夕呼センセーはいつも苦労しているな。
国連軍品川仮設基地
ここにオルタネィティブ4計画の提案者にして最高責任者。後の横浜基地副司令となる香月夕呼はいた。
現在、彼女はここの一室を執務室にし、横浜ハイヴ調査の指揮をとりつつ明星作戦の後始末に奔走している。
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香月夕呼Side
「そう。A-01の再編は順調なようね。感謝してるわ、伊隅」
『ありがとうございます博士。ですが、これが残った自分の役目だと心得ております。亡くなった先輩方に侮られぬよう、精強な部隊を作ることをお約束します』
「あんたが生き残ってくれて本当良かったわ。これからはあんたのヴァルキリーズがA-01そのもの。主任務にもついてもらうわよ。そのつもりで部隊を作りなさい」
『望むところです。ところで新任に【速瀬水月】というなかなかの逸材がおりました。早いかもしれませんが、彼女を副隊長に任命して指揮官として早めに育てたいのですが』
「その辺はあんたにまかせるわ。まりもにも相談して上手くやんなさい。それじゃね」
そう締めくくって、あたしはA-01連隊の新指揮官・伊隅みちるとの電話を終えた。
そして待たせてある、部屋の中にも関わらずパナマ帽を目深に被った、やたら怪しい腐れ縁の男に話しかけた。
「待たせたわね鎧依。明星作戦の後始末は本当にキリがないわ。これもアメリカの本気を見誤ったあたしのミスね。あそこまでなりふり構わずG弾を使うとは思ってもみなかったわ」
「いえいえ。作戦以前よりさらにご多忙になった博士には大きく敬意を払っております。仕事に忙殺される博士の凜々しく美しい顔が見られるなら、待たされるくらい何でもありませんよ」
「……………前半でセリフを切って会話してくれない? 後ろはいつも余計だから」
明星作戦より数日後。アメリカがやらかしてくれたあの新型爆弾のお陰で、こっちはおおわらわだ。さっき伊隅と話したA-01の再編もその一つ。
なにしろ、あたしの直属部隊のA-01連隊がヴァルキリーズを残して全滅してしまったのだ。
ハイヴに突入した攻略部隊は仕方ないにしても、情報観測を任務にしていたデリング、連絡を担当していたヴァルキリーズの半数までもが壊滅した。
それらはG弾の効果予想範囲より外側にいたのだが、二発目のG弾が投下されたことにより効果範囲が拡大。観測を頼んだことが裏目に出てしまった。
「これも奴らの計画のウチかしらね。あたしを直接狙うんじゃなく、手足になるA-01連隊を潰すってやつ。たしかに効果的だわ。使える手駒が伊隅だけじゃ相当動きが鈍くなるし」
「それはどうか分かりかねますが、このG弾投下に様々な効果を狙っていたのは確実でしょう。国際的な信用を落としても、相当な果実を手に入れています」
「やっぱりこれって最初からの計画? 今さらこんなことを聞くのもマヌケだけど」
「ええ。やはりアメリカ………第五計画推進派は最初からG弾を使うつもりだったようです。大東亜連合を、外様にも関わらずハイヴ近郊に配置したのもアメリカの後押しでしたし」
「ああ、目的は僻地東南アジアで頭角をあらわしてきたあの男」
「ブレックス・フォーラ。国土を失った諸国や難民に同情的な考えをもつ男でした。彼が東方アジアで築いた人脈と未知の戦力『Zガンダム』を擁して祖国アメリカに戻れば、確実に奴らは停滞したでしょう」
「そっちの話はもうすんでしまったこと。彼のことは悼むけど、とりあえずいいわ。けど、問題はG元素よ! 第五の奴ら、なんて手が早い!」
ハイヴ内のG元素の集積地アトリエと思われる場所には、まったくG元素はなかったのだ。さらに、何故かハイヴ内に大東亜連合の戦術機の残骸が数多く見つかったが、その中にZガンダムと呼ばれる未知の戦術機のものは発見されなかった。
「本当にまいったわ。まさかG元素が集積地アトリエにひとかけらもないだなんて。Zガンダムとやらは仕方ないにしても、こっちはなければ計画そのものが始まらない!」
「その件は少し気になりますな。本当にアメリカが”Z”の機体も、G元素も全て持っていってしまったのでしょうか? あまりに手際がよすぎる気がします」
「何なの? あの状況でウチらを出し抜けるヤツなんて、アメリカしかないでしょう! 他なんてあるっていうの?」
「それです。博士も重力異常の収まった後に、すぐ部隊を出してG元素の回収をはかりました。超重力の中での作業など不可能なことを考えると、スピードにそこまでの差があるはずがありません」
「…………そうね。じゃ、G元素と”Z”の機体をとっていったのは誰? G弾の超重力の中で動いたヤツってことになるけど」
たしかにあたしも、誰が”Z”の残骸とアトリエからのG元素を持ち去ったにしても、動きが早すぎるとは思っていた。鎧依は何かつかんでいるのかしら?
