ゼータと上総   作:空也真朋

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26話 二人の面接

 白銀に、白衣の女性が国連軍日本支部の「オルタネイティブ4」の最高責任者だという身元を聞いた。そしてオレが見た映像(ビジョン)の、鎧依さんとの関係はありえないことも。

 

 「ええ!? では、あの白衣の女性は鎧依さんの恋人ではなかったのですか!? そんなバカな! あんなにハッキリと映像(ビジョン)が見えたというのに! 嗚呼、わたくしのニュータイプ能力はどうしてしまったのでしょう?」

 

 「恐ろしいほどあり得ない映像(ビジョン)が見えたらしいな。本物のニュータイプってのは、ここまでピントがずれることもあるのか?」

 

 「はっはっは。私とうるわしき香月博士が恋人同士とは、実に光栄な勘違いですな。意外と私と博士がならんだなら、そう見えるのでしょうか? 博士」

 

 などと陽気に笑う鎧依さん。

 だが、話題にしている香月博士は逆に修羅のような顔。

 ヒヤリとした冷気のような怒りの波動を感じる。

 

 「ずいぶん面白い妄想を見たみたいね、お二人さん。ふざけたこと言っている鎧依とまとめて、その壊れた頭を切開して調べてあげましょうか?」

 

 ヒィィィィ! なんか怖い? この人!

 

 「夕呼先生、許してください。本当にちょっとした勘違いなんです」

 

 「なに? 【先生】って。あたしはあんたの先生なんかじゃないわよ。誰かと勘違いしてんじゃない?」

 

 「ええ、それについてはお話があります。人のいる所では話せないことですので、是非ふたりだけの時間を作ってくれることを望みます。たとえば『半導体百億個分の並列処理機能を手のひらサイズにする方法』とか」

 

 香月博士と鎧依さんはいきなり表情を変え、警戒するように白銀を見た。

 いったい、いきなり白銀は何言っているのだ? 

 ヤツはこの世界に来たばっかりだってのに、この香月博士のことも、鎧依さんのことも知っているような話し方だ。

 それに半導体百億個分の並列処理機能を手のひらサイズ? それってたしか…………

 

 「香月博士。人工知能の研究でもしていらっしゃいます? そんなものが出来たなら、完全な自立思考をするロボットなんかができますわね。」

 

 たしか、ゼータのメインコンピュータ内にあるハロの人格部分が、そういった構造機能になっていると聞いたことがある。

 ほんの好奇心と軽い話題のつもりだった。

 だが、すぐにマズイことを言ったと悟った。

 今度は三人とも、オレに殺気に近い視線を向けてきたのだから。

 

 

 

 そのあとは三人と会話をすることはなく、黙って品川にある国連軍の仮設基地に来るよう言われた。

 ゼータに乗ってそこに向かう途中も、さっきの剣呑な雰囲気がどうにもひっかかる。

 

 「ハロ。わたくし、また何かやってしまいました? 何がどうマズイかわかりませんが、ヤバイということだけはわかります。あの白銀という男もいろいろ知っていて何か秘密があるようですし」

 

 「ボクもそう思う。とにかく行く先では通信の類いは持ち込めないだろうから、何かあったらニュータイプの精神感応で呼んで。基地を壊して助けに行くから」

 

 目標だった国連軍日本支部には最短で行けることになったものの、それは消される危険と隣り合わせのものであった。

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 白銀武Side 

 

 俺達は品川にある国連軍の仮設基地へと案内された。どうやら夕呼先生はそこを拠点とし、横浜ハイヴ調査の指揮を執っているようだ。

 

 

 しかしマズッた。まさか俺の言葉で、『オルタネイティブ4』の目的の一端が人工知能だということを山城上総に知られるとは。

 普通ありえないだろう。『半導体百億個分の並列処理を手のひらサイズ』とか聞いて『人工知能』を連想するとか!

