ゼータと上総   作:空也真朋

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18話 明星の空にG弾は降り落ちる

 鳴海 孝之Side

 

 

 彼女はその信じられない事実を通達した。

 

 

 ―――『米国は五次元効果爆弾、通称【G弾】の使用を決定した』

 

 

◇ ◇ ◇

 

 九月未明、横浜ハイヴ攻略作戦こと明星作戦は始まった。

 

 序盤の作戦進行は順調だった。

 BETAの誘因は上手くいき、ハイヴ周辺のBETAは南北へ大きく引き寄せられた。

 ハイヴ入り口。通称『門』の近くのBETAは排除され、地下口径への突入もかなりの戦力を投入させることができ、理想的な形で開始することができたという。

 その報告を聞いたとき、俺は半ば作戦の成功を確信した。

 

 だが、数時間後。

 CPからの報告は雲行きの怪しいものばかりになってしまった。

 突入部隊の連絡途絶。先行部隊の壊滅。奇襲による損害の穴埋め。支配地域の放棄。現状維持。

 

 現在俺と慎二は海老名近郊にて不知火搭乗での二機のみの効果観測任務についているが、任務をこなしながらも、つい作戦の先行きに気がいってしまう。

 数時間ぶりにCPへの通信に成功した慎二が、それで得た情報を教えてくれた。

 

 「孝之。ハイヴへ入った連中の連絡、完全に途絶えたらしいぜ。どうやら失敗したらしい。おそらく全滅だ」

 

 「マジか? 連中、国連と帝国の精鋭だろ。第二陣とかあるのか?」

 

 「あるにはあった。だが、第一陣がヤバくなった時点で救助に向かって、そのままどちらからも連絡がなくなった。その後、使える部隊をかき集めてまた送ったがそれもダメ。最後に救助専任の部隊を送ったらしいが、それもどうなることやら」

 

 「じゃあ………作戦は失敗? お開きになんのか?」

 

 「大東亜連合が戦線維持にがんばってくれているらしい。撤退するなら、かなりの戦力を引き上げることができるかもな」

 

 俺は暗澹たる気持ちになった。慎二も撤退命令が来ることを確信している。

 ともかく隊長機に連絡をいれて報告。それとこれからの行動について聞かねばならない。

 俺は隊長の大和田大尉に通信をつないだ。

 

 「こちらデリング08及び09。デリング01へ報告。海老名方面、BETAの敵影なし。大気及び地質の調査完了。これからの指示を仰ぎたい」

 

 『ザザッ……こち………リング……現………告があっ………へ………ビーー……が………』

 

 くそっ、また通信障害か! さっきはCPにつなぐことはできたが、指示を仰ぐにはやはり隊長の大和田大尉に繋がねばならない。だが、光線種対策のための厚く張った重金属雲が通信の妨害をする。

 

 「仕方ない。大磯へ向かって後退だ。大和田大尉に繋がるまでさがろう」

 

 「ああ。そうだな…………うっ!? おい孝之、あれ!」

 

 慎二はいきなり驚いた声をあげた。指し示す方向を見ると、そこには二機の不知火がこちらに近づいてきていた。肩のマークをみてみると、それは別部隊ではあるが俺達同様のA-01連隊に属する、ヴァルキリーズのものであった。

 

 「デリング08及び09。こちらヴァルキリー01だ。大和田大尉から聞いているか? 米軍の動きを」

 

 ヴァルキリー01!? 伊隅大尉か?

 ヴァルキリーズ隊長で『鉄の女』とも言われる俊英だ。何故ここに?

 

 「いいえ。大和田大尉へ繋ごうとしたのですが、通信障害が酷くて聞き取れませんでした。米軍がどうかしたのですか?」

 

 「そうか。『補給のついで』というには大回りだったが、わざわざここまで足を運んだ甲斐はあったな。実は帝国と米国がはげしくやりあっている。ハイヴ突入隊の全滅をうけ、米国はG弾の使用許可を帝国に迫っているのだ」

 

 「ええ!? あれは作戦計画から外されたんじゃ?」

 

 五次元効果爆弾。通称【G弾】。どのようなものかは知らないが、とにかく強力で、ハンパない被害をもたらすものだと聞いている。あの曲者の香月副司令が、断固として使用を反対したものだから相当ヤバイものだろう。

 