「幽霊でしょうか? それなら重力なんて関係ありません」
「プッ」とあたしは思わず吹き出した。
「オカルトに逃げるとはね。やっぱりアンタも何もわからないんじゃない。とにかく次の手をうつわ。その件でアンタを呼んだの」
いつか、この謎が解き明かされる日がくるのかしらね。
「つまらないジョークを言ってしまいましたな。我ながら落第の出来でした。では、雑談はこのくらいにして、本日の御用向きをお伺いいたしますかな。博士の頼みとあらば、何なりと叶えてさしあげたいとは思っておりますが」
「アンタが最近仲良くしている開発の中佐。アレと渡りをとってもらいたいのよ」
「ふむ。巌谷榮二中佐ですか。彼をどのように使って第五に対抗なさるおつもりで?」
「彼が進めているプロミネンスとの戦術機共同改修計画。それにあたしもかませてもらって、プロミネンスと手を組むの。第四、帝国、プロミネンスの三者連携で第五に対抗するわ」
「それは……………大胆なことを考えますなぁ。外来宇宙の技術研究が目的のオルタネィティブ計画。プロミネンス計画はそれに対抗するために生まれた、地球産の技術のみでのBETA打倒を目指す計画。それと手を組めるとお思いで?」
「そんなこと言ってられないのよ! こっちが何も実績を出してないのに、向こうは問題アリとはいえ大きな成果を出してしまった。何も手をうたなければ、明日にでも主導を向こうに変えられてしまうわ!」
「しかし第四計画に関してのことは何も出せないのでしょう? どのように相手の関心を向けさせると?」
「こっちも、いざという時のために技術のいくつかはあたためてあるわ。あとは話術でどうにか。Zガンダムとやらの残骸でも見つけてりゃ、一発だったんだけどね」
そう言ったとき、鎧依にしてはめずらしく神妙な顔をした。
「アレとその搭乗者の彼女のことは私も残念でした。まぁ、こういったことはこの稼業にはよくあることで。彼女を悼みつつ、私は仕事にはげみますか。巌谷中佐の件、まかされました」
鎧依はパナマ帽を顔が隠れるほど深く下げると、部屋を出るべくあたしに背を向けた。
RIRIRIRI……………
その時、あたしの机の上の電話が鳴った。
やれやれ。次は何の面倒ごとかしら。本当に明星作戦の後始末はキリがない。
しかし受話器をとってその内容を聞くと、あたしは怒りで思わず声を荒げた。
「ハァ? なんでアイツのつなぎをここでやるのよ! 止まりなさい鎧依! アンタに電話よ!」
あたしは受話器を投げつけるように鎧依に渡すと、ヤツはそれを丁寧に受け取った。
「これはこれは。どうも申し訳ありませんな。はい…………やはり『彼女』ですか。とりあえずプランAで問題ないでしょう。ではそのように」
鎧依は一言二言会話をすると、電話を切った。
この辺りは重力異常や戦場の爪痕の関係でいまだ携帯が使えない。連絡は有線でなければままならないため、ここにかけたのだろう。
「なんなのよ、こんな所にまでつないでくるなんて。そんなに重要な用件なの?」
「ええ。彼女から連絡があったなら、どこであれ間をおかず私に連絡するよう言ってありましてね。もっとも任務によってはそこまで出来ない場合もありますが。秘匿性の低い今でよかった」
「そこまでの相手? いったい誰なの?」
「さっき言った幽霊ですよ。一年前まいた種がうまく芽吹いてくれました。さっきのつまらないジョークは、どうやら予感だったようです」
「…………………まさか!?」
思わず背中がヒヤリとした。
まさか、百物語みたいにコイツと怪談なんてすると現実になっちゃうの?
「いやはやG弾爆心地のド真ん中にいて、まさか生き延びるとは! まさしく幽霊ですな!」
おかしいな。なかなか話が進まない。