軟禁生活九日目。
その通達は今朝早くにやって来た。
――「国連軍所属カズサ・ヤマシロ中尉に通達する。貴官の疑惑は完全に払しょくされた。よって、これ以降の監視および行動の制限を解き、アメリカ国内における行動の自由を保障されるものである」
「はぁ?」
そいつはそれだけ言うと、何の説明もなく足早に部屋から出て行った。
ワケガワカラナイ。
そういう顔を監視役のユウヤとカツ・コバヤシに向けると、快く説明してくれた。
「無罪放免だそうだ。オメデトウ」
「なんでいきなり? わたくし、なにか疑惑を払しょくするようなことしたかしら? カツのぶっ飛び戦術機操作を矯正してあげたことが、有利に働いたとか」
「ただ僕の戦術機訓練の話を聞いて、パカンパカン頭叩いただけじゃないですか! 僕の操作に間違いなんてあるわけないんです。ブリッジス少尉の操作を完全コピーしてるんですから」
岩に激突して死亡の未来は約束されているな。どこまで呪われた名だ。
「もちろんカケラも関係ない。この決定の原因の大半は外にある。アンタが拘束軟禁されてから九日。たったそれだけの期間に、世界は大きく変わったんだ」
ユウヤの話によればこうだ。
甲21号作戦における佐渡島ハイヴ完全攻略のニュース、および香月博士によるBETA弱体化の発表は世界中を驚愕させ駆け巡った。
そして世界中のBETA戦線での勝利が確認され、その情報が真実だと知れると、世界中の国家の欲望は沸騰した。
そう。世はまさに大ハイヴ攻略時代の到来。
ハイヴに眠るG元素というお宝を巡り、世界中の軍隊が競ってハイヴに殺到する時代へと変貌したのだ。
アメリカもソ連との政治ゲームなんてしてる間はなくなり、結果オレの解放に繋がったのだとか。
おや? カツがユウヤの話でプルプル震えだしたぞ。
あ、これはあの前兆だ。そう、若者の暴走。
「ブリッジス少尉! やっぱり今からでもハイヴ攻略に志願して行ってください! ハイヴ攻略の栄誉を手にしたなら、きっと大きな栄達と歴史的名誉が約束されるでしょう。そして僕たち日系人の誇りともなります!」
「ゴールドラッシュの話は知っているか?
「おそれるんですか!? ”狂犬ブリッジス”とまで言われたあなたが!」
「そんなくだらん二つ名を守る気はねぇ。前線がヤバくなり命令が下ったなら行ってやる。だがそうでなければ、俺の任務はXFJ計画だ。ここで任務をまっとうする」
「埋もれますよ! 他のパイロットが華々しくハイヴ攻略の実績を誇る中で!」
「かまわん。それでいい」
なんだか英雄ベテランパイロットとルーキーの映画みたいなシーンだなぁ。
カツはともかくユウヤ。お前、そんなキャラだったか?
「ブリッジス少尉!」
「ここにはな……友が眠っているんだ。そいつを待っていられるなら、ここで墓守も悪くねぇ」
ああ、篁さんね。でもその言い方だと、篁さんが死んだみたいだからヤメテね。
その時ユウヤの基地内通信機が「ピピピ」と鳴った。
ユウヤはその連絡を聞くと会話もなく「了解」とだけ言って切った。
「ヤマシロ中尉、アンタに迎えが来てるそうだ。こうも簡単にアンタが解放されたのも、それが関係したらしい」
「香月博士が弁護士を手配したのですね。となると、すぐさま帰国。ユウヤ、ここでお別れですね」
「そうだな。いつか平和になった世界で、また再開したいものだな。タカムラ中尉もいっしょに」
「ええ。篁さんも」
そんな未来のシーンを思い浮かべて自然に微笑みがこぼれた。
これは夢物語じゃない。篁さんの手術はすでに成功していて、今はこのユーコン基地の施設病棟に運ばれ回復につとめているとか。
いまだ目は覚めず人工呼吸器やペースメーカーの世話にはなっているそうだが、時間をかければいずれは元の体に戻るそうだ。
「それでは、ごきげんよう。カツ、岩と女と命令違反にはくれぐれも注意なさい。こうも知り合いになってしまっては、やらかし死亡のニュースは聞きたくありませんから」
「だからやりませんって! 僕のどこを見て、女のせいで命令違反して岩で激突死亡なんて発想が出てくるんです!」
その発想しかないんだよ。カツ・コバヤシには。
さて。オレの迎えが待っているというのは、一時来客用のゲストルーム。
さっそく行ってみると、そこに待っていた二人にちょっと驚いた。
「香月博士!? 白銀!? なんでです!?」
待っていたのは、つい先日【甲21号作戦】という大きな作戦を成功させた副司令とその直属部下。作戦終了後の今は、書類作成やら式典やらで忙しいはずなのになんで?
