白銀転移前 神モドキの不可思議領域
13話で語られなかった神モドキとの会話
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白銀武Side
俺は不可思議空間にそびえ立つ、白と黒のミッドナイトカラーの機体を見上げて聞いた。
「νガンダムか。宇宙用の機体だと思ったが、大気圏内でも使えるんだろうな?」
姿の見えない神様モドキのじいさんとやらは、不思議空間に声だけを響かせて答えた。
「無論だ。地上でも使えるよう手を入れてある。ファンネルも短時間だが、とりあえず使えるようにはした。もっとも貴様に使えるかは疑問だがな」
「俺がニュータイプじゃないからか?」
「そうだ。我の与える奇跡は一人にひとつ。これは違えることのできない絶対のきまり。故に貴様に機体を授ける以上、貴様をニュータイプにはできん」
「だったら何故これを選んだ? これには【フルサイコフレーム】による強力なサイコミュが搭載されている。つまりニュータイプが乗ってこそ真価を発揮できる機体だ。さっき、アンタが選んだ最高の機体だと言ったが、他にも強力な機体はいくらでもあるだろう。それこそオールドタイプの俺が乗っても性能を遺憾なく発揮できるものが! ドーベンウルフとか」
「これはな。かつて奇跡をおこした機体」
「なに?」
それにしても静かでおごそかな声だな。
このじいさん、自分自身が気がついてないだけで本物の神様になっているんじゃないか?
「この機体のサイコフレームが搭乗者を依り代とし、地球に暮らす無数の人々の祈りを、また一人のニュータイプとの共振で増幅・具現化した。その結果、巨大なサイコフィールドを生み出し、ミノフスキークラフト現象により巨大隕石を押し返した。かの現象は【アクシズ・ショック】と呼ばれている」
――――まさか!?
「かの大いなる奇跡をおこし、また無数の人々の祈りを取り込んだこの【νガンダム】。我はこれこそを最高と見た。白銀武。貴様が正しき心で乗るなら、スペック以上の働きでこの機体は応えてくれるだろう」
「待て。これはそれの同型機とかじゃなく、そのものだってのか? あのアムロ・レイ大尉が第二次ジオン抗争で使った?」
「さよう。武装は別に作られたものを取り付けたが、本体は我が回収し、対BETA戦用に手を入れた【そのもの】だ。感じぬか? かの戦いの記憶を。サイコフレームがとりこんだ無数の人々の祈りとその願いを」
…………なるほど。初めてコイツを見たとき、まるで生きているかのような禍々しさを感じた。
それはこの機体に秘められた無数の祈りとやらのせいか。
扱えるのか? ニュータイプでもない俺に。
「さっき言ったように、我は貴様をニュータイプにはできん。だが機体には貴様の【声】と【想い】を届きやすいようにしておいた。もし、このνガンダムが貴様の想いに応えたなら、あるいは貴様をニュータイプの高みへと引き上げてくれるやもしれん」
「良いことを言っているようだが、不確実極まりないな。それがアンタのやり方か?」
「我は駒を配置するだけ。駒に意思がある以上、その結果はどう転がるかは誰にもわからん。故に強き意志ある貴様は、よりよき結果を引き寄せることこそを使命と心得よ」
俺はあらためてその機体を見上げた。そう思ってみれば、神々しく見えるから不思議だ。
「ああ、わかったよ。名のある名機に乗るのも悪くはない。それも有名な英雄の愛機なら、なおさらだ。よろしくな。前の相棒にはおよばないが、もう一度この地球のために戦ってくれ」
気高き神馬にも似たその機体は、まだ俺を見てはくれない。
その高殿のような白い顔を虚空へと向けるだけだった――――――
◇ ◇ ◇
再び現在 白銀の自宅前
バッチーーーン! ベチバチベチバチ! ベチバチバッチーーン!!!
