ユーコン基地 XFJ計画用ブリーフィングルーム
シロッコを迎えに行ってから二日。オレはまだ横浜基地に帰れない。
なんでも横浜基地の隊員職員全員が謎の意識喪失状態になってしまったらしい。
それなら日本のどこかの基地に仮住まいすればいいのだが、オレを迎えに来たはずの香月博士に仕事が入ってしまい、白銀共々そのままユーコン基地にとどまっているのだ。
ここまで来るとこのユーコン基地、決して離れられない腐れ縁だね。
さて今の状況だが、ブリーフィングルームでオレと白銀はアルゴス小隊の皆ととある任務の説明を受けるところだ。
真正面ボード前にはいつものイブラヒム・ドーゥル中尉。だがそれに加えオレの上司の香月博士、それに衛士強化装備を身につけたシロッコまでいる。
さぁて、この面々でどんな任務が待っているやら。
「それでは始める。今回の任務内容を話す前に、初見のこの方たちを紹介しよう」
ドーゥル中尉は隣に立つ二人を紹介する。
「こちらの女性は横浜基地副司令のユウコ・コオヅキ博士。これまで行動を共にしてきたヤマシロ中尉やシロガネ中尉の上官にあたる」
「よろしく。今回の任務はアタシからのオーダーという形になるわ。重要な任務だから心してかかりなさい」
「そして大東亜連合連合のパプテマス・シロッコ氏だ。先のブルーフラッグで知り合った者もいるだろう。彼も香月博士の助手として重要な役を担っている」
「パプテマス・シロッコだ。君たちには期待している。ぜひ問題解決の一助となってほしい」
オレたちがシロッコを連れて香月博士に引き合わせたとたん、ミンスクハイヴに起こった連絡断絶現象の解明が一気に進んだ。いったいどういう化学反応だ。
「では任務内容の話に移ろう。すでにニュースなどで知っている者も多いだろうが、ミンスクハイヴ攻略戦において、謎の通信途絶現象が起こった。前線部隊の様子がまったくわからなくなり、停滞状況が続いている。たまたまこの基地に訪れていたこのコオヅキ博士は、その原因を解明し、その打開に着手をはじめた」
ザワッ……
その何気ないドーゥル中尉の説明は、静粛が原則のブリーフィングルームに感嘆のざわめきを起こした。そしてユウヤは質問の挙手を上げて皆の疑問を口にする。
「あの……本当に原因がわかったのでしょうか? あまりに早すぎるような」
「ブリッジス少尉、失礼だぞ」
「いいわドーゥル中尉。その質問はこれからの説明につながるわ」
香月博士はドーゥル中尉のかわりに中央に立ち説明をはじめる。
「前線部隊の人間は全員昏睡状態に陥っているわ。ここまではミンスクハイヴの現場が解明してくれたわね。で、その原因の話にはいるワケだけど。そこの君が言うように、現場から遠く離れているアタシが『その原因を突き止めた』って言っても、にわかには信じられないでしょうね」
「あ、いえ、博士を疑っているわけではありませんので!」
「だから今からテストをかねて、アルゴスのみなさんに前線部隊におこった事を体験してもらいましょうか。シロッコ、お願い」
「は? あの……」
とまどうユウヤを無視してシロッコが一歩前に出る。
やれやれ。とんだデキスギ君コンビが生まれたもんだ。
「安心したまえ。さすがに今からアルゴス小隊に昏睡状態になってもらっては話が進まない。ほんの一秒だ。貴重な経験を知りたまえ」
キュピィイイイイイイイ……
シロッコの衛士強化装備に内臓されているサイコフレームからサイコプレッシャーが一瞬放たれる。
たったそれだけでアルゴスの皆は頭を押さえて苦しんだ。
「うっ……おえっ」
「な、なんだこりゃあ……?」
「アタマに……なんかが入ってきたみてぇだ」
うーん、これがウワサのサイコプレッシャーか。ヤバイ威力だな。
ほどよく回復したであろう頃、博士は話を再開する。
「さて、話が聞けるようになったかしら? 現在ミンスクハイヴ周辺付近では、コレが常時続いていると思ってちょうだい」
「し、質問よろしいでしょうか」
「いいわよ。聞きたいことはわかってるけど言ってみなさい」
「………これは、何です?」
「サイコプレッシャーっていうものよ。強力な思念波が脳にプレッシャーをあたえ脳の働きをシャットダウンするわ」
「思念波……だって? どうしてハイヴにそんなものが。BETAの新たな攻撃方法ですか?」
