香月夕呼Side
山城にG元素の調達方法をきいてみると『佐渡島にいるBETAの体内にあるG元素を、抽出して手に入れますわ』だそうだ。
たしかにG元素をハイヴ以外で手に入れるには、BETAの死骸を解体するしかないわ。
でもそれは膨大な手間をかけて、ごくわずかしかとれない手間のかかるものよ。
たった一日で研究に必要な分を確保できるとは思えないのよね。
もっともそれ以前に、BETAの鬼ヶ島になっている佐渡島に、たった一機で行くところが正気とは思えないんだけどね。
とにかく山城がZガンダムの戦闘を行うというなら、それを観察しないわけにはいかない。
帝国海軍に頼んで駆逐艦を出してもらい、そこで見せてもらうことにした。
あたし自身が出向く必要はないんだけど、正直興味はある。
噂段階で”究極の戦術機”とまで言われたZガンダム。
いろいろとんでもない話は聞いたが、やはり正確な情報は欲しい。
それと社に山城のリーディングをしてもらったが、意味不明の結果が出た。
社の答えはこうだった。
『なんか男の人でした。山城さんは』
『…………………は? いやいや、女でしょあれは。山城は女子斯衛衛士訓練学校出身よ。身体検査は徹底的にやらされるし、性別を偽るのは不可能よ』
『いえ、心の中に山城さんでない男の人がいました。私がのぞいていることに気がつかれて、話しかけられました。そのせいで心の奥まで行けませんでした』
――――――と、よくわからない結果になってしまい、山城の心の中を見るのは不可能だという結果だけが残った。
結局一番知りたかった、あのZガンダムを手に入れた経緯はわからないままか。
それにしても心は男だってのに「~ですわ」とか言ってんの?
女でも「イラッ」とする話し方なのに、男とか最悪ね。
「夕呼先生。大丈夫でしょうか? 山城が一人だけで佐渡島に挑むなんて」
ちゃっかりついてきた白銀が不安そうにそう聞いてきた。
「常識として大丈夫じゃないのは当然でしょ。問題は山城とZガンダムという戦術機にそれを為す力があるか、よ。白銀。あんたには無理だと思うの? 山城があのZガンダムって戦術機を使っても」
「いや、山城とは先生に会う少し前に出会ったばかりだし、俺自身νガンダムでまだ戦闘とかしたことないんですよね」
「は? 仲間なんじゃないの? どう見ても同じ出所の機体をもつ者同士なのに?」
「いえ、機体を預けられたのは互いに知らない場所でなんです。山城の戦闘力の噂は聞いても、本当にそれだけのことができるかは分かりません」
あたしとおんなじか。いったい誰にあんなものを預けられたんだか。
「ま、普通なら絶対許可しないんだけどね。でもG元素はどうしても欲しいし、できるってんだからやらせてみるわ。それで失敗して死んじゃったら、それまでの縁とあきらめることにするわ」
「そんな…………」
「シッ来たみたいよ。はじまるわ」
艦橋の外の景色が大きく変化した。
佐渡島の光線種がいきなり上空へレーザーを発射しはじめたのだ。
上空に機体の姿は見えずとも、光線種の目標にしている位置から、Zガンダムの飛行形態ウェイブライダーはだんだん佐渡島に近づいてきていることがわかる。
「本当にレーザーは大丈夫みたいね。あれだけでも大したものだけど、本当にあそこから佐渡島に降下できるのかしら?」
やがて光線種は佐渡島の真上へとレーザーを集中させる。それはいつまでも止めることなく、まるでから撃ちを繰り返しているようだ。
