ゼータと上総   作:空也真朋

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140話 青いゼータの鼓動

 「山城さん、泣いているのですか? どうしたんです」

 

 心配そうな篁さんのまなざしに、オレは思わず顔をそむけた。

 泣き顔を見られたのが恥ずかしい。

 

 「話してください。いったい……なにがあったんです?」

 

 篁さんに優しく抱きしめられた。

 そのぬくもりの中で、オレは一つ一つ告白するように語った。

 

 BETAの大元重脳級を破壊したこと。

 

 だけど、世界を覆う怨念のサイコフレームによって人類が全滅したこと。

 

 間もなく地球もそれによって滅びること。

 

 「……そうですか。残念な結果になってしまいましたね」

 

 「冷静ですね。こんな絶望的な結果を聞いて」

 

 「もちろんショックです。泣き叫びたいほどです。でもここで私が泣いたら、誰が山城さんの涙を受け止めるんです?」

 

 ああ、カッコ悪いな。

 守っていたはずの彼女に、こんなにも守られて。

 

 そこからは思い出話が続いた。

 大東亜連合の傭兵部隊エゥーゴの頃のことを詳しく話した。

 

 そこで出会った子供たちのことを話していた時。

 ふいに篁さんはポツリと言った。

 

 「………思いだしました」

 

 「なにをです?」

 

 「私たちの初陣です。和泉、安芸、志摩子。あの時は皆いました」

 

 訓練校時代の友達らしいんだけど。

 山城上総も知っているらしいのに、オレはまったく知らないからヤバい。

 

 「戦時任官して初出撃のあの日。みんなBETAと戦う覚悟は決めていたはずでした。でも帝国の防衛戦がいともたやすく破られていくのを聞いて、みんな震えが止まりませんでしたね。婚約者をBETAに殺され復讐を誓った和泉でさえ」

 

 「帝都防衛戦ですか。あの時がずいぶん昔に思えますね」

 

 「私は山城さんを差し置いて小隊長に任じられ、震える皆を率いて戦場に赴かねばなりませんでした。その時に皆に語った言葉を覚えていますか?」

 

 知らない。オレはいないから。

 

 「なんだったかしらね。忘れてしまいました」

 

 「ここは私たちの故郷です。私たちが毎日生きて歩いた帝都です。恐くても戦いましょう。私たちの故郷を守るために」

 

 そういや、ここへ来る前、眠っていた時にそんな言葉をつぶやいていたな。

 ごめんな。ここに居るのがその時の山城上総じゃなくて。

 

 「戦う理由はそれぞれ。でも、たった一つ。『私たちの故郷、帝都を守りたい』その想いだけは一緒でした。それを想うことで私たちは恐怖に抗う事が出来た。一つになることが出来たんです」

 

 オレは恥ずかしくて身の置き所がないな。

 そんな大事な告白をニセモノが聞いたりなんかしちゃって。

 

 「皆で歩いた山百合の通学路も、寮を抜け出してアイスを買ったことも、山城さんに勝つために皆で全力を尽くしたことも――」

 

 瞳に星が瞬いているよう。どこまでも真っすぐな眼で。

 

 「私は今でも誇りに生きています」

 

 なんで………そんな眼でいられるんだよ。

 オレたちはバッドエンドを迎えちまったはずだろう?

 なのに、どうして………

 

 「だから………呼びかけてみませんか?」

 

 「え?」

 

 「今、地球や人類を滅ぼしかけている怨念も、元は同じ想いを持った英霊。それぞれの故郷を守るために戦っていたはずなんです」

 

 「それは――」

 

 そうだ。サイコフレームに宿っているのは人間の心。

 怒り、悲しみ、痛み、憎しみであっても、それは人間のものなんだ。

 

 「そんな彼らが、怨念に囚われ故郷の地球を滅ぼすだなんて……あまりに悲しすぎます。だから」

 

 「――うん、そうでしたね。彼らは敵じゃありませんでしたね」

 

 自分でも驚くほど素直にうなずいた。

 そうだ、オレも見てきたんだ。

 故郷のために戦う衛士や兵士を。何人も。

 

 「ハロ、やってみましょう。呼びかけるだけなら、戦わせる必要はありません。今のゼータでも出来るでしょう?」

 

 「ゼータのサイコミュ機能を思念の拡散へ特化すれば可能だ。サイコフレームを説得か。ボクにはない発想だ」

 

 「ええ……わたくしにもです」

 

 ハロはピコピコとシステムをいじる。

 やがてバイオセンサーが起ちあがり、Zガンダム形態になって起動する。

 

 「準備できたよ。君たちの思念をバイオセンサーとサイコフレームで最大限に拡散出来るようにした。はじめて」

 

 オレと篁さんは手を握り合いニュータイプの力を高め合う。

 

 だけど、この役はオレには出来ない。

 

 山城上総、見ているんだろう?

 

 出てきてくれ。そしてオレとかわってくれ。

 

 帝都防衛戦のあの日。

 

 君が篁さんと共に感じた想いをかさねて、世界に呼びかけてくれ。

 

 

 「届けば良いですね……私たちの声が。和泉と安芸と志摩子にも」

 

 「ええ、わたくしに届いたように」

 

 オレの意思でない声で返し、オレの意思でなく彼女の手を強く握った。

 

 二人の想いは共振し、どこまでも高まり――

 

 コクピット内を満たしていった――

 

 

  ◇ 

 

 白銀武Side

 

 海岸線はすっかり凪の海になり、シロッコとコクピットの中で、静かな波が寄せては返すのをただボンヤリ見ていた。

 そろそろ夕刻の頃合いだが、オレンジの空なんかはちっとも見えず、サイコフレームの藍色が静かに地上へ侵食していくだけだった。

 

 「フッ、こうして地球(ほし)の最期を看取るのも一興。無念ではあるが」

 

 「ですね。日本に帰れなかったことだけが心残りですが」

 

 純夏………もう一度逢いたかったな。

 

 「そう言えば、ゼータにいるもう一人のニュータイプについて聞くのを忘れたな。白銀くん、聞いてみてくれないか」

 

 「ヤボですよ。上総から連絡が来るまで待ちます。俺から連絡をとることはしない」

 

 「フッ。彼女が受け入れるのを待つ、か。どこまでも優しいな、君は……む?」

 

 いきなりシロッコの顔つきが変わり、立ち上がった。

 虚無による自嘲するような笑みが消えた。

 その眼は真っすぐジ・オーBETAを見据えている。

 

 「どうしました? アイツがまた動き出しそうですか?」

 

 「………いや、違う。プレッシャーではないが………なんなのだ、この感覚は。ヤマシロカズサは何をしている?」

 

 「………あっ、ゼータ?」

 

 蛹から蝶が生まれるように。

 

 ジ・オーBETAの中から青く光るZガンダムが現れた。

 

 その青い輝きはどこまでも強く、されど優しく。

 

 世界を覆いつつある藍色の空の中でも、まばゆいほどに輝いていた。

 

 されど異変はそれだけでは終わらない。

 いや、始まりだった。

 

 「ああっ! サイコフレームの空が………」

 

 あれほどに強力に絶望的に、世界を滅ぼさんとしていたサイコフレームの空が。

 

 少しずつ消えてゆく。

 

 空中で溶けゆくように。

 

 Zガンダムの青い輝きに導かれるように。

 

 その圧迫は跡形も残さず、少しずつ空から消えてゆく。

 

 「まさか……人類は助かるのか? いったいあの機能は何なんだ?」

 

 「フッ、あれほど絶望的だった状況をくつがえすか。山城上総。彼女は私でさえ器を測れない真のニュータイプだったらしいな」

 

 シロッコがなにやら不穏なことを言っているのはともかく。

 世界中のチャンネルを調べてみると、放送を再開した場所がちらほら現れていた。

 最初はここアラスカから。

 そして合衆国、メキシコ、日本と、アラスカを中心に再開してゆく。

 

 「それにしてもあの姿。まるで人類を導く天使だな」

 

 「………そうですね」

 

 青く輝くZガンダム。

 その姿はまさしく天使のようだった。

 

 「フッ……フフフッ。まさか異界の地で、これほどの理想に巡りあえるとは」

 

 ああ、ヤバイ目つきになっている。

 人類は助かっても、上総の危機は始まったな。

 

 それでも。

 Zガンダムの起こした奇跡に感謝せずにはいられなかった。

 

 「どうやら、まだまだこの世界でやる事はあるようだ」

 

 輝くZガンダムは、すっかり日の暮れた空をいつまでも青く照らし続けていた。

 

 

 

 

 




 途中でエタりそうになりながらも、ここまできました。
 次回、ついに最終回!
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