ゼータと上総   作:空也真朋

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133話 せまる巨大な脅威

 「なななな、なぜ篁さんがここに!? いったい何が起こりましたの!?」 

 

 「『なぜ』『どうして』を問うヤツは戦場じゃ生き残れないよ。とりあえず篁さんの診断かな。サブシートに座らせて」

 

 「なんて冷静で的確な思考と判断力! まるでAIのようです!」

 

 「『まるで』じゃなくて本当にそうだからね。原因はゼータの機体中のサイコフレームが異常起動しているせいだろうね。もっとも、どういう理屈で人間をワープさせたのかはわからないけど」

 

 ともかくいう通りに篁さんをサブシートに座らせると、ハロは篁さんの全身をゆっくりスキャンして診断した。

 

 「軽く診断した結果だけど手術は成功している。回復目前だね。ただ長期間寝たきりだったせいで体力は落ちているし、傷を塞いだ部分も脆くなっている。戦術機に乗るにはリハビリが必要だね」

 

 「とてもゼータの機動に耐えられるものではありませんね。博士に預かってもらいましょう」

 

 このまま篁さんをサブシートに乗せたまま空のドライブっていうのも憧れるんだけどね。

 全周囲モニターの中なら景色が八方に映し出されるから、二人で空を飛んでいる気分になれちゃうね。ウフフ。

 

 「とりあえずガレキの除去だけして、博士の元に戻りましょうか」

 

 「そうだね。さて、どこまで話そうか……っと、ウワサをすれば博士から通信だ。ボクは黙るから、あとはヨロシク」

 

 「了解です」

 

 ハロが通信機能をオンにすると、そこから香月博士の声がした。

 

 『どうしたの。アンタのZガンダム、ずいぶん光っているけど?』

 

 「機体の中のサイコフレームがフル起動しました。制御が難しい状態です」

 

 ――『なんだと? すまない、少しかわってくれ』

 

 通信の向こうでシロッコが博士に話しかける声がした。

 サイコフレームの話題が出たとたん飛びつくとは。

 ずいぶんコレに脳をやられてるな。

 

 『ああ、ちょっと待って。シロッコが代わってほしいって言うから代わるわ。何か言いたいことがあるそうよ』

 

 博士にかわりシロッコの声が通信から響いた。

 

 『カズサ、私だ。君のZガンダムには各所にサイコフレームがあるのか?』

 

 「そうです。ずいぶん興味がお有りですね」

 

 『君に送られたサイコフレームは私の最大の研究課題となったからね。ぜひ、そのゼータを調べたいのだがね』

 

 「…………まぁ、サイコフレームの研究は緊急ですわね。わかりました。協力いたします」

 

 『感謝するよ。では……クッ!?』

 

 キュピィィィン

 

 「ああっ⁉」

 

 互いに同時にセリフが途切れた。

 脳内にニュータイプ特有の戦慄が走ったのだ。

 

 「シロッコさん、感じましたか?」

 

 『ああ………君のゼータのサイコフレームにひかれて来たようだ』

 

 巨大なプレッシャーがせまってきている。

 手足になる量産型BETAをみんな切り捨てているはずだから、問題のBETAの大元がみずから来ているということか。

 

 『急いで離脱したまえ。一切をふりきってな』

 

 おや? シロッコの声の調子が変わったような。

 まるで、なにかひどく落胆して沈んだような感じか?

 

 「ですが、そちらは? チャーター機で飛べば空を覆うサイコプレッシャーにやられてしまいます。陸路で逃げられるのですか?」

 

 『こちらを気にかけるな。アレが来れば、この場にいる人間はすべて死滅する。君だけでも逃げろ』

 

 ――!!!?

 

 「なにを言ってるんです? それではまるで死ぬ覚悟のような⁉」

 

 『その通りだ。観測できるか? 太平洋を異常なスピードでせまるプレッシャーを』

 

 ハロがすばやく、その存在を提示してくれた。

 シロッコの言う通り、それは中国方面からおそろしいスピードを駆って、このユーコンを目指し突き進んでいる。

 そしてオレも感じはじめていた。

 それは星そのもののような圧倒的巨大なサイコプレッシャーを放つ存在であることを。

 

 『われわれは遅かったのだよ。もはやアレから逃げることは不可能だ』

 

 「は、博士に代わってください! 上官の判断をあおぎます!」

 

 『――かまわないから逃げなさい。シロッコが言うなら、本当にそうなんでしょう。本当にこの新種はいつもこちらより一手早いわね』

 

