ゼータと上総   作:空也真朋

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29話 トータルイクリプスに出発

 それからしばらくは慌ただしくアラスカ行きの準備の日々が続いた。

 そして一月後の今日。出発の日を迎えることができた。

 この海外行きは急遽決められたものだったのだが、向こうの技術者が早くガンダムを見たいとのことで、これだけ短い期間で行けることになったのだ。

 

 

 そして現在 帝国軍木更津基地航空路

 

 出発準備をしたオレと白銀は待機所にて、軍用航空輸送機に物々しくガンダムが搭載されるのをなんとなく見ていた。

 さすが最高機密扱いのガンダム。機体全体を防護シートにくるまれ、厳重な警戒のなか輸送機に運ばれている。

 

 「この時期にアラスカか。来年に備えてこっちで準備をしておきたかったんだがな」

 

 「何の準備です? いつも来年に何かあるようなことを言っていますが、何を知っているんですの? いい加減わたくしにも教えてくださいな」

 

 「ま、悩んでもしょうがないな。夕呼先生なら上手くやってくれるだろう。俺達は戦術機開発の総本山に宇宙世紀のモビルスーツを見せつけてやろうぜ!」

 

 「……………露骨に話をそらしましたわね。やっぱりそのことは教えてくださらないのですね。でもモビルスーツの力を見せつけるというのは良いですわね。向こうには世界最高の戦術機技術者がいるらしいですが、ガンダムを見てどんな反応をするのか実に楽しみですわ」

 

 オレの質問をそらすのにこの話題をふったというのは分かっているが、つい乗ってしまう。

 世界最高が驚く瞬間をオレは見る!

 

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

香月夕呼Side 

 

 木更津基地航空路に到着し、あたしと伊隅、速瀬は車両から降りた。

 

 「やっと二人をアラスカへ送る方は今日片付くわね。研究も進めなきゃならないのに、向こうとの折衝で寝るヒマもなかったわ」

 

 あれから一月。苦労の甲斐あってようやく二人をユーコン基地へ送る所までこぎつけた。向こうの技術者が噂のガンダムを見られることに乗り気で、短期間で受け入れ準備してくれたのだ。

 見送りにあたって、二人が帰国したら編入させる予定のA-01連隊の指揮官伊隅と副指揮官の速瀬を連れてきた。二人が行く前に顔合わせをしておこうと思ってのことだ。

 

 「ご苦労さまです。それにしてもあの伝説ともいえるガンダムという戦術機を乗りこなす二人の衛士ですか。それが帰国したら私の部下になるというのは重責ですね」

 

 と伊隅は言いながらも、少しも重責で不安になっているようには見えない。

 

 「そんなに重く考える必要はないわよ。二人とも衛士として優秀だし、良い部下になると思うわ。もっとも性格は普通でも、戦闘力は普通じゃないけどね」

 

 「そんなのがいるのに、私が副指揮官で本当にいいんですか? 男の方は香月博士に意見できるほど優秀だっていうし、女の方はものすごい量のBETAを倒して光線級吶喊すらたった一機で行ったっていうし」

 

 速瀬の方は不安そうだ。もっとも、実戦一回で伊隅に次ぐ立場になったのだから無理もない。

 

 「能力も性格も申し分ないんだけどね。軍に入れるには少々わからないことが多いのが難なのよねぇ。だからしばらくは指揮官職にはつけないで様子見しなきゃなんないの」

 

 「機体の出所のことですね。あんなすごい戦術機、どこで作られたのかまるでわからないんですよね?」

 

 「それが最大の難所よね。最高機密を扱う場所に、これはネックだわ」

 

 「聞き取りで何かわからなかったのですか? 核融合炉を戦術機に搭載する技術など、可能にする機関は限られると思うのですが」

 

 「『神様からもらった』って答えだったわ。限られるどころかどこにも無いし、本当に神様からのプレゼントなのかしら?」

 

 「えっ………神様? どっかの宗教団体が作ったとか?」

 

 「戦術機は神様がくれるものではありません。人が作り出すものです。高度な設計技術と大がかりな設備を用いて、国家予算規模の大金を投じて作られるものです」

 

 「わかっているわよ。要は鎧依と同類ってことでしょ。のらくら核心をさけて煙に巻く所が」

 

 あの戦闘力はあっても人間的にはチョロそうな山城にも聞き出せなかった。

 あの子、以外と厄介な女なのかもしれない。

 綺麗で可愛くて無邪気で。そして荒唐無稽をまるで本当のように騙る。

 東南アジアじゃ女神のように思われているって話を聞いたけど、そういうことなのかしらね。

 

