上総です。現在ウェイブライダーで不気味に群青色に発光する空を飛行中。
ユーコン基地にUターン帰還するかたわら、香月博士に連絡をとった。
さすがに情報が神様発信なことは話せないから、BETAがサイコミュをモノにしたという部分だけをかいつまんで話した。
「……と、いう訳なんです。あの空の光はサイコミュの発光と同質のものですわ。どうやら博士の懸念通りのことが起こってしまいました」
『そうみたいね。シロッコはさっきから空を見上げてプレッシャーがどうとか言っているし』
「とにかく一度そちらに戻ります。BETAのサイコミュ対策をユーコン基地で話しあいましょう」
『そうね。ところで山城はこの空を飛んでいて大丈夫なの?』
「どういう意味です?」
『さっきから現在飛行中の航空機やら戦術機やらの墜落事故がひっきりなしなのよ。山城が行ってからごく短時間の間によ。シロッコが言うには空はもうダメらしいわ。プレッシャーで昏睡状態になり制御機器も狂わされて、とても飛べる状態にはないらしいわ』
なるほど。バイオセンサーが起ちあがりっぱなしなのは、それを防ぐためか。
「Zガンダムは大丈夫です。こちらもサイコフィールドを発生させて防げますから」
『そう。この空を飛べるなら事態打開の大きな力になりそうね。とにかく戻ってらっしゃい。最悪にはなっても、どうにかする方法はまだあると思うわ』
「了解ですわ」
「カシュガルから遠く離れたこのユーコンの空でさえ、サイコフィールドに覆われてしまっている。この分じゃ世界中の空はもう軍は飛べないね。まぁもともと空はレーザー級の脅威にさらされてたけどさ。まったくの安全地帯が無くなるんじゃ、脅威度は違ってくるね」
「こうなると本当にこのZガンダムだけが最後の希望ですわ」
滑走路上空にたどり着き、下界をモニターで見てみると、本当に墜落した航空機や戦術機があちこちで煙をあげている。
「ひどいモノですわね。人のいる場所に墜落して被害の出た所はありませんの?」
「航空路は都市部を外れて飛ぶのが常識だから、そう多くはないと思うけどね。それでも運の悪い場所はあるかもだよ。 ………あっ!」
「どうしました?」
「運の悪い場面に出くわした。基地の輸送貨物便がちょうど居住区に墜落する所だ」
「急ぎましょう! 被害を最小におさえます!」
「あー無理。距離が離れすぎてて、とても間に合わな………ああっ!? マズイ!!」
「ど、どうしたのです?」
「落下予想地点はちょうど基地病棟だ! 篁さんのいる!」
「な、なんですって!? フルスロットル!!」
「くっ、でもどう計算しても間に合わない! パイロットが軟着陸も試みず自由落下のまま落ちてくるんじゃ……!」
全速力で基地滑走路を越えて病棟へ急行した。
それでも望遠モニターで病棟が見えた頃には、もうすでに基地病棟ビルに貨物機が墜落して直撃せんとする瞬間だった。
しかも病棟ビル付近には、まだ大勢の人間が逃げ出そうと押し合っている最中だ。
「どうして今になっても退避させてませんの!?」
「墜落機があまりに多すぎるせいだ。避難警告が遅れたんだ!」
「そんな………たかむらさああああああん!!!」
――ズウウウウウンッ
無情にも輸送貨物機は病棟ビルに直撃激突。
ビル上層部は完全に崩れ、ガレキが下の避難民に降ってきて大惨事だ。
そんな悲劇を目の当たりにしてさえ、オレは篁さんのことで心が壊れそうだ。
「たかむらさああああああん!!! うわあああああっ!!!」
「――!!? か、上総! バイオセンサーがもの凄い起ち上がり方を……や、ヤメロオオオオオオオオッ!!!」
ハロのはじめて絶叫。
その答えは全周モニターの外に出た。
全周モニターすべての方向からものすごい発光が差し込んだのだ。
それはオレが叫ぶほどに光を増してゆき、まばゆくて目を開けてられない。
そうか、ゼータの全身に施したサイコフレーム。
それがオレの感情に呼応して、そのすべてが起動したんだ!
危険だ……でも止められないんだよ。
篁さん。君を失って、こんなに悲しいなんて………
――え?
瞼を閉じても、まばゆ過ぎる光の中。
その向こうに、たしかに彼女が見える。
篁さんが………模擬刀を振っている?
「フッ、フッ、フッ…………あ、山城さん」
気がつくと、そこは山百合女子衛士訓練校の道場だった。
声をかける篁さんも、髪は短く学生の頃の少女そのもの。
「相手をしてくれないかな? ただ振っているのも飽きてきたし」
ああ、これは夢だな。
彼女を失った悲しみが作り上げた、はかない夢。
それでもいいや。
もう一度君と、ただ打ち合うことが出来るのなら。
「いいでしょう。お相手しましょう」
オレは長い髪を無造作に後ろに縛り、模擬刀を掴んで軽く構える。
オレを真っすぐに見つめる彼女の目は純粋で真剣であどけなくて。
「いきます! ハァッ」
――カン
篁さんの飛び打ちを払うと、ふたりだけの仕合がはじまる。
カン、カン、カン
勝っても得るものはなく、負けても失いものもない。
目標も目的もない、ただ無意味な勝負。
それでもオレと篁さんは勝ちを目指して、ただただ打ち合い続ける。
カン、カン、カン、カン、カン
不思議だな。
勝ちたいのに、このままずうっと打ち合っていたい気がする。
彼女が真剣な思いをぶつけてオレだけを見ているこの時間が、永遠に続けばいいと感じている。
カン、カン、カン、カン…………
―――「か、上総!!」
え? ハロの声が聞こえる?
アイツがどうして山百合にいるんだ?
気がつくと、オレはゼータのシートに座っていた。
全周モニターの向こうには残骸になった貨物機と崩壊した病棟ビル。そのガレキの下敷きになった人々や、逃げまどう人達が映っていた。
「夢………でしたの」
なんて残酷な夢。
現実のモニターでは、完全崩壊した病棟とおびただしい被災者の群れ。
あの様子じゃ、篁さんはとても生きているとは――
――「ムニャ、強いですね山城さん」
え?
「そんな………バカな………」
声のしたシートの後ろに目をやると、いたのだ。
病院パジャマ姿の篁さんが、あどけなく眠っている!
「ハロ? どうして篁さんがここに居るのです?」
「わからないよ。全身のサイコフレームがフル起動したせいで制御が追いつかなくて、そっちに注意してなくってさ。上総に影響がないかをチラ見したら、いつの間にかいたんだ」
「はぁ?」
「あ、ちなみにフル起動は今も制御できないままだけど、大丈夫? 発光だけは何とか抑えているけどさ」
「ということはサイコフレームは今も最大稼働中ですか。この現象はやはりサイコフレームの奇跡?」
「演算できない現象………これがサイコフレーム。実際に演算したらCPUがバグりそうだ」
サイコフレーム。
それは奇跡をおこす物質と言われている。
だけど、ここまでの奇跡を起こせるものだとは思わなかった。
この力で、サイコミュ化したBETAの親玉を倒せるか?
あと、篁さんどうしよう?