ゼータと上総   作:空也真朋

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128話 横浜基地の異変

 香月夕呼Side

 

 ユーコン基地 地下司令室

 

 ミンスクハイヴ攻略戦での前線部隊の異常報告が、アタシと会談中のハルトウィック大佐の元へ届けられた。

 ユーコン基地司令は政府の会合で外出中だったため、次席司令のハルトウィックが地下司令部に詰めて事態のモニターをすることになったのだ。

 さて、ミンスクハイヴ攻略部隊CPでは、事態打開策として調査隊を編成し前線に向かわせた。結果はやはり以前同様に連絡途絶。

 ただこの結果は予想されており、調査隊の機体にはあらゆる高性能モニターが搭載されていた。

 そのモニターによれば、機体の損傷はまったく無いのに中の人間だけが意識不明の状態になっていることが確認された。 

 

 「さぁて。前線部隊に何があったかは大体わかったが、これをどう見るか。コオヅキ博士。これはBETAの新たな攻撃と考えるべきだろうか」

 

 「そうですね………BETAの生態を長年研究してきた身としては、あまりにBETAの戦い方とは、かけ離れているように思われます。なによりBETAが弱体化している理由との関連も不明です」

 

 まだ言えないが、これはBETAとは別種の脅威の可能性がある。

 BETAの司令中枢が何らかの理由で機能不全に陥り、その理由が人間に対しても牙をむいた。

 そんな仮定をアタシはヒソカに考えている。

 

 「とにかく向こうは前線部隊の救助が優先事項になろうな。こちらは、この意識喪失状態の打開を考えるべきか」

 

 「横浜基地に連絡させてください。ミンスクハイヴ異常事態の調査を、あちらの方でも進めておくよう指示いたしますので」

 

 「わかった。機密でないなら、ここの通信機器を使いたまえ」

 

 「ありがとうございます。使わせていただきます」

 

 今はまだ機密通信は必要ない。

 基地にミンスクハイヴ関連の情報収集とA-01部隊の出動準備を指示しておく程度だ。

 あと鑑純夏(00ユニット)も現地に行かせることになるだろうから、その準備といったところか。

 ところが、横浜基地にコールを送っていた通信管が異常を報告した。

 

 「コオヅキ横浜基地副司令、妙です。横浜基地に呼びかけを行いましたが、誰も応答いたしません」

 

 「なんですって!?」

 

 アタシは通信管からマイクを取り、焦りの声をあげた。

 

 「基地通信、どうしたの? 出なさい! ピアティフ、ピアティフ! ……っ、ハルトウィック大佐、この通信は正常ですか?」

 

 「正常だ。モニターによると電波はたしかに横浜基地に届いている。ただ誰もそれに応答しない状態だそうだ」

 

 「なんですってぇ……」

 

 横浜基地にもテロ? いいえ、ならば真っ先にアタシに緊急連絡が来るはずだわ。

 だったらいったいナニが………

 

 ――ハッ!

 もしや、これはミンスクハイヴの現象と同じ?

 そうだわ。基地の地下にはハイヴと同じ反応炉があり、それが稼働している。

 つまり生きたBETAの頭脳級がそこにあるわ。

 一連の意識不明現象が、それが引き起こしたものだとしたら――!

 

 「冗談じゃないわ。横浜基地が全滅!?」

 

 だったら、ピアティフも伊隅もA-01部隊の全員も――!

 諦めきれず何度も基地へコールを送った。

 それでも無情に、それが応答されることはなかった。

 

 「コオヅキ博士、もうやめたまえ。そちらの異常事態には別方面から調べてはいかがか。近隣の基地から横浜基地の封鎖を頼み、慎重に調査を進めるべきだ」

 

 「…………そうですわね。失礼しました。見苦しい姿をお見せしました」

 

 だが、その時だ。

 無音だったスピーカーから『ガチャッ』と繋がる音がした。

 そして向こうから返答する者があらわれたのだ。

 

 ――『先生……香月先生ですか?』

 

 ………先生?

