「いったいなにが起こったんです? ゼータはなにをされたんです!?」
周囲をモニターで見回してみると、どうやら先ほどの強烈な攻撃はこれ以上はないようだ。
だけどゼータを動かしてみようとすると、『修復中につきメインシステムは起動できません』の表示が出て動かせない。
ハロは機能停止して置物になってしまったし、篁さんはさっきの衝撃で気絶したし。
いったいどうしたら良いんだ!!
と、途方にくれていたその時だ。
停止していたハロに起動の電子音が鳴った。
「ピポポッ……メインシステムからの独立完了。メインから切り離し、ハロ単独のサブシステムを構築します」
「ハロ! 回復したのですね?」
「回復はしてない。ボクの本体は今もゼータの修復をしたりBETAの圧力から本体を守ったりで忙しいんだけどね。上総と話をするためにサブシステムをつくったんだ」
「そう……それはありがたいです。で、どうなっていますの? なぜBETAの中枢である重脳級を破壊したのに終わらないんです?」
「このジ・オーBETAはメイン中枢である重脳級だけで動いているんじゃなかったんだよ。あちこちにメインを補助する頭脳級が配置されているんだ。だからメインが潰された瞬間、そっちの方に管理が移ったんだよ」
「そう……重脳級を破壊して油断した所にキツイ一撃を喰らったというのですね」
「違うんだ。重脳級は世界中の怨念のサイコフレームを、まがりなりにも制御していた。だけど管理を交代した頭脳級にはそれをするだけの処理能力はない。結果、体内のサイコフレームは暴走した」
「それじゃ?」
「ボクを破壊したのは、ジ・オーBETA内部の暴走したサイコフレームだ。どうやら頭脳級が内部だけは支配権を取り戻して修復にかかっているけど、外部からジリジリ破壊されている。おそらくいずれは倒されるだろうね」
「動けないわたくしたちも、それに巻き込まれていずれ………という訳ですね」
「その前に世界の方が先に終わっちゃうけどね」
「は、はい? 世界?」
「世界中の怨念に満ちたサイコフレームの制御が無くなったって言ったでしょ。ちょうど白銀のνガンダムに通信を繋ぐことが出来た。何が起こっているか聞いてごらん」
聞くのが怖い。そんな予感がした。
それでも聞かないわけにはいかない。
鈍い手つきで白銀との通信を開くと、モニターに白銀の画像が出た。。
「こちらアーガマ2。アーガマ1白銀、無事ですか?」
『こちらアーガマ1。白銀だ。さっきまで、そちらのデカブツの光る腕に追いかけ回されていたが、今は沈黙している。そっちの状況はどうなっている』
「BETAの大元と見なされていた重脳級の破壊に成功しました。もっともこの体内には別に頭脳級がいて、それがこれの管理を引き継いでいるようです。そちらの方には別に異常はありませんか?」
『………ある。外の状況だが、空を覆っているサイコフレームが降りてきている。そしてそれが起こすプレッシャーがヤバくなってきている。νガンダムの中だけはどうにか防いでいるんだが』
「ヤバい? ユーコン基地や香月博士に連絡は? 状況を教えてもらいましたか?」
『通信は送った。が、受信しない。その他の地域もだ。近くにいるはずのアルゴス小隊にも送ったが、いずれも応答なし』
「アラスカ一帯は全滅、ですか」
『…………残念だが。世界中のテレビ、ラジオ、その他あらゆる放送を調べてみたが、送信しているチャンネルは一つもない。つまりは、そういう事だ』
まさか!? 人類が…………全滅?
『カズサ、私だ。シロッコだ』
「シロッコさん!?」
その声が救世主にも思えた。ヤバい天才だけど、今はそのヤバい頭脳で何か考えてくれ!
「あなたもνガンダムに乗っていたんですね。助かりました。あなたなら、どうにかする方法を考えつきません?」
『ない。世界を覆うサイコフレームが一斉に暴走したのだ。事前にこの可能性を思いついていなければ、対策などないよ。もはや人類は終わりだ』
ヤバい天才が導きだした答えはヤバい終末でしかなかった。役立たずめ!
『もっとも、それすら次の悲劇の前座にすぎないだろうがな』
「………なんです、次の悲劇って」
『地球の終わりだ』
ガーーーン!!!!!!
「…………じょ、冗談、ですよね?」
『無論、本気だ。見給え、この空を』
モニターにνガンダムが望遠カメラで映している映像が映った。
そこに映された光景は衝撃的だった。
より濃度を増した藍色の空が地上にまで侵食してきて、世界を藍一色に染め上げているのだ。
『このように全世界の空を覆うサイコプレッシャーはますます圧力を増し、人類のみならず地上すべてを飲み込もうとしている。やがては地球をも縮退させるだろう。もしかすると地球は一つの大きな生命体になるやもしれん」
あまりのことに声も出なかった。
とても話を続ける気力はなく、『しばらく考えさせてください』とだけ言って通信を切った。
コクピットの中でシートにもたれてボンヤリ茫然自失。
静寂の中、ハロのピコピコ駆動音だけが響いていた。
「全部………無駄だったのでしょうか」
「さぁね。無駄だったとは思いたくないけど、BETAにサイコミュなんて危険なオモチャを渡した責任はボクたちにあるのかもしれない」
「わたくし達の責任、ですか」
今までオレ達は強力なBETAを撃破しまくった。
それはBETAにとっては最大級の脅威に受け取られ、その力の根源と思われるサイコミュの研究を急がせた。
横浜ハイヴで作ったサイコフレームもある程度はそこに残っており、そこからBETAもサイコフレームを手に入れた。
そしてそれがサイコミュの一種だと知れると、ヤツは世界を覆うほど大量に作ってしまった。
それがどんな結果をもたらすかも知らずに。
「サイコフレームがここまでのものとは知りませんでした。あの映画は良い感じに終わってましたけど、あの後の宇宙世紀はどうなったんでしょうね」
「さぁ………こうなってなきゃ良いけどね」
オレたちが見た宇宙世紀のガンダムは映画νガンダムが最後だ。
その後はアナザーシリーズが続いて、宇宙世紀があの後どうなったのかは知らない。
この分じゃサイコフレームが原因で滅んでいたとしても不思議じゃないな。
「ごめんなさい、篁さん」
あどけない顔でサブシートで眠る篁さんにあやまった。
オレ達はこの世界を救いにやって来たはずだった。
だけど、かえって滅びを加速させてしまったみたいだ。
「うっ、ううっ………」
ジワリ涙が出てきた。
切なかった。悲しかった。申し訳なかった。
いろんな感情がごちゃ混ぜになりながら、眠る篁さんの前で泣いた。
この子が一種懸命守ろうとしてきたのに、それをオレは……オレは……
スッ――
と、涙に濡れるオレの頬に優しい手が添えられた。
それは、いつの間にか目を覚ましていた篁さんだった。
彼女は優しいまなざしでオレを見つめる。
「どうしたんです、山城さん。なにを泣いているんです」
こんなに悲しいのに。
終末の中、最後まで彼女と話せることに、ほんの少しの救いを感じた。