ゼータと上総   作:空也真朋

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124話 カツ・コバヤシ

 ユーコン陸軍基地 外来用多目的ビル 客室

 

 翌日もユウヤから甲21号作戦と呼ばれる佐渡島奪還作戦の詳細を聞いた。

 

 「……ふぅん、BETAの指揮中枢が機能不全ねぇ。そんなことがあり得るんですの?」

 

 「ハイヴ21制圧後にそう発表された。この説を唱えたのはアンタのボス、コォヅキ博士だ。実際作戦中にハイヴ21から増援はまったく出なかったらしい」

 

 にわかには信じられないけど、そんな事でもなければ、帝国軍があのBETAに完勝とかあり得ないしな。その上、香月博士の発表じゃ信じるしかないか。

 

 「となると、もしかして今は人類反撃の大チャンスじゃありません? ハイヴを取り放題とか」

 

 「らしいな。米軍内じゃ早くもハイヴ遠征が決まったとかウワサしている。米軍の保有戦力なら即座に大軍を動かせるしな。本当かもしれん」

 

 と、そこで扉がノックされた。

 入室を促すと、そこには米軍ジャケットを着た十代半ばくらいの少年兵がいた。

 少し奇妙だと思ったのは、彼は米軍でありながらアジア人。それも日本人の特徴が色濃く出ていたことだ。

 

 「失礼しますブリッジス少尉。連絡にまいりました」

 

 「お前……コバヤシ候補生か。なんでここに居る?」

 

 『コバヤシ』って、やっぱりこの子、日本人?

 

 「はっ、テロリスト襲撃で荒らされた基地の修繕の手伝いに駆り出されました。ブリッジス少尉、何でもお申し付けください!」

 

 「用なんてねぇよ。お前は自分の仕事キッチリやれ」

 

 どうやら彼はユウヤの顔見知りらしい。

 

 「ユウヤ、彼は? 日本人のように見えますが、米軍なのですか?」

 

 「ああ、日系人だ。【カツ・コバヤシ戦術機パイロット候補生】。普段はグルーブレイクス基地の雑用をやってるせいで以前縁があったが、俺と同じ日系人ってことで、やたらうるせぇ奴だった」

 

 ガーーン! まさかその名前の同姓同名まで!?

 

 「【カツ・コバヤシ】ですってええッ!!? しかも戦術機乗り候補生!!?」

 

 「なんだ、カツ・コバヤシって名前にどうしてそんなにおののく。コイツが、アンタが驚くほどの有名人とは思えないんだが?」

 

 たしかにユウヤにとってはただの日系人の候補生。

 されどその名は、ガンダムでもトップレベルの嫌われ男の名!

 ガノタのオレでも決して会いたくはなかった。

 

 「【カツ・コバヤシ】とは、なんて呪われた名前をさずかったのです! まるで女に迷って無断出撃したあげく、岩に激突して死んでしまいそうな名前です!」

 

 「なんです、あなたは。初対面なのに失礼すぎる人ですね。そんな事しません!」

 

 「他のヤツ相手ならたしかに失礼だがな。名前うんぬん以外のことなら、たしかにコバヤシはやらかしそうだと俺も思うぞ。なんで訓練演習で毎回最高速出そうとしてんだ。バカじゃねぇの」

 

 「アレはブリッジス少尉の機動テクを模倣してるんです。やはり倣うなら、同じ日系人でインフィニティーズでも屈指の技術をもつ少尉のようになりたいと思いまして」

 

 まるでアムロに憧れて彼のように生きようとあがくカツ・コバヤシのよう!

 

 「あなたはまさにカツ・コバヤシ! 英雄に憧れて、見ていて恥ずかしい行為をくりかえす年頃少年そのものですわ!」

 

 「いちいち何ですアナタは! どうして僕の名前が、恥ずかしい年頃の代表になってるんです!?」

 

 なっているんだよ、ガノタの世界では。

 

 「おいコバヤシ。俺への連絡とやらをどこかへ捨てて、ヤマシロ中尉殿と仲良くおしゃべり続ける気か? さっさと上から命じられたことをしたらどうだ」

 

