香月夕呼Side
白銀、山城が来てから一ヶ月。
G元素が手に入った以上、いつまでもここにいるわけにはいかない。
そろそろ仙台の研究所へ戻らねばならないが、その前に白銀からもたらされた情報に基づいてあちこち手をうっておかねばならない。
「博士。情報部からディスクが届きました。閲覧後は破棄処分をお願いします」
「わかったわ。ピアティフ、しばらく出てなさい」
「了解しました。扉の前に控えておりますので、何かあればお呼びください」
ピアティフが出た後、ディスクの厳重な封印を多少苦労しながら解いていく。
「情報部も慎重ね。まぁこれを分析すれば情報部の手口がわかってしまうから、厳重にもしたくなるか」
ウィルスチェックの後にPCでデータを閲覧。
ディスクには第5推進派の最新の動きがあった。アメリカ国内でかなり活発にロビー活動をしている。そしてそのいくつかは『G弾脅威論派』の切り崩しに効果をあげている。
「まだ無茶ができる段階じゃないけど、いずれそうなるわね。白銀の言う通り来年の12月24日にはこっちは追い落とされる、か。でも、その頃にはまだ00ユニットはモノになっていないのよねぇ」
白銀から示された数式で00ユニット制作の最大の問題点は解決した。
山城からは必要なG元素をもらった。
00ユニット制作の道筋はもはや完全についており、あとは時間の問題だ。今から仙台の研究所に戻って00ユニットの制作にかかれば、横浜基地竣工前に完成できるだろう。
「ただ、その時間が本当に問題なのよねぇ。本体が完成しても、稼働させられるのは横浜基地ができて反応炉を使えるようになった後だし」
調整なんかの時間を考えると、だいたい成果を示せるのは一年と数ヶ月後か?
それだけの時間があれば、第五計画推進派はじゅうぶん自分らの計画を主導にするための工作はできてしまうだろう。
「でも白銀と山城と二体のガンダム。これだけの
第五計画推進派の奴らはアメリカの主流になってしまったが、アメリカ国内にも奴らに対抗する勢力がないわけじゃない。
それが【プロミネンス計画】だ。世界中より戦術機技術を集め、高性能な戦術機の開発によってハイヴ攻略を目指そうという計画。
この計画には世界中に支持者も多く、これが上向けば間違いなく第五は強引なことは出来なくなる。つまり時間が稼げる。
あたしがこれと手を組もうとしているのも、それを狙ってのことだ。
ただ、やはりそれでハイヴを攻略できると期待できるほどのものじゃないのよね。HIーMAERF計画が頓挫してからは、アメリカ国民にも完全にあきらめられている雰囲気があるし。
「でも、やっぱり第五の動きを遅らせる可能性があるのはこれだけなのよねぇ。なにか嘘でも、アメリカ世論にプロミネンス計画で希望を見せる方法はないのかしらね」
タネはある。白銀があたしに作らせている新型OSだ。あれは向こうの世界で、衛士の生還率を飛躍的に高めたシロモノだという。まだ開発途中だが、まりもや伊隅に感想をきいてもかなりの好感触。完成すれば相当なモノになるだろう。
「完成は間近だし、これを提供するのが手だろうけど。でも、これの優秀性を示す場がないのがねぇ。クーデターを待つわけにもいかないし」
あたしはこれを保留にし、次の情報欄へと移る。
次には日本国内の若手将校によるクーデターの可能性が示されていた。
「やっぱりどこからか不穏分子あてに相当な資金が流れているわね。これは鎧依の奴も掴んではいるだろうけど。あたしも備えとかないと」
もう一つ考えなきゃならないのはこのクーデター計画のこと。これには第5推進派らしき影があり、白銀はこれを潰すよう言ってきたけど、事はそう簡単じゃないのよね。
第5の奴らがすでにG弾を完成させながら強引に主導を奪ってこないのは、諸外国の反発があるため。特にG弾を墜とされ、国土を重力異常にされて国家の再生を困難にされる国々は猛烈に反発をしているわ。前大戦の盟友のヨーロッパ諸国でさえ、反対の立場をとっているし。
だからこそ、奴らはアジアで大きな発言権をもっている日本帝国を傀儡にしたい。日本が大陸への大規模G弾使用に賛成してくれるなら、とりあえずの体裁は保てるからね。
そのためのクーデター計画。これを若手将校に起こさせ、日本の手におえない事態にまで拡大させ、それをアメリカが鎮圧することで日本の主権を奪う。無論、日本主導の第4計画もだ。
たしかに胸糞悪い計画だけど、これってこちら側も利用できたりするのよね。この悪巧みを進めている間は、強引に第4から主導を奪ってきたりしないもの。つまり時間稼ぎに使えるのよ。
さらに鎧依もこのクーデター計画を察知しながら、それを阻止するようなことはしていない。
アイツはあえてこのクーデターを起こさせることで、前大戦敗北時に日本国内に大量に仕込まれたアメリカのスパイやらスリーパーやらを、一気にあぶり出す計画をたてている。
無論、それで日本がアメリカにのっとられてしまっては本末転倒だから、クーデターの首謀者は自分の息のかかった者をすえて。適当な所で収束させて。
それでも軍にも政治家にも相当の血が流れるでしょうけど、鎧依はやるつもりだし、あたしも止めるつもりはない。
「でも白銀は止めたがっているのよね。しかもアイツ【沙霧尚哉】って奴が首謀者になることも知っちゃってるし。本当に止めることが可能なのが問題だわ」
かといって白銀を止めるために、こんな深い情報をあたえるのも悪手。
どうしたもんかしらね……………
ピコーン!
