「くうううう………っ!」
シートに押しつけられ、潰されるような感覚はいつまでも続くかに思えた。
だが、失神しかけたその時―――――
「……………え?」
いきなり息が楽になった。
潰れそうなくらい重かった自分の体重も、今は少しだるいくらいにまで回復した。
「ハロ? G弾の超重力は収まったの?」
「………いや。相変わらずゼータの周囲は致死の超重力だ。けど、君のいるコクピットを中心に何らかのパワーが引き寄せられている。それがボクらを守っているんだ」
ゼータのまわりにはキラキラ光る発光体がまとわりついている。
オレは何故かそれが超重力から自分とゼータを守っていると確信できた。
「これは………まさか死んだ人の思念!? サイコフレームがここで死んだ人達の意識を集めたの!? そうでした。サイコフレームは機体の搭乗者以外の意思も力に変えるんでしたね」
その発光体には意思がある。
自分にはその思念が聞こえる。
それはこの横浜で死んだ人達の思い。
「……………そうですか。わたくしが言った『生きて日本を守る』という言葉で、わたくしを助けようと………」
それは無数の日本の衛士兵士の英霊の声。
もはや日本を守るために戦えなくなった死者の無念。
それがオレの………いや、本当の上総の切なる言葉に応え、ゼータと自分を守ってくれているのだ。
「鳴海くん、平くん…………!」
発光体のなかの二つの仲の良い蛍。それはわざわざ自分らに危機を知らせにきてくれた国連軍士官の二人だった。何故かそれがわかった。
「ごめんなさい。わたくしにはみんなを助ける力なんてありませんでした」
二つは「気にするな」と言っているように、自分らをけなげにささえてくれる。
「ブレックス…………! あなたもいたの?」
発光体の一つに彼の意思を感じられた。彼は日本のことは関係ないだろうに。
意識を集中すると彼の意思が聞こえた。それなりにつき合いが長かったせいか。
『ああ、僕はここにいる。ありがとう。君がいてくれたから僕はここまでやれた。君には生きていてほしいから力を貸す』
思えばいい奴だった。オレはやたらこき使われたが、政治家としての自分を力を本当に弱い者のために使おうとしていた。
「ごめんなさい。あなたを守るという約束は守れませんでした」
『気にしないでくれ。G弾なんてものが相手じゃ、さすがの君でも相手が悪い。ただ、一つだけ君に頼みたい』
「ええ、何でもするわ。遠慮せずに言ってください」
家族の誰かに伝言でも頼むんだろうと思っていた。
だが、ブレックスは死んでもブレックスだった。
『アメリカを助けてくれ。強硬派を止めてくれ。あれは国益のために人類として大きな罪を犯そうとしている。政府として国益のために行動するのは正しい。でもそれが、人の命を奪うものだったり地球を破壊するものだったら、国家の理性として止まらなければならない。今のアメリカはそれができなくなっているんだ』
遠慮なさすぎだ、このブラック政治家!
なに壮大な使命なんてオレに託しちゃってんの!?
「いくら何でも大きすぎますわ。わたくしにアメリカの国家機関をどうこうする力などあると思いまして?」
『僕とエゥーゴを立ち上げた時といっしょさ。だれか強硬派に対抗できる者を見つけて、君の力を貸すんだ。すまないが君にしか頼めない』
ブレックスの言うことを考えてみる。
『アメリカのため』というのはひっかかる。それのために戦うというのは、どうにも出来そうもない。
しかしこれだけのことをして、ブレックスはじめ多くのオレの近しい人間を殺した強硬派とやらには、報復を考えずにはいられない。
ならばやるか。この一件のけじめとして。
「わかりましたわ。G弾投下などをした強硬派を叩き潰せばよろしいのね? やりましょう」
「強硬派の中心人物は【ジャミトフ・ハイマン】という男だ。どうも危険なテログループが彼に力を貸しているらしい。気をつけるんだよ」
思いっきりずっこけた。
いるのか【ジャミトフ・ハイマン】!
まさかそのテログループの名は【ティターンズ】とかいうんじゃないだろうな!