 「――ハッ! も、申し訳ありませんでした。ただいまジェリド・メサ中尉がいらしているのですが、ブリッジス少尉にお話があるとのことです」

 

 「そう、か。じゃあ行ってくる。コバヤシ、しばらくヤマシロ中尉の相手を頼む。いきなり仲良くなれたくらいだから、話相手にはちょうどいいだろ」

 

 「え、えええ!? いえ、僕はブリッジス少尉をお連れしなければ! メサ中尉からのご命令がああッ」

 

 「ガキじゃねぇんだ。テメーのお守りなんかいらん。じゃあな」

 

 と、クールに去るユウヤ。

 

 「あうあう、ブリッジス少尉の歴史的瞬間がああッ」

 

 なんだろうね、このユウヤに対する気持ち悪い執着。

 顔はぜんぜん違うのに、本物のゼータのカツ・コバヤシに会ったような気分だ。

 だからどうにも、厨二病まっさかりの前世ガノタの姿を見せつけられてるよう。

 しかたない。ガノタとして、うっとおしさプラス憐みで、カツ・コバヤシ君に助けでも出してあげようか。

 

 「コバヤシ候補生、ブリッジス少尉に言わなければならない事がありました。わたくし一人では部屋から出られないので、あなたが付添いなさい」

 

 「えっ! そうなんですか、それは一大事。急いでブリッジス少尉を追いましょう!!」

 

 ドピュンッ

 

 おいおい。いくら嬉しいからって、オレを置いて飛び出すのは、いかがなものか。

 せっかくユウヤを追いかける口実をあげたのに、まったく活かせてない。

 だから君はカツ・コバヤシ君なんだよ。

 

 

◇◇◇◇

 

 というわけで、何やらコバヤシ君が興奮するほどの歴史的瞬間があるらしい。

 場所はビルの入り口付近ロビー。

 行ってみると、ユウヤはレオンと話していて、ジェリドもその側にいた。

 すでに来ていたコバヤシ君は食い入るようにその光景を見ている。

 

 「聞いているか、BETA中枢の機能不全の話。今ならハイヴを攻めても、まったく増援が出ないんだと。つまり人類のゴールデンタイムだ」

 

 「ああ、聞いている。わざわざその話を出すってことは、やはりウチの軍は動くのか?」

 

 「そうだ。この機に欧州連合に手を貸してミンスクハイヴを攻めるんだと。ついては俺らインフィニティーズにも作戦参加の命令がくだった」

 

 「そう、か。しっかりやれレオン。ジェリド中尉も武運を祈ります」

 

 「おいおい、ずいぶん反応が薄いな。お前、作戦に参加する気はないのか?」

 

 「どういう事だ? オレはXFJ計画のメインテストパイロットの任務があるが」

 

 「だが、開発主任が入院で計画は停止状態だろう。俺もジェリド中尉もお前の腕だけは認めている。ユウヤ。お前さえ良ければ、上申してこっちに戻してもらってもいいと、ジェリド中尉は提案しているンだぜ」

 

 「俺が……インフィニティーズに?」

 

 ナニ迷惑な提案しちゃってんの、金髪リーゼント!

 メインテストパイロットが抜けちゃったら、本格的にXFJ計画は中止になっちゃうだろう。

 あのジジイの目論見通りに日本がソ連になびいちゃったら、どうするつもりだ!

 

 ユウヤがジェリドに視線を向けると、ジェリドはうなずく。

 ユウヤはしばらく考えたのちに答えた。

 

 「ジェリド中尉、申し訳ありません。自分は……まだXFJ計画のメインテストパイロットなんです。今、ここを離れるわけにはいきません」

 

 「ユウヤ?」

 

 「狂犬ブリッジスも変わったな。前のお前なら、BETAの実戦とあらば喜んで飛びこんでいったろうに」

 

 「XFJ計画は米日の同盟関係の楔でもあります。勝手に俺が離脱したら、それこそ同盟が終わってしまうかもしれません。ゆえに俺は命令が下るまでこの任務をまっとうします」

 

 「そうだな。こいつは俺らが悪かった。たしかにこの時期に、日本の心象を悪くする真似はつつしむべきだったな。ならXFJ計画、しっかりやれ」

 

