白銀武side
ユーコン基地滑走路チャーター機内
上総のZガンダムが去った後、せまる超巨大なアンノウンのデータを出来るだけとろうと、機内の観測機器をフル動員して計測していた。
しかし突如巻き起こった嵐は次第に収束してゆき、近づいていたアンノウンも離れつつあることがレーダーから読み取れた。
その原因はアンノウンの目標のZガンダムが来たるアンノウンからの正反対の方向をとらず、海岸沿いを北上していったため、アンノウンもそれを追っていったためだ。
「上総……どうしてその方向に? 全力で反対方向に逃げないなら、戦うしかないんだぞ」
「簡単だろう。カズサは我々を助けるために戦う選択をしたのだよ。想定通りにな」
「なっ!?」
いま……シロッコは何と言った? 『想定通り』だと!?
「なんですって? シロッコさんは上総がこうすることが分かっていたのですか?」
黙ってレーダーを見つめていた夕呼先生も、シロッコのこの言葉に冷笑を浮かべた。
「似合わない妙なコトを言うと思ったら。あの子の性格を読んでいたのね」
「カズサのことは調べられる限り調べたからね。まっすぐな良い子だ。だからこそ、ああ言えば基地の皆を見捨てて去ることはないと見たのだよ」
「アンタって人は!」
そうやって上総を捨て石にして生き延びようってか!?
あまりのことに、無意識にヤツの胸倉をつかんでいた。
「やめなさい白銀。たとえコイツの思惑通りだったとしても、戦う選択をしたのは山城よ。逃げてもいいって言ったのにね」
夕呼先生の沈んだ声に俺の感情の高ぶりも止まった。
言われるままつかんだシロッコの服を放す。
「ほほう? 香月女史は、彼女が本当に逃げていたらどうするつもりだったのです。あの怪物に蹂躙されるまま死んでいましたか」
「それでも良かったわね。人類の未来を、あの子がアタシの代わりに担ってくれるならね」
「夕呼先生?」
夕呼先生は生存の目が出たことを心底残念がっているように見えた。
上総を犠牲にする後ろめたさとは別の感情で。
「ま、それも訪れなかった未来。あの子が捨て石になってアタシたちが生き延びる以上、策を考え続けなきゃならないわね」
「やめてください! まだ上総は生きています。強大な敵と戦わねばならないとしても、死ぬと決まったワケではないでしょう」
「どうかしらね。たった一体で地球上のあらゆる場所に異常気象を起こすほどの怪物よ。無策で戦って生きられるとは思えないけど」
「クッ……」
わかっている。
俺が言う『生還する可能性』はただの願望だ。
あくまで冷静に客観的に事態を見るなら、夕呼先生やシロッコの言う通り、上総が生きて戻れる可能性なんて万に一つもない……
「香月女史。あなたの予想に反するが、私は可能性はあると思う」
シロッコ?
「可能性って? 生きて帰る可能性があるとでも言うのかしら。シロッコさん?」
「そうだ。勝利する可能性すらあると思っている」
「…………へぇ。聞かせてくれるかしら。アンタほどのヤツがそう考えるに至った根拠ってヤツを」
シロッコは端末を操作し、モニターに先ほど記録した発光するZガンダムの映像を映した。
「すごく光っているわね。これがなに?」
「フフ……」
Zガンダムを見るシロッコの目はやけに輝いている。その顔は心底嬉しそうだ。
感情の読みにくいクセ者のこの男が、こんなにも嬉しそうな顔をするのは、それだけで異常事態だと感じる。
「サイコミュ兵装を積んだ機体がそれの起動をする際、機体がわずかに光ることは確認されている。そして機体に乗るパイロットのニュータイプ思念が強いほどその光量は増してゆき、兵装だけでなく機体そのものも比例してパワーアップしてゆく」
「ふうん? その理論だと、今のZガンダムはスゴイ機体になっているわね。それがアンタの言う勝算?」
「フッ、この世界で屈指の天才である香月女史も、しょせんオールドタイプですな」
「はぁ? なに? 言葉の意味はわかんないけど、バカにされたような気がするわ」
