数日後、またまた香月博士に白銀とシロッコと共にユーコン基地の一室に呼び出された。
サイコプレッシャー対策で作ったヘルメットの運用結果が出たそうな。
「送った試験運用ヘルメットの成果評価報告が来たわ。『貴官の仮定は真実の可能性大。試験備品の装着によりハイヴ周辺危険域にて三時間ほどの行動自由を得られた』ですって」
「ではやはりハイヴで起こった異常事態の正体はサイコプレッシャーで決まりですか」
「そうなるわね。で、正体を突き止めたアタシはちょっとした時の人になったワケだけど。軍上層部の要求がヘルメットの追加生産と改良。持続時間をハイヴ攻略まで延ばせないかってね。技術部の連中もいないのに無茶いうわね」
借り物の研究室とスタッフでは、やはりそれほどの精度のバッフワイト素子は作れないそうな。
実験台にされたアルゴス小隊の皆も病院通いだ。
「横浜基地の技術部の方たちですか? 純夏のおかげで救助されたのでは?」
「ええ。鑑にハイヴ反応炉の機能を停止させたらサイコプレッシャーもやんだ。それによって基地の救助活動が行えるようになって、スタッフや隊員全員を病院に送れたわね」
「まだ復帰できないんですか? ひどい後遺症でもあったとか」
「後遺症、ね。まぁ、そうとも言えるわね。全員いまだ目を覚まさないわ」
「なんですって? 救助からもう一週間近くたってますよね。なのに?」
「そうよ。そのサイコプレッシャーを受けた被害者はどうなるのか。復帰は可能なのかどうなのか、ぜひ専門家の意見を聞きたいわね」
「ふむ……じつは私自身、これを使ったのは前の実験をのぞけば二度だけ。カミーユとソ連の女性強化衛士のみなのだよ。カミーユに関してはその後どうなったのか知るすべはないし、ソ連衛士はその後死亡している」
「ふうん? そのカミーユってヤツはどこの誰。アタシのツテを使えば、世界のたいていの人間の行方くらいは探せるけど」
「さぁて。カミーユはどこにいるのだろうね?」
意味深にオレを見るシロッコ。
糞、知っているくせにオレに話させるのかよ。
「シロッコさんのいた宇宙世紀です。知るすべはないかと」
いや、知ってはいるんだけどね。
話したらオレがなぜ知っているかの話になって、いろいろ白状させられてしまうから、黙っているしかないんだよ。
「そう。ま、これは医者の領分だし、アタシたちのやる事に集中しましょう。
「やる事……ハイヴに起こったサイコプレッシャーの対策ですか?」
「技術的なことはここの技術スタッフを使ってどうにか進めるわ。アンタたちに聞きたいのは、それが起こった原因よ。ミンスク、横浜の両方に起こったことから、他のハイヴも同様だと考えられるわ。いったいハイヴに何が起こっているのかしら?」
「さぁて。私はそのハイヴというものを良く知らないのでね。せいぜいBETAという怪物の巣であり司令塔兼エネルギー炉だということしか」
「いいわ。じゃ、少し説明しましょうか」
というわけで博士はボードに図面を描いてハイヴの説明をする。
「このように、BETAの指揮系統は中国カシュガルに落ちた最初のハイヴ、通称オリジナルハイヴにすべてのハイヴから情報を集められ、さらにそこからすべてのハイヴに情報が伝達される。いわゆる完全ピラミッド構造になっているわ。アタシはそのオリジナルハイヴに何らかの異常が起こった。一連の事態はそれが原因と考えているんだけど」
「敵中枢の司令系統の話をずいぶん断定的に言うのだね。そういう時は『思われる』とでもつけるのではないかね。それとも何か確信する理由でもあるのかな?」
博士はチラリと白銀を見る。
ああ、白銀からの情報なのか。
「………まぁね。アタシにもいろいろ情報源はあるから。とにかく間違いないものと思っていいわ」
「そういうことなら話は簡単だ。そのオリジナルハイヴにおいてジ・Oより研究されたサイコミュが実験中に暴走。中央反応炉よりサイコプレッシャーがすべての反応炉に拡散され、この事態になったのだろう」
「ま、そうよね。で、それを止める方法はある? ハイヴ深奥に入らず出来るような」
そんなモンあるわけ……
「理論上にはある」
あるのかよ! さすが宇宙世紀最大の天才。
「オリジナルハイヴ地表で相手より強力なサイコプレッシャーをぶつけ、サイコミュの機能を止めればよい。私のジ・Oもそれで機能不全になった。カズサ、挑戦してみるかね。ちょうど君の機体もゼータであるし」
ハッ! それはもしや、Zガンダムがジ・Oの機能をサイコプレッシャーで止めるあの名シーンの再現!?
