「山城さん、泣いているのですか? どうしたんです」
心配そうな篁さんのまなざしに、オレは思わず顔をそむけた。
泣き顔を見られたのが恥ずかしい。
「話してください。いったい……なにがあったんです?」
篁さんに優しく抱きしめられた。
そのぬくもりの中で、オレは一つ一つ告白するように語った。
BETAの大元重脳級を破壊したこと。
だけど、世界を覆う怨念のサイコフレームによって人類が全滅したこと。
間もなく地球もそれによって滅びること。
「……そうですか。残念な結果になってしまいましたね」
「冷静ですね。こんな絶望的な結果を聞いて」
「もちろんショックです。泣き叫びたいほどです。でもここで私が泣いたら、誰が山城さんの涙を受け止めるんです?」
ああ、カッコ悪いな。
守っていたはずの彼女に、こんなにも守られて。
そこからは思い出話が続いた。
大東亜連合の傭兵部隊エゥーゴの頃のことを詳しく話した。
そこで出会った子供たちのことを話していた時。
ふいに篁さんはポツリと言った。
「………思いだしました」
「なにをです?」
「私たちの初陣です。和泉、安芸、志摩子。あの時は皆いました」
訓練校時代の友達らしいんだけど。
山城上総も知っているらしいのに、オレはまったく知らないからヤバい。
「戦時任官して初出撃のあの日。みんなBETAと戦う覚悟は決めていたはずでした。でも帝国の防衛戦がいともたやすく破られていくのを聞いて、みんな震えが止まりませんでしたね。婚約者をBETAに殺され復讐を誓った和泉でさえ」
「帝都防衛戦ですか。あの時がずいぶん昔に思えますね」
「私は山城さんを差し置いて小隊長に任じられ、震える皆を率いて戦場に赴かねばなりませんでした。その時に皆に語った言葉を覚えていますか?」
知らない。オレはいないから。
「なんだったかしらね。忘れてしまいました」
「ここは私たちの故郷です。私たちが毎日生きて歩いた帝都です。恐くても戦いましょう。私たちの故郷を守るために」
そういや、ここへ来る前、眠っていた時にそんな言葉をつぶやいていたな。
ごめんな。ここに居るのがその時の山城上総じゃなくて。
「戦う理由はそれぞれ。でも、たった一つ。『私たちの故郷、帝都を守りたい』その想いだけは一緒でした。それを想うことで私たちは恐怖に抗う事が出来た。一つになることが出来たんです」
オレは恥ずかしくて身の置き所がないな。
そんな大事な告白をニセモノが聞いたりなんかしちゃって。
「皆で歩いた山百合の通学路も、寮を抜け出してアイスを買ったことも、山城さんに勝つために皆で全力を尽くしたことも――」
瞳に星が瞬いているよう。どこまでも真っすぐな眼で。
「私は今でも誇りに生きています」
なんで………そんな眼でいられるんだよ。
オレたちはバッドエンドを迎えちまったはずだろう?
なのに、どうして………
「だから………呼びかけてみませんか?」
「え?」
「今、地球や人類を滅ぼしかけている怨念も、元は同じ想いを持った英霊。それぞれの故郷を守るために戦っていたはずなんです」
「それは――」
そうだ。サイコフレームに宿っているのは人間の心。
怒り、悲しみ、痛み、憎しみであっても、それは人間のものなんだ。
「そんな彼らが、怨念に囚われ故郷の地球を滅ぼすだなんて……あまりに悲しすぎます。だから」
「――うん、そうでしたね。彼らは敵じゃありませんでしたね」
自分でも驚くほど素直にうなずいた。
そうだ、オレも見てきたんだ。
故郷のために戦う衛士や兵士を。何人も。
「ハロ、やってみましょう。呼びかけるだけなら、戦わせる必要はありません。今のゼータでも出来るでしょう?」
「ゼータのサイコミュ機能を思念の拡散へ特化すれば可能だ。サイコフレームを説得か。ボクにはない発想だ」
「ええ……わたくしにもです」
ハロはピコピコとシステムをいじる。
やがてバイオセンサーが起ちあがり、Zガンダム形態になって起動する。
「準備できたよ。君たちの思念をバイオセンサーとサイコフレームで最大限に拡散出来るようにした。はじめて」
オレと篁さんは手を握り合いニュータイプの力を高め合う。
だけど、この役はオレには出来ない。
山城上総、見ているんだろう?
