白銀武Side
アラスカ湾沿岸部北上途中
「おっ? あれは………」
上総のゼータを追って、アラスカ湾を北へ北へと向かっている最中のことだ。
レーダーにこの先四機の戦術機の反応があった。近づいてみると、それは見覚えのありすぎる戦術機たちであった。
「
ともかく、俺はそれらに通信を送ってみた。
「こちらアーガマ1。そちらはアルゴス小隊で間違いないな。なぜここに?」
すると、ユウヤ、タリサ、ステラ、VGの顔が通信映像に出た。
『ああ、タケルか。って、おいおい、そりゃνガンダムじゃねぇか! 持ち込んでいたのかよ』
「まぁな。見ないことにしてくれりゃ、ありがたい」
『そうもいかねぇよ。ここに居る理由だがな。この先に居る嵐の元凶と思われるアンノウンの偵察を命じられちまった」
「考えることは同じだな。ま、軍隊なら当然か。それで、どうしてここで停まっている?」
四機はなぜかこの先には進まずにここで留まったままであったのだ。
『例のサイコプレッシャーだよ。いちおう対プレッシャー用メットは着けてきてるんだけどよ。眠るのは防いでくれるんだが、プレッシャーがアタマに響きやがる。これ以上は動けねぇ』
「そうか。たしかにヤツは常時強力なプレッシャーを出しているからな。よし、この先の偵察はまかされた。アンタらは頭痛の影響のない地点まで下がって待っててくれ」
『νガンダにはこんな強力なプレッシャーの影響もないってか? どんな技術でできているんだよ』
「ま、それは機密ってやつだ。それじゃあな」
『あ、待って。いちおう言っておくわ。タカムラ中尉が行方不明になったの』
ステラの声に思わず止まった。
「なんだって?」
『タカムラの入院している病院に貨物機が墜落した。救助と捜索は今も続いているが、タカムラは見つかっていない。いないんだ………』
ユウヤが沈んだ声で説明した。アイツが一番ショックを受けていそうだ。
「……そうか。上総にどう説明したものか。とにかく行くぜ」
篁中尉の心配で沈みそうな心を奮い立たせ、ともかく目標へ急ぐのだった。
ビュオオオオオオオオッ
嵐の中心部と思われる海岸線に到達すると、強風のなびく中、それは海中に上半身だけを出していた。
巨大にそびえ立つ肉で出来たビア樽のような体躯。その頭頂部にはモノアイだけの頭部が不気味に赤く輝いている。
「あれが……アンノウンかよ。しかしアレはまるで……」
「ああ、まるでわが愛機ジ・Oだ。どうやら鹵獲され徹底的に調べられたらしいな」
「だが、何をしているんだ? 空に向かって光の腕のようなものを伸ばしている」
「それはつまり、ヤツの目標がそこにいるということだ」
カメラを遠距離モードにして空を見上げると、はたしてそこに上総のウェイブライダーは居た。
ヤツが伸ばす無数の光の腕を華麗に避けながら、嵐をものともせず避けまくっている。
「さすが上総だな。あれだけの腕に追われながら、まったく捕まる様子がない」
「つまり香月博士に頼まれた撮影の絶好の機会ということだ。存分に撮りたまえ。その間、私はヤツの心理を探ることに注力しよう」
「心理……ですか? あんな怪物にそんなものがあるんですか?」
「ヤツのプレッシャーはしばらく感じているがな。どうもヤツは苦しんでいるように思えるのだ。その苦しみを探れば、ヤツの弱点にたどり着くかもしれん」
「ヤツの弱点? すげぇ! ぜひ頼みます!」
「うむ。ではしばらく集中する。静かにしていたまえ」
そんな訳で、俺たちはしばらく無言でそれぞれの仕事に集中した。
νガンダムのセンサーも合わせてヤツの調査をしてみたが、やはりとんでもない防御力だった。
見た目の頑丈さだけでなく、その周囲は空間を丸ごと歪めるほどのサイコフィールドが張られている。おそらくは核やG弾をぶつけようとも、たいしたダメージは与えられないだろう。
やがてシロッコは瞑っていた目を開けてつぶやいた。
「わかった。そういうことか」
「なにがわかったんです?」
「ヤツはサイコミュの力を手にした。しかしそれは人間の思念波がなければ真価を発揮できないシロモノだ。そこでヤツは捕らえた人間の脳を使って発動しているのだが、それはBETAへの憎しみにあふれた、いわば猛毒。それゆえ苦しんでいるのだ」
「ええ。そういえば、それがBETAがいきなり弱体化した理由でした」
「だがBETAの中枢はどうにかそれを克服しようと、暴走しながらももがいている。そしてそれを克服する鍵と見たのが……」
ハッ!!?