 『復活したのだ。G弾使用はハイヴ攻略作戦失敗時の予備作戦として残してあったらしい。このままでは本当にG弾が使われる可能性が高い………いや、あえて言おう。米軍は確実に使用する。いまG弾の最新の情報を送る。被害予想範囲の項を見てみろ」

 

 伊隅大尉から送られてきたデータリンクを見て、俺達は驚愕した。横浜のほとんどがその被害地域にはいっているのだ。これでは横浜はお終いだ。もちろん俺達の街の白陵も消えてなくなる。

 

 「もう一度言う。米国は五次元効果爆弾、通称【G弾】の使用を決定した。貴様らはいつでも撤収できるようにしておけ。撤退の命令が来たなら全力で効果予想範囲から逃げろ。以上だ」

 

 伊隅大尉とその随伴機は、そのまま去って行った。

 

 「孝之、撤退の準備をしよう。大和田大尉と合流だ。集めた情報に漏れはないな?」

 

 「…………………」

 

 慎二の言葉も耳にはいってこなかった。ただ、激しい怒りと無念が胸を渦巻いている。

 

 「おい孝之! 聞いているのか!?」

 

 「………慎二。今の話、帝国や大東亜連合の連中は知っていると思うか?」

 

 「知らないだろうな。A-01は第四計画直属部隊だ。他所の連中とは情報のレベルが違う」

 

 「帝国も大東亜連合も見捨てられて見殺しか。みんな命をかけて戦っているのに」

 

 「孝之、撤退だ。俺達は情報観測班。集めた情報を持ち帰るのが任務だ」

 

 ああ、慎二は正しい。だが、俺はその正しさに逆らわずにはいられなかった。

 ここで何も知らされないまま、人間の手によって殺される人達を思わずにはいられなかった。

 

 「慎二。俺はこのまま前進して帝国と大東亜連合に撤退を呼びかける。それで何人かでも助けてみせる!」

 

 ただの意地かもしれない。でも許せなかった。

 俺達の故郷を、街も駅も学校も、外国の上の人間に勝手にぶっ壊破されることを。

 しかも、ここにはそれを知らずにまだ戦っている部隊の人達がいる。

 彼らに何も知らせずに俺達だけで逃げられるか!

 

 「お前、正気か!? 死ぬぞ! 行かせねぇからな!」

 

 「慎二! あの()を………山城さんまで見捨てていいのかよ! 日本を取り戻すために帰ってきてくれたあの()を!」

 

 「………………っ!」

 

 「悪い慎二。先に行っててくれ。俺は帝国と大東亜連合の部隊に撤退を勧告してから行く。大丈夫。死ぬ気はない。俺も勧告をした後、即撤退だ」

 

 「いや、俺もつき合う。たしかに山城さんに何も知らせないのは不義理だよな。だがお前は必ず生きて帰れよ!絶対、速瀬と涼宮を泣かせるなよ!」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 「――――よかろう。誠に遺憾ながら我々は弾薬が心もとない。一時この場を離れ、補給を受けた上で再度出撃をする。ではな。国連軍のもの」

 

 やっとこちらの説得が届いたのか、その帝国部隊の指揮官は部隊全員を連れて後退してくれた。

 これで二個中隊を撤退させることができた。俺達にしちゃ上出来だろう。

 ここらが潮時。ここで見切りをつけて撤退すべきだ。

 それが正しい。だが――――

 

 「これ以上は俺達も危ない。大東亜連合は………彼女のいる場所は爆心地になる近くだ。それでも行くのか?」

 

 ―――一番伝えたい人には伝えていない。まだ退()がれない。

 

 「慎二、もうお前は行ってくれ。さすがにこれ以上はつき合わせられねぇ」

 

 やはり彼女を残してはいけない。

 『日本を守るために帰ってきた』と言った彼女の瞳が忘れられない。

 

 「………いいさ。俺も山城さんにだけは勧告したい。祖国を守りたい気持ちで帰ってきて、今戦っている彼女だけにはな。何度も言うが孝之。お前は絶対生きて戻れよ。速瀬と涼宮さんにもう一度会って、どちらかを選んでやれ!」

 

 水月と遙。ここから遠く離れた場所で別の任務についている二人に、俺は告白されている。

 

 二人は親友同士で『どちらを選んでも俺も相手も恨まない』なんて約束をしているそうだ。

 

 厄介なモテかたをしたもんだ。結局俺はいまだ選べずにいる。

 