それをオレにやれと言うのか⁉
「やります!!!」と、野生の咆哮をあげそうになるオレを必死に理性で押しとどめる。
「それって成功してもしなくても、精神崩壊コースですよね?」
カミーユみたいに。
「ま、そうだろうな。送られてきたサイコプレッシャーのほんの一端にふれただけで、周辺部隊を昏睡させるほどの力だ。その大元となるオリジナルハイヴ周辺とあらば、どれだけ強力か想像もつかん。それを超えるサイコプレッシャーを発生させるなどそうとうに困難であろうな」
いや、こっちも理論上にはそれに挑戦するだけの力はあるんだけどね。
かなり前に横浜ハイヴに蓄積されていたG元素をサイコフレームにしてゼータのバイオセンサーやらコクピットまわりをメチャクチャ強化したことがあるのだ。
もっともそれだけのサイコフレームをフル稼働させたらどうなるか。
パイロットのオレは死亡か精神崩壊か。まさしくガンダムキャラそのものの運命だ。
「つまり実質不可能ということね。ハァ、やっぱりやるしかないわね」
「おや、どうやら香月女史には打開の腹案があったようだね。ただし、出来れば使いたくないような」
「ええ。オリジナルハイヴをG弾で吹き飛ばすの。サイコミュごとね」
「「な、なんだってぇーーッ!!?」」
オレと白銀は仲良く声を張り上げた。
博士がG弾使用派に転向⁉ いや、アンタはそれに反対した派閥のボスだろうが!!
「せっかく苦労して第五推進派を倒したのに、博士が鞍替えですか!?」
「あれは全世界のハイヴに落とすという無茶な作戦だから反対したの。地球環境に致命的な激変をもたらすからね。でもオリジナルハイヴ一つに落とすだけなら問題ないわ。レーザー級も沈黙しているから、大した作戦もたてずに実行できるし」
「しかし……そうなると、第五推進派が復活してしまうのでは?」
「そうね、だからやりたくなかったのよ。でもこの先いつまでもBETAがサイコミュにやられている保証はないわ」
「そのサイコミュを潰せば、BETAが復活してしまうかもですが?」
「それでもサイコプレッシャーに阻まれている今よりはマシよ。鴨打状態になった今でさえBETAに時間を与えるのは恐い。いずれサイコミュすらモノにしてしまうかもしれないわ」
そう言われてしまえば、反対するすべはない。
第五推進派を相手にする方がはるかにマシだ。
「で、どう? この作戦で他に大きな問題があるって意見はない?」
誰も何も言わない。まったくぜんぶ博士の言う通りだ。
「…………ないわね。じゃ、上に作戦案を出してくるわ」
なんと。もうすでに用意していたらしい。
どうやら今回の会合はG弾作戦の最終確認だったみたいだ。本当にどこまでもデキるお方だ。
と、白銀が手をあげた。
「あ、先生。横浜基地にはいつ帰るんですか? その、純夏が心配で」
「もう少し待ちなさい。サイコプレッシャーの問題は、アタシしか聞けるヤツがいないから離れられないの。シロッコを貸すワケにもいかないし」
「そう……ですか」
「そんな顔しないの。作戦案が通ったらすぐ帰るわ。さすがにいつまでも横浜基地を他人まかせにしておけないからね」
やれやれ、ようやく帰れるのか。
ただブルーフラッグを見学するだけの任務だったのに、どれだけ追加任務が増えるんだって話だよ。
だけど結局オレは横浜基地には帰れなかった。
この後、最後にして最大の追加任務が待っていたのだから。