ゼータと上総   作:空也真朋

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 ずいぶん出ていない白銀視点の話です。どうやってもう一度上総のいる舞台に出そうか、そうとう悩みました。


123話 甲21号作戦

 白銀武Side

 

 日本 佐渡島

 

 2000年9月中旬、夕呼先生はついにオルタネイティヴ4計画の要となる00ユニットを完成させた。つまり脳ミソだけだった純夏が、自分そっくりの人工ボディに記憶を移されて起動したわけだが。

 記憶移植にともなう混乱を正す調律作業も、二度目となれば問題なく終了して純夏は完成。

 それに伴い、運用評価試験を兼ねた佐渡島奪還作戦【甲21号作戦】は発令された。

 

 作戦は当初、俺の記憶通りに進行した。

 順調な推移でフェイズ1、フェイズ2へと移行し、俺達A-01部隊は出撃。純夏が駆る凄乃皇・弐型の進行ルートを確保。

 

 「…………来ない?」

 

 最初に感じた違和感は、記憶にあるBETA最初の増援。甲21号からあらわれる師団規模BETA群の報告がないことだった。

 もっとも、こういった状況のズレは並行世界ではよくある事。いずれ報告はあるだろうと、気にしないで作戦を続行。されどその報告はいつまでたっても来なかった。

 

 「BETAはどういうつもりだ? このままでは人間が佐渡島の全地表を制圧するぞ」

 

 思わずBETA側の思考になってしまうほど、BETAは俺達の侵攻に対処しなかった。

 フェイズ3も順調に移行。エコー揚陸艦隊兵団の上陸により佐渡島の80%まで征圧。さすがにこの頃になると、部隊間でもBETAの増援がないことに不安まじりの会話が出るようになってきた。

 

 『BETAのヤツラ、どういうつもりですかねぇ。こんなに出現数の少ないBETA戦なんてはじめてですよ。帝国渾身の大規模作戦だってのに』

 

 『そうですね。ウチの作戦の大半はBETA増援に対処するものだったのに、これじゃやる事がありませんよ』

 

 『間もなく最終シーケンスにはいる。Aー02が上陸した。間もなく予定地点に来るが、予定を変更し荷電粒子砲の試射は行わない。司令部は通常戦力でハイヴ近郊の制圧は可能と判断した』

 

 純夏が来るのか。荷電粒子砲の出番がないとなると、リーディングの実験のみだな。BETAの増援がない理由が判明すれば良いんだが。

 だがA-02こと凄乃皇弐型が到着すると、ありえるはずのない、記憶にあるアレが起きた。

 機体の主機が停止し、機能不全を起こしたアレがおきてしまったのだ!

 

 『白銀! 鑑が勝手に自閉モードになって機能不全になったわ。再起動コードも受けつけない。伊角といっしょに回収に向かいなさい!』

 

 「どうして!? 純夏が不安を感じる要素はみんな排除したはず。純夏が混乱をおこす理由は無いはずだ!」

 

 『今回のは、アンタが経験したのとは別の理由よ。鑑は、BETAのリーディングを指示した直後に異常をおこした。おそらくBETA中枢に何かがおこっているのよ。増援がまったく現れないのも、それが原因だわ』

 

 結局、A-01部隊はそのまま撤退。

 回収作業終了後、ハイヴ突入部隊が反応炉を制圧した報が流れた。

 誰もが熱狂的な歓喜で沸いでいる中、俺だけは冷めた気持ちでとまどっていた。

 

 「反応炉までも征圧されたのに、BETAの動きはなしか。……なにが違う? 前のループと今とでは」

 

 俺と上総がこの世界にガンダムを持ち込んだことで、いろいろな事が変わった。しかしBETAがここまで変わった理由というのは思いつかない。

 手がかりがあるとすれば、純夏がリーディングで何かを視た可能性のみか。

 …………純夏、無事でいてくれよ。今度こそいっしょにBETAのいない世界を見ようぜ。 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 「結局、行って帰ってくるだけのイベントになっちまったな。BETAの波状攻撃に備えての策も、大半がムダになっちまったし」