 俺が最初にそれを聞いたときは何がなにやらサッパリだったってのに。

 

 ともかく俺は注意して知っている機密事項をほのめかしながら夕呼先生の興味をひいた結果。

 三時間もの入念な身体検査の後、拘束具をつけられた状態ではあるが、基地の奥で念願の夕呼先生と二人だけでの話をすることができるようになった。

 

 

 「アンタの望み通り、二人っきりになってやったわ。それで? いろいろ知っているようだけど、どこでそれを知ったの?」

 

 「ええ。まず俺は【因果導体】という存在になっていて、三種類の別の世界の記憶があります。ざっくりそれを説明すると―――――」

 

 

 

 

 「なるほど。オルタネイティブ計画の深い機密や、これからハイヴ跡に竣工される横浜基地の建設計画まで知っているなら与太じゃなさそうね。でもアンタの話じゃこれから一年後の話らしいけど、一年じゃ横浜基地は完成しないわ」

 

 「ええ。明星作戦も一年遅れています。ですから俺の話も別の平行世界でおこったこととして、参考程度に考えてください。でも役にたつ情報もありますよ。二回目の世界で先生が超えられなかった【大きさの壁】をどうにかする鍵とか」

 

 「あら。それを教えてくれるのかしら? 本物なら地位や金なんかの報酬を払ってもいいわ」

 

 「では、山城上総とともに俺達の戦術機【ガンダム】を使って【オルタネイティブ4】に協力できる立場を。それと先生のもつ技術と設備を使って作ってもらいたい新型OSがあります」

 

 「了解したわ。それで? 鍵って何なのかしら?」

 

 「三回目の世界で、俺の元の世界へ理論を取りに行ったときです。万一、新理論の資料を持って帰れなかった場合にそなえて、そこの夕呼先生からいくつか数式を覚えさせられました。これを応用すれば、半導体百億個分という大きさの壁をこえる答えは見つかるそうです。それは今でも覚えています」

 

 「ふうん? 面白いわね。じゃあ、それを一つ書いてみなさい」

 

 俺は右手の拘束を外されて紙とマジックペンを渡された。

 

 「武器にならないようマジックとは徹底してますね。ええっとたしか………………はい。まずは一番簡単なものですが」

 

 夕呼先生は俺の書いた数式を見ると難しい顔をした。

 

 「これは…………方冪(ほうべき)定理で有名なものね。でもどうしてこれが?」

 

 「さぁ。まぁ考えるのは後にして、話の続きを………」

 

 「いいえ待って! たしかに関係なさそうだけど、アタシの勘が告げているわ! これが鍵になると!」

 

 「え? いえまぁ、そう言われて覚えさせられたものですから。………夕呼先生?」

 

 「まさか!? ひょっとしてこれは相乗効果を狙ってのもの!? だいたいの値がこれこれこうだから………」

 

 ヤバイ。なんか猛烈ないきおいで机で何かを書き始めた。研究に”ひらめき”が生まれると我を忘れてしまうのは、どこの世界の夕呼先生でも変わらない困った悪癖の一つだ。

 

 「きた! きたわ! 百億個を集合の『数字』として、これの効果を関数にすると…………そうか! 数学的思考から攻めれば良かったのね! ………できたわ! 式ができた!」

 

 「良かったですね先生。30分待ちましたよ。では、面接の続きを…………」

 

 「いいえ! でも違う! これだけじゃ足りない。まだ何かあると考えないと式は成立しない! 理論は成り立たない! 白銀、残りの数式も書きなさい!」

 

 「書きませんよ! 先生、いい加減にしてください!」

 

 「ハッ! そうだったわね。それじゃ別室を用意させるわ。そこでその数式とか平行世界のこととかをレポートにして書きなさい。オリジナルハイヴのことや『あ号標的』に接触したこと。アンタが経験したその他全てのことも」

 

 「わかりました。霞を借りていいですか? 霞がいれば、忘れていることも再現できるはずなんで」

 

 ここにいるであろう【社霞】は廃案になったオルタネイティブ3の落とし子で、リーディング能力を持っている。霞がいるなら、俺の記憶を読ませて忘れていることも再現できる。

 

 「社のことも知っているのね。でも、うーん………」

 

 「なにか?」

 

 「いいえ。ただ、山城上総の面接に使おうと思っていたのよ。でも、今はアンタの情報の方が重要ね。社をそちらに向かわせるわ」

 

 俺は拘束をとかれ、隣の部屋の警備兵に案内させる旨を伝えられた。ただ、あと一つだけ重要なことを先に伝えることにした。

 