 『――上総、俺だ。夕呼先生とシロッコ、それにここに居るみんなは俺が何とか逃がす。お前は先に離脱するんだ』

 

 博士、白銀――

 

 「…………了解」

 

 暗澹たる気持ちで通信を切った。

 でも命令であろうと、みんなを見捨てるような指示になんて従えない。

 こうなったら――

 

 「ハロ、しばらく操縦を代わりなさい。とにかく篁さんにノーマルスーツを着せます」

 

 衛士強化装備を着て乗るようになってから元から備えてあったノーマルスーツはしまったままなのだ。久しぶりに役に立ってもらおう。

 宙間戦闘用のスーツだから、対G性能は強化装備よりはるかに優れている。日本に置いていったりしないで本当に良かった。

 

 「それはいいけど、これからどうするの? 言われた通り逃げる?」

 

 「いいえ。こちらを追ってくるのなら、ヤツを太平洋上へ誘導します。要はアラスカへ上陸させなければいいのです」

 

 「いいけど、篁さんを乗せたままじゃ無理だよ。とても戦闘機動に耐えられる体じゃない」

 

 「少々乱暴ですがここに置いていきます。アルゴスの誰かに連絡して回収してもらいましょう。そうすれば――」

 

 ――ブオオオオンッ

 

 その時だ。急な強風が吹き上がりコクピット内が大きく揺れた。

 モニターを見ると、そこにはさらなる地獄絵図が映っていた。

 被災者は吹き飛ばされ、ガレキも吹き荒れる風に飛ばされて、さらなる負傷者を増やしていく。しかもなんと、その風は車さえも転倒させて人々を押しつぶしている。

 

 「な、なんです、これは!? こんなひどい嵐がなぜ急に?」

 

 「ヤツだよ。ボクたちをここから逃さないつもりだ。強力なサイコウェーヴの波動で局地的な嵐を生み出しているんだ」

 

 糞ッ! これじゃ篁さんを置いて行けないじゃないか!!

 

 「この風じゃウェイブライダーは飛ばせませんわ。どうしましょう」

 

 「ウェイブライダーには変形しないで低空で飛行して進むんだ。手足でバランスをとればどうにか行ける」

 

 「わかりました。ですが、まずは彼女を置いておける場所を探してからです。」

 

 どうあってもこの子だけは守る!

 それだけは、もう決めたんだ。

 篁さんを置いておけるような場所をサーチして各所の映像を映して探していると。

 

 ――「やましろ……さん」

 

 隣のサブシートから彼女のうめくような微かな声がした。

 

 「篁さん? 気がついたのですか?」

 

 「いずみ……安芸……志摩子……」

 

 「はい?」

 

 「戦時任官でも……私たちは……衛士になったんです……」

 

 「夢を見ているんですの?」

 

 おそらくは帝都防衛戦のころの夢。

 あどけない顔であの時の仲間を激励している。

 

 「戦いましょう……ここは……私たちの故郷。こわくても……」

 

 「…………そう……でしたね」

 

 あの頃の彼女たちは、未熟ながらも命を懸けて衛士の務めを果たした。

 結果、故郷は蹂躙され篁さんの仲間はことごとく戦死した。

 

 

 「…………篁さん、わかりました」

 

 ――え?

 

 「ハロ、時間がありません。このまま行きましょう」

 

 「え? 正気? 篁さんはいいの? せっかく奇跡で生きているのに。乗せたままだと、彼女の体力的に生きてられない可能性が高いよ」

 

 そうだよ。長い危篤状態と入院期間で、彼女の体力は危ういほど低下している。

 こんな状態の彼女を乗せて飛行なんて、彼女を殺すようなものだ!

 

 「衛士は人々を守る千引きの岩。ユーコン基地にいる人たちのためにも、一刻も早くヤツを引き離さなければなりません」

 

 「ど、どうしちゃったの?」

 

 まったくだ。

 オレは本当に自分の意思で話しているのか?

 

 「………わかった。いいんだね?」

 

 「ええ……」

 

 ノーマルスーツの中で眠る彼女の寝顔をもう一度見る。

 そして彼女の手を強く握りしめる。

 

 「これで良いのでしょう? 唯衣」

 

 眠ったままの篁さんと会話なんかしちゃってるし。

 いったいどうしちゃったんだろうね、オレ。

 不思議現象が飽和したまま、ゼータはユーコン基地から飛び立つのであった。

 

 

 

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