「降下ポイントに着いたみたいね。さて、お手並み拝見させてもらうわよ山城。そしてZガンダム」
♠♢♣♡♠♢♣♡
上総Side
ウェイブライダーで高度二00㎞上空。勇躍征途、目標の佐渡島に到達。
ここまで上空にきたならさしもの重光線級のレーザーも冷やされて、耐熱処理を施されたガンダリウムγの装甲と、強化されたバイオセンサーによるサイコフィールドは貫けない。
悠々レーザーを浴びながら降下計画を確認する。
「レーザーは上手く流してね。間接部のフィールドモーターやマグネットコーティングは修理が大変だから」
「またハイヴ貯蔵のG元素を得る機会があれば、間接部もサイコフレームにしたいですわね」
「一番の難所は、減速をバーニアの調整じゃなく、レーザーをビームサーベルで弾いた衝撃で行う所だ。秒速10キロの落下の中、本当にできるの?」
「上総に問わずただ駆け下りなさい。
気分はすっかり一ノ谷合戦前の九郎義経だ。
レバーは手綱。フットペダルは鐙。愛馬はZガンダム。たたきつけるレーザーは一ノ谷の寒風。
扇子をビームサーベルにかえ、義経千本桜の能をひとさし舞おうか。
「まぁ鵯越と似たようなものか。『逆落とし』どころか垂平直下のダイビングだけどね。それじゃ行くよ。降下にはいった瞬間コントロールは渡す」
普段は封印してあるコクピットまわりのサイコフレームを解放。
脳を超高速処理状態にし、さらにハロの補正もはいるとレーザーをも見切る超感覚となる。
巡航形態ウェイブライダーからゼータに変形。
「
降下開始。
ビームサーベルを抜き、バイオセンサーを発動してロングビームサーベルへ。
ZガンダムにIフィールドバリアは搭載されていないが、Iフィールドの技術自体はある。
それがビームサーベルだ。
ビームに反発するIフィールドを発生させているので、ビームサーベル同士でチャンバラをしたりできるのだ。
これで重光線級の重レーザーとチャンバラだ!
「はあああああ!」
ロングビームサーベルを盾代わりに青眼にかまえて落下。
重光線級はさらに激しくレーザーで歓迎。
それを一撃、二撃とかわす。かわして落ちる。
されど天登る雨のごとく射たれるレーザー。やがてかわしきれなくなる。
かわしきれないと見切ったレーザーの光条。
それにロングビームサーベルの刀身を叩きつける!
「えあああああああああ!!!」
レーザーとサーベルが反発しあい、ゼータの体は一瞬とまる。
薙ぎの型の要領でレーザーを流し、その反発を利用してゼータをレーザーの集中砲火の地帯から遠ざける。
そのままバーニアで落下地点への位置を調整。
目指すは大目玉のバケモノ、重光線級の一体!
「山城が唐竹割りの極意! 垂直おとしの
山城上総は幼い頃、真剣の小刀で竹の据え物を垂直に真っ二つに割るという修行をしていた。
その記憶と共にその重光線級をビームサーベルで目玉からたたき切った。
――――轟ッ!
その勢いで地面に着地。
素早くビームサーベルの仕様を変更。ビームライフルへ。
居住まいを正している間に周囲の重光線級はこちらを向き、レーザーの照射体勢へとはいっている。
大目玉にエネルギーを充填するその様を見ながら、思わず笑みがこぼれた。
「あまりに遅い」と。
「距離さえなければお前達など雑魚ですわ! 訓練兵時代のわたくしでも、もっとましな射撃ができましてよ!」
一番早くに充填がきそうな個体に喰らわせるビーム!
そのまま回転しながらビームライフルを乱射!
