ユーコン基地航空滑走路
作戦案の提出やらバッフワイト素子の技術提供やら、香月博士のもろもろの仕事も終わり、ようやく日本に帰れる日がやってきた。
滑走路には博士の乗って来たチャーター機とオレのゼ-タが置かれてある。さすがにオレのゼータを乗せる貨物機は用意できなかったので、そのまま乗って帰ることになったのだ。
博士とシロッコ、そして秘かにイーニァもすでにチャーター機に搭乗しており、オレと白銀はアルゴスのみんなとの別れを惜しんでいる最中だ。
「別れはもう何度もしてきた気がするけどよ、ようやく本当に帰れることになったな。お疲れさん」
まったくだよVG。ユーコン基地ってのは呪われてるんじゃないかと、何度思ったことか。
「テロとBETAの迎撃からタカムラの救出までホントに世話になったな。本気で感謝してるぜ、お姫様」
だったらお姫様はやめろ、タリサ。
「タカムラ中尉にアンタの活躍をちゃんと話しておくよ。結局、帰国までに目が覚めなくて残念だったな」
そうだな、ユウヤ。篁さんのことはまかせたぞ。
「シロッコさんに伝えてください。ナタリーのこと、本当にありがとうございました。また、いつかお会いしたいですって」
シロッコも、ここに出て来りゃいいのに。ちょっと切なそうなステラさんが可愛そうだ。
「みんな、ありがとう。名残惜しいが、いつまでも分かれを惜しんではいられない。もう行くぜ」
そうだな、白銀の言う通りだ。
それじゃ最後の挨拶で締めくくろうか。
「それでは、みなさん。そしてユーコン基地。山城上総と白銀、帰国いたします。いつかまた逢える日を楽しみに――」
ふと、言葉が途切れた。
あらためて見渡したユーコンの空と自然が、あまりにキレイすぎたから。
「おい、どうした? 固まっているぞ」
そして我にかえる。
なんだろうね、ただの景色にこんなに感動するなんて。
「ああ、すみません。なんだかユーコン基地の景色がやけにキレイに思えまして」
「あはは、
ぐっ、不覚。つい、このサルの前でお嬢様っぽいことを言ってしまった。
「ま、あらためて見りゃ、自然の豊かないい場所にあるんだよな。このユーコン基地は」
「そうね。私たちもいつか基地を離れる時には、この景色に感動するのかもしれないわね」
オレは恥ずかしくなって、すばやくZガンダムに乗り込んだ。
いい加減出ないと、出発が遅れる一方だ。
「みなさん、お元気で。山城上総、Zガンダム行きます!」
ブースターを吹かし、足のホバリングで滑走路を滑り、飛び上がる。
ほど良い高度にまで達すると、巡行形態のウェイブライダーに変形。
最後にサービスとして、みんなが居るその上空を一回り。
みんながウェイブライダーを見上げている様がよく見える。
「やっぱり寂しいですね、篁さん。あなたがそこに居ないのは」
でも、そんな感傷は一瞬だけ。
進路を日本に向けてスピードを上げる。
久しぶりの空はやっぱり気持ちいいもんだな。
おっと、チャーター機から離れすぎないようスピードを調節しないと。それに向こうとの通信回線も開いて……
「か、上総!!?」
ふいに、隣のハロが妙に切羽詰まった声をあげた。
「ハロ? どうしたんです。すぐにチャーター機との交信が始まるのに声なんか出して」
「今、いきなり妙なデータが送られてきたんだ! それも出所不明な」
「不明? ゼータのシステムでも発信場所がわかりませんの?」
「そうなんだよ。こんな事はあり得ない。それにこのデータは……そんな! これはマズイ! もうすぐ世界は終わる!?」
ハロの意味深な妙な言葉に、聞き返す暇すらもなかった。
ゼータのバイオセンサーが勝手に立ち上がり、しかもあちこちからサイコプレッシャーのような圧力が沸き上がってきたのだ。
「いったい何が!? ハロ、さっきのデータには何があったのです?」
「オリジナルハイヴのBETAの大元が、研究しているサイコミュの制御と抵抗を諦めたらしいよ。それが最悪な事態を引き起こす可能性があるってさ。もっとも、もう起こってるけどね」
「はぁ? どこの誰が、そんなことを知ることが出来るのです。それではまるで……」
「そう、ボクたちをここに送った神様だろうね。今まで神様はボクたちに一切の交信をしてこなかった。多分、干渉しちゃいけないルールでもあったんだと思う。だけど、今、それをしてきた。ルールさえ破らなきゃならない非常事態だってことだ」
「まさか、そんな……いえ、とにかくその神様の忠告を聞きましょう。それで? どうしてその大元が諦めたら最悪になるのです?」
「BETAの大元はすべてのハイヴの頭脳級からデータを集め演算をし、すべてのハイヴへ司令を送る、いわばBETA最大にして唯一の頭脳なんだ。その頭脳がサイコミュの制御を諦めた。次に出した答えがサイコミュとの融合らしいよ」
「ゆう……ごう? サイコミュと一体化してしまうことですの?」
「そう。自分がサイコミュそのものとなり、他すべてのBETAを憎悪の思念のままに切り捨てる。そうすることで、サイコミュの制御をはかったんだ」
「に、人間は? そうなったら人間をどうするつもりなのです?」
「すべての人間の脳をネットワークのひとつにしてしまう。今までサイコプレッシャーにやられた人たちが目覚めなかったのは、脳を端末にされてしまったせいだったんだよ」
「なんですって!?」
「全世界の人間の脳をニュータイプ化し端末にして、この星唯一の知的生命となる。それがBETAの親玉が出した答えなんだ!!!」
―――!!!!?
香月博士の懸念は正しかった。
ついにBETAはサイコミュをモノにし、最大級の脅威となって人類に牙を剥いた。
惜しいことに、博士の天才性をもってしても、この事態には間に合わなかったけど。
「ああ、空が…………」
キレイだった透き通るような青空が、徐々に不気味な群青色の発光をしはじめた。
「サイコフィールドだ……世界をサイコフィールドで包み、世界中の人達を端末にするつもりだ。なんてこった。神様が心配している真の最悪。それが本当におこっちゃう!」
「さ、最悪ってなんです? 今が最悪じゃないのですか?」
「神様が心配しているのはこの世界の人間達が全滅することじゃないんだ。最強のサイコミュと化したBETAのその力は、次元を超えあらゆる並行世界に影響をもたらす事が出来るんだ。そして他の次元の人間すらも端末にして、自分の力にしてしまうんだよ!」
「な、なんですってーー!!?」
「さぁて、どうする? このまま帰国というわけにはいかないと思うけど」
「………とにかく戻って、この情報を博士たちに話します。とても、わたくしの頭で考えられる話ではありません」
機首を返してUターン。元のユーコン基地滑走路へと進路をとる。
不気味なサイコミュの青い光を放つ空の中、ウェイブライダーで飛んでゆくのであった。