ゼータと上総   作:空也真朋

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122話 良い知らせと悪い知らせ

 ユーコン陸軍基地 外来用多目的ビル客室 山城上総の部屋

 

 いきなり米軍MPに拘束されたが、とられた措置は自室での軟禁だ。

 なんでもオレには外出せずここで大人しく待機していてほしいとのこと。 

 尋問が無いのはありがたいが、何も始まらないというのもイライラする。

 

 「もう夕方ですか。本当に今日は無為な時間をすごしたわ。篁さんのことといい、どうして帰国直前にまでいろいろ起こるのか……あら?」

 

 扉からノックの音がした。

 ようやく向こうからのアプローチ。

 気配からたった一人の来訪。なら、とりあえず手荒な真似はないらしい。

 オレは入室を促す。

 

 「ヤマシロ中尉殿、入室失礼いたします」

 

 そいつを見て、ちょっと驚いた。そいつが妙な敬語を使っているのも含めて。

 

 「ユウヤ……あなた、この部屋の入出許可が出たんですの?」

 

 それはユウヤ・ブリッジス。奴は姿勢を正し敬礼をした。

 

 「はっ。自分はれっきとしたアメリカ軍士官ゆえ情報機関からも信用あるらしいです。ゆえに状況説明に選ばれました」

 

 なるほど。加えて奴は南部の名門ブリッジス家の血統。アメリカ情報部からも、かなり信用のおける人物だと見なされているのだろう。

 ゆえにこの外交的にかなりマズい状況の対応に選ばれたというわけか。

 

 「それはありがたいですね。でも、そのクソ寒い敬語は何事です? ウケると思ってやってるなら、ただただ死ぬほどつまらないだけです。やめてください」

 

 ピキッ

 

 「ヤマシロ中尉には、小官がクソ寒いジョークを面白いと思ってやっているように見えるのですか。小管は少尉。中尉殿に敬語で話すのは当然だと思われますが?}

 

 「あ」

 

 そういや、オレは中尉だったっけ。

 いやでもブルーフラッグの最中、アルゴスのハンガーに行った時は皆と普通にしゃべっていたような?

 あれ? もしかしてあの時、昇進したこと言ってなかったっけ?

 

 「し、失礼した少尉。では状況を説明なさい。反米行為の疑惑で軟禁されているというのに、尋問が始まる様子はまるで無し。そもそも何が問題になって、わたくしが軟禁されているのかも分からないんですから」

 

 「中尉殿に問題はありません。そもそもアラスカ消滅の危機を救っていただいた英雄。上も感謝しております。しかしそれでも、中尉を軟禁せねばならない理由が出来たのです。おせっかいな元同僚が教えてくれたので、説明にまいりました」

 

 「元同僚ってことは、前の所属のエリート戦術機部隊インフィニティーズの? (アメリカの教導隊みたいなものだっけ?) ユウヤの良い友人に感謝ですね」

 

 するとユウヤは露骨にイヤな顔をしてそっぽを向く。

 

 「チッ、あんな奴、友人でも何でもねぇよ。ユイの……篁中尉の義理立てってやつで、行ってやれとよ。まったく。前にちょっとジイさんを褒められたくれェで大げさなんだよ」

 

 「……秒で素に戻りましたわね。面倒臭いから、そのままで話してください。話の進みが遅くてイライラしますわ」

 

 やはり『おせっかいな元同僚』というのはレオン・クゼ少尉のことだな。

 ユウヤのライバルみたいな奴で、『ユウヤはクゼ提督のお孫さんにはケンカごしになって困る』と篁さんは言っていたっけ。

 

 「そうか、ならお言葉に甘えて。こんな話し方でこの話をするのは、しんどいんで助かる。要は政治的な問題ってやつだ。このユーコン基地をテロリストに一時的にせよ占拠された問題で、アメリカの威信低下はいちじるしい。とくに同盟国の離反は可能性ではなくなった……らしい」