俺はここで出会ったその
黙って叩かれてやっているが、どう考えても、この子が妙な暴れ方をしたためのハプニング。
理不尽だと思うのだが仕方がない。
男には女の理不尽さを黙って受け入れなければならない時があるのだ。
しかし痛いな。この子、冥夜みたいに相当に剣術をやっているらしく、ビンタがかなり効く。
おかげでさっき、意識があの不思議領域へトリップしてしまった。
「ハァハァこのくらいにしておいてやりますですわ。手が痺れてきましたし」
彼女は痛そうに自分の両手を「フーフー」しながら叩くのをやめた。
無論、俺の頬は何倍も痛い。頭の芯まで響くビンタでクラクラだ。
ほっぺが膨らみすぎてしゃべりにくいし。
「それであなたのことですが。わたくし同様、神様からモビルスーツを授けられ、BETAと戦うためにこの世界に送られてきた転生者。それで間違いありませんわね? おたふくさん」
「ああ。そういや、俺より先にアイツに機体をもらって来てるヤツがいるって言ってたな。君の機体はあのZガンダムか。よろしくな。俺の名は【白銀武】だ」
俺は痛む頬をさすりながら答えた。
「わたくしは山城上総。BETAとの戦闘は一通り経験して、この世界のこともそれなりに知っておりますわ。何でもお聞きになってくださいな。それにしても、あなたのほっぺがリンゴみたいでおいしそうですわ♡」
なに可愛いことを言っている。人の頬をこんな悲惨なものにしておいて。
しかし彼女の足下には、ガンダムシリーズでお馴染みの丸型ロボのハロがいる。彼女のゼータにはこんなものまでついているのか?
「それには及ばない。俺はBETAとの戦いも、この世界のことも、それなりに知っている。しかし【山城上総】か。知らない名だ」
幾度かループして来ているBETA世界。序盤で知らない人間はいないはずだが、この子とは初対面だ。いや、この子は神モドキにこの世界に送られてきたんだから当然か。
「あたりまえでしょう。初対面なのですから。それとも【ニュータイプは誰のことも見れば理解できる】なんて、勘違いをしておいでかしら?」
「フフン」と高嶺の百合が見下ろすように笑う山城上総。一見とっつきにくそうな美人だが、中身は年相応の普通な女の子なのかもしれない。
「俺はニュータイプじゃない。その能力は授けられないそうだ」
「はい? なのにサイコミュ搭載の機体に乗る? フィンファンネルも使えないんじゃありませんこと?」
「使わねぇよ。そもそもファンネルは、反応速度が異常で攻撃が当たらないニュータイプや強化人間と戦うための武装だ。『攻撃を避ける』なんてしたことのないBETA相手には無用だ。フィンファンネル版は外して機体を軽くしよう」
「そ………そうなんですの………そうなのですね…………」
その子は見るからに落ち込んだ顔をした。美人のこの顔はきくな。
なんだか俺が悪いような気さえしてくる。なんか謝りたくなってきた。
『ニュータイプじゃなくてごめんなさい』
そのとき、彼女の足下にいる丸型ロボのハロが動いてしゃべった。
「上総、そろそろ時間だ。話は切り上げて待ち合わせ場所に行かないと」
なんだこのハロ? ずいぶん流ちょうにしゃべるな。まるで意思があるみたいだ。
「あっ! そうですわ。そろそろ行かなければなりませんわ! 白銀、せっかくだからあなたも来なさい」
「いや、俺は横浜基地に行かなきゃならないんだ。まずは夕呼先生に会って、俺のことを知ってもらわないと」
「何を言ってますの? 横浜に基地なんてあるわけないでしょう。横浜はつい先日までBETAの支配領域。ハイヴまであった場所ではありませんか。調査隊の設営テントにでも行きますの?」
「何!? ちょっと待て! 今は西暦何年だ!?」
「ちょうど2000年の10月ですわ。一月前に【明星作戦】という大きな作戦があって、この横浜はBETAから解放されましたの」
「いつもより一年前!? 明星作戦の時期もおかしい。あれはたしか1999年だったはず!」
まずいな。俺の知識が役にたたないかもしれん。横浜基地がないんじゃ、これからのプランが始められない。まずは夕呼先生がどこにいるか探す所から始めないといけないのか?