♠♢♣♡♠♢♣♡
米軍Side
東京湾洋上
米軍極東方面第七艦隊 旗艦空母ロバート・F・ケネディ
その作戦室に初老の軍高官と壮年の参謀のただ二人だけがいた。
米軍の国連軍派遣部隊総司令官ジャミトフ・ハイマン中将と作戦参謀のバスク・オム大佐である。
彼らこそがアメリカにおける主流派となった強硬派ことオルタネイティブ5計画推進派の中心的人物である。G弾は強力な反面、重力異常を起こして地球環境を大きく損なうものではあるが、これを大量に使い全てのハイヴを制圧しようと目論む者達である。
「結局、事前通告もなしの使用となってしまったな。国際的な非難は免れん」
ジャミトフは疲れたように言った。
「やむを得ないかと。あのままでは日本帝国と女狐の時間稼ぎにつき合わされ、機会を失っていたでしょう。G弾の優秀性を示すこの絶好の機会、逃すわけにはまいりませんでした」
バスクはその大柄な体格を直立不動のまま微塵も動かさず返事を返した。
「だが、巻き込んだ部隊の数は相当なものだ。大東亜連合に所属している国々も今後は我々の敵にまわるだろう」
「フッ。【あの男】がいなければ外縁部にでも配置できましたな」
バスクの皮肉にジャミトフは顔を歪ませた。
将来的に障害になるであろう彼をたしかに嵌めたのだ。
「…………ブレックス・フォーラか。不幸な事故だ。彼は良きアメリカ市民であり、理想に邁進した将来有望な政治家であった。せいぜい豪華な葬式で送ってやろう」
「彼は理想を夢見すぎました。この人類が存亡の危機にたつ世界。数十万の難民を切り捨てようとBETAを倒す牙を研がねばなりません。そのためにも我々は冷徹に計画を進める悪魔仕事を恐れてはならないのです」
たしかに罪悪感など今さらだな。冷酷すぎるこの男でも見習うか。ジャミトフはそう思い直し、しっかり声を張って言う。
「そうだ。我々の放ったG弾投下で死んだ者のためにも、私はせいぜい傲慢で冷酷な悪魔になるとしよう。たしかにG弾にはその価値がある。観測班の報告では効果範囲にいるBETAだけではなく、その周辺にいるBETAまでも機能を停止したそうだ。この件を発表すれば誰もがG弾の有効性を認めざるをえんだろう。私は確信した。G弾こそBETA大戦を終わらせる唯一絶対のものだと」
「はっ。私もです。その邪魔をする者こそ人類の敵。ハイヴ制圧の成果を示した以上、最速でG弾によるBETA大戦終結を早めるべきです。一日早まればその分10万人の命を救うことになるのですから。邪魔する者はいかなる手段をもってしても排除すべきです」
「『いかなる手段をもってしても排除』か。まるで【連中】の言葉だな。思えば【連中】に動かされ、ここまで最短できてしまったような気がする。今さらだが、強引すぎるやり方で敵も多く作ってしまったがな」
ジャミトフは、赤毛の危険な男が率いる手を組んだテログループに思いをはせる。
数々のテロと謀略を成功させ、いまだ脅威論の高いG弾使用論を主流へと押し上げたあの実力。手綱は握れているとはいえ、奴らは、特に首領の【
「それで? 【連中】はどうしている」
「はっ。次のターゲットに取りかかるそうです。『【女狐】と【ユーコン基地】の両方を葬ってみせる』とのことです」
「フ…………フハハハ! 【第四計画】と【プロミネンス計画】の両方をか。それができたなら確かに我々の提唱する【オルタネイティブ5】を邪魔するものはなくなるな。実に大した奴らよ」
「閣下。ですが【連中】はテロリストです。それも全世界的に悪名高い。もし我々との関係が知られれば、我々は終わりです」
「わかっておる。使える奴らではあるが、女狐とユーコンの始末がついたなら【連中】にもご退場願うとしよう。できるな? バスクよ」
「おまかせください。【連中】の動きは把握できております。どこにいようと”専門家”を送り込み、24時間以内に終わらせてみせます」
「よし。では次は日本帝国についてだ。来たるべき日のためにも、我々が完全に日本帝国を掌握しておかねばならん。バスクよ。帝国陸軍に蒔いた”種”は発芽できるか?」
「はい。帝国情報省に何かつかまれたのかと思いましたが、邪魔されるような動きはありません。すぐに仕掛けますか?」
「いや。明星作戦で帝国軍にも少なくない損害を出してしまった。いま動かしても、日本の中枢まで揺るがす動きは期待できそうもない。少なくとも一、二年は再建を待たねばならん」
「では、その時まで仕込みを完璧にしておきましょう。それまでに【連中】が本当に女狐を始末出来ていれば良いですな」
――――――日本帝国に若手将校によるクーデターが起こるのはこの一年後のことである。
【機動戦士Zガンダム】を見返すうち、第五計画の黒幕はジャミトフさんとバスクさんなような気がしてきました。なので、そのつもりで書いてみました。