 

 「ユウヤが政治の話なんてしてるのは、奇怪な光景ですね。でも、そういった話は聞いています。『日本はアメリカとの従属的同盟を解消してソ連と組んでやって行こう』とか」

 

 「まさにそれだ。あのオオトモ中佐は、離反派の中心的人物と目されているんだと。で、ソイツとZ技術を所有しているカズサが接触した。もし、この二人が手を組めば、太平洋の向こうにアメリカに匹敵する大国が生まれることになる……とか、クソ真面目な顔で言ってた」

 

 「生まれませんよ。日本もソ連もBETAとの戦いでボロボロ。どちらも、とてもアメリカの支援なしにBETA大戦を戦い続けるリソースなんてありませんわ」

 

 「だろうな。だが、アメリカは安全保障には手を抜かない。そういった勢力が力を持ちつつあるなら、全力で潰す……んだと。そういう国だったよ。で、いちおう役目として聞いておかなきゃならないんだが。カズサはオオトモ中佐の離反一派に組したり力を貸したりは無いんだな?」

 

 「ないです。そもそも、わたくしは――」

 

 と、ユウヤの基地内レシーバーが鳴った。

 「ちょっと待て」とオレの話をさえぎり、オレから距離をとって応答する。

 

 「――なんだと? 本当なのか…………ああ、それはカズサに話していいんだな? ……わかった。伝えておく」

 

 何やら意味深な受け答えをして、ユウヤは応答を終える。そしてこちらに戻って聞いてきた。

 

 「カズサ。たった今きた話だが……良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

 

 「本当にその両方が来る事なんて、あるんですね。では、悪い方からお願いします」

 

 「カズサの拘束期間が延びた。副官のジン……ええと軍曹も、引率してた訓練兵の()らもだ。ついでに調査団連中も。おそらくは帰国予定日より延びるだろう」

 

 …………アメリカは何を考えている? 有力な同盟国日本と国際問題になりかねんぞ。

 

 「そんな事、許されるんですか? 仮にも同盟国の兵士を。それに訓練兵の娘さんの中には、日本のお偉いさんの子もいるんですよ」

 

 「ああ、後で全力であやまるつもりだろうよ。だが今は事態の急変ってやつだ。ギリギリまで粘るんだと。もちろん帰国する際の手筈は整えるし、費用も全員分を持つそうだ」

 

 「それが良い知らせ? ナメてんじゃないですわよ!!」

 

 ガタッ

 

 「おい待て! マクラをおろせ! アンタの八つ当たりの的ぐらいなってやりたいが、この部屋で異常があったら、MPが飛びこんでくるんだよ!」

 

 「クッ……」

 

 ユウヤが泣くまでマクラで叩きのめしたかったのに。

 ムカつく気持ちのまま、マクラを放り投げた。

 

 「それに良い知らせは別にある。拘束期間が延びた理由だ」

 

 「なんです、こんなムチャをしてまでの理由って。良い知らせが何で拘束になるんです?」

 

 「本日今朝、日本帝国軍は佐渡島奪還作戦を決行した。要はハイヴ21への攻撃だな」

 

 「なんですって? わたくしが居ないのに、そんな作戦をしたんですか」

 

 「やっぱり知らなかったんだな。で、さっきその結果を知らせてきたんだが……勝利したそうだ」

 

 「はい?」

 

 「日本帝国軍は佐渡島のBETA群に完全勝利。ハイヴ21も制圧し、悲願の佐渡島奪還は成ったそうだ」

 

 完全勝利? バカな……BETAがこうも簡単に?

 

 「人類としてはハッピーだが、これにより日本のアメリカ離れはますます加速すると考えられるんだと。だから、その先の流れを見極めるまで……おい、カズサ?」

 

 どういう事だ? BETAは人類がこうも簡単に勝てる相手じゃない。

 いったい――何が起こっている?

 

 

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