――BETAめ! 憎い憎い憎い………
――ああああ。よくも家族を! よくも仲間を!
――うわあああっ死にたくない死にたくない死にたくない………
まるで怨嗟の坩堝に放り込まれたような気分だった。
どこまでもどこまでも、深いむき出しの感情の中へ落ちてゆく――
――起きなさい……目を覚ますのよ………
どこからか、オレを呼び覚ます声が聞こえる。
その声に導かれるようにオレの意識は覚めてゆき、やがて目を覚ます。
オレを呼んでいたのは――ー
オレ自身だった。
長い髪に端正な顔の日本美人。
それがオレを見つめている。
いや、まさか彼女は―――
「まさか山城上総? 本当の彼女か!」
「そうよ。ようやく話せましたわね。人の体を勝手に使っていたあなたに」
ふと自分を見てみると、なつかしい男の頃のオレになっていた。
和也だった頃のオレに。
「山城上総、生きていたのか。京都防衛戦で死んだんじゃ?」
「ええ。BETAに捕まって、生きたまま喰われそうになって、篁さんに射殺してもらうよう頼んで、撃ってもらって。そのまま死んだと思ったのに、気がついたらZガンダムなんて知らない戦術機に乗って戦っていましたわ」
「あ、あの時から意識があったのか!?」
「ええ。自分の体なのに自由に動かせなくて、誰かに乗っ取られたまま。そいつの行動するままに見ているだけでしたわ。ずうっとね」
「それは………悪かった。オレもこっちの世界に来たら、なぜか女の体になって驚いた」
まわりを見渡すと、そこは何もない広いだけの空間だった。
彼女の説明によると、ここは精神世界。
精神の核とも言うべき、無意識領域の場所であった。
彼女はここからオレの行動をすべて見ていた。
たまに精神の波長が合った時や感情の昂った時などには、行動に干渉したりも出来たらしい。
そう言えば、たまにオレの意思でない行動をとる時があったな。その時は彼女の意思で動いていたのだろう。
「あなたに体を取られた状況でも、あのままBETAのエサで終わるよりはずっと良かった。あの後の日本と世界を、動けないながらも見ることが出来たのだし」
「そう言ってくれれば助かる。しかし……どうして今になって君と会話できるようになったんだ? 京都防衛戦の頃から意識があったなら、もうずいぶん時間がたっているのに」
「多分あなたが、わたくしと同じ場所まで降りてきてしまったせいでしょうね」
「………同じ場所って? どこだ」
「言ったでしょ。山城上総の心の深い場所。深層心理とか無意識領域とか言われる場所。自分でも認識できない精神の奥底」
「ああ、そうだったな。で、どうしてオレはこんな所に」
「忘れたの? ゼータは超巨BETAに捕まって、ボディに飲み込まれて」
「あっ! ああっ! そうだ……ピンチだった!」
「どうにかしようとするも、ボディの中にはどうやっても防ぎようのないプレッシャーが渦巻いてて、意識が消えてしまって」
そうだ………ボディに近づいた時、サイコフィールドでも防げないアビスのような無数の断末魔と絶望とBETAへの憎しみを感じた。そして受け止めきれずに気を失ったんだ。
俺は思わず天をあおぐ。
そこは黒々とした一面の闇だが、そこからは『BETA憎い、殺してやる』『ああ、食べないで。死にたくない』など怨嗟が渦巻いている。
「そうか……それで山城上総の
「無意識にサイコフィールドを張って、怨嗟にこの精神の奥底までは侵食されないようにしているわ。でも、ここから出ることは出来ない。出たら心が壊れてしまう」
「だけど山城上総の体はゼータごとBETAに呑まれた状態だよな? それじゃ……」
「そうね。このままじゃ、わたくし達は、あの超級BETAの力の一部にされてしまうわね」
「糞、そんな運命認めてたまるかよ!」
「諦めない気持ちは見上げたものね。でも、アレをどうにかして意識を取り戻すことはできるのかしら?」
山城上総は指を空に向ける。そこは深淵のように真っ黒くなっていて、そこから絶え間なく怨嗟のうめきが聞こえる。あそこへ入っていったら、たちまちに自我を失ってしまうだろう。
「グッ………!」
「やっぱり無理のようね。あーあ。結局あの時の続きでしかなかったのかしら。BETAのエサになる運命の」
「諦めない! なにか………どうにかする方法はあるはずだ! なにか」
「なにか、あるのかしらね。見ているだけのわたくしには、なにも……」
――ヒュンヒュンヒュン………
「なにかしら? この音」
それは黒々とした天の向こうから聞こえてくる。
なんだろう。この音、どこか聞き覚えがあるような?
「ああっ⁉ 見て、怨嗟の空が!!」
黒い怨嗟に覆われた天は切り裂かれ、暗黒が薄れてゆく。
それと同時、オレの精神体は軽くなったように感じた。
「思い出した! あの音はνガンダムのフィンファンネルだ!」
そうか………白銀、来てくれたんだな。
――山城さん………
「この声は⁉」
そして彼女の声も聞こえてくる。
あれは――あの声は!
「篁さんね。どうやらあの子も意識を取り戻したわね。あの子と力を合わせれば、この怨嗟の奈落を抜け出せる。そう思うわ」
「篁さんと力を合わせるって? どんな力?」
「気がつかなかったの? 彼女、ニュータイプになったのよ」
「は、はああああっ!!? なったって……いつ? 篁さんはずっとベッドで寝たきりだったはずだぞ!」
「わたくしと……いえ、わたくしの体を使ってあなたがキスした時ね。あの時ニュータイプ能力が感染したと思うわ」
「なっ……なっ!?」
「そして病棟が崩壊してあなたが強く呼びかけた時。篁さんの能力は飛躍的に強くなったわ。あなたの呼びかけに応えてサイコフレームの力を操って瞬間移動するくらい」
「あっ! あれはそういうことだったのか!」
フワリ………
「あっ? 浮いている?」
オレの精神体はいきなり浮かび上がった。
そしてそのまま上へ上へと吸い込まれてゆく。
山城上総はとまどうオレをを驚くこともなく見上げている。
「怨嗟の力が弱まって目を覚ましつつあるのね。どうやら、このまま為すすべなくBETAに飲み込まれることだけはなくなったわね」
「そうか………」
もう一度戦える。
なら、やる事はただ一つだ。
もう一度オレを見上げる山城上総に振り向く。
「待っててくれ。やる事を終えたら、必ず君に体を返すよ」
「それは二の次でいいわ。それより人類の勝利を見せてほしいの。人類がBETAに勝って地球を取り戻す瞬間をね」
「まかせろ! 今度こそ負けない。向こうでみんなと力を合わせて勝ってくる!!」
もう振り向かない。
あの向こうに篁さんが白銀がハロが待っている。
そして超級BETAも。
待っていろ。今が人類の勝利、その時だ――!!!