 「ジェリド中尉も。ついでにレオンも。ヨーロッパ解放の一助となって米軍の力を示してください」

 

 「チッ、ユウヤのくせに成長しやがって。お前はXFJ計画を成功させて戻るりゃ、昇進してるだろうよ。だったら俺もこの任務で実戦経験ってやつを積んでやる。次に会う時はお互い立場が違っているかもな」

 

 「そうだな。せいぜい家族の自慢する坊ちゃんにでもなってこい。額縁つきの写真でも飾られるようにな」

 

 「それは俺が戦死するって意味か? チッ、やっぱりテメェはムカつくぜ」

 

 「ミンスクハイヴは、ヴォールクデータのおかげで、もっとも情報の揃っているハイヴだ。物量でこられなきゃ、十分任務達成して生きて帰れる。ヘタクソがヘタ打たなきゃな」

 

 「ああ、ハイヴ落として凱旋してやるよ! せいぜい俺のみやげ話を楽しみにしやがれ!」

 

 「レオン、ユウヤ。じゃれ合いはそこまでにしろ。それじゃな、ユウヤ」

 

 そう言って、ジェリドとレオンはビルから出ていった。

 ユウヤの決断にオレは感動した。

 

 「えらい……よく残ることを決心してくれましたわ。篁さんが戻ってきたら、きっと喜びます」

 

 「何が偉いんです! こんな凄いチャンスを棒に振って! ここで戦わずに、いつBETAに挑むっていうんです!」

 

 何やら激昂しているコバヤシ君。「ドピュン」とユウヤにまくしたてに出ていく。

 

 「ブリッジス少尉! どうして今インフィニティーズに戻らなかったんです? BETAとの実戦を経験するチャンスだったのに!」

 

 「お前か。どうしても何も、俺はここで任務の最中だ。行けるわけないだろう」

 

 「XFJ計画は中止になるってウワサですよ! 何より僕の知っているユウヤ・ブリッジスは、立ち止まることを良しとしなかった! こんな所で始まりもしない開発計画なんか待つくらいなら、インフィニティーズに戻ってくださいよ!」

 

 「言葉がすぎるなコバヤシ候補生。おまえに何故、そんな事を言われなきゃなんねぇんだ」

 

 「僕たち日系人にとって、戦術機教導隊でも最高の衛士(パイロット)ユウヤ・ブリッジスは英雄なんです! 『ミンスクハイヴくらい俺が突破してみせる』って言ってくださいよ!」

 

 うわああっ本当にカツ・コバヤシだ! コイツ顔とかは違っても、中身はあの『クレイジー命令違反出撃坊や』そのものだよ!

 

 「言わねぇよ。俺を英雄視すんのは勝手だが、行動まで求めるな。俺はここでやるべき事をやる。それだけだ」

 

 「そん…………ゴバァッ!」

 

 思わず飛び出していって、コバヤシの腹を思いっきり殴った。

 どうにもコイツの言動、前世のイタイ厨二病時代を思い出して聞いてられない。

 

 「いいかげんになさい、この厨二戦術機坊やめ。戦争は英雄になりに行く場所じゃないのです。お前のようなのをイタイ戦術機オタというのです! この思春期クソガキムーブ! 憧れ迷惑条例違反!」

 

 ポカポカ

 くそう、いちいちオレの前世にブッ刺さる。

 オレの! 前世の黒いのが消えるまで、殴るのをやめない!

 

 「憧れのなにが悪い! ハイヴ攻略に日系人の英雄を出したくてなにが悪い! ユウヤさんにはハイヴ攻略を成し遂げたメンバーの一人になってもらって、僕も続くんだあぁ!!」

 

 ポカポカ

 

 「お前ら、本当仲がいいな。………このまま放っておきたいが、MPにこのザマを見られたら、死ぬほど面倒になるよな、上総の立場的に。ったく、中尉サマが候補生のガキと同レベルのケンカすんなよ」

 

 ユウヤは仲裁にはいるも、結局あとでMPにしっかり絞られました。

 ケンカの原因とか説明できず地獄だったよ。

 




 やっぱりゼータならこの名前のゲストを出さないとね。
 ぜんぜん嬉しくないゲストでも、出さなければならないキャラというものはあるんだよ。
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