ゼータと上総   作:空也真朋

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137話 精神の奥底で彼女と出会う

 ――BETAめ! 憎い憎い憎い………

 ――ああああ。よくも家族を! よくも仲間を!

 ――うわあああっ死にたくない死にたくない死にたくない………

 

 まるで怨嗟の坩堝に放り込まれたような気分だった。

 どこまでもどこまでも、深いむき出しの感情の中へ落ちてゆく――

 

 

 

 

 ――起きなさい……目を覚ますのよ………

 

 どこからか、オレを呼び覚ます声が聞こえる。

 その声に導かれるようにオレの意識は覚めてゆき、やがて目を覚ます。

 オレを呼んでいたのは――ー

 

 オレ自身だった。

 

 長い髪に端正な顔の日本美人。

 それがオレを見つめている。

 

 いや、まさか彼女は―――

 

 「まさか山城上総? 本当の彼女か!」

 

 「そうよ。ようやく話せましたわね。人の体を勝手に使っていたあなたに」

 

 ふと自分を見てみると、なつかしい男の頃のオレになっていた。

 和也だった頃のオレに。

 

 「山城上総、生きていたのか。京都防衛戦で死んだんじゃ?」

 

 「ええ。BETAに捕まって、生きたまま喰われそうになって、篁さんに射殺してもらうよう頼んで、撃ってもらって。そのまま死んだと思ったのに、気がついたらZガンダムなんて知らない戦術機に乗って戦っていましたわ」

 

 「あ、あの時から意識があったのか!?」

 

 「ええ。自分の体なのに自由に動かせなくて、誰かに乗っ取られたまま。そいつの行動するままに見ているだけでしたわ。ずうっとね」

 

 「それは………悪かった。オレもこっちの世界に来たら、なぜか女の体になって驚いた」

 

 まわりを見渡すと、そこは何もない広いだけの空間だった。

 彼女の説明によると、ここは精神世界。

 精神の核とも言うべき、無意識領域の場所であった。

 彼女はここからオレの行動をすべて見ていた。

 たまに精神の波長が合った時や感情の昂った時などには、行動に干渉したりも出来たらしい。

 そう言えば、たまにオレの意思でない行動をとる時があったな。その時は彼女の意思で動いていたのだろう。

 

 「あなたに体を取られた状況でも、あのままBETAのエサで終わるよりはずっと良かった。あの後の日本と世界を、動けないながらも見ることが出来たのだし」

 

 「そう言ってくれれば助かる。しかし……どうして今になって君と会話できるようになったんだ? 京都防衛戦の頃から意識があったなら、もうずいぶん時間がたっているのに」

 

 「多分あなたが、わたくしと同じ場所まで降りてきてしまったせいでしょうね」

 

 「………同じ場所って? どこだ」

 

 「言ったでしょ。山城上総の心の深い場所。深層心理とか無意識領域とか言われる場所。自分でも認識できない精神の奥底」

 

 「ああ、そうだったな。で、どうしてオレはこんな所に」

 

 「忘れたの? ゼータは超巨BETAに捕まって、ボディに飲み込まれて」

 

 「あっ! ああっ! そうだ……ピンチだった!」

 

 「どうにかしようとするも、ボディの中にはどうやっても防ぎようのないプレッシャーが渦巻いてて、意識が消えてしまって」

 

 そうだ………ボディに近づいた時、サイコフィールドでも防げないアビスのような無数の断末魔と絶望とBETAへの憎しみを感じた。そして受け止めきれずに気を失ったんだ。

 俺は思わず天をあおぐ。

 そこは黒々とした一面の闇だが、そこからは『BETA憎い、殺してやる』『ああ、食べないで。死にたくない』など怨嗟が渦巻いている。

 

 「そうか……それで山城上総の精神(こころ)の奥に」

 

 「無意識にサイコフィールドを張って、怨嗟にこの精神の奥底までは侵食されないようにしているわ。でも、ここから出ることは出来ない。出たら心が壊れてしまう」

 

 「だけど山城上総の体はゼータごとBETAに呑まれた状態だよな? それじゃ……」

 

 「そうね。このままじゃ、わたくし達は、あの超級BETAの力の一部にされてしまうわね」

 

 「糞、そんな運命認めてたまるかよ!」

 

 「諦めない気持ちは見上げたものね。でも、アレをどうにかして意識を取り戻すことはできるのかしら?」

 

 山城上総は指を空に向ける。そこは深淵のように真っ黒くなっていて、そこから絶え間なく怨嗟のうめきが聞こえる。あそこへ入っていったら、たちまちに自我を失ってしまうだろう。

 

 「グッ………!」

 

 「やっぱり無理のようね。あーあ。結局あの時の続きでしかなかったのかしら。BETAのエサになる運命の」

 

 「諦めない! なにか………どうにかする方法はあるはずだ! なにか」

 

 「なにか、あるのかしらね。見ているだけのわたくしには、なにも……」

 

 

 

 ――ヒュンヒュンヒュン………

 

 「なにかしら? この音」

 

 それは黒々とした天の向こうから聞こえてくる。

 なんだろう。この音、どこか聞き覚えがあるような?

 

 「ああっ⁉ 見て、怨嗟の空が!!」

 

 黒い怨嗟に覆われた天は切り裂かれ、暗黒が薄れてゆく。

 それと同時、オレの精神体は軽くなったように感じた。

 

 「思い出した! あの音はνガンダムのフィンファンネルだ!」

 

 そうか………白銀、来てくれたんだな。

 

 ――山城さん………

 

 「この声は⁉」

 

 そして彼女の声も聞こえてくる。

 あれは――あの声は!

 

 「篁さんね。どうやらあの子も意識を取り戻したわね。あの子と力を合わせれば、この怨嗟の奈落を抜け出せる。そう思うわ」

 

 「篁さんと力を合わせるって? どんな力?」

 

 「気がつかなかったの? 彼女、ニュータイプになったのよ」

 

 「は、はああああっ!!? なったって……いつ? 篁さんはずっとベッドで寝たきりだったはずだぞ!」

 

 「わたくしと……いえ、わたくしの体を使ってあなたがキスした時ね。あの時ニュータイプ能力が感染したと思うわ」

 

 「なっ……なっ!?」

 

 「そして病棟が崩壊してあなたが強く呼びかけた時。篁さんの能力は飛躍的に強くなったわ。あなたの呼びかけに応えてサイコフレームの力を操って瞬間移動するくらい」

 

 「あっ! あれはそういうことだったのか!」

 

 フワリ………

 

 「あっ? 浮いている?」

 

 オレの精神体はいきなり浮かび上がった。

 そしてそのまま上へ上へと吸い込まれてゆく。

 山城上総はとまどうオレをを驚くこともなく見上げている。

 

 「怨嗟の力が弱まって目を覚ましつつあるのね。どうやら、このまま為すすべなくBETAに飲み込まれることだけはなくなったわね」

 

 「そうか………」

 

 もう一度戦える。

 なら、やる事はただ一つだ。

 もう一度オレを見上げる山城上総に振り向く。

 

 「待っててくれ。やる事を終えたら、必ず君に体を返すよ」

 

 「それは二の次でいいわ。それより人類の勝利を見せてほしいの。人類がBETAに勝って地球を取り戻す瞬間をね」

 

 「まかせろ! 今度こそ負けない。向こうでみんなと力を合わせて勝ってくる!!」

 

 もう振り向かない。

 

 あの向こうに篁さんが白銀がハロが待っている。

 

 そして超級BETAも。

 

 待っていろ。今が人類の勝利、その時だ――!!!

 

 

 

 

 

 

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