思わず、空を舞うゼータを見た。
「ニュータイプですね? そうか……わざわざ遠く離れたカシュガルから出張ってきたのはそのためか!」
「その通りだ。サイコミュはニュータイプ思念によってもっとも力を発揮する。だからこそ、ああも執拗にカズサを捕まえようとしているのだ」
「他人事みたいに言っていますが、ヤツがニュータイプを求めているなら、シロッコさんも危ないんじゃないですか?」
「そうだな。ここにニュータイプがいることを知られるわけにはいかないな……むっ!?」
「ああっ!?」
先ほどまでヤツの光の腕を華麗に避け続けていたウェイブライダーの動きが止まった。
その隙を逃さず光の腕はウェイブライダーを掴んだ。
「くそっ、上総が捕まった!」
「そうか、空か。空全体がサイコフレームに覆われているのだ。ヤツは空からこの地球すべてを掌握しつつある。この空を飛ぶことはヤツの領域に入るに等しい」
「そんなことより! 上総を助ける方法はないんですか!?」
「戦闘に介入することは禁止されているだろう。それ以前にそんな方法はない」
「そんな………」
「ヤツのプレッシャーを感じた時から『ヤツをどうにかする方法はない』と予感していたが、実際見てみると本当にどうしようもないな。たとえ私の世界のモビルスーツや兵器があっても同様だろう」
「ぐううっ、糞、上総…………」
そしてとうとうウェイブライダーはジ・オーBETAの巨大なボディの元へと引き寄せられてしまった。
そしてそのボディの中へズブズブ沈みこんでゆく。
糞、糞ぉ………!
「…………うん? どういうことだ、これは」
ふいにシロッコは、疑問の声をあげた。
「…………どうしたんです?」
「ゼータ内部のニュータイプ思念を感じとっていたのだがな。奇妙なことにコクピットに二人分の思念を感じるのだ」
「二人? 上総の他に誰かいるってことですか?」
「…………そうか、共振だ!」
「あの? なんの話を? 俺の質問に答えてください。自己で完結してないで」
「わかった。おそらくコクピット内にはもう一人ニュータイプがいる。その者の思念とカズサの思念が共振し高め合うことで、あの異常に強力なニュータイプ思念は生まれたのだ」
「ふたりですって? その力で脱出は出来ませんか」
「ううむ。ゼータの中にある異常なほどのサイコフレーム。思念を高め合う二人のニュータイプ。材料はそろっている………」
「可能性があるんですか!?」
「私が見た眩いほどのサイコフレームの輝き。あの力をヤツの内部で発動できれば、あるいは。いや、勝利の目すらあるか?」
「勝利ですって!? なら……」
「発動できれば、だ。あのジ・Oモドキの中には何億という人間の怨念が渦巻いている。あの中で意識を保つことは不可能だろう」
「保たせれば可能性はある……ですね?」
コントロールパネルを叩き、その準備をする。
「………なにを考えているのかね、白銀くん」
「フィンファンネルをゼータに飛ばします。Iフィールドを張ってゼータを守るんです」
「フッ、香月博士から戦闘に参加しないよう言われていたのではないかね。そして私は君を止めるためにいる」
「そういや、そうでしたね。解説役があまりに優秀だったんで、そのためだと勘違いしていましたよ」
注意されても手は止めない。
「我々に注意をひいたなら、間違いなくヤツはこのνガンダムも狙いに来るだろう。それでも、やるのかね? 私たちがここで潰されたら情報はどうする?」
「『アイツには勝てない。どうしようもありません』」
カタカタカタ………
「なんて情報の報告をするために生きて帰ってどうするんです。ゼータと上総にしか人類の生存と勝利の目がないと言うなら」
そして一気に出力解放。
「今ここで! それに全部投資するしかないだろう。俺の命も! アンタのも!」
ピシュンッ ピシュンッ ピシュンッ
「行け………行け! フィンファンネル!!」
フィンファンネルを放ち、捕まったウェイブライダーに向けて飛ばす。
「フッ、たいした嗅覚だ。勝機は今しかないことを感じ取ったか。ならば私も手を貸そう」
「シロッコさん?」
「私も、あそこにいるもう一人のニュータイプに会ってみたいのでね。ジ・OモドキのBETAになど、くれてはやらんよ………サイコプレッシャー!!」
シロッコのサイコプレッシャーをも上乗せされたフィンファンネル。
それは眩いほどの光を放ち、たちまちにジ・オーBETAのサイコフィールドを切り裂いた。
そして飲み込まれつつあるウェイブライダーへ真っすぐに到達した。