 

 作戦前は死闘への覚悟でいっぱいいっぱいだったせいで、気持ちがフワフワして落ち着かない。

 しかし佐渡島のことは、もう過去。純夏の異常の原因とBETA弱体化のことに集中しないと。

 

 「夕呼先生。白銀武、入ります」

 

 夕呼先生の私室の扉のコールボタンを押して来訪を告げる。

 ついさっき呼び出しを受けて来たのだが、何かわかったのだろうか。

 入ると、そこには憮然とした先生がいつものように自分のデスクに頬杖をついて座っていた。

 

「白銀、佐渡島解放おめでとう。心より衛士兵士の奮戦に感謝するわ」

 

 「ちっとも嬉しそうな顔をしてないのに、そんなセリフは白々しく聞こえますね。やはり夕呼先生としては面白くないですか。純夏の……00ユニットの不調には」

 

 「まぁね。白銀、アンタの言っていた甲21号作戦とはまったく逆の結果になったわね。佐渡島の奪取は成功。だけど00ユニットのリーディングは失敗」

 

 「ええ、俺もワケワカラン状態です。前の時間軸であれほど苦しめられた物量の波状攻撃は結局ありませんでした。佐渡島を攻められ反応炉まで到達されても、BETAはまったく対処しませんでしたし」

 

 「たしかに……これまでのBETAには考えられない無反応ぶりね。じつはODL浄化処置が終わった時、鑑が短い時間だけど意識を取り戻したのよ」

 

 「ええっ!? 会えますか?」

 

 「ダメよ。またすぐ眠ってしまったもの。今夜はもう休ませなさい」

 

 「はい……そうですね」

 

 「で、その時の鑑のうわ言なんだけどね。『何人もの人の声が聞こえる。何億もの死んだ人の声が聞こえるよ』って、パニックを起こしていたわ。心当たりある?」

 

 「何億もの死んだ人の声? わかりません。そんな言葉は前の世界でも……ない……はずだけど?」

 

 だが『何人もの死人の声』という言葉はどこかで聞いた覚えがある。

 

 どこだ…………前のループじゃない。たしかこっちに来てからの、誰かの話の中で……

 

 「あ。上総だ」

 

 そうだ、それは上総の口からだった。

 

 それは明星作戦の時の話。G弾の直撃を受けた上総とハロは、バイオセンサーとサイコフレームの力でそれを凌いだそうだ。

 

 その際、G弾で死んだ多くの英霊が力を貸してくれたと聞いた。

 

 バイオセンサーやサイコフレームのようなサイコミュ技術は、パイロットの念のみならず死者の念をも力に変えることが出来るそうだ。

 

 となると純夏の聞いた『死んだ人の声』というのは、もしや……

 

 「まさか!!?」

 

 「なぁに、心当たりがあったの? ダメモトで聞いたのに」

 

 「……ええ、サイコミュです。BETAがサイコミュ技術を手にしてしまったんです」

 

 「サイコミュ技術? なぁに、それ」

 

 「それは……」

 

 上総とハロの説明で知った限りのサイコミュ兵器の話をする。

 やはり夕呼先生はあきれ顔。

 

 「搭乗者の念を機体の力に変えるシステム? 搭乗者によっては、周囲の人間や死者の念までも力にする? なぁに、そのオカルト」

 

 「元々は脳波を使った機体制御のシステムだったそうですが。そのシステムを搭載した機体は、ビームの出力が上がったりパワーが異常に上がったり分身したりと、不可思議な現象が起こったそうなんですよ。で、その原因を調べたら、そうだったという話なんですが」

 

 「まぁ与太として聞いてあげるわよ。それで? そんなモノをBETAが手にしたら、ますます手に負えなくなっちゃわない?」

 

 「さっき言った通り、それは死者の念を力にするわけなんですが。ハイヴ周辺の死んだ人達はBETAに殺されたわけですよね? 何億もの人間がBETAに憎悪の念を抱いて死んだんです。その念が力を持ったとしたら、何をすると思います?」

 