 「クセの多い人材ということですか。これは部下にしたら苦労しそうですね。帝国軍などの説得は大丈夫なのですか?」

 

 「まぁ曇りはあっても、力技でもなんとかいけると思うわ。国連軍も帝国も本音では一人一機で光線級吶喊をやったり、数万のBETAを殲滅できる戦術機の力を欲しがっているだろうし。ただ、それなりの体裁はとりつくろわらなきゃね」

 

 「それも兼ねてのアラスカ出向ですか。二人を一時日本から離れさせ、その間に受け入れ体勢をととのえると」

 

 「それに山城の身体検査もね。機体以上に不思議だから、向こうの衛士医学の専門家に徹底的にやらせるわよ」

 

 山城の身体能力にも疑問はある。音速をこえる機体に乗ってどうやって高Gに耐えられるのか? これはG弾の爆心地にいながら高重力に耐えられたことにもつながる。

 そしてその高速にありながらの正確な操縦技術。映像を分析した限りだとコンマ数秒の正確な操作を、ゼータにいる間ずっとやり続けているのだ。

 

 「ユーコン基地の衛士ドクターですか。幾人もの最高レベルのテストパイロットを扱うドクターですから、さぞ優秀でしょう」

 

 「ええ。山城は本当の意味で徹底的にやるわ。彼女の人間性も含めてね。そっちは昔の彼女をよく知る人間に任せることにしたわ」

 

 「アラスカで? そのような人間がいるのですか?」

 

 「帝国第壱技術厰の巌谷中佐の姪に篁唯依中尉ってのがいるの。その子が山城の衛士訓練兵時代の同期だったらしいわ。おあつらえ向きに今、国連軍に出向してユーコン基地でXFJ計画の責任者をやっているわ。開発エリートの家系なのね。帝国にも恩を売れるし、名案でしょ?」

 

 「はい。さすがですね香月博士」

 

 帝国技術厰もガンダムの情報は欲しいだろうし、その衛士である彼女とあれば徹底的に調べてくれるだろう。

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

山城上総Side

 

 

 搭乗時間になる少し前になった頃だ。

 香月博士が二人の国連軍の制服を着た女性を伴ってオレ達の見送りに来るのが見えた。

 一人は短めの髪で凜々しい顔立ち。もう一人はポニーテイルで気の強そうな女性。

 

 「あの二人は…………」

 

 「あら、白銀の知り合い? 香月博士が連れている所から、わたくし達と似たような立場のようですけれど」

 

 「……………いや、初対面だ。……今はな」

 

 これから知り合いになるという意味か? ときどき妙な言い回しをするな白銀は。

 三人がオレ達の前にくると、オレ達は敬礼で挨拶をする。

 

 「香月博士。お見送りありがとうございます。ただいまよりアラスカ、ユーコン基地へ行ってまいります」

 

 「敬礼はいいっていったでしょ。ここには、あたしらしかいないし」

 

 香月博士は軍人の敬礼が嫌いらしく、いつもそう言うが、そうもいかないんだよ。軍人だし。後ろの二人もやってるし。

 むしろそっちが敬礼に慣れてほしい。

 

 「出発前にとりあえず二人を紹介しておくわ。A-01連隊………いえ、もう部隊といった方がいいわね。明星作戦で『連隊』なんていえないほど数が減っちゃったし。指揮官の伊隅みちる大尉と副指揮官の速瀬水月少尉よ。アラスカから帰ってきたら、あんた達の直属の上官になるからよろしくやりなさい」

 

 「白銀武少尉です。伊隅大尉。速瀬少尉。帰国したのちお世話になります。どうかご指導よろしくお願いいたします」

 

 よく初対面の軍人なんかにこうも臆せず話しかけられるな。この大尉、『デキる女』って感じですこし気後れするのに。

 

 「山城上総少尉です。海外任務ののち、わたくしもお世話になります。どうかよろしくお願いいたしますわ」

 

 「A-01部隊指揮官の伊隅みちる大尉だ。香月博士から話は聞いている。白銀。あの新型OSは貴様が博士に提案したものだそうだな。そして山城は非公式ながら世界最高のBETA撃墜数を為したという。主力の壊滅したA-01にとって、貴様らのような優秀な衛士は歓迎だ。帰国したら便利に使ってやるから覚悟しておけ」

 

 「副指揮官の速瀬水月少尉よ。あたしもこき使ってやるから覚悟しなさい」

 

 「光栄です伊隅大尉、速瀬少尉。帰国を楽しみに任務に励みます」

 

 やっぱりこの大尉、『デキる女』そのものだ。

 それに挨拶を返す白銀も貫禄負けしてない。やっぱり凄い奴だ。

 

 それに比べ、こっちの副指揮官の彼女の方はまだ場慣れしてない感じだな。

 年も近いし、なんか親近感がわく……いや、見覚えがあるぞ?