「アンタとまりもとお偉いさんのお嬢さん達が拘束されたと聞いちゃ、おとなしくしてられないでしょ」
「まぁ、そうでしょうが……でも弁護士の手配だけですんだのでは? 自ら乗り込むというのは、立場としてイキスギな気がしないでもありませんわ。指示がなくては動けない部署も多いのでは」
「うるさいわねぇ。我ながら面倒くさい真似したとは思っているわよ。でも、これ以上アタシの責任が積み上がるのは嫌だったのよ」
「なんです? 博士の責任の積み上がりって」
博士は『説明するのも嫌』って風にそっぽを向いた。
ので、隣の白銀が「ヤレヤレ」とばかりに話す。
「あー俺から説明するぞ。今回207B分隊のブルーフラッグ研修を急きょ決めたのは、夕子先生の独断だった。メンバーは日本帝国から預かっているお偉いさんの娘が揃っている」
「ですわね。お嬢さんに見えないくらい個性的でたくましい子達ばかりでしたが」
オレのお嬢様レベルの方が完全勝利してた。ちょっと悲しい。
「ところがそこに世界的テロ組織の襲撃がおこり、訓練生は銃撃戦に巻き込まれ、人質の危機にも陥った。さらに現場のビルには崩壊まで起こった」
ビルの崩壊は完全にオレとハロのやらかしです。ゴメンナサイ。
「さらにさらに帰国間際、米政府による出国停止までおこった。さて、夕子先生はどうなったと思う?」
「………責任がバベルの塔? 裁きの雷がくだった?」
「くだってないわよ。くだる前にここに来たの。いちおう佐渡島奪還の立役者だからね。責任問題で刺しにくいタイミングの間隙をぬって、ここに来たワケ」
さすが横浜の女ギツネ。責任の回避力が神技すぎる。
「しかし肩すかしだったわね。急な出国停止なんて、第五か恭順派の残党の仕業かもと疑って来てみれば、アメリカの迷走だったなんてね。それも今はハイヴに押し掛けることに夢中で、簡単にカタがついたわ」
「『世はまさに大ハイヴ攻略時代』ですからね」
「あら、良い名称考えたわね。センスあるじゃない」
某有名漫画のパクリです。褒めないで。
「さて。アタシはここユーコン基地に来ちゃったからには、ハルトウィックに会わないワケにはいかないのよね。前は招待を山城に押しつけちゃったワケだし。だからアンタたち今日一日は、お使いがすんだら自由にしていいわよ」
「お使い? なんです?」
「シロッコって奴を連れてくるのよ。本当は鎧衣が連れてくる予定だったのに、アイツ、ヤボ用が出来て行けなくなったって言うのよ。どこ遊びに行ったんだか」
「神宮寺軍曹には頼みませんの?」
「とっくに訓練生のガキどもと出国してるわよ。ちょうど技術廠の大伴が帰国のチャーターを手配してたからね。一刻も早く親元に届けなきゃならないアタシとしては、便乗してまりもを添えて送ってもらったワケ」
そういうことなら、しょうがない。今日一日はアルゴスの皆に挨拶したり、篁さんの様子を見に行ったりするつもりなんだけど。
ま、シロッコを連れてくるくらい、すぐ終わるだろうし。
今日一日、白銀とのんびり回るとしますか。
――されど、この時オレは知らなかった。
今日が、まさにBETA最終決戦のはじまりの日になることを。