ゼータと上総   作:空也真朋

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17話 上総の帰還

 オレは一年数ヶ月ぶりに日本へと戻ってきた。

 

 『落人帰り来たり。薩摩守忠度はいづくより帰られたりけん』

 

 平家物語の一節、『忠度の都落ち』の一節が思い浮かんだ。

 『いづくより』とオレに問うならマレーシアからだが。

 

 

 さて、大東亜連合の代表は一足先についていて、もう作戦も戦力配置も決まったのだという。

 用意された宿舎につくと、さっそくブリーフィングルームで【明星作戦】の説明をうけた。

 本来なら指揮官クラスのためのものだが、ゼータは大東亜連合の中心戦力であるためにオレとブレックスもそこに呼ばれたのだ。

 

 「意外とハイヴに近い場所をわりあてられましたわね。外様で立場が一番軽い大東亜連合。すみっこで警戒警備でもやらされるのかと思いましたわ」

 

 「君のゼータの戦闘力を当てにしているのだろうね。京都陥落のさいの活躍がかなり有名になっているよ。責任重大だね」

 

 エゥーゴはこの作戦のために日本帝国から4機の戦術機・撃震を購入したからすごい。個人の財団が戦闘機やら戦車やらを購入するようなもんだ。

 もっとも戦力としてはアテにはならない。操縦者は衛士の資格をとっていないつけ焼き刃のブレックスと、衛士くずれのエゥーゴのメンバー。まかされている場所はほぼオレのゼータ一機で守るつもりだ。

 

 「でもブレックス。だったらあなたは出撃は見合わせたら? 激戦区になるだろうし、あなたに万一のことがあるわけにはいかないでしょう?」

 

 「ああ、確かに僕はまだ死ねないね。でも、明星作戦に参加したという実績も必要なのさ。だからカズサ。あてにさせてもらうよ」

 

 まぁ、オレもだいぶBETAとは戦いなれてきた。ブレックスを守りながら担当区のBETAを排除することはできるだろう。それくらい宇宙世紀のビームライフルは圧倒的火力なのだ。

 

 「せいぜい防衛任務を果たして実績をつけてあなたの名を上げてさしあげますわ。あなたはBETAを打ち倒す救世主。わたくしは害虫駆除の専門家」

 

 「いやいや、BETAを打ち倒す救世主は君さ。僕は戦災で苦しむ人間を減らす方の仕事がしたいんだ。戦場に身を置いているのは祖国で発言力を高めるためさ」

 

 確かアメリカじゃ、従軍経験がなければ大統領ほか重要な役職につけないくらい、軍事が重要視されているってきいたことがある。

 それならこの大きな作戦で、BETAと戦ったというのは大きなアピールポイントになるだろう。ブレックスの戦闘能力、指揮能力は皆無だが。

 

 要は石田三成みたいなものか。あの武将は官僚としては極めて優秀で、主家の豊臣家を世界一の金持ちにするほどだったが、戦での実績がないせいで不当に軽く見られていた。だから本人も主君の豊臣秀吉も、彼に戦の実績をつけようとがんばった。

 だが作戦をたてれば極めて優秀なのに、本人が戦場で指揮をとったら必ず失敗するという、参謀能力に極振りしたスキルのせいで悲惨な末路をたどった。

 さしずめオレは島左近。石田三成に高給でやとわれた軍事アドバイザーか。

 

 

 「ところで日本やら国連やらの代表の方々はまだ来ませんの? 挨拶をしていただきませんと、ブリーフィングが終わらないじゃありませんか」

 

 説明はもう済んだはずなのにまだ終わらない。なぜか各軍の偉い人の会議が終わらず、最後の挨拶やら紹介やら演説やらに来ないのだ。

 

 「ああ、だいぶ遅いね。多分、各国の意見が割れているんだろうね」

 

 「………? 作戦も各国の軍の配置も決まって、下におりた後でしょう? 他に何をもめることがあるんです」

 

 「お宝さ。G元素。その割当量をめぐってもめているって耳にはさんだよ。要するに勝った後のお宝のぶん獲りあいで醜く争っているのさ。とくに国連代表のユウコ・コオヅキってのは、アメリカの代替案にも耳をかさず強硬に相当量を求めているらしいよ」