次々に重光線級を屠る。屠りながらまわる。
「ほらほらほらほら! これが早撃ちというものですわ! 狙撃以外の射撃も知りなさい!」
キッチリ一回転する間、60体ほどの重光線級はその場に死骸となっていた。
「成功ですわ。またまた光線級撃破のレコードを塗り替えますわね」
「勲章とかもらったことないけどね。とにかくBETA支配地域に長居は無用だ。すぐにこいつらのG元素を吸収する。G元素強力吸収モード!」
ハロが何やらゼータのモードを変更。すると死骸からG元素が大きな蛍のような光になって出て、次々ゼータの体に吸収される。
「ハロ、必要分以外は核反応炉に取り込まないで。目的を忘れないでね」
「大丈夫。ちゃんと結晶にして貯めておくよ」
さすがにゼータ単機でハイヴの奥にまでG元素を獲りには行けない。
だから目標はこの重光線級。
より強力なレーザーを放つこれは、高濃度のG元素を体内に宿しているはずなのだ。
なのでそれを乱獲しG元素をいただこう、というのが計画。
目論見通り計画は大成功だった。
大量の蛍を出した重光線級の死骸も、やがて光が出なくなった。
そのころにはワラワラと無数のBETAが這い寄ってきた。
実に圧倒的な数だ。モニターに一面果てがないほどのBETAの群れ。
レーダーで見てみると、島中のBETAががここへ向かっているような動きなのだ。
「BETAはG元素の存在には優先して引き寄せられるようなんだ。G元素を使った兵器を使う場合、これに気をつけないとね」
「なら、このG元素を武器にも活動にも使っているゼータは真っ先に狙われますわね。ああ。たしかに今までもそうでしたわね」
あんな数の雑魚を相手にしてられないと、ウェイブライダーに変形してさっさと佐渡島をあとにした。
◇ ◇ ◇
景色がオレンジに染まる夕刻ごろ。
港湾の一画で博士の一団と合流した。
オレはゼータからとりだした袋一杯のG元素の結晶を見せてむかえた。
「香月博士。お約束のG元素を調達してまいりましたわ。ご検分ください。重光線級60体より抽出したものですが、思ったより量がなくて申し訳ありません」
「重光線級60をたった一機で………………いえ十分よ。これだけあれば研究は進められるわ。それより、アンタに挨拶したいって海軍のお偉いさんがきているわ。会ってちょうだい」
そう博士がいうと、海軍の制服をキチッと着た姿勢の正しいおじいさんがオレの前に来た。
「帝国海軍の小沢だ。たった一機で光線級吶喊をなす貴官の噂は聞いていたが、本日の働きは噂以上のものであった。貴官のその力。祖国日の本と人類のために使いBETA殲滅を一日も早く実現させることを深く望む」
誰だ? このいかにも古強者なおじいさんは。階級章は…………准将!?
なんでたかが国連軍のお使い任務に帝国海軍のお偉いさんが出てくるんだ?
『何故』と問うのは愚かか。仕方ない。新任らしく姿勢正して挨拶しよう。
「はっ。提督閣下のお言葉、まことにありがたくあります。国連軍香月博士の下で粉骨砕身はたらき、
「うむ。今日はいいものを見せてもらった。どうやら生きているうちにBETAのいない祖国を見れそうだ」
なにやらおじいさんは満足して帰っていった。
オレはといえば何があの閣下のお気に召したのかさっぱりだ。
「博士。いったい何がどうなっっているのです?」
「いや、それあたしが聞きたいんだけど。たしかに重光線級のレーザーが直撃したように見えたけど、何で生きてんの?」
「ああその説明なら映像をとってありますので、それを見せながら解説いたしますわ。多少おどろかれるかもしれませんが」
「もうおどろき果てたわよ。ピアティフ。G元素を基地に運んでおいてちょうだい」
博士の秘書だというピアティフという人が人を使ってG元素の結晶を梱包する作業をしている中、海岸際に白銀がいるのが見えた。
なんとなくあいつと話してみたくなって寄ってみた。
「山城。お前、噂以上にすごい奴だったんだな。さすがにアレは真似できん」
「ええ。νガンダムは変形できませんもの。性能はそちらが上でも、高度をとった戦法ができるのはゼータの強みですわね」
「いや、そういうことじゃなくてだな、あまりに常識はずれで夕呼先生も海軍の連中も…………まぁいいや。見事な光線級吶喊だった。この先いろいろあるが、山城のその力。頼りにさせてもらうぞ」
「まるで未来に何がおこるか知っているような口ぶりですわね。何か知ってますの?」
「いまは聞くな。俺はただ、もう悲しい景色は見たくないだけだ」
そのまま白銀は海に目をそらして黙りこんだ。
もうそのことを話す気はないってことか。
しかし夕日映える海を見る、ちょいイケメンの憂い顔に、少しだけ「キュン」としてしまう。
自分が女になったことを、いま強く実感してしまった。
これ以上、白銀を見ていると本当に乙女になってしまいそうなので、先に基地に帰ることにした。
帰り際、奴のかすかな呟きが聞こえた。
「あいつらが死ぬ所も世界が滅ぶ所も、もう見たくない。今度こそ………今度こそ、それは叶いそうだ。なぁ純夏」