鎧依さんと連絡をとった結果、直接あって話すこととなった。
会う前にハロにはある程度の下調べをしてもらった。
だいたい人類の対BETA戦略の大きな所は国連主導でやっており、以下の通り。
一つ目はオルタネイティブ計画。BETAの調査からもたらされた宇宙由来の技術研究をしてBETAと戦うというもの。これが主流らしい。
二つ目がプロミネンス計画。地球のみの技術、主に戦術機の能力を高めてBETAのハイヴを攻略しようというもの。アラスカのユーコン基地に世界各地の戦術機技術が集められて行われており、実績も大きいが、いまだハイヴ攻略は望めないために主流にはなれない。
さて。主流のオルタネイティブ計画だが、それにも戦略により派閥がわかれている。
一つがアメリカ主導の【オルタネイティブ5】。G弾という新型爆弾を使用したハイヴ攻略作戦で、これがオレ達の仇になる派閥だ。
それの対抗が日本主導の【オルタネイティブ4】。これが現在オルタ5をおさえての国連のメインの計画らしい。1から3までは廃案になっているので、これがオレ達が乗っかろうと思っている本命だ。主導が日本というのも理想的だし。
「鳴海くん平くんの話から、国連軍日本支部が何やら大きな対BETA作戦を計画しているということは予想していました。なんとなくここが本命になるような気がしていましたが、案の定でしたわね」
「でも結局【オルタネイティブ4】というのがどんな計画かはわからなかったよ。プロミネンスの方はけっこう一般に近いレベルまで知られていたし、オルタ5にいたっては横浜ハイヴを吹き飛ばしたりなんかして、もう隠す気なんてないみたいだし。でも、オルタ4の方はとてつもなく厳重に秘密にされているんだ」
ハロは申し訳なさそうに言った。
オルタ5は別としても、【オルタネイティブ計画】というのはどういう研究をしてどういう実績があるのか、本当に何もわからない。
「まぁ仕方ありません。問題は鎧依さんが【オルタネイティブ4】を計画している国連軍日本支部につなぎをとれるかどうかですわね。さて、少し早いですが参りましょうか。余裕をもって行きましょう」
ゼータの修復は完全に終わって万全だ。
オレはゼータを発進させ、待ち合わせ場所へと向かった。
◇ ◇ ◇
鎧依さんとの待ち合わせ場所は爆心地横浜ハイヴの近く。旧柊町あたりという、奇しくも鳴海と平の故郷だ。
横浜ハイヴの調査隊もその町までは展開していないので、そこは完全な無人だ。
鎧依さんがZガンダムを見たいというので、人気の無くなったその場所で待ち合わせということになったのだ。
目的地に進むにつれ、だんだんと建物の倒壊度合いがひどくなっていく。
旧柊町に着くと、そこは住宅街だったらしく一般の家だったものが多い。
だが、その建築物はどれもこれもほぼペッチャンコだ。元は良い町だったろうに、今は一面の廃墟が果てしなく続く悲しい景色だ。
少しだけ二人の気持ちがわかったような感傷を感じる。
「ハロ。柊町へ着きました。待ち合わせの正確なポイントは?」
「ここより南東へ少しばかり………あれ? 上総、右手200メートルばかり先の家を見てみて。変だよ」
「変? ………ああ、あれですか。たしかに妙ですわね」
全天周囲モニターに映る建物はどれもこれも潰れているのに、その家だけは原型をたもっていたのだ。
その隣には壊れて放棄された戦術機があり、その家の周囲だけがG弾が落ちる前の戦闘時の光景そのままだった。
気になったので、ゼータをその家の近くにまで進めてみた。
「おとなりの戦術機の方も原型はたもっていますわね。これは調査隊のものではなく戦闘時の機体。ということは、ここらは何らかの事情で超重力から免れたということですの?」
「軽くスキャンしてみたけど建物はしっかりしている。理由はわからないけど、本当にここだけは超重力の影響はなかったみたいだね」
『不思議なこともあるもんだ』とその家を見ているうちに、妙にその中身の方も気になった。
「ハロ。鎧依さんとの時間はまだよろしいですわね?」
「え? まぁ早く出てきたから余裕はあるけど、どうして?」
「あの家の中を見てみましょう。何もないでしょうが、探険ごころが疼きました」
「ええ? 仕方ないなぁ。ちょっとだけだよ」
機体を下りて生身でその家を見上げてみる。所々くずれている部分はあるものの、やはり超重力などなかったかのようにしっかりとした普通の家だった。
扉の前に立ち、少しばかりときめいてドアノブに手をかける。
――――そのとき、異変は起きた。
「待って上総! 空間が妙だ!? そうか、ここは特異点。無事だったのはそのためか!」
一瞬、空がひどく歪んだように見えた。
と思ったら、信じられないことがおこった。
その家の背後。オレ達の目の前の何もなかった場所に、いきなり戦術機が現れたのだ!