 

 だったらお開きをしてから仲良く争ってくれ。

 せっかく四軍の戦力が集結して異星起源種に立ち向かわんとしているのに、醜いお宝争いなんかして、そのとばっちりを下のものに喰らわせたら士気が下がるだろう。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 結局、ブリーフィングは代表の挨拶もない、しまらないものに終わった。

 さんざん待たされたこっちは怒りでストレスたまりまくりだ。

 

 憂さをはらしにラウンジに行くと、見覚えのある国連軍日本支部の若い青年士官二人がカウンターで飲んでいた。

 何度もブリーフィングル-ムへ来ては「代表は間もなく来られます。もうしばらくお待ちください」とかぬかし腐った奴らだ。

 つい嘘つき野郎二人に文句を言いたくなって、そいつらのもとへ行った。

 だがしかし、何故か数分後にはそいつらと楽しく飲んでいた。

 もっとも、全員まだ未成年なのでノンアルコールだが。

 

 「いや実に申し訳ない! お詫びにここの払いは俺達がもちますよ」

 

 「だったら、わたくしだけじゃなく大東亜連合の全員におごらなければなりませんわね」

 

 「いやそれは! 美しいお嬢さんだけに特別ということで!」

 

 それにしても、いつの間にか座席の配置が変わっていた。

 たしか二人に声をかけたときは二人とも右にいたはずなのに、今は何故か両隣にいてオレは挟まれている。

 なんだこのナンパされているみたいな感覚。

 

 「まぁ、あなた方が悪いわけじゃないのはわかりますわ。二人も上に振り回されただけ。でも、散々わたくし達を待たせたその責任者は何をしてらしたの? G元素とかを争っていると聞きましたけど」

 

 「ええ、それが上層部の会議が紛糾した理由です。詳しくはいえませんが。というか俺達もよく知らないんですが、ウチのトップが何かの研究に使うので相当量要求したそうです。ハイヴ内の『アトリエ』というG元素集積地の管轄でも大いにもめていましたよ」

 

 「まったく。こっちは偉い人にG元素のプレゼントをするために戦うんじゃありませんわ。日本をBETAから取り戻すための戦いにきたのです!」

 

 「ええ? 大東亜連合の方ですよね?」

 

 「所属は大東亜連合ですが、実は国籍は日本です。昔の不始末で日本に砂をかけて出てきてしまいましたが、日本を守りBETAから取り戻したいという気持ちは今も確かにありますわ」

 

 「そうですか! いや初めて見たときから、見た目じつに日本人らしい……というか、斯衛みたいな武家の方ような人だと思いました。実は俺達の故郷はハイヴのある横浜。俺達にとっては国のためだけではなく、俺達の街を取り戻すための戦いでもあるんです」

 

 「それはたいした意気込みですわね。戦い終わったら、またここで祝杯をあげて飲めていたらよろしいですわね」

 

 「その時はお嬢さんも是非! 俺の名前は鳴海孝之。こっちは平慎二っていいます。国連軍デリング中隊に所属してます!」

 

 「まあ。名前などおっしゃられても、明日には忘れてしまいますわ。わたくし、人の名前を覚えるのは苦手ですもの」

 

 「そう言わずに覚えておいてください。祝杯で飲むときは水月と遙って女の子二人も呼ぶから、一緒にみんなで飲みましょう!」

 

 「孝之。あの二人とこのお嬢さんを引き合わせる気かぁ? ………まぁいいか。俺も二人に内緒で別の女の子と会うのは気が引けるしな」

 

 確かにその彼女だか女友達だかを呼んで、オレと引き合わせるとか。修羅場になりそうな信じられないことを提案するな。まぁ、ナンパ目的とかじゃないならつき合ってもいいか。この鳴海って奴、妙に話しやすくて会話が楽しいし。

 

 「これが水月と遙です。俺達二人の幼い頃からのくされ縁なんです。彼女らも軍人なんですが、まだ新人なんで別方面への警戒任務についています」

 

