ゼータと上総   作:空也真朋

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30話 第2章エピローグ

 現在、オレ達は航空戦術機輸送機でアラスカのユーコン基地へと向かっている。

 数時間の空路でのせまい客室の中。白銀、ハロとつまらん会話でもするしかやることがない。

 

 「ユーコン基地か。今回のはアラスカに行かされたり、まったくの初対面の上総と組まされたり、知らないことばかりだな」

 

 「『海外は初めて』という意味ですの? それよりどうして呼び方が『上総』になっていますの? 同僚にはなりましたが、それほど深い関係でもないでしょう」

 

 「なんか『山城』って呼ぶたび、悲しそうな顔するからな。気になるんでこっちの呼び方に変えることにした」

 

 「顔に出ていましたか。実はわたくしが日本を出た経緯で、山城の実家がかなり責められたようなのです。そのわたくしがいまだ『山城』の姓を名乗っていることに、うしろめたさを感じてはいます」

 

 「なら呼び方は『上総』でいいな。それで、そのハロのことも聞いておきたかったんだが、それも転生者だって?」

 

 白銀がオレの足下にいるハロにきいてきた。そういや、白銀といる時は人目がある場所が多いせいで、二人が話したことはなかったな。

 

 「正確にはゼータがボクの本体だよ。まさか神様にゼータを願ったら、こうなるとは思わなかったよ」

 

 「でも機体の整備とかを自分でやってくれるので助かりますわ。核反応炉の整備なんて、知識とかもらっても出来そうもありませんもの」

 

 「俺のνガンダムのもやってくれて本当にすまない。ハロ、ありがとう。感謝している」

 

 そう。表向き二体のガンダムの整備はオレと白銀がやっていることになっているが、実はハロがやっているのだ。

 

 「どういたしまして。まぁ今はもう、ゼータの人生をそれなりに楽しんでいるよ。ゼータじゃなかったら、明星作戦のとき上総と死んでいたし」

 

 「そういや、明星作戦のときG弾の爆心地にいながら助かったんだって? どうやって助かったんだ。その奇跡の生還トリックを教えてくれないか」

 

 「それは香月博士や鎧依さんにも聞かれましたわね。ハロが、アトリエにあるG元素でサイコフレームを作って、サイコフィールドを発生させて身を守りましたの」

 

 「サイコフレームを作るとかできるのか。すごいな、お前」

 

 「うん。メカになったらすごいよ。必要な拡張機能とか自分でつけれちゃうし」

 

 戦闘中の機体制御とかもやってくれるから、ニュータイプのオレと併せてとんでもない機動とかもできちゃうんだよな。

 ハッ! これってスペリオルガンダムの人工知能システムALICEも超えているんじゃないか?

 

 「上総。それで聞かれた二人には何と答えた? サイコミュとか説明できたのか?」

 

 「説明しきれないので『ゼータの特別なシステムで日の本の守護に果てた英霊のみなさまと交信して守ってくださいました』と説明しましたわ。これも本当のことですし」

 

 「…………………その説明で納得したの? 夕呼先生も課長も」

 

 「不思議ちゃんを見ているような目で見られましたわね。全て本当ですのに」

 

 「それは………………なぁ。そういや二人に、ガンダムを作ったり整備・補給の手配をしているバックアップ機関のこととかは聞かれたか? 俺は『そのことはしばらく秘密にする契約です』ってことで、ごまかしたんだが」

 

 「わたくしはそんな嘘をつけるほど器用じゃありませんもの。『神様から授けていただきました。バックアップする機関はありません。勝手に自分でエネルギーをたべて勝手に自分で修復します』と正直に答えましたわ」

 

 「……………………………………」

 

 なんだその微妙な顔は。そういや、説明した二人もそんな顔をしていたな。

 

 「どうしました? わたくしの嘘偽り、曇りのない目を見れば、博士も鎧依さんも真実だとわかっていただけたと思いますが」

 

 「…………いや、少し目眩が………な。とにかく夕呼先生から、帰ってきたらガンダムの概略を説明するよう言われているんだがな。俺がモビルスーツの解説なんて『会社とかに着ていくスーツじゃなくてロボだよ』ぐらいしか言えん」

 

 「昭和のガンプラ大好きキッズがお母さんに説明してるんじゃないですことよ。もうアニメを見る側じゃなく乗る立場になったのですから、少しはお勉強なさったら?」

 

 「ああ。整備とか上総やハロにまかせっぱなしなのは悪いと思っている。とにかく上総は相当なガノタらしいし、まかせられるか? 俺がモビルスーツの勉強とかしても説明できるほどにはなれんと思うし」

 

 う~ん。モビルスーツの説明をするには、宇宙世紀の、人類同士の宇宙戦争のことから説明しないといけないんだよな。

 

 モビルスーツの制作は、本命を作る前に実験機を作るところからはじまる。だがこの実験機、核反応炉のパワーがメチャクチャすごいため、普通の人間が制御できないようなピーキーなものになってしまうのである。

 その実験機を演習場でないモノホンの戦場に出してその可動データを採取したら、はじめて本命の量産型を作るというマッドな制作方法で作られるのがモビルスーツなのだ。

 

 なのでそのテストパイロットは不思議能力で機体を制御するニュータイプ。しかしアナハイム・エレクトロニクス社などは新作機体をガンガン作るので、ニュータイプの数がとても足りない。

 そこでテストパイロットまでも制作してしまった。人工ニュータイプの強化人間がそれだ。

 

 マッドだ。実にマッドだ。

 極めて非人道的でありながらそれらの戦場での戦果は著しいので、実験機はそのまま専用機となって、パイロットが壊れるまで戦場を駆け回る。それが宇宙世紀の戦争なのである!

