「う…………?」
オレは深いまどろみから目を覚ました。
確か、神のいる神界から、宇宙怪獣BETAのいる世界へと送られたはずだ。
そしてもう一人。オレと同じようにこの世界に来ているはずの奴を思い出した。
「晴郎。あなたもいますの?」
何気なく言ったセリフだが、オレは自分の声に違和感を感じた。
――――何だ、この高貴なお嬢様みたいな声は。それに、言葉遣いまでもお嬢様っぽく変えられている?
それはまるで鈴を転がすような綺麗な少女の声。自分の声なのに思わず聞き惚れてしまった。
それに自分の髪がやけに長く艶やかだ。そして胸のふくらみ。もう決定的だ。
「女……?ワタクシ女になっている!?」
一人称まで変わっている! もしかしてあの神、頼んでもいないのにTS転生なんてサービスしてくれちゃったの!?
「和也。目を覚ましたね。やった! 成功だ!」
ピョコピョコ。
妙な機械音でオレに話しかける奴がいる。そこには球形のロボットが飛びはねながらそこにいた。
ガンダムのマスコットでおなじみの球形ロボ、ハロだ!
そして声は機械音でも、親しげに話しかけるしゃそのべり方には覚えがある。
「………晴郎? あなた、ハロに転生しちゃいましたの?」
「ううん、これはボクの端末。本体は後ろだよ」
後ろには巨大な人型機動兵器。赤青白の三色の彩りで有名なタイプのガンダムがあった。巨大な鋭角の赤と青の盾。特徴的な脚部のスラスター。背中の大口径の砲身ハイ・メガ・ランチャー。 背中の羽のようなバーニア。シャープなデザインで、ガンダム好きなら一発で見覚えのあるそれ。
「Zガンダム………ってまさか!?」
「そうなんだよぉう! 望んだのは愛機としてのゼータだったのに、Zガンダムに転生させられちゃったんだよぉう!」
ムチャクチャだ、あの邪神め。オレも機体を望んだらロボにされてしまったのか?
いや、今現在頼んでもいないTS転生をさせられているが。
「うぇぇぇん。こんなことならイケメンニュータイプにしてもらうんだったぁぁぁぁぁ!」
ピョコピョコ飛び跳ねながらハロになった晴郎は機械音で泣く。
実にシュールな光景だ。
「安心なさい。少なくとも元のあなたより数十倍愛らしいですわ。女性のペット好きな心をガッチリ握って離さない見事な丸いフォルム。こんなにも素敵に転生したからには、名前も『晴郎』から『ハロ』に変えるべきですわ」
「えーと。言っておくけど、本体は後ろのZガンダムの方だからね? 和也と話してるハロは、あくまで会話するための端末だからね?」
「ああ、こっちが本体。ならば元のあなたとは比べものにならない、見事なイケメンになりましたわね」
そのシャープなフォルムと存在感。やはりZガンダムはロボ世界屈指のイケメンロボだと思う。
「ううっ悲しいけどしょうがない。せめて美少女になった和也を乗せられるのがなぐさめと思おう」
「そうですわ! 何でワタクシ………オレは女になっているのかしら……るんだ!? こんな余計な奇跡は頼んでいませんわ………ないぞ!」
どうしてもセリフがお嬢様言葉になってしまう。中身が男のオレとしては違和感ありまくりだ。
「ああ、それなんだけどね。実はそれをやったのはボクなんだ」
「なんですって?!」
ハロの話はこうだ。
この世界に転移したとき、オレは眠っていたがハロは目覚めていた。そしてZガンダムになった自分を色々いじっていたのだが、そこでミスしてコクピット内にいたオレを原子分解してしまったのだそうだ。何てことしやがる!
あわててゼータのメインコンピュータにあるデータから蘇生の方法を検索した結果、その方法を見つけた。神の加護を受けたオレの魂は、魂の完全に抜けた損傷の少ない肉体(つまり死体)に移し替えることができるというものだ。
ただし、これには厳しい制限がある。
まずオレが死亡して30時間を経過すると、オレの魂は神の元へ送り返されてしまう。だからその範囲内。
さらに移し替える肉体も、死後硬直があまりにすすみすぎたモノはダメ。だいたい6時間くらいがリミット。
さらにさらに肉体の生命維持に必要な器官が破損しすぎてもダメ。ゼータの医療システムで手に負えないものは不可なのだそうだ。
そう。つまり生き返るなどほぼ不可能。ハロ(晴郎)のせいで、オレは来た早々フェードアウトの運命だった。だが、ハロはあちこちスキャンしてサーチした結果、奇跡的に条件のあう遺体を見つけた。
それが今のオレになっているお嬢様っぽいこの少女。ずいぶん若いのに、衛士という兵士をやっていたらしい。
「いやぁ、彼女の遺体は咽を撃ち抜かれてショック死しただけ。BETAに喰われる寸前、回収するのにも間に合ってきれいなまま。本当にこんな絶好の
運がいいなら寝ている間に自分の肉体が分解されて女になっている、なんてことにはならないと思うんだが。
「もういいですわ。とにかくこういう転生だったと思ってあきらめますわ。この少女もそれなりの軍事訓練を受けていて、パイロットとしては何の問題もないようですし。ハロ、これからのことを考えましょう」
恨む対象が愛機になるZガンダムでは、復讐にぶっ壊すワケにもいかない。晴郎もロボになってしまった運命を背負ってしまったし、オレの蘇生に苦労してくれたようだし。
しかし「~ですわ」とかいうお嬢様か。ヒロインとしてはそういうキャラも嫌いじゃないが、自分がなるのは最悪だ。さっきから自分の名前のはずの”和也”がどうにもむず痒いし。
「それじゃ和也。これからどうする?」
「まずは『和也』という呼び方をやめてほしいですわね」
「はい?」
「この少女の名前は”
「”
促されるまま、オレはゼータに乗った。
強化装備といわれる身に纏った装備を外し、そこにあったパイロットスーツに着替える。
メインモニターをうつし、周囲の状況を確認。帝都の惨状は想像以上だった。
「………まだ………戦っていますの…………」
京都のあちこちは朽ちて崩壊し、浸透するBETAに破壊されている。
戦線は崩壊し、絶望的な終焉の光景が広がる。
だがそのなかで、まだいくつもの部隊が踏みとどまって抵抗している姿を見た。
ふいに『この地を守りたい』という抑えがたい衝動がこみ上げてきた。
この娘の記憶から、この地を守る重要性のようなもの。この先にBETAを通してはいけないという使命のようなものが浮かびあがったのだ。
「ハロ。機体にはテストが必要ですね? ちょうどここには的もたくさんあるし、斯衛も帝国軍も指揮系統が混乱していますわ。ここで少し暴れて
「ええ!? やるの? テストならもっと安全が確保できる場所でやったら?」
「ゴチャゴチャ言わない! あなたはわたくしに借りがあるのでしょう? 今すぐ戦いで返してもらいますわ! 操縦を渡しなさい。アイハヴコントロール!」
「ユーハヴコントロール………ってそれ、ユーハヴの方が先! はうぅぅ和也がヴァルキュリアになったぁぁぁぁ!」
「いきますわよ! ハロ、そしてゼータ。ガラクタでないことを、虫ケラのような地球外起源種に証明してみせなさい!」
Zガンダムを機動させた瞬間だ。
オレはその機体に秘められた宇宙世紀の昂ぶりのようなものを感じた。
次回より対BETA戦開始!
短期連載だから戦闘は早くやらないとね。