 「当然、BETAを攻撃するわね。……なるほどね。そのせいで頭脳級は命令が出来なくなり、BETA弱体化となったわけか。そのサイコミュ技術というのは、BETAにとって猛毒の技術だったのね」

 

 そう言うと夕呼先生は黙り込んで長考にはいった。

 この顔は脳内でいくつものシミュレーションをし、新しい考えを生み出している最中の顔だ。やがて――

 

 「白銀、そのサイコミュ技術というのを知っている限り話しなさい」

 

 「さっき話したのが俺の知る全部ですよ。上総から聞いた限りのことしか知らないんです(あとハロ)」

 

 「ったく。山城はアラスカじゃない。しかもアメリカに拘束されて帰国が延びるって」

 

 「まぁ、帰るのを待ちましょう。アメリカ政府にも厳重抗議をして。ああ、それと今度こそシロッコさんも呼んだ方がいいですね。サイコミュ技術のことなら、彼が一番詳しいはずです」

 

 「ああ、前にソ連で拾った宇宙世紀とかいう世界の奴。前は忙しかったから、会うのを後回しにしたけど。こうなっては、どうしても確保しなきゃね」

 

 またしても長考。だけど今度はさっきより短く。

 

 「……いいわ。アタシもこれからしばらくは暇だし、アラスカへ行くわ。行って責任者に直接文句言ってやる」

 

 「ええ! 急ぎすぎじゃないですか? そんな事しなくても、上総はいずれ帰ってくるんだし」

 

 「急ぐのよ。とりあえずBETAの中枢機能不全の件は、これから全世界に知らせる。それを受けて、ハイヴ攻略は加速度的に進められるでしょう。だけどそのサイコミュという毒を浴びたBETAが、どういった変化を遂げるのか誰にもわからない。専門家二人は早急に確保しておかなきゃ!」

 

 「公表していいんですか? 世界中でハイヴの争奪戦が始まるかもしれませんが」

 

 「だとしても、この隙は見逃せない。この状態がいつまで続くかわからないし、BETAの対応力は甘く見れないわ。そのサイコミュすら対応して己が力にしてしまうかもしれない」

 

 「なるほど。BETA弱体化をついた反攻作戦は各国にまかせる。そして夕呼先生はサイコミュの研究をして万一に備えるわけですね?」

 

 「そういうこと。でも混乱している今の内に重脳級をしとめるのも、同時並行で進めるわ。予定を早めてね」

 

 「ってことは、オリジナルハイヴ攻撃は……桜花作戦は近々?」

 

 「そうよ。時期の決定はこれからだけど、帰国したらすぐと思ってくれていいわ。さ、山城とシロッコって奴と、ついでにまりも達を連れ帰りに急ぐわよ!」 

 

 「お、俺も? まさかアラスカへ行くんですか?」

 

 「ええ、来なさい。山城やまりも達を拘束だなんて、クーデター直後の混乱をついて、跳ねっかえり共が基地を支配してる可能性もある。だからそういった場合、アンタがガンダムで片づけなさい」

 

 「無茶な! νガンダムをどうやって持っていくつもりです? 軍用貨物機に入れても入港を拒否されるに決まってます!」

 

 「こんな事もあろうかと、VIP用航空機に戦術機をこっそり格納できるタイプのものを作ってあるわ。今回はそれを使うわ」

 

 こんな事もあろうかと何てもの作ってあるんです!

 こういうセリフ言う奴は、趣味で裏でヤバイもん作ってる言い訳してる人だよ!!

 

 さすがに夕呼先生の行動はすばやかった。

 その日のうちに各国へBETA中枢の機能不全の知らせを送り、翌日には航空機の準備を終え、早々と俺を連れてにアラスカへ向かったのだった。

 

 もうはるか昔の本来の世界線の夕呼先生に、俺を帰宅させるために車に乗せた状態なのに、どっかの誰かと高速バトルをはじめて、県境まで行っちまった記憶がよみがえったよ!

 夕陽と山が綺麗だったなぁ。

 どこの世界線でも夕呼先生は夕呼先生なんだな。

 




 夕呼せんせー&白銀&νガンダム、アラスカに参加決定!
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