「いいえ。これは人の思念波の可能性が高いわ。仮説だけど、ハイヴ内に囚われている捕虜の思念がある事情で急速に高まり、ハイヴ中枢の反応炉である頭脳級BETAを直撃。最近のBETA弱体化はそれが原因。そしてそれがハイヴに近づいた人間の脳までも揺らした。それが原因と思われるわ」
「BETAが捕虜をとっている? いや、あり得るかもしれませんが、しかし人間の思念がそこまで高まることなんてあるのですか?」
「忘れたのかしら? その質問の答えは先ほど身をもって知ったはずよ。そういった技術はたしかにあるのよ」
「ああ、サイコプレッシャー……ですか。ではコオヅキ博士は原因を突き止めただけでなく、その再現までも成し遂げてしまったのですか?」
「…………そうよ。さて、話を進めるわ。この思念波から脳を守る研究はすでに出来ている。でも今、横浜基地が使えなくなっていてね。だから前線部隊の救助に間に合わせるためには、このユーコン基地に間借りして実用段階までもっていかなきゃなんないのよ」
「救助? 助け……られるんですか。ミンスクハイヴの攻略部隊を!?」
ここ最近沈んだ顔をしていたユウヤの顔が、にわかに陽がさしたようになった。
「部隊は今も無傷のままハイヴ周辺で停止したままよ。突然BETAが襲ってこない限り、助けられる可能性はあるわ。強化装備の生命維持機能が保っている間までわね」
博士の言葉にユウヤは吐き出すように叫んだ。
「お願いします! 俺たちに出来ることなら何でもします。だからどうか間に合わせてください!」
そういやミンスクで生死不明になった衛士には、ユウヤの昔仲間のレオンやジェリド中尉もいたっけ。ユウヤは今までずっと心配していたんだな。
「もちろんよ。すでに米軍上層部からも要請されているわ。アナタたちアルゴス小隊は今から救助作戦の実験部隊としてアタシに協力してもらうわ。いいわね」
「もちろん協力は惜しみませんが。しかし我々に出来ることがあるのですか?」
「モニターとデータ取りよ。思念を遮断するヘルメットの
博士はチラリとシロッコを見る。
そしてシロッコはニヤリとほほ笑みを博士に返す。
この場にシロッコがいるおかげで、解明と解決がおどろくほど進んだな。
実験の準備にえらい人三人が退席すると、とたんにアルゴスの皆はさっきの話で持ちきりになった。
「いや凄ぇな。”横浜の女ギツネ”のウワサは聞いていたけどよ。オレらの軍でもわからなかった謎現象の正体を現場にも行かず、こんなにも早く突き止めるなんてよ。しかもその現象を再現して、打開策にまで手ェつけてるときたぜ!」
「天才すぎだろ、あんたらの上司。あきれてモノも言えねぇや」
「小説の中で名探偵の推理を聞いている時の気分は、こんな感じかもしれないわね。本当に凄すぎて感心するしかないわ」
「ジェリド中尉やシャロンが助かる可能性も出てきたな。あとついでにレオンもな。本当にアンタらの博士には感謝してる。モニター役をしっかりやって応えるぜ」
「え、ええ。博士に伝えておきますわ。それでは、わたくし達は博士のアシストに行きます。後で呼びに来ますので、待機しててください」
と言って、オレと白銀はブリーフィングルームを出て博士が実験室にしている部屋へ向かう。
いや機密が多いと仲間と話すのも苦労するね。つい話の中で漏らしそうになっちゃうし。
「ふぅ。まぁ、たしかに博士がすごすぎる方のように見えますわね。サイコプレッシャーの話のすべてはシロッコから聞いたことですのに」
「あと純夏のおかげだな……アイツが横浜基地で正体を突き止めてくれた」
その”純夏”という名前を言う時、白銀はいつも妙な憂いのある表情を見せる。
オレはそれが気になってしょうがない。
「ねぇ白銀。鑑純夏という衛士はどういう方なのです? わたくし、この件で聞くまで知らなかったんですけど」
前に帰還した時A-01部隊のメンバーと顔合わせをしたが、その衛士はいなかったと思う。
博士も妙にこの名前が出ないよう気をつかっているフシがあるので、重要人物なのかも?
「この場じゃ、ちっと説明できねぇな。夕呼先生のいる前でしなきゃならない。しばらく待っててくれ」
「ふぅん? ずいぶんな重要な役目をになっている方のようですわね?」
「……ああ。その通りだ」
そのカッコイイ男の憂い顔はヤメロ!
ホレちゃうだろうが!!