ゼータと上総   作:空也真朋

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125話 ついに対決! 鎧衣VS大伴中佐

 

 ユーコン基地統合司令部予備通信施設モニタールーム

 

 その日、モニタールーム内には複数のモニターが設置され、技術廠会議が行われた。

 会議を主催したのはルーム内にただ一人実際に現場にいる大伴中佐。

 帰国前にソ連機導入を決定させ、帰国後には大いに活動にいそしもうと画策してのことだった。

 

 ブルーフラッグ映像において、ソ連機チェルミナートルがたった一機で他国のあらゆる戦術機を撃破してゆく様は出席者を大いに沸かせ、会議はソ連機導入に傾いてゆく。

 ついには決定権を持つ有力官僚からも

 

 ――「うむ……大伴中佐の意見は検討するに値する。私は新型機の開発を中断し、ソ連機の導入を前向きに進めるべきだと思うが、いかがか」

 

 という決定的な意見が出始めた。

 会議は「ザワザワ」と肯定的な意見が飛び交い、大伴は自分の意見が大いに受け入れられた感触をつかむと、ここで一気に決めてしまうべく決定をうながした。

 

 「反対意見はないようですな。では、議題を新型機開発の中断とソ連機導入の具体的スケジュールの話に……」

 

 ――「異議あり。大いに問題アリ、です」

 

 ふいに自分以外誰もいないはずのモニタールーム内で何者かの声が大伴の声をさえぎった。

 そこには帽子を目深にかぶった背の高いスーツ姿の男が立っていた。

 その男こそ、帝国情報省外務二課の鎧衣左近課長その人。

 

 「鎧衣!? バカな、なぜここに!?」

 

 鎧衣は大伴中佐の詰問を無視して、モニター内の会議メンバーに大仰に挨拶する。

 

 「どうも、情報省外務二課の鎧衣です。まことにはばかりながら、ソ連に対する調査結果を述べに参上した次第」

 

 「鎧衣、今は軍事関連方針の会議中だ。貴様に意見する権限などない!」

 

 「ええ、ですが大伴中佐。貴官の発言は、あまりに調査不足のためお邪魔したのです。私の調査では、ソ連は交渉相手としてまことに不誠実であると言わざるを得ません」

 

 「なんだと? どこに不誠実な要素がある! 私が交渉を担当してきたが、そのような感想を抱いたことは一度もない!」

 

 「先のブルーフラッグにおいて『チェルミナートルの性能は他国に比して圧倒的に上回っている』そういう見解でしたな」

 

 「そうだ。たった一機で大東亜連合F-15以外の各国戦術機に圧勝。その大東亜連合にも、衛士の異常があったとはいえ勝っている。これ以上の判断材料が他にあるか!?」

 

 「華々しい圧勝。圧倒的性能。まさに夢の戦術機ですな。ですがそれはソ連のトリックなのですよ。評価試験において、あの一機以外の三機は戦ってはいませんでした。が、たった一度だけ戦闘したことがあります。それがこの映像です」

 

 鎧衣は端末を操作して各会議出席者に映像を披露する。

 それはシロッコのF-15がソ連陣地に斬りこんで他三機のチェルミナートルをあっけなく撃墜判定を降したものであった。

 この映像に出席者は大いに動揺し、ザワザワとまどいのどよめきがおこった。

 特に大伴中佐は大きな衝撃だったらしく、鎧衣の言葉をさえぎることすら忘れてしまっていた。

 

 「以上のように、ブルーフラッグにおいて無双したチェルミナートルは、スペシャルな強化衛士搭乗を前提とした特製で作られた別物。導入が決定され送られるシロモノは、この程度でしかありません」

 

 ザワ……ザワザワ……

 あまりに呆気ないチェルミナートルの撃墜に出席者たちはざわめき動揺する。

 そしてチェルミナートルの性能を朗々と宣伝していた大伴中佐は針のムシロだ。

 『ペテンに引っかかった残念将校』そんなレッテルが張られそうになっている。

 だが、そんな空気を払拭するかのように大伴中佐は声を張り上げた。

 

 「ええい、まだチェルミナートルの性能の是非がそんな映像ひとつで定まったわけではあるまい! それにこの案件の主目的は、ソ連と共同戦線を張ることにある! われわれをBETAよけの捨て石程度にしか思っていないアメリカを切り、わが国同様にBETAと防衛戦争を展開するソ連と共同戦線を張る。この一事がどれだけの国益になるか情報屋はわかっておらんのか!」

 

 「なるほど、外交戦略の話ですか。では、その話をいたしましょう。なぜ今回のユーコン基地テロ襲撃において、ソ連が最大の被害を受けたのか。それはあまりにロシア民族による被支配層への抑圧が原因なのですよ。事前に恭順派は、基地に詰めている被支配民族のスタッフを懐柔し、基地司令部ビルや機密エリアへ誘導させた。その結果が基地の制圧となったわけです」