 ――――けど、この瞬間。

 

 二人には悪いが、俺は山城さんを選んでしまった。

 

 命を捨てても、二度と二人に会うことができなくても。

 

 山城さんに危機を告げずに退避なんてできなかった。

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城 上総Side

 

 作戦開始からすでに十二時間。

 現在オレ達大東亜連合は、ハイヴの地表構造物周辺の支配地域で戦っている。

 その前に担当していた帝国部隊は、ハイヴより湧き出るBETAの圧力の前に壊滅したので、その維持を帝国から引き継いだのだ。

 ハイヴ突入部隊は四度送られたが、どれも通信は途絶。オレ達は現状維持を言い渡されたまま、新たな命令は届かないままに戦っている。

 時間とともに不安は大きくなれど、ゼータの強さは相変わらずで、帝国部隊を壊滅させたBETA群をも次々駆逐していく。

 

 そしてその報告が来たのは、ちょうどBETAの圧力が弱まり、多少なりともオレの手が空いたときだった。

 

 

 「国連軍の不知火が来ているですって? 何の用で?」

 

 「わからん。かなり慌てていて要領がつかめない。ただ、何か状況に変化があったようなんだ。彼らは日本人のようだからカズサ。日本語で用を聞いてくれないか」

 

 ブレックスは通信を担当しているが、重金属雲の電波障害でCPの指示を受けることができず、オレ達は状況を知ることができない。この国連軍の使いは靄の中の状況を知る絶好の機会だろう。

 オレは戦列をはなれ、その国連軍戦術機・不知火の前に来た。

 

 「わたくしが用を承りますわ。何の御用です? 国連軍の方」

 

 「山城さんか!? 良かった! …………え? 何です、その見たことのない戦術機?」

 

 「え、鳴海くんですか? どうしてここに? わたくしのゼータのことはどうでもいいです。何の御用向きかおっしゃって下さい」

 

 「あ? ああそうだ! 山城さん、大東亜連合のみんなにすぐさまこの場から撤退するよう言ってくれ! もうすぐG弾が落ちてくるんだ!」

 

 「G弾? アメリカが開発したBETAに効果絶大だとかいう新型爆弾の?」

 

 「そうだ! 米軍はその使用を決定した! 直ちに撤退しなきゃ直撃をくらうぞ!」

 

 予想以上に大事の事態だ。もし本当なら、全軍をここから引き上げさせねばならない。

 とにかくハロの意見を聞いてみよう。

 

 「ハロ、米軍の動きは分かりますか? 鳴海くんの言葉は真実なのですか?」

 

 「長距離観測モードで調べた。本当だ! 米国の宇宙艦隊はすでにこの上空の宙域に来ている! おそらくもうG弾の発射手続きにはいっているはずだ。弾倉交換! 虎の子のジャマー弾を使う。ライフルを超長距離モード。上総、指定されたポイントに撃ってくれ!」

 

 

 ポンッ

 

 ハロの言われるままに、ジャマー弾を空中へと撃った。

 その大きめの弾は、はるか空の彼方へと飛んでいった。

 

 「弾自体に推進力があるから衛星軌道にまで自力で飛んでいく。そこで妨害電波を発生させ、衛星軌道艦隊の通信を妨害するんだ。これで少しは時間が稼げるはずだ」

 

 良かった。これですぐにG弾が落ちてくることはなくなったのか。

 

 「カズサ、いったい空に何を撃ったんだ? それに彼らは何を報告しに来たんだ? みんなが不安がっている。どうか説明してくれ」

 

 おっとブレックスが聞いてきた。

 ジャマー弾が時間を稼いでくれるとはいえ、ここに長居は無用だ。

 

 「ハロ、この場全員へオープンチャンネルを開いてください。みんなに急いで撤退を………」

 

 「ダメなんだよ、上総!」

 

 ハロが聞いたことも無いくらいにヒステリックに叫んだ。

 機械音なのに。

 

 「ジャマー弾で稼げる猶予は多分30分くらいだ。それまでにG弾の効果範囲から、連合のみんなを逃がすのは不可能だ! ボクらだけで逃げるしかないんだ!」 

 

 な、なんだってぇーーーー!!!

 

 

 




 明星作戦といえばG弾。G弾といえば明星作戦。
 アメリカがG弾落とすまでの戦闘とか書いても無駄に長くなるだけなので、いきなりクライマックスです。
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