでなっているのだ。

 

 「お断りします。わたくしの祖国への献身は、国連軍の中にて各国の利害調整をはかりながら示すつもりです」

 

 この世界の日本は古き悪しき時代の大日本帝国そのものだからな。愛国心拗らせた奴がムチャクチャやるし。国連軍で距離をとるのが正解だ。

 

 「このまま、あの女狐の下にいても良いことなどないぞ。いかに功績を立てようと、貴官は上に行くことは出来ない。正体不明の技術機関のもとで作られた戦術機などを使う貴官は、どこの組織にも信用されることはないだろうからな」

 

 「ご忠告、ありがとうございます。ですが祖国への献身は見返りを求めてするものではないと、心得ております。話がそれだけでしたなら、下がらせていただきます」

 

 「クッ、後悔するぞ山城中尉。これから帝国は大いな歩みをはじめる。その流れには貴官の上司のメギツネも振り落とされる。貴官が生き残る道はひとつだけ。私の下に来ることだけだ」

 

 無視だ無視。誇大妄想のじいさんなんかにつき合っていられない。 

 と、部屋から出ようとドアノブに手をかけようとした時だ。

 その前に「ガチャリ」とドアが開き、ドヤドヤと制服軍人が入ってきた。

 

 いや、扉の向こうや部屋の周囲に人がいるのを感じてはいたが、連中に殺気は感じられなかった。

 大方、この愛国心大暴走のじいさんが、アメリカ諜報機関に目をつけられて監視されているのだろうと放っておいた。

 無論、反米的な言動をしたり頷いたりしないよう注意はした。

 しかし―――

 

 「我々は米軍MPです。日本帝国オオトモ中佐、および国連軍日本支部ヤマシロ中尉。申し訳ありませんが、お二方を拘束させていただきます。拘束事由は反アメリカ行為疑義参考人です」

 

 ええっ? この愛国心大爆発のじいさんは、反米なことは疑義とかじゃなくその通りだろうけども。

 でも、どうしてオレまで?

 

 




 この話は最後までトータル・イクリプスの二次創作のつもりです。なので上総は夕呼せんせーの部下とはいえ、日本に帰って彼女の作戦に参加するとかの展開はないです。最後までアラスカで話を進めます。ラスボス戦あたりではアラスカを出るかもですが。
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