いや、戦術機じゃない。
あの特徴的な兜のようなフェイス。ガンダムだ!
「え、えええええ!? あのガンダムは!!!」
フェイスカバー部にある3本の「へ」の字スリット。
メジャーな赤青白のトリコロールカラーでなく、白黒のシンプルなデザイン。
背中に背負ったマントのようなフィンファンネル版。
あれこそもっとも有名なガンダムのひとつ、『νガンダム』だ!!!
「νガンダム!? どうしてこれが……………ハッ! まさかわたくし達と同じ!?」
一瞬、理由などを考えたものの、そこは生粋のガノタ。
たちまちアニメ、プラモ、フィギュアで幾度もみたその造形、目の前にある夢の具現化。
リアル『νガンダム』に目も心も奪われ、そのそびえ立つ勇姿にくぎ付けになってしまった。
しばし呆然とそれを見上げて固まっていたが。
――――――ガチャリ
突然にオレの目の前の扉が開いた。
こんな廃墟の中にある家に人がいるだと!?
「きゃあ!」
ノブを持ったまま固まっていたオレは、その扉に突き飛ばされてしまった。
――――「人!? あぶない!」
家の中から出てきたその男は、倒れそうになるオレを反射的に掴んで支えた。
すごい反射神経と力だ。
しかし支えられているのが腰だったため、顔が近くなるほど急接近。
彼の強いまなざしがモロ目に入る。
そいつは思ったより若く、山城上総と同じくらいの年頃の少年だった。
年に似合わないがっしりとした戦士の肉体をもち、強い目をしている。
だが恰好は白い学生服。まさかこの家に住んでいるツワモノなのか?
ヤバイな。なんかコイツ、妙に女をひきつける何かがある。
中身が男のオレじゃなかったら愛が生まれちゃうね♡
「あ、ありがとうございます。……あの、はなしていただけます?」
そう言ってオレは顔を背けたが、その視線の先にリアルνガンダムが!
「ああ、そうだな。悪かった………って、おい君!?」
相手の手がはなれない内に、つい、νガンダムを間近で見ようと駆けだしたのが悪かった。
オレ達はもつれ合って「ズザァッ!」と二人仲良く地面に倒れ込んでしまった。
「痛たた、ごめんなさい。ガノタの呪われた本能が………って、えええ!? 」
なんと、男の手がしっかりオレの敏感なふくらみをつかんでいた。
胸の部分に! ヤバイ! なんか、ここって敏感すぎる!
「あ、あの、そこはやめて………ひゃうっ!」
なんか揉んできた! ヤバイ! ちょっと気持ちいい!?
「え? 柔らかい………って、えええ!? ゴ、ゴメン!」
「は、はなしなさいっ………きゃあっ!?」
急いで立ち上がろうとしたオレは、またしてもすべって彼に被さるように倒れた。
いったい、いつになったらこのループは終わる!?
気がついてみると、いったいどういう偶然か。
オレと彼は抱き合い倒れながらキスをしていた。
深く深く映画のようなキスをしている。
そんなロマンスが生まれたかのような状態だった。
―――――ああ、いけないな。君の可愛い唇を奪ってしまったよ。本当にどんな偶然だろうね?
いかん! 妙な幻聴まで!?
バカな! いったいどんな力学が作用しているというのだ!?
まるでこの男に吸い寄せられるように、次々と
原子核に吸い寄せられる電子のように!!
いったい何者なんだ、この男は!!?
上総の無駄に高いヒロイン力が恋愛原子核の力を最大に呼び起こす!
出会うはずのないふたりが出会った先には?