「私は前の世界でサイコミュ技術というものに強く魅せられ、その研究に深く没頭してきた。自分の機体にも、サイコミュを簡易小型化したバイオセンサーなどではなく、サイコミュそのものを搭載してデータを取り続けるほどにね」
ジ・Oがサイコミュまるごと機体に搭載するという狂った仕様を、シロッコ自身の口から語られるのは胸熱だな。
そいつが世界線を越えてこっちに来たのが今の元凶だけど。
「いきなり話が変わったわね。それが山城の可能性の話につながるの?」
「まぁ続けさせてくれ。それはサイコミュが強力な兵器になる可能性を見出したからだけではない。それが人を進化させ、ニュータイプと呼ばれる人類へ導いてくれると信じたからだ」
俺は「ハッ」としてもう一度モニターのZガンダムを見た。
そこには眩いほどにサイコフレームで輝かせた機体がある。
「じゃあ、今の上総はどうなっているというんです!!?」
「彼女は到達したのだよ、ニュータイプのその先へ。死すら超越した存在へとな」
「大層な理論ね。でも通信で声を聞いた限りじゃ、そんなご大層なモノになったようには思えなかったけど?」
「ニュータイプを超えた存在というのを、私もどういったものか知らんがね。彼女は自分の変化に気がついていないかもしれん。しかし戦闘ともなれば、さすがに何がしかの変化は見られるはずだ」
なんてこった。
この男、上総を捨て石にするためにあんな事を言ったんじゃなく、自分の興味のため戦闘させてそれを観察するために仕組んだってか!?
捨て石よりタチが悪いじゃねぇか!!!
「ハァ。なんかコイツに乗せられて、時間をひどく無駄にしちゃった気分だわ。ここからの時間は人類の命運がかかった貴重な一瞬一瞬だってのに。白銀」
「は、はい」
「νガンダムで出なさい。山城がこのまま基地から遠ざかってしまえば観測できなくなるわ。追って、アンノウンの記録映像を出来るだけ撮ってきなさい」
「はい! まかせてください!」
「言っておくけどアンタは戦闘に参加しちゃだめよ。たとえ山城が死ぬことになっても」
「なっ!? どうしてそんな……」
「白銀はまだ死んじゃダメだからよ。撮って来た映像で何らかの対策が立ったとしても、その実行をまかせられるのはアンタしかいないんだから」
「…………了解。映像を撮るだけとって帰還します」
知ったことか!
現場の判断ってやつで、どうあっても上総を助けてやる。
しかし夕呼先生は、そんなことを考える俺の顔をジロジロ観察する。。
「うーん、ちょっと心配ね。アンタも山城と同種の人間だし。仲間がやられそうになったら、後先考えずに勝手に動いちゃうタイプでしょ」
スルドイ!
本当にこの人はニュータイプじゃないのか?
するとシロッコは「ズイ」と先生の前に進み出る。
「では、私も同行してνガンダムのサブシートに座らせてもらおう。彼が余計な動きをしようとしたら止める。どうだね?」
夕呼先生はシロッコの顔もジロジロ観察する。
「………妙に浮かれているように見えるわね。アンタ、妙なこと考えてないでしょうね?」
「めっそうもない」
「ま、いいわ。白銀に監視をつけるってのはいい考えだし。アンノウンの使うサイコミュ能力を実際に見てもらえば、解析も期待できそうだわ。白銀、コイツをサブシートに乗せて行ってきなさい」
「はい………了解しました」
「よろしく頼むよ、白銀くん」
にこやかなシロッコの顔に禍々しいものを感じる。
コイツのニュータイプ優勢オールドタイプ差別思想はいつか大きな波乱を起こすかもしれない。
だから無駄かもしれないけど言わずにいられなかった。
「シロッコさん、一つだけ」
「うん? なんだね」
「あなたが強いニュータイプ信望者だというのは何となくわかりました。でもオールドタイプの中にも気高い心を持った人は大勢います。上総が俺たちのために戦う決断をしたのも、ニュータイプだからじゃない。そういうヤツだからなんです」
「君の言いたいことはわかるよ。それをわかった上で言うが、私の心には響かない。あの光に魅せられた私にはね」
「クッ!」
ともかく俺はシロッコを乗せてνガンダムで出撃したのだった。