 そう言って写真を見せてくれた。そこには今より若い二人と一緒に、髪が短くて大人しそうな女の子と、床につくほどバカ長い髪の活発そうな女の子がいた。二人ともかなり可愛い。女になってしまったとはいえ、この二人と話せるのはいいかもしれない。

 

 「わかりましたわ。わたくしは山城上総。大東亜連合のエゥーゴ小隊所属ですわ。そのときは是非ご一緒させていただきます」

 

 「おお、そりゃ楽しみだ! 明星作戦の成功に乾杯!」

 

 「生きて帰る楽しみができたな! こりゃ死んでなんていられねぇぞ!」

 

 オレは陽気な国連軍衛士二人と楽しく飲んだ。

 だが帰る時つい、その写真を持ってきてしまった。今度会ったとき返さなきゃな。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 国連軍の二人と飲んだあと、オレは割り当てられた部屋でくつろいだ。

 なんとブレックスのお陰で個室だ。

 そしてハロに会議の様子と国連軍の二人と飲んだことを話すと、何故かG元素の話に興味津々だった。

 

 「アトリエにあるG元素か…………。それ、少しもらえないかな?」

 

 「G元素ならいつもお食べになっているでしょう。マレーシアの東亜戦線ではしょっちゅうBETAと戦っているんですもの」

 

 「いや、そんなBETAの食い残しのブツなんかじゃなくってさ。ボクなりにゼータの体に吸収されていくG元素を調べてみたんだけどね。もし純度の高い高エネルギーのG元素があるなら、ゼータを強化できるかもしれない可能性を見いだしたんだ」

 

 「あら、具体的にはどのように?」

 

 「まず、サイコフレームが生成できる」

 

 「えええ!?」

 

 「さらにバイオセンサーを強化してサイコミュ並に進化させることができる」

 

 「まあ!」

 

 「さらにさらに、ボクのメインコンピュータをバイオコンピュータに進化! フォーミュラ計画並の機体となれるんだよ!」

 

 「な、なんですってぇぇぇぇぇ!」

 

 ガンオタには垂涎のワードがずらり! これはもう日帝だろうがその他諸々の国家機関だろうが出し抜き、ガンダム試作2号機を………じゃなくてG元素を強奪をするっきゃない!

 

 ――――――と、ハロの話を聞いてしばらくは本気で『G元素強奪計画』なんかをたてた。

 ハッキングやら何やらを駆使してハイヴの情報を集めたり。

 

 「ヴォールクデータを入手した! 地下口径の構造は完璧にはわからなくとも、フェイズ2ハイヴの構造は単純だ。よりG元素の多くある場所がアトリエだ!」

 

 サイコフレームの幻を追いかけ、昼夜問わず計画の精度をより上げ続けたり。

 

 「わたくしもニュータイプの感知能力でG元素感知を高めます。ゼータの探査能力を合わせれば、100キロ先のG元素の位置もわかりますわ!」

 

 

 正気に戻ったのは、計画がほぼ完成して本当にアトリエからG元素を盗めると確信ができてしまったときだった。

 

 「…………ねぇハロ。各国で紛糾するほど激しく取り合うG元素を、わたくし達が奪ってしまったら、わたくし達どうなるのかしら?」

 

 「……………二度と表の世界には出られないだろうね。エゥーゴの名声は地に墜ちるだろうし、ブレックスも君を切らざるを得なくなるだろうし」

 

 「ダメじゃありませんか。どうするのです? この作ってしまった完璧な強奪プラン」

 

 「……………なかったことにしようか。ま、いずれハイヴ攻略をするときに役立つかもしれないし、ファイルの片隅にでも置いておくよ」

 

 

 欲に踊らされた人間はいつも悲しい。

 その日からエゥーゴの姫衛士・山城上総は部屋に引きこもり、明星作戦開始まで姿を見せることはなかったという――――

 無駄骨で疲れたんだよ!

 

 

 

 ――――そして2000年未明。

 明星作戦は開始された。

 

 

 




 次回、運命の明星作戦!
 果たしてG弾は落ちるのか!?
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