 そうか。もしや彼女は………

 

 「速瀬少尉。質問がありますわ。よろしいでしょうか?」

 

 「あら、山城少尉。大尉をさしおいてあたし? いいわよ、何でも聞いてごらんなさい」

 

 「もしかして少尉は以前、ものすごく髪を伸ばされていましたでしょうか? ポニーテイルなのに床につきそうなくらい」

 

 「なんだそりゃ? それは俺も知らないぞ」

 

 「…………そっちの男の方。『俺も』ってなに? 事前にあたしの情報でももらっているの?」

 

 「あっ! いえその……ゴニョゴニョ」

 

 速瀬少尉は白銀をジト目で睨んだあと、オレに不振そうな目を向けてきいてきた。

 

 「あ~山城少尉? たしかにあたし、昔はやたらと髪をのばしていたし昔もポニーテイルだったわ。でもなんで知っているの? あんたもあたしの情報をもらったりしたの?」

 

 「いえ、白銀少尉と違ってわたくしは写真を見ただけです。どうやらコレはあなたに渡しておいた方がよろしいですわね」

 

 「いや、俺も情報なんてもらったわけじゃ………ゴニョゴニョゴニョ」

 

 オレは懐からパスケースに入っている写真を取りだした。鳴海に返しそびれた写真。

 鳴海孝之と平慎二、そして二人の少女が仲良く写っているあの写真だ。

 髪の長い活発そうな女の子が、速瀬少尉の若くなったような顔立ちなので思い出した。

 

 「鳴海さんの忘れ物です。短いつき合いでしたが、彼のことが忘れられず、あの日からなんとなく持ったままなんですの」

 

 あいつらとラウンジで話したあの夜は楽しかった。

 そしてあいつらが命を捨ててG弾のことを知らせに来てくれたから、オレはここにいる。

 とても忘れられない………いや、忘れちゃいけない!

 

 

 「あ、アイツ! アタシと遙のいない所でアンタとよろしくやっていたですってぇー!!! ”あの日”って何の日よ!?」

 

 あれ? 間違ったかな? なんかオレの意図してたことと違って伝わってしまったような?

 

 「いえ、明星作戦のときラウンジでわたくしと話しただけです。『作戦が終わったらまた会おう』という約束をいたしましたが、結局それは果たされませんでしたわ」

 

 「なっ! また会う約束なんてしてたの!? くぅ~~~っ! どういうつもりだったのよ孝之! 浮気!? それとも、あたしと遙を捨てるつもりだったの!?」

 

 あ。『君達二人といっしょに』って言い忘れてた。

 どうしよう。なんか修羅場になってしまったような?

 

 その時、伊隅大尉がパンパンと手を叩いて言った。

 

 「二人ともそこまでだ。その件は二人が帰国したら、私から山城少尉に聞いておく。速瀬、いまは置いておけ。なるほど。山城の方はクセのある人間だとは聞いていたが”まさに”といったところだな」

 

 「香月博士!? わたくしのどこにクセがありますの!? クセ者の化身のような博士にそう思われる覚えなどありませんが!?」

 

 「自覚がないのがそれよ」

 

 香月博士はそう言って、面白そうな顔でオレ達を眺めていた。

 

 

 

 

 ともかくオレと白銀は輸送機に搭乗し、三人に見送られて出発した。

 

 高度が上がり、離れていく航空路を見ながら思う。

 大東亜連合の衛士として日本にきたときは、まさかこういう形で日本を出るとは思わなかったな。

 

 白銀も何やら思うことがあるのか、窓の外を名残惜しそうに見ている。

 ふとオレの方に向き、カゲリのある顔で言った。

 

 「上総。一つだけ教えておくことにした。俺達の任務は帰ってきてからが本番。この先、相当キツイ戦いが待っている。いちおう覚悟しておけ」

 

 なんなんだ。そのミステリアスな言い方。

 それに、いきなり名前呼びとはどういうことだ?

 

 『この先、どこへでもついて行きますわ』

 

 ――――とか言いそうになっちまったろうが!

 

 

 

 

 

 

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