出てきてくれ。そしてオレとかわってくれ。
帝都防衛戦のあの日。
君が篁さんと共に感じた想いをかさねて、世界に呼びかけてくれ。
「届けば良いですね……私たちの声が。和泉と安芸と志摩子にも」
「ええ、わたくしに届いたように」
オレの意思でない声で返し、オレの意思でなく彼女の手を強く握った。
二人の想いは共振し、どこまでも高まり――
コクピット内を満たしていった――
◇
白銀武Side
海岸線はすっかり凪の海になり、シロッコとコクピットの中で、静かな波が寄せては返すのをただボンヤリ見ていた。
そろそろ夕刻の頃合いだが、オレンジの空なんかはちっとも見えず、サイコフレームの藍色が静かに地上へ侵食していくだけだった。
「フッ、こうして
「ですね。日本に帰れなかったことだけが心残りですが」
純夏………もう一度逢いたかったな。
「そう言えば、ゼータにいるもう一人のニュータイプについて聞くのを忘れたな。白銀くん、聞いてみてくれないか」
「ヤボですよ。上総から連絡が来るまで待ちます。俺から連絡をとることはしない」
「フッ。彼女が受け入れるのを待つ、か。どこまでも優しいな、君は……む?」
いきなりシロッコの顔つきが変わり、立ち上がった。
虚無による自嘲するような笑みが消えた。
その眼は真っすぐジ・オーBETAを見据えている。
「どうしました? アイツがまた動き出しそうですか?」
「………いや、違う。プレッシャーではないが………なんなのだ、この感覚は。ヤマシロカズサは何をしている?」
「………あっ、ゼータ?」
蛹から蝶が生まれるように。
ジ・オーBETAの中から青く光るZガンダムが現れた。
その青い輝きはどこまでも強く、されど優しく。
世界を覆いつつある藍色の空の中でも、まばゆいほどに輝いていた。
されど異変はそれだけでは終わらない。
いや、始まりだった。
「ああっ! サイコフレームの空が………」
あれほどに強力に絶望的に、世界を滅ぼさんとしていたサイコフレームの空が。
少しずつ消えてゆく。
空中で溶けゆくように。
Zガンダムの青い輝きに導かれるように。
その圧迫は跡形も残さず、少しずつ空から消えてゆく。
「まさか……人類は助かるのか? いったいあの機能は何なんだ?」
「フッ、あれほど絶望的だった状況をくつがえすか。山城上総。彼女は私でさえ器を測れない真のニュータイプだったらしいな」
シロッコがなにやら不穏なことを言っているのはともかく。
世界中のチャンネルを調べてみると、放送を再開した場所がちらほら現れていた。
最初はここアラスカから。
そして合衆国、メキシコ、日本と、アラスカを中心に再開してゆく。
「それにしてもあの姿。まるで人類を導く天使だな」
「………そうですね」
青く輝くZガンダム。
その姿はまさしく天使のようだった。
「フッ……フフフッ。まさか異界の地で、これほどの理想に巡りあえるとは」
ああ、ヤバイ目つきになっている。
人類は助かっても、上総の危機は始まったな。
それでも。
Zガンダムの起こした奇跡に感謝せずにはいられなかった。
「どうやら、まだまだこの世界でやる事はあるようだ」
輝くZガンダムは、すっかり日の暮れた空をいつまでも青く照らし続けていた。
途中でエタりそうになりながらも、ここまできました。
次回、ついに最終回!