 「それから先に知っておいてもらいたいことが一つ。先ほど言ったように、前の世界で、先生は00ユニットを完成させ、BETAの情報を手にすることができました。ですが、00ユニットには大きなデメリットもあったんです」

 

 「デメリット?」

 

 「00ユニットには数日ごとにハイヴの反応炉を使った透析が必要でした。しかしその際、00ユニットが持つ情報もBETA側に送られてしまったんです。そのために、その情報が致命的なことになる前に、俺達はオリジナルハイヴに無理な攻撃をかけなければなりませんでした」

 

 「――――――!」

 

 「それでもオルタネイティブ4である00ユニットの制作はやらなきゃならない。これをあきらめることは、オルタネイティブ5の発動を意味しますからね」

 

 「早く行きなさい。とにかくアンタの情報を全部精査してから考えるわ」

 

 「はい。この先大変ですが、がんばりましょう」

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城上総Side

 

 白銀がオルタネイティブ4の最高責任者の香月博士に別室での会話をもちかけ、それに見事成功して基地の奥に消えてから小一時間。

 ようやく博士は戻ってきてオレの前に座った。その間、オレは警備兵二人と会話もなく待たされっぱなしだった。大東亜連合のガバガバ軍隊と違って、最高機密を扱う本物軍隊はしんどいね。

 

 「待たせたわね。白銀からアンタの面倒もみるよう言われたからそうするけど、いちおう意思の確認をするわ。アンタはあのZガンダムって戦術機と共にこの国連軍日本支部に入るってことでいいのよね?」

 

 「ええ。それがわたくしが鎧依さんに頼もうと思っていた望みですので、お願いいたしますが。『白銀に言われたから』って、アイツそんなに大物なんですか?」

 

 「予想以上の爆弾だったわ。でも、いろいろと状況は変えられそうだわね」

 

 なんと! アイツはこの世界に来たばかりなのに何で?

 

 「アンタにはいろいろ不可解なことがあるけど、あえて聞かないわ。ただ、二つだけどうしても聞いておかなきゃならない事があるわ。まず、アンタの本心を聞かせなさい。アメリカに復讐を考えている?」

 

 「………正直言えば、何度かは考えたことがあります。でも、それはテロリストになる道です。故にブレックスには悪いですが、その道は選べませんでした。彼とは初めからお互いに利用しあう関係だと、割り切ったものでもありましたし」

 

 「つまり、そのZガンダムでホワイトハウスに殴り込んで、大統領を脅したりはしないというわけね?」

 

 「はい。BETAとの戦いがある中でそんなことはできません。ですが、わたくしはもうアメリカを信用いたしません。かの国に利することもいたしません」

 

 「殊勝ね。いいわ。アンタの身柄とZガンダムは国連軍日本支部が預かるわ。アンタが日本でこじらせた問題も解決してあげる。ただし、アタシの指示には必ず従うこと。いいわね?」

 

 「ありがとうございます香月博士。国連日本支部に草鞋(わらじ)を置かせていただきますわ」

 

 「もうひとつ聞きたいわ。明星作戦でG弾投下後のハイヴ内で、G元素集積地のはずのアトリエにひとかけらのG元素も見つからなかったわ。アンタが生きているってことは、アンタが原因?」

 

 「ええ、その通りです。G弾が発生する超重力から身を守るのに使わせていただきましたわ」

 

 「やっぱり! それってもう残ってないの?」

 

 「はい。一つ残らず使わせていただいたお陰で、こうして壮健に生きておりますわ」

 

 「あああうっ」

 

 「香月博士!?」

 

 いきなり香月博士が頭をかかえてふらついた? 

 ワタクシまた何かやっちゃいました?

 

 「博士。そんなにG元素が必要なのですか?」

 

 「ええ。…………いえ、いいわ。とにかく、どうにかするわ。あんたは気にしないで」

 

 「いえ。脛に傷持つ身をあずけていただく立場です。手土産といっては何ですが、明日G元素をとってきましょう。アトリエにあるものとは多少質が落ちるかもしれませんが」

 

 「ハァ? 何言ってるのよ、アンタ。いったいどこからG元素なんて調達してくるっての?」

 

 「日本にはもう一つハイヴがありますでしょう。佐渡島からです」

 

 

 

 

 

 

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