「――――いきなり閃いたわ。二つの案件が一つのディスクに入っていたお陰で、両方を一気に解決する方法が出たわ」
あたしはディスクを破棄用の粉砕機に捨て、扉の前にいるピアティフに回線をつないだ。
「白銀と山城を呼んできてちょうだい。二人に任務をあたえるわ」
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山城上総Side
オレと白銀がこの国連軍品川仮設基地に来てから一月。
毎日Zガンダムとνガンダムの機動試験をやったり、ビームライフルの試射をしたり。要は二体のガンダムの構造を調べるテストパイロットをやっている。
だが今日いきなり大きな転換期がきた。
オレと白銀は香月博士に呼び出され、唐突に海外派遣を命じられたのだ。
まさか博士の私的な兵みたいな立場のオレ達にそんなものがあるとは驚きだった。
「アラスカのユーコン基地に二体のガンダムと共に出向…………ですか。俺達が?」
白銀も驚いている。白銀は博士にかなり重用されているように見えたが、この件は初耳なのか。
「そ。アンタ達の【戦術機少尉】の階級はあたしが臨時で出しているもの。いわば正式なものじゃないの。だからこの任務を成功させれば、その功績で正式なものにできるわ」
「ですが、これから日本でいろいろあるのに、この時期に?」
何が? オレは聞いてないが、なにかイベントでもあるのか?
ともかくオレも返事は返した。
「アメリカへ半年間の出向ですの……………いえ、任務ですからお受けしますわ」
が、オレもソ連の租借地になっているとはいえ、仇敵のアメリカへ行くのは気が進まない。それに日本を守るためにここに入ったのに。
「二人ともやる気が出ないみたいね。本来なら理由の説明なんてないんだけど、士気が落ちたまま向こうへ行かれても困るから説明しとくわ。このままじゃ、第五のヤツらに先をこされちゃうのよ」
「それって、アレのできる前にオルタネイティブ5が発動するってことですか?」
「そ。こっちが実績を示す前に向こうがゴールを決めちゃうの。だからそれをさせないために、アンタ達に向こうへ行ってもらうわ」
「もしかして任務とは妨害工作ですの? 喜んでやらせていただきますわ!」
「素人にやらせるワケないでしょう。それにアメリカにだけはそれは仕掛けちゃダメなのよ。アレは世界唯一最強の覇権国家。万一にもこちらの仕業だとバレたら報復は苛烈。経済制裁でもされたら、完全に日本は詰んでしまうわ」
ああ、あの国お家芸の経済制裁ね。
たしかにこんな果てしなくBETAと戦わなきゃならない世界で、それをやられたら死活問題だ。
「そんな最強国アメリカにもつけいる方法がないわけじゃないわ。あの国、アメリカ以外の勢力には容赦ないけど、アメリカ国内の勢力ならわりと紳士的な対応なの。だからアメリカ内のヤツらの対抗勢力に力をつけてもらって、張り合ってもらうわ。それで時間を稼ぐというわけ」
「そういうことなら仕方ありません。それで具体的に俺達はそこで何をするんです?」
「向こうにガンダムを持って行ってデモンストレーションをしてもらうわ。要するにいまやっていることをユーコン基地でやって欲しいのよ。戦術機開発に大きな発展があることを見せ、危険なG弾を使用せずともハイヴを攻略できる可能性を示してもらえば、有力者が向こうに流れるのを止めることができるわ。ついでに今作っている新型OSの宣伝にもなるわ」
「あれですか………。たしかにガンダムのOSデータも参照したために、俺が知るXM3より遙かに高性能なものになりましたが」
白銀は博士に提案して戦術機の新型OSの開発をさせているそうだ。
オルタネイティブ4の最高責任者の香月博士に初対面から電光石火で信頼をとりつけたり、その博士と共同でそんなプロジェクトを立ち上げたり。
本当にいろいろすごい奴だ。
一年先にこの世界にきたオレより、よっぽどこの世界になじんでいるような気がする。
「ええ。あれだけのものが出来るんだし、高く売らないとね。そのためにも向こうの連中を圧倒してきなさい」
「了解しました。せいぜい良いセールスマンになってきます」
その後、軽く現地での予定を聞いた。
現在そのユーコン基地では、帝国陸軍技術厰が米国企業と共同で主力戦術機【不知火】の改修計画【XFJ計画】というプロジェクトをしている。そこの日本側開発責任者の中尉にオレ達の世話を頼むのだそうだ。
話が一段落したとき、香月博士はふいに思い出したように言った。
「そう言えば、聞いてみたかったわ。あなた達の機体についている【ガンダム】って名称。あれってどういう意味なの? どういった意図がこめられているの?」
白銀は何か言おうとしたが、オレは軽く手で制した。
ガンダムを問われて、他人に答えをまかせるわけにはいかない。
オレは少し考えて、こう答えた。
「人類が描いた戦争の夢と悪夢。その物語の名称でしょうか。【BETA大戦】という大きな悲劇の異星起源種との戦争。その終わりをもたらす夢になれたらいいですわね」