ゼータと上総   作:空也真朋

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127話 はじまりの日

 ――『ただいま前線から報告があがりました。米欧連合軍はハイヴ周辺のBETAの排除に成功! いよいよハイヴに足を踏み入れるとのことです! 欧州諸国の悲願をかけたヨーロッパ奪還の瞬間がまた近づいてまいりました!』

 

 博士のお使い『シロッコのお迎え』を済ませるべく、オレと白銀はレンタカーを借りて、アラスカ湾沿岸のとある町を目指して走る。

 運転席には白銀。オレはその隣にハロを膝にかかえて、のんびりカーラジオに耳を傾ける。

 番組の名は『欧州奪還エピック』

 今現在行われているミンスクハイヴ攻略作戦を生中継で放送しているのだ。

 

 「まるでショーですわね。BETA戦を野球中継みたいに聞けるなんてウソみたいです」

 

 「ピコピコ。地域制圧率62パーセント。予備戦力保有率80。ハイヴ突入には十分すぎる数字だね」

 

 「戦力は米軍が供出したとしても、こんなにも準備期間の短い雑なハイヴ攻略がうまく進行してるなんて信じられねぇ。こうもBETAが脆くなっちまうと、BETA戦の意味が変わってくるな」

 

 「目指せハイヴに眠るお宝G元素! 世はまさに大ハイヴ攻略時代の到来! ですわね」

 

 「大航海時代になぞらえたか? たしかにその時代は、海外の利権を求めてヨーロッパ諸国が世界中に船を出した時代だ。世界中がハイヴに軍隊を送り込むであろう今と重なるな」

 

 「ボクたちの達のBETA戦もなくなるかなぁ。G元素以外のエネルギーを検討しておかなきゃかも」

 

 「BETA戦がなくなる……白銀、そうしたらどうします?」

 

 オレは今さらだけど、ハロと傭兵団エゥーゴを訪問してみようかな。

 白銀もいっしょに来てくれれば嬉しいけど……無理?

 

 「二人とも気が早いな。相手はBETAだ。この先、どんな巻き返しをはかるか分かったもんじゃない。その時のために横浜基地で夕子先生やシロッコとサイコフレームの研究を進めておくんだ」

 

 「そうだった。これからは研究がメインの活動になるね」

 

 「そうですわね。気が緩んでいました……ううっ!?」

 

 ――キュピィィン

 

 

 ハッとしてまわりを見回す。

 相変わらずの田舎景色が続いている。でも……

 

 「どうした上総?」

 

 「いま………世界が終わりました?」

 

 「ハァ?」

 

 「状況確認………周囲に敵影ナシ。地域事件ナシ。平和すぎる世界だけど?」

 

 「………いえ。今さっき、ものすごい不安を感じました」

 

 「不安だと? 何のだ」

 

 「えたいの知れない不安な塊が私の心を終始(おさ)えつけています。焦燥と言いましょうか、嫌悪と言いましょうか――いえ、決して梶井基次郎の『檸檬』の冒頭を朗読してるのではありませんよ! 本当にそんな気分なんです」

 

 「俺はそのカジイモトジロウとやらは知らん」

 

 「ボクも知らない。データに入れてない。で、なにが不安なの?」

 

 「なにもありません。唯ぼんやりした不安です。僕の将来に対する唯ぼんやりした不安なんです――って、これは芥川龍之介の『或旧友へ送る手記』!?」

 

 「芥川はさすがに知っている。でもボクの超理系AIに文学データは入ってない」

 

 「もうやめろ。教養の差カップルの悲哀みたいなのを感じる」

 

 オレもこんな小難しいモン読んだことない。山城上総の記憶にあるんだよ。

 しかし、ラジオから流れてくるミンスクハイヴ攻略戦も順調みたいだし。

 いったいこの不安感はなんなんだ――?

 

 

 ともかくも目的地のアラスカ湾沿岸にある小さな港町に到着。潮の香りが漂う、人もまばらにしか居ない、寂れた小さな薄汚れた街だ。

 オレと白銀はハロを車中に置いて、シロッコの居るハウスに訪問する。

 電子呼び出しチャイムを押すとこちらのことを聞かれ、それに答えるとロックが自動で解除され『入りたまえ』と言われた。

 奥の居間に入ると、ラフなワイシャツを着たシロッコが難しい顔をしてそこに居た。

 

 「シロッコさん、鎧衣さんから話は聞いていますか? お迎えにまいりました。横浜基地副司令の元へお送りいたします………シロッコさん?」

 

 シロッコは応えずどこか遠くを見るような目をしている。

 

 「どうしたんです? なにか気にさわるようなことでも?」

 

 「……プレッシャーだ」

 

 「え?」

 

 「君たちが来るほんの少し前だ。海の向こうに数え切れないほどのプレッシャーが生まれた」

 

 「プレッシャー……ですか?」

 

 「これは私の気のせいではないよ。奥のイーニァも、ついさっき怯えはじめた。海外になにか異変はないかね?」

 

 ―――!!?

 

 『さっき』だと!? やはりその時から感じる不安感は、オレの気のせいじゃない!?

 

 「白銀! さっきの『欧州奪還エピック』で、なにか言っていませんの!?」

 

 「あ、ああ。聞いてみよう」

 

 白銀はカバンから携帯ラジオを取り出し、机の上に置いてチャンネルを合わせる。

 アナウンサーの声はさっきとうって変わって、不安な焦りがにじんでいた。

 

 『ザザッ……みなさま、落ち着いてお聞きください。先ほどハイヴ周辺部隊からの連絡が途絶えた件についてご説明します。これはBETAのジャミングに似た妨害である説が有力です。ですがご安心ください。ハイヴ坑内および周辺にはBETAの増援は確認されず、新たな被害機体も出ておりません。作戦は順調であることが発表されました。作戦はなおも続いており、BETAの通信妨害の打開をこころみて………』

 

 「『ご安心ください』か。声から不安がにじみ出ているぞ。少しは演技したらどうだ」

 

 「アナウンサーを変えた方がよろしいですね。シロッコさん、これをどう見ます?」

 

 「まず『作戦は順調』とは虚偽だな。司令部はだいぶ混乱している。本当に通信障害か否かはともかく、前線と連絡がとれなくなった事が原因だ」

 

 「いったい何が起こっているんだ? 俺たちはどう動けばいい?」

 

 もしこれが『BETAの大群があらわれて連合軍を全滅させた』とかの報告だったら、大変な事態ではあっても、やる事は決まっている。火消しに動くのみだ。

 しかし部隊に被害はないのに連絡が途絶えたというのは? どうするんだ?

 

 「少し待っててください。”システム”でミンスクハイヴ周辺の様子を探ってみますわ」

 

 これはハロのことだ。シロッコがいるのでこの隠語を使う。

 車に戻りハロに事情を説明すると、ハロはゼータのシステムでミンスクハイヴ関連で飛び交う通信の傍受をはじめた。

 ハロは「ピコピコ」電子の世界へトリップ。十分ほどすると戻ってきて答えを言う。

 

 「おどろいた」

 

 「な、なにがあったんですの?」

 

 「連合指揮所がラジオと大差ないことを言っている」

 

 「え?」

 

 「ハイヴ周辺部隊との連絡途絶。されどBETAの影見エズ。損害機体ナシ。それ以上のことはつかめていないんだ」

 

 「つまりBETAは増援が出せないかわりに、強力な通信妨害をしてるということですの?」

 

 「そんな生やさしいモンじゃないよ。前線部隊は有視信号弾にも返答しないし、伝令を送っても帰ってこない。その他あらゆるアプローチにもまったく反応しないんだ」

 

 いったいなにが起こっている?

 姿が見えない損害も与えない敵?

 いったいシロッコの感じた『無数のプレッシャー』の正体はなんなんだ――?

 

 




 ついにはじまる最終決戦!
 劣勢だったBETAがふたたび首をもたげはじめたのか?
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