 

 ……………ムチャクチャだな。こんなのどう説明すれば良いのだろうか?

 

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 香月夕呼Side

 

 

 二人がアラスカユーコン基地に出発して数日後。

 仙台の研究所へ帰還する見送りに鎧依が訪ねてきたので、雑談まじりに白銀と山城をアラスカへ行かせたことを話した。すると奴はめずらしく難色を示した。

 

 「それは………博士にしては少々早まったのかもしれませんなぁ」

 

 「なによ。アメリカといっても、ユーコン基地は主流のG弾使用派にアンチの戦術機派。高性能戦術機で大陸奪回を目指すプロミネンス計画の本場よ。アンタだってあそこと手を組むことに力をかしたでしょ。それとも何かヤバいネタでも拾ってきたの?」

 

 「ええ。此度の明星作戦におけるアメリカ、いえ第五計画推進派の無警告によるG弾投下。奴らにしてもあまりに強引すぎる気がして独自に調べたのですよ。するとやはり背後に連中を操る人形師がいたのです」

 

 「……………! 教えなさい。報酬は何でもあげるわ」

 

 「ほう。博士もその存在くらいは感じていましたか。『一つ貸し』ということで話しましょう。人形師の名は【キリスト教恭順派】」

 

 あたしは「プッ」と吹き出した。

 

 「なぁに? 何の冗談よ。あれって『BETAは神の使いで、人類はBETAに滅ぼされるのが神のご意志』なんて頭のおかしいテロリスト集団でしょう? 仮にも大国アメリカの政治派閥が、そんな人類滅亡を推進する教義にそそのかされて動く、なんてことがありえるのかしら?」

 

 「ええ。私も最初、それらしいネタを掴んだときは疑いました。ですが恭順派はそのありえないことを成し遂げてしまったのですよ」

 

 鎧依の話は要するにアメリカの有力者にこのように言ってそそのかし、第5推進派へ傾かせたというものだった。

 

 『もし、戦術機で大陸にあるハイヴを攻略できてしまえば、そこに貯めてあるG元素も異星由来技術も全てそこにある国のもの。とくに自国に13ものハイヴを持つソ連は、BETA大戦終結後の次代の覇者となるでしょう。もし、アメリカが世界の覇権を握る立場を失いたくなければ………』

 

 「『G弾でハイヴのある場所を人の住めない場所にして、その国の再生を困難にする』……か。やるわね。確かにそれならアメリカ至上主義の連中なら釣れるわ」

 

 「ええ。恭順派の目的は全人類の抹殺。それがBETAであれG弾であれ方法は問わないのでしょう。同じように世界各国の難民集団も唆してテロを行わせているようです」

 

 「驚いたわね。あたしもけっこう人をそそのかすのは上手い方だと思うけど、そのテロ屋には負けるわ。アメリカそのものを人類滅亡の先兵にしてしまうだなんて」

 

 「【指導者(マスター)】。その指導者はそう呼ばれているようです。高いカリスマと不可能なはずの陰謀をなし得る恐るべき者です。当時、小さな信仰集団だった【キリスト教恭順派】を世界最悪のテロ組織にまで育て上げた人類の敵です」

 

 アメリカ最大の権力機構と世界最悪のテロ組織が手を組んだですってぇ?

 となると、どんな手をつかってくるかわかったもんじゃないわね。

 どうする? すぐ二人のアラスカ行きをやめさせて戻す?…………いえ、ダメね。これはすでに日本帝国技術厰もアメリカの戦術機派もまきこんで動き出してしまった計画。中止はできない。

 

 「いいわ。こっちもそれなりの手をうっておくわ。絶対にそのテロ屋の好きにはさせない」

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

山城上総Side

 

 

 アラスカ ユーコン基地

 

 輸送機は無事ユーコン基地の滑走路に着き、オレ達はその地に降り立った。

 アラスカの広大ですばらしい大自然は、オレを圧倒した。

 しかし、季節はもう冬のはじめ。景色は冬の寒々しいものになっており、空気も冴え渡り冷たい。思わず身震いするほどに寒い。

 

 ……………決して、目の前のこの子のせいじゃないと信じたい。

 

 そんなオレの内心も知らず、白銀は、出迎えにわざわざ航空路にきた彼女に元気よく挨拶をする。

 

 「お出迎え、ありがとうございます。国連軍試作戦術機ガンダムタイプ二機のテストパイロットをつとめます白銀武少尉及び山城上総少尉。ただいまユーコン基地に現着いたしました。どうかアラスカ滞在中はよろしくお願いいたします。篁中尉」

 

 世話をしてくれるという中尉さんの名前を聞かなかったことをひどく後悔した。

 

 それはいまだ幼い顔立ちながら、凜々しく成長したよく知る彼女。

 

 髪は誰かのように長くのばし、冷ややかな強いまなざしでオレを睨んでいる。

 

 「……………………ああ、君達の滞在中は私が責任をもって面倒をみよう。よろしく白銀少尉。そして…………山城上総少尉。【XFJ計画】の現場責任の任務についている篁唯依中尉だ」

 

 

 ―――――篁さん!? なんで君がここに!?

 

 

 

 

 

 

 

 




 『脱走兵の上総をどうやってユーコン基地に行かせるか』を考えるのに全力を尽くしたので、トータルイクリプスからの話は全然考えていません。
 あと、『小説家になろう!』の方でも書きたい話ができてしまったので、第三章は遅くなるかもしれません。
 再開とかできるかわかりませんので、あんまり待たないでくださいね。

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