ゼータと上総   作:空也真朋

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121話 ナタリー嬢の助かる道はあるか?

 ステラ・ブレーメルSide

 

 アラスカ港郊外 借家家屋居間

 

 「チッ、デカパイを思いっきり押し付けやがって。頭がステラの乳臭くなっちまったぜ」

 

 この子はもう少し女性のデリカシーというものを持てないのだろうか。……無理か。

 それはともかく、タリサと二人、鎧さんとシロッコさんのいる居間に来ても、何か良い考えが浮かぶはずもない。

 ナタリーのために何が出来るかわからない。

 そもそも私たちは衛士。テロリストのために何かをするなんて――

 

 「どうにも場が暗くなってしまったようだね。どうかね。ここらで一つ遊びでもして気分転換しては」

 

 ふいにシロッコさんが言った。遊び?

 

 「ハア? 場ァ暗くして(ワリ)ィがよ。とてもそんな気分にゃなんねーよ。シロッコさんよォ」

 

 「お題は『ナタリー嬢の助かる道はあるか?』だ。これについて皆で考えてみようではないか」

 

 「「「――!!?」」」

 

 場の空気が変わった。

 誰もが「どういうつもりだ?」という目でシロッコさんを見る。

 当のシロッコさんは面白そうに微笑みながら私たちの反応を見ている。

 

 「シロッコさん。どういう事です。なぜそんな……」

 

 「恭順派スパイを助ける。これは公的機関に所属している君たちには、本来許されないことだ。が、遊びの思考実験としてなら考えてみるのも許されるだろう。どうだね?」

 

 ヨロイさんは「ヤレヤレ」といった風に頭を掻いた。

 

 「まぁ、たしかに場は暗いことですし。思考実験としてならよろしいのでは? ブレーメ少尉、マナンダル少尉」

 

 「おうよ! 遊びだな、遊び!」

 

 「いいですね。それで、ナタリーが助かるにはどんな方法があります?」

 

 シロッコさんは面白そうに話す。ヨロイさんは「仕方ない」といった風につき合う。

 

 「そうだな。国際的テロリストを捕まえた場合、それを拘束する権利は捕まえた者の国の者にも与えられる。これを使おうか」

 

 「いやしかし、それがテロの起こった現場となれば、その国の司法に引き渡されるのが通例ですが? その国の国民感情に配慮せねばなりませんし」

 

 「だが権利はある。ごねる事も可能だろう。ナタリー嬢を捕まえたのは私だが、大東亜連合では後ろ盾が弱い。ここは鎧衣君の日本帝国に引き取ってもらうのが最良だろう」

 

 「そうですな。ナタリー嬢が組織との関係を解消し贖罪に務め情報をすべて開示するなら、更生プログラムを受けることも可能でしょう……”遊び”としての意見ですよ?」

 

 ヨロイさんは話が現実的なものになりつつある事を感じたのか、少し声を大きくした。

 

 「悪趣味な遊びの話はここまでにしましょう。たしかに私はナタリー嬢に多少同情し、お二人を彼女に引き合わせたりもしました。が、事が日本帝国を動かすとなれば話は別です。帝国を動かすには、そこに国益がなければなりません。帝国にアメリカ司法の捜査にお邪魔させるだけの利が、ナタリー嬢を助けることにありますか?」

 

 「それは……ありません」

 

 「クソッ。やはりダメか……ダメなのかよぉ!!」

 

 やはり”遊び”は”遊び”。ナタリーを助けることなんて―――

 

 「フフフ、面白い。遊びに興が乗ってきたではないか」

 

 ――え、シロッコさん?

 シロッコさんはまだ笑っていた。

 私はそんな彼が、ひどく眩しいもののように思えた。

 

 「まだ続けるのですか。いったいナタリー嬢を助ける事に、日本帝国にどのような利があるというのです?」

 

 「利は日本帝国そのものではなく、XFJ計画関係者にある。計画は現在、開発主任タカムラ中尉の重篤と親ソ派の台頭により、とん挫の危機にある。そんな話だったね」

 

 「……ええ、先ほど話した通りです。それが?」

 

 「親ソ派の動きを止める。かわりにナタリー嬢を引き取ってもらおう。どうだね?」

 

 「……なるほど、すでに答えを見つけていましたか。しかし、わかりませんな。ナタリー嬢を助ける事に、あなたに何の利があるのです?」

 

 「さっき言った通りだ。『興が乗った』理由などそれで良いだろう。どうだね?」

 

 「たしかに問題は、それが取引きとして成立するか否か、ですな」

 

 ヨロイさんはしばらく考えた後に言った。

 

 「いいでしょう。末端信者のひとりくらい引き取ることは可能です。それで、その方法とは?」

 

 「落ち着きたまえ。さすがに他国の衛士のいる前で、この話をするわけにはいかんだろう。場所を私の部屋へ移そう」

 

 シロッコさんはヨロイさんと共に彼の部屋へと行った。

 そこでどんな話し合いがなされたのかはわからない。

 だが、ヨロイさんは部屋から出てくるなり言った。

 

 「ブレーメル少尉、マナンダル少尉。急いで戻りましょう。どうやら忙しくなりそうです。ああ、ナタリー嬢は私が責任をもって保護いたしますので、ご心配なく」

 

 事の正否を緊張しながら待っていた私たちは感嘆の声をあげた。

 

 「うおおおっ、アイツ、やりやがったぜ! 戦術機以外でもスゴ腕か!」

 

 「ええ……本当にナタリーは助かるのね」

 

 ナタリーへの挨拶もそこそこに、私達は基地に帰るため車に乗った。

 見送りに来たシロッコさんが来たのでお礼を言った。

 

 「シロッコさん、本当にありがとうございました」

 

 「ああ。ナタリーをあのクソどもに渡さねーですむのはホンットありがたいぜ」

 

 「だが、彼女の罪は罪。司法の筋を曲げた分、しっかり更生させたまえ」

 

 「はい。……だけどシロッコさんはそれでいいんですか? シロッコさんには何の利益もないのに、これだけの事をしてもらって」

 

 「たしかに、この件は高く売るつもりではあったがね。だが、まぁいいさ。三人の女性の心を救ったのだ。その場の気まぐれとしては上等だ」

 

 久しぶりに男の人をカッコイイと思った。

 最近は戦術機の腕の良い人を見ても、さほどは思えなかったのに。

 

 「いつかお礼をさせてください。このままでは私の気がすみません」

 

 「――そうか。君の心の負荷となれば、これ位はもらっておこう。失礼するよ」

 

 え?

 

 「お、おいッ! お前、ステラになにを――」

 

 シロッコさんは――

 

 私に口づけをした。

 

 車越しにほんのわずかな時間。

 

 されどそれは、私の中のなにかを震わすのに十分なほど甘く――

 

 「ではな。礼はこれで十分だ。行きたまえ」

 

 シロッコさんは背を向けて行ってしまった。

 車が発進しても、私はまだ呆けたまま。

 タリサは私の顔をのぞきこんで、鋭い目でにらみつける。

 

 「おいっステラ。あんまアイツにデレデレすんなよな。ナタリーを助けた奴を悪くは言いたくねーがよ。アタシの勘は告げている。アイツはヤベー奴だ」

 

 「そんなこと――あるわけないじゃない」

 

 まだ夢を見ているみたいだった。

 車の窓の外をぼんやり見ながら、まだ私の心は彼のことを考えていた。

 

 




 相変わらず、こういうモノを書くとケツが痒い。
 ステラは将来レコアと同じ運命をたどりそうな気がしてきた。
 なんでシロッコをハーレム系主人公みたいにしたんだか。
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