 

 「そ、それがどうした! 向こうの政治体制がどうあれ、手を組むに足る力があるなら問題ないではないか!」

 

 「今回の件で、その力が問題になったのですよ。この襲撃で、ロシア上層部の戦力は大幅に減衰いたしました。つまり下部の被支配者層の部隊が反乱を起こしても、それを抑えこむだけの力がない。さらに機密エリアで研究されていた特機戦力も失われ、他国への睨みをきかせる切り札が無くなりました」

 

 鎧衣は機密棟エリアで収集したデータを次々に表示してゆく。

 それは、あまりにお寒いソ連の内部事情。数々の反政府勢力に押されて弱体化したソ連のありのままの姿であった。

 

 「以上。ソ連はあせっているのです。日本との関係を強力に推し進めているのは、失われた力を覆い隠すための力を求めているだけ。東方の有力国家であるわが帝国と関係を持てば、大国としての面子も保たれ、被支配者層への抑えも期待できる」

 

 「グッ…ググッ……」

 

 大伴中佐の顔は赤黒く変色し、拳は固く握られ、屈辱でプルプルと震えている。

 

 「一方、わが帝国は、虚像の大国と組む名目だけで、実質的な力も物資の援助も期待はできません。それどころか彼の大国は革命が起きる可能性も高く、それに巻き込まれることも考えられます」

 

 ――ざわざわ……ざわざわ……

 会議の場は不安の声があちこちに生まれ、不穏な空気が漂ってゆく。

 

 「あえて言いましょう。彼の国には嘘と詐術だけ。同盟を結ぼうと実質的なメリットは何一つ期待できず、リスクが積みあがるのみ。かの国の同盟のために、最高の性能となった新型機体を破棄するなど、愚の骨頂だと!」

 

 ――オオオオオッ

 会議出席者たちは一斉に叫び声をあげた。

 

 

 ――その後。

 会議は大伴案の反対意見が相次ぎ、ソ連機導入の撤回とXFJ計画継続の決定で巻くを閉じた。

 ソ連の手管にかかった大伴中佐に対する嫌味や侮蔑、罵倒はひっきりなしだった。

 会議が終了しモニターの出席者映像がすべて消えると、その場にはうなだれた大伴中佐と、にこやかに立つ鎧衣左近課長だけが残された。

 

 「…………解放から間を置かずにチャーターで帰国すべきであったな。そうすれば、こんな屈辱など……」

 

 「それが答えですか。ソ連の奸計から帝国が救われたことへの」

 

 「そう言えば貴様、どうやってここへ入った? 外で厳重警戒していた護衛はどうした?」

 

 「ああ、それは……」

 

 ――ガタンッ

 ドカドカドカドカドカ

 

 鎧衣が答える前にモニタールームの隔壁扉が乱暴に開かれ、外から十数人の簡易武装した帝国兵が「ドヤドヤ」とルーム内に踏み込んできた。

 一方は鎧衣に銃を突きつけ、他方はガードの教練通りに大伴の周囲を護る。

 

 「ご無事ですか、大伴中佐! ルーム前の護衛が襲撃され賊が中に入ったとの連絡を受け、参りました!」

 

 そのリーダーの問に答えたのは、銃を突きつけられ両手を頭の後ろへ組まされた鎧衣であった。

 

 「ああ、それは私ですよ。心配いりません。抵抗などしないし、どこへでも行きましょう。もう終わったのでね」

 

 大伴は「信じられない」という目で、厳しいボディチェックを受けている鎧衣を見た。

 

 「貴様……護衛を排除して入ったのか?」

 

 「その言い方だと、まるで私が忠勤なる帝国兵を害したように聞こえますな。眠ってもらっただけですよ。陛下の赤子たる兵の命は尊いですからな」

 

 「愚かなことを……貴様、タダでは済まんぞ」

 

 「帝国の命運に比べれば安いものですな。では、ご機嫌よう」

 

 鎧衣は大伴の複雑な視線を背に受け、帝国兵に囲まれながらモニタールームから出ていった。

 大伴はその姿を最後まで見つめ続け、ポツリつぶやいた。

 

 「まるでガラクタだな……」

 

 ――私は。

 大伴はわずか十数分で数倍にも重くなったように感じられる体をおして、自分もモニタールームを後にした。

 




 大伴中佐をライバルにしてお話を考えるのはすごくムズカシかったです。立ち絵もないキャラだし、エピソードも短いし。
 しかも政治戦とかすごく難しくてエタっちゃいました。BETAとバトってる話の方が何倍も楽です。マジで。
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