「なにかいろいろ悩んでいますわね。まぁ、そちらも行く場所があるのなら無理にとはいいません。ここで別れましょう。さよなら愛しきνガンダム。必ずまた会いましょう」
俺じゃなくνガンダムに挨拶しやがった。なんだその恋人を見送るような目は。
いや、それより俺はこれからどうする?
今はとりあえず、この世界での居場所のきっかけが欲しい。
となると、先輩のこの子について行くのも手か。
「待ってくれ。やはり俺も君につき合う。誰と待ち合わせているんだ?」
「【鎧依さん】という日本の事情通の方ですわ。以前に日本での世話をしてくれると言っていただいたので、お言葉にあまえようと思いまして。もっとも、彼のことはよく知らないので信用しすぎるのは危険ですが」
「鎧依? 課長か! ついている。是非に会いに行こう!」
「え? ええ、よろしいですわ。…………あら? 車が」
ずいぶん大きくてゴツイつくりの車がこちらに来た。
あれは装甲仕様だ。VIPなんかを乗せるための。
やがて車は俺達の近くでとまり、中から二人の人間が出てきた。
あの二人は―――――!!!
「山城上総さん。こちらに例の機体が見えたので、来てしまいましたよ。まさかもう一体あるとは。そちらの彼はお仲間ですかな?」
見覚えのあるパナマ帽。そして長身の、のそっとしたスーツ姿の男。
――――鎧依課長!? こんなに早く会えるとは!
「まったく、どこで作られているのかしらね。おまけにもう一体、日本国内にもちこまれていたなんて。日本の警戒ってガバガバなのかしら? G弾の爆心地にいながら、生きてピンピンしていることといい、不思議には事欠かない子ねぇ」
続いて現れた国連軍の制服に白衣をまとった、パープルの長い髪の女性。相変わらずのけだるそうな物言いとは裏腹に、だけど顔は二体のガンダムに釘付けだ。
――――夕呼先生まで! ついている。ここでいきなり出会えるとは!
しかし先生は敵も多くて、けっこう命を狙われたりもする。不用心に出歩いてもいいのか?
おおかたガンダムに興味をひかれて、自ら見に来てしまったという所か。相変わらず自分の知的好奇心の欲求には素直なお方だ。
そんな夕呼先生を見て、山城上総はとまどっている。
「あの女性は誰でしょう? 鎧依さんはなぜ連れてきたのでしょうか?」
「ああ、君とは初対面だったな。彼女は―――」
だが山城上総は目をつむり、「スッ」と俺の口元に手をかざして言葉を遮った。
「いえ、彼女が誰かはわかりましたわ。なるほど、そういうことですの」
「はっ? なんで? いまの一瞬で何があったの?」
彼女は「フフッ」と薄く笑い、チョンチョンと自分のおでこを指して言った。
「ニュータイプの直感がはたらきましたわ。あの白衣の女性が誰なのか、なぜここに来ているのか。かなり詳細に脳裏に閃きましたの」
「なんだって!? 君はニュータイプなのか?」
「ええ。ですから、人を見れば直感である程度のことはわかりますわ。光線級の照射すら完璧に見切りますので、信用してよろしくてよ」
なに!! 光線級のレーザーをだと!?
そうか! ニュータイプが乗ったモビルスーツは戦場を一変させるほどの力がある。
俺には与えられなかったあの能力を、この子は持っているのか!
この子のおかげで、いきなり夕呼先生と鎧依課長にも会えたし。
こりゃ、序盤から頼もしい仲間ができたもんだぜ!
「彼女は鎧依さんの助手。そして恋人ですわね。二人はとても深く愛し合っていますわ」
………………………この子の言葉。どれだけ信用していいんだ?
早くもこの世界で夕呼、鎧依と出会う。
そして未知を知り、全てを見通す超A級ニュータイプの山城上総。
この出会いは白銀に何をもたらす?