 それに基地からの応答にしては、やけに幼い声で拙い。

 いや、アタシを『先生』と呼ぶ者は横浜基地にたった二人だけ。

 白銀武と、そして――

 

 「(かがみ)!? アンタ、(かがみ)なの!?」

 

 『そうです、(かがみ)純夏(すみか)です。ここの通信の人達が誰も出ることが出来ないので、私がとりました』

 

 そうか。人間に対して何らかの無力化するような事態があったとして、彼女には無効の可能性があるんだわ。00ユニットという人造人間なのだから。

 

 「ええ、わかったわ鑑。そのままそちらの状況を教えてちょうだい。『誰も出ることが出来ない』って、いったい何があったの? 基地の連中は今どういう状態?」

 

 『全員寝ています。誰も起きません』

 

 「寝ている? ピアティフや伊隅も? A-01の連中も?」

 

 『そうです、基地の中の人達みんなです。アレのせいで、みんな意識を奪われてしまいました!』

 

 「ちょっと待って! 鑑、アンタそうなった原因がわかるの?」

 

 『はい、反応炉です。反応炉から来たアレのせいです!』

 

 やはり原因は反応炉だったのね。

 

 「基地の人間全員が昏睡状態におちいっている。そこまではわかったわ。それで”アレ”って? なにが来たというの。やはりBETA?」

 

 『ちがいます! BETAじゃないんです。なぜか反応炉から”人間の思念”があふれてきているんです! それもすごく強力な!』

 

 「人間の……思念ですって? BETAの反応炉からそれが出てきたというの?」

 

 『そうです! とても強力な何億何十億もの人間の意思が基地の中を覆っているんです。普通の人間でも感じとれるような! もしこれの精神感応をしたら、私も無事じゃすまないです!』

 

 「………そう。それで鑑はどうして無事なワケ? 人間を昏睡状態にするような強力な思念なら、アンタは真っ先にタダじゃすまないはずだけど?」

 

 『リボンのおかげです。これをつけていると、私の精神感応が阻害されて人の心が読めなくなります。これで、この思念の洪水から心を守っていられるんです』

 

 そうか、バッフワイト素子製のリボン!

 鑑のBETAの思考を読むための精神感応能力は人の心も常時読んでしまい、鑑の心に大きな負担をかけていた。それから守るために制作したのがバッフワイト素子だ。

 これで作られたリボンをつけることで鑑はリーディング能力を抑えることに成功した。

 

 「わかったわ。まず今からアタシの部屋の備品室に行って、ありったけの予備のリボンを取ってきなさい。それから基地内通信機にここの通信を繋ぐの。一旦切るけど、またすぐ連絡するわ」

 

 さすがにこの先の連絡はここでは出来ない。基地の中枢に関する話になるからだ。

 00ユニット関連の話もだいぶしてしまった気もするけど、今はそれどころじゃないわね。

 近隣の基地に応援と封鎖を頼み、まりもに訓練部隊の子らともども横浜基地に近づかないよう指示を出すと、立ち上がる。

 

 「ハルトウィック大佐、機密通信室を使わせていただきます。生きているスタッフに打開策を指示いたしますので」

 

 「うむ。横浜基地のスタッフ全員の無事を願う。ミンスクハイヴの件と重なり、不運なこととなってしまったな」

 

 「不運? いいえ。基地の人員の安否とは別に、幸運を喜ぶべきでしょう」

 

 「なに?」

 

 「はからずも、ミンスクハイヴに起こった異常事態の解明を早めることが出来そうです。しかもそれだけでなく、解決方法までも見えてきたのですから」

 

 「そうか……それは横浜基地のスタッフのすべてに万一があってもか」

 

 「当然です。我々はみな人類生存と勝利に命を捧げた身です。親しい誰が倒れようと、それを踏み越えて目標へ進まねばなりません。それが指揮官の義務でしょう」

 

 「そうか……そうだな。異常事態の解明と解決、期待させてもらおう」

 

 「はい。おまかせください」

 

 とは言ったものの、やはり横浜基地の皆を心配しないではいられない。

 ピアティフ、伊隅、それにみんな。

 こんな結果で終わったりしないでよ。

 

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