「以上。共に我らが祖国を守らんと戦い果てたエゥーゴの兄弟達に深く感謝し哀悼の意を捧げます。わたくしは彼らの死を越えてなお、人類の盾となり矛とならんことを誓います」
オレがカンニングペーパーに書かれた文章を読み終えると、嵐のような拍手がわいた。
オレは一礼をして、しつらえた舞台の壇上からはなれ、マレー伝統衣装バジュ・クバヤのセレダン(スカーフのようなもの)を踏まないよう気をつけながら静かに階段をおりる。
エゥーゴが結成されて九ヶ月。
本日はエゥーゴの戦死者追悼式典。いやはや、たかが傭兵団がこんな大層な式典を開けるまでに発展したのだから、本当にブレックスの政治力はすごい。
もう【エゥーゴ】は一介の傭兵団などとはいえない。政治活動までするのだから。
ちらほら政治家や軍や財閥の有力者の顔も見える。この式典自体、彼らと縁をつなぐための壮大な舞台装置なのだろう。
オレが控え室になっている小屋へ戻ると、そこにブレックスが待っていた。
上等で貫禄アップで背中に落書きしたくなるようなスーツを着て、現地の少女メイドを控えさせながら、主人然としてそこにいる。
式典の主催者なのにこんなところにいるのは、どうやらオレを待っていたらしい。
スピーチが終わったらどこかへ隠れようと思っていたのを見抜かれたか。
「カズサ。また名前を間違えたよ。『ジャスワント』じゃなく『ジャヌワント』だ。政治家にとって人の名前というのは重要だ。気をつけてほしいね」
「わたくしは政治家じゃありません。たしかに戦没者には哀悼の意を表しますが、エゥーゴはメンバーが把握できないほど増えたし、新規に入ってくる人間もほぼ毎日。とても覚えきれるものではありません!」
「なって欲しいんだけどね、僕としては。まぁ衛士としての君の腕も重要だし、君の負担にならないようこっちでまた対策を考えよう。さて、次は支援者のみなさんに順にまわって挨拶だ。インカムにサポーターが指示を入れるから今度は間違えないようにね」
「そ、それはやらなければなりませんの? 光線級吶喊の後遺症とか、戦闘でたまった疲労で体調が思わしくないとかで………」
無駄な抵抗というのはどうしてしてしまうのだろう? 小娘の引きこもり要求などきいてくれるなら、こんなところにはいない。
「ダメダメ。みんな『BETA戦役の華麗なる姫衛士』との数少ない会話の機会を楽しみにしてるんだから。なにしろ君ったら、いつも部屋に閉じこもっているかZガンダムに閉じこもっているかだからね。もう少し会合にも出てメンバーと話をしたらどうだい?」
仕方ないだろう。なにしろみんなオレを女神様みたいに崇めまくって讃えるし、こっちもそれに応じて『そなたらの献身、まことに大義である』なんて、武将のお姫様みたいなことを言わなきゃならない。まぁ、武家の娘だったが。
ストレスが溜まるだけなので、すっかり引きこもりだ。
そもそも『誇り高き良家のお姫さま衛士』なんてイメージを広めたのはブレックス本人だ。アイドルみたいなオレの人気も、政治活動には存外バカにならないらしい。
「次の大きな作戦が終わったら、僕は一時祖国アメリカへ帰るよ。そしたらその間のエゥーゴのリーダーは君だから、しっかりと後援者のみなさんには頼んでおかないとね」
「なんですって!? 無理ですわ、そんなもの!」
それなりの立場になってわかったが、オレにはコイツのような政治をやる器がない。そんなもの押しつけられても、上手くやっていく自信などない。
「大丈夫。優秀な参謀をつけるから。次の作戦が成功すれば、僕は…… エゥーゴは大きな後ろ盾を得てさらに発展する。それを背景にアメリカ変革の一石となるつもりだ」
「祖国への復讐? 消されない程度にほどほどにしておきなさい」
コイツのアメリカ批判を聞いていると、諸外国のアメリカに対する感情にそっくりなのだ。当然、便乗する国も亡国政府も出てくるだろうし、大元のアメリカも脅威に思わないはずがない。
何となくだが『機動戦士Zガンダム』の方のブレックスと同じ運命をたどる気がしてならない。
あっ! だったらオレの立場は【クワトロ・バジーナ】にそっくりじゃねぇか!
「いやいや、僕はけっこうな愛国者でね。でもアメリカは諸外国との協調を拒む強硬派が主流派になってしまった。だから僕が内にはいって少しでも彼らの言葉を届けようと思う。祖国に厳しいことを言うのも愛国心ゆえさ。カズサ、そのためのミョージョウ作戦。しっかり頼むよ」
ミョージョウ…………明星作戦? 作戦名が日本語?
ブレックスは部屋の隅に控えているメイドの少女達に向いて言った。
「それじゃみんな。カズサを支援者の方々に紹介できるよう綺麗にしてくれ。待たせたくないから急いでくれよ」
オレの美貌も奴の道具か。ブレックスには感謝しているが、この才覚やら手際のよさやらがときどき憎らしい。
「おまかせくださいブレックス様」とかしづく少女達の礼をうけ、悠々旦那様の貫禄で奴は出て行った。
すっかりサマになったな。もう政治家くずれには見えない。
――――愛国心か。
少女達のお色直しを受ける間、なんとはなしに考えた。それにしても『お色直し』なんて適当でいいのに、『我らが女神さま』を飾り立てる情熱のまなざしでやるのはやめて欲しい。
戦災で身寄りのなくなった子供達にこうやって仕事を与えているから、ブレックスも善人ではあるんだよな。
それはともかく、ブレックスの『愛国心』というワードに、祖国日本帝国のことを思った。
いや正確には『オレの』ではなく、この体『山城上総の』だが。
オレが日本を離れたあと、日本はすぐにまたBETA大侵攻を受けた。
一年前のBETA大侵攻のとき、すでにBETAは占領していた佐渡島にハイヴの建設を開始していたのだそうだ。そこから湧き出るBETAの圧力に耐えきれず、滋賀――三重を結ぶ絶対防衛線は破られ、東海地方まで奪われた。
侵攻をそこで停止したBETAは、横浜に新ハイヴの建設をしていることが確認された。
もしこのハイヴが本格稼働した場合、日本は本州を完全に奪われるであろうとのことだ。
それを知ったときオレはすでにこのマレーシアで傭兵家業をはじめていたが、無性に日本を離れたことを後悔した。山城上総の記憶がオレ自身を苛むのだ。
元のこの
とはいえ、いろいろあって日本には帰れない。
悲しいが、ここでアイドル姫衛士をやっていくしかない。
「カズサさま。それでは行ってらっしゃいませ」
嬉しそうにかしずき見送る少女達に見送られながら、シズシズとブレックスの元へ行く。
いやこれもやめて欲しいのだが、彼女らの流儀とやらでやめないので、オレもつき合ってこんな楚々としたお姫様を演じなければならない。いったい何になったんだオレは?
そんなやるせないオレの内心にも構わず、ブレックスは重要な相手とやらにオレを引き合わす。
「紹介しよう。僕らエゥーゴの最大スポンサー。ウォン・リーさんだ」
ギャフン!
「エゥーゴの活動を広めてくれるジャーナリストのカイ・シデンさんだ」
がフゥッ!!
「海峡支援艦隊指揮官のヘンケン・ヘッケナー提督だ」
ドッギャーーーン!!!
なんでどっかで聞いたような名前ばかり!?
まさかあっちの『ブレックス』の未来を暗示してんじゃないだろうな?
本当に大丈夫か? 何も起こらないだろうな。次の大作戦とやら!
せっかくの東南アジアなので、次回はトータルイクリプスの【あの人】を出してみます